…いない。あの娘がいない。宴会場と化している神社の境内を見渡してもいつも私のそばにいる青の巫女服が見えない。
異変の時に出会った氷精やら妖精やらはそこらで遊んでいるけど蓮夢はいない。
やはりあの時か、魔理沙を押し止めてすぐにレミリアたちが来て。そのまま宴会を始めていた隙に逃げられたわね。
「…蓮夢がいない」
ポツリとこぼすと近くにいたレミリアが私の言葉を拾う。
「蓮夢?誰かしらそれは」
「蓮夢は霊夢の姉妹なんだぜー」
私が返答するまでもなく突如横から現れた魔理沙が補足してくれた。まあ、魔理沙が来なくとも説明する気にはならなかったけど。
そしてレミリアは手に持ったグラスを傾けながら蓮夢にも興味を示した。
「へえ、霊夢。あなたにも姉妹がいたのね。いったいどんな人間なのかしら?」
「えーっとな、こーんなふうに霊夢と似たやつで色違いの変な巫女服を着たやつなんだぜ。っていうかあいつどこいったんだ?」
酒も入り軽く酔っているのだろう、魔理沙が大きな身振り手振りで表現する。
「その口ぶりだとその蓮夢とやらはここにはいないのか?」
「そうなんだ。あいつ『私は異変に無関係だから宴会には出ない』とか言って…」
「ふーん、つまらないわね」
そう、蓮夢は多分宴会には出ないつもりだ。私の初めての宴会なのに蓮夢がいないのは寂しい。私がびびってるとか言ってしまったのも少し悪かったかもしれないけど。
私はただ蓮夢と宴会を楽しみたかっただけなのに。
うん、お酒もなんだか進まない。心に何かつっかえたようなモヤモヤがあった。
よし、決めた。思い立って私は立ち上がる。
「ちょっといってくる」
「えっ?ちょっと、霊夢?どこ行くの?」
急に立ち上がった私を見て状況が理解できてないレミリアは狼狽した。私はそんなレミリアに告げる。
「ちょっと人見知りな私の姉妹を連れてくるわ。その間、神社は好きなように使ってていいけど荒らさないこと」
そう言って私は空へと浮かんだ。困った顔をした魔理沙やレミリアたちの顔はみるみるうちに小さくなっていく。そうしてそれらが豆のように小さくなったぐらいまで浮かび上がって人里の方角を見下ろした。
とりあえず、昼間に会った慧音のところに行きましょうか。ゆるゆると速度を上げて夜の涼しい風を浴びながら人里へ向かう。
「待ってなさい、蓮夢」
一言ポツリと呟いて少し速度を上げて飛んだ。
紅白の巫女が飛ぶ夜空の東の方、ぽっかりと浮かぶのは満月。…いや、少し欠けてる不知夜月。夜も宴も、まだまだ始まったばかり。
夜になって外をうろついている人は少ない。それに昨日の異変のせいか警戒して人里の中でも誰も家の外に出ている人はいなかった。
そして私は人里の中で普通の民家と比べると少し大きな家の前にいた。確か、ここが慧音の家だったはず。
「蓮夢、ここにいるんでしょう、出てきなさい」
戸を叩いて蓮夢を呼ぶ。すると間も無く中からは足音が聞こえてきた。さてなんて言おうかしら。かける言葉を考えているうちに戸が開いた。そして出てきたのは同じ青系の服着ている。でも違う人物だった。
「む、なんだ霊夢か、どうした?こんな遅くに」
「慧音…」
出てきたのはこの家の主の慧音だった。私が来たことに不思議がっていいるから蓮夢はおそらくいないのかも知れない。だけどここが唯一の可能性がある場所だ。ダメもとで私は蓮夢の行方を聞く。
「蓮夢?来てないぞ」
「そう…」
悪い予感はよく当たる。たまには外れてくれればいいのに。
「…ありがとう慧音。悪いわねこんな遅くに」
「待て待て、蓮夢に何かあったのか?」
その場を立ち去ろうとした私に慧音から声がかけられる。
まあ、蓮夢は教え子だったし心配するのは当然、か。
「宴会が今日あったんだけど参加しなくていいとか言っていなくなったのよ」
そう言うと慧音は驚いて目を見開いた。
「なに?蓮夢はどこにいるんだ?」
「だから、一番来てそうなあんたのところに来たのよ」
本当、どこにいったのよ。不安が少しずつ大きくなるけどこれの解決方法を思いつかない。どこにいるのかもう見当もつかなくなってしまった。
「神社は?神社の中はちゃんと探したか霊夢?外だけじゃなくて。もしかしたら意外とそこにいるかもしれないぞ」
