俺に新しい名前がついた日から五年ほどたったか、いろいろと身の回りのことがわかって来た。
どうやら俺は女の子らしい。それがわかった頃はひどく落ち込んだものだ。風呂の時なんかに確認しても・・・あったはずのものが無い。現実を受け入れきれずに時折、落ち込む俺を見て霊歌さんによく心配されたがその時は無理矢理明るく振舞った。振舞うしかないのだ。
心は前世らしきものを記憶していて、男だったはずだ。でもこんなこと言っても信じてもらえる訳が無い。
どうにかしようとは思っても結局、何もできずに日々は過ぎて行った。
「はぁ…」
縁側で一人、ため息を吐く。最近ため息が増えた気がするなあ。ただでさえ慣れないことが多いのにさらにまた悩み事が増えたからだろうか。
しばし縁側でうなだれているとトテトテと床を叩く軽い足音が近づいて来る。そう、この足音の主が目下の悩みだ。
「れんむ」
ほらきた。俺は目を閉じ気づかないふりをして狸寝入りを決めこんだ。
「れーんむ」
ゆさゆさと体を揺らされるが狸寝入りを続ける。
・・・お?揺れが収まった?だがすぐに何者かが俺の長く女の子らしく伸ばすようになった黒髪が引っ張られる。
「れんむ起きてー!!」
「いたたたっ!?」
しびれを切らしたのかぐいぐいと乱暴に髪が引っ張られていた。突然の痛みに驚き、立ち上がる。
「痛い痛い、れいむっやめて!起きた、起きたから!」
まさかこんな強硬手段に出るとは。頭を押さえつつ何の用か霊夢に問う。まあ、あれだろうけど。
「なーに?れいむ?」
「えへへー、しゅぎょーよしゅぎょー!」
やっぱりね。そう、最近、博麗の巫女になるための修行が始まった。
なんでも博麗の巫女とやらは妖怪退治を生業としているらしい。
妖怪とか嘘だろなんて思って初めて聞かされた時は信じていなかったがそんな考えはすぐに崩れ去ることになる。
紫さんの式?とか言ってたっけか、藍さんを見たときにだ。
あのもふもふ尻尾は忘れられそうにない…ちなみに紫さんも妖怪だそうだ。信じられん。
閑話休題。とにかく、その修行が俺は好きでは無かった。その理由が今目の前で無邪気に満面の笑みを浮かべている少女のせいである。って言っても本人は知らないだろうな。
霊夢を見て初めて天賦の才があると思い知った。
博麗の巫女の修行内容には空を飛んだり、自分の中に霊力なる物があるらしくてそれを弾として打ち出したりする奇天烈な内容だったが、霊夢は当たり前のようにすぐにできるようになった。
俺?もちろん基本と言われる空を飛ぶことすらできません。できるわけないだろ。
さらに霊夢は俺と一緒じゃないとちゃんと修行をしないという困った性格がある。
一人での修行は楽しくないからいや!れんむと一緒がいい!・・・だそうだ。
そりゃ姉妹は仲良くていいとは思うよ。けどね、霊夢には悪気は無いんだろうけど俺は嫌なんだよ。
自分が圧倒的にできないのに対して見せつけるかのごとく宙を舞う霊夢を見てますます悔しさや悲しさが出てくるんだ。
そんな俺の心中を知ってか知らずか「早くいこー」と俺の袖をくいくいと引っ張る赤い脇の部分の布が無い、変わった巫女服を着た少女に連れられて今日も修行が始まる。俺はまだぶかぶかの青色の変わった巫女服の裾を引きずりながらため息を吐いた。