「神社?神社は、うーん…どうかしらね」
神社にいるなんてないと思って他のことを考えていると私の考えを見透かしているかのように慧音は言った。
「意外と見つけたい物ってのは近くにあるんだ。灯台下暗しなんて言葉もあるほどだ。いいから博麗神社に戻ってみろ。私が念のため他へあたっておくから」
「そう、なら頼むわよ」
そんな風に言うんならとりあえず戻ってみようじゃない。
そうして私は再び宙へ浮いた。
人里を後にして、遠目に博麗神社を見ると軽い弾幕ごっこをしたり弾幕ごっこを肴に酒を楽しんでいる者もいた。
そんな中に入っていく気はしなくて正面から神社に降りず、迂回して普段は滅多にいかない神社の裏手に降りた。
「…ん?」
地面に降りてすぐ、私の求めていた人は見つかった。すみっこにいた青白の巫女はぼんやりと空なんか眺めていた。
いつも二人でお茶を飲んでる時くらいまで無防備に座っていた彼女を見たら、私がわざわざ人里まで行ったのがまったく無駄だったようで無性に腹が立った。
そんな近くにいたんならこっちに来なさいよ!なんて文句の一つも言いたかったけどその前に私の体は動き出していた。蓮夢の背中へ全速力で走る。
「こら!蓮夢ぅぅ!!」
「うん?って、れ、霊夢!?わああっ!」
「え〜と、あなたが霊夢の姉妹の蓮夢、でいいのかしらね?」
「あ、はいそうです。私が蓮夢です」
「ストップ、普通に喋ってちょうだい。よそよそしい喋り方なんてしなくて結構」
ようやく蓮夢を会場に引きずり出してきて今は紅魔館の連中と自己紹介中だ。こんな風にちょっと自己紹介すればいいだけなのに何がいやだったんだか。まったくお騒がせね。
「しっかし、お前ら見た目は似てるのに性格は似てないんだよな」
蓮夢と紅魔館組のやりとりを遠巻きに眺めていると横から魔理沙が話かけてきた。
「そう?」
「そうだぜ。霊夢は気にしなさすぎだけど知らないやつに対して蓮夢はびびりすぎなんだぜ」
「…どうなのかしらねえ」
そもそもこの神社に誰かが来るようなことがほとんどなかったからわからない。それでも言うほど私たちは似てなくないと私は思う。
「ふう、やっと落ち着いた〜」
しばらくレミリアたちのところで談笑していた蓮夢だがしばらくするとこちらにやってきた。もう酔いが回っているのか顔がちょっと赤くなっている。そうして私の隣に腰を下ろしたから私は聞いてみた。
「どうだった?」
「うん、楽しかったよ。気まずくもない」
ほうら、私の言ったとおりだ。
…だけど私も少し蓮夢を責めすぎた節もある。そう思ったから素直に私は口を開いた。
「ごめん」「ごめん、霊夢」
「ん?」「あれっ?」
同時に謝って言葉がぶつかって間ができた。どっちが先に話すか視線を交わして蓮夢が先に話しだす。
「…いや、今日さ、勝手に逃げてわるいなあってさ。確かに霊夢が言ったとおりびびってただけだったのかも」
そう言う蓮夢に私も口を開く。
「私もちょっと言い過ぎたかもしれないわ」
「いや、霊夢が謝ることないって。私が悪かったの。今日はごめん」
「いや、こちらこそ、ごめんなさい」
「いやでも…」
このままだとどちらも謝りあってるうちに宴会が終わっちゃうわね。それはいやだから私はまだ空いてない酒瓶を手に取った。
そうして話の流れを断ち切ってこう言う。
「まあ、今は宴会中だからもう謝るのはやめにしましょ。
あとはゆっくり?」
「…お酒でも飲んで宴会を?」
「一緒に楽しみましょうか」
と、同時にキュッと音を立てて酒瓶のふたが開く。
「…ふふっ」
「…そうだね」
なんだやっぱり似てるじゃない。考えていることは同じね。
宴もたけなわ、酔いが回って誰かが弾幕ごっこを始めたのだろう、色とりどりの弾が飛び交っていた。
「じゃあ、もう宴会は始まっているけど」
「ええ」
「「乾杯」」
杯を軽くぶつけてお酒を飲む。そうしていつものようにのんびりと周りの景色を眺めていた。
一回の宴会に二話も使うとは思っていませんでした。少し話のテンポ遅いかもしれんですね。
まあ、こんなお話でございますがゆっくりテンポで楽しんでいただければな、と…。なにとぞ。