博麗転生譚   作:ヒフカ

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宴回(会)


第十六話

「はあ…」

 今宵は宴、博麗神社の表では霊夢や魔理沙、今回の異変の首謀者たちが食べて飲んで好きなように語らっている。神社の裏手にいるのに聞こえる聞こえる。笑い声やらなんやらかんやら。霊夢は宴会に出なさいとか言ってたけど、俺異変に関係してないしなあ。

 

「……っはー」

 

 一人寂しく杯を仰ぎ、空を見上げるといっそのこと気持ち悪いぐらいたくさんの星が見える。その光を遮る物などなく、星一つ一つがちゃんと輝いていた。どうやら幻想郷で見える星たちは自己主張が激しいようだ。

 近くで聞こえる喧騒が気にならないほどに俺は夜空をただぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜宴会あるから」

 霊夢たちが赤い霧を止めて来た翌朝、朝食を食べながら霊夢は出し抜けにそう言った。

 異変の後腐れなくするためか、単にお疲れ様会みたいなものなのか、はたまたただ騒ぎたいだけかは知らないが異変の後は宴会するのが幻想郷の決まりというかお約束みたいなものらしい。それは俺も聞いていたから別に気にもしない。

「そっ、いってらっしゃい」

 ただの連絡だと判断して再び朝食に視線を落とす。だが目の前からはなぜかまだ視線を感じるので一旦箸を止め顔を上げると不思議そうな顔をして霊夢はこっちを見ていた。

 

「…なに?」

 

「ここで、やるんだけど」

 なるほど、場所はウチなのか。なら特に関係ない俺はどこにいこうか。…先生の所に泊めてもらうか?

 

「あ、そうなの?じゃあそんなに荒らされないように気をつけてね」

「蓮夢、蓮夢?」

「うん?」

 今夜俺はどこにいようか考えようとする前に霊夢が困惑した様子で俺の顔を覗き込んできた。

「なんでそんな他人事なのよ」

 

 む、やっぱ霊夢だけじゃ宴会の準備とか大変なのかな?仕方が無い、準備くらいは手伝ってあげたほうがいいのか。

 

「あーごめんごめん、じゃあ宴会の準備は手伝うよ。そしたら私は先生のところ行ってくるね」

 そう言ったらもっと不思議そうな顔をされた。

 

「え?なんで?」

「え?」

 

「…蓮夢も宴会出んのよ?」

 

「…へ?」

「へ?じゃなくて」

「いやいやいや、私関係無くない?異変とか全く!」

 全く関係無い俺がいたってさ、え?誰あんた?みたいになるだけだって!それは気まずい、嫌だ!

「その、宴会に来る人たちって霊夢とは顔見知りだよね?」

「まあ、異変起こした奴らだから顔は知ってるわ」

「私は初対面だよ?」

「それが?」

「気まずくない?」

「そんなことあるわけないじゃない」

 こともなさげに霊夢は言うが、わかっていない、わかっていないよ。全員が顔見知りの中、一人ポツンといる知らない人の部外者感を。というか俺がいたたまれないよ…。

 

「っでもさ………だから……」

 

 もう何を言ってるか自分でも怪しいが適当に言い訳を並べていると霊夢が痺れを切らしたのか卓を叩いて俺の言葉を遮った。

 

「い・い・か・ら!蓮夢も出なさい!!」

「ええ…」

「えじゃない!」

 そう言って霊夢は俺との会話を無理矢理締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、珍しいな、博麗の姉妹が二人揃って人里に来てるなんて」

 宴会のために買い出しへ人里まで行くと慧音先生と出会った。

「あ、こんにちは先生。いやあ、本当は私一人で来ようとしたんですけど霊夢がですね…」

「当然よ、蓮夢一人で買い出しに行かせたら絶対慧音の所に行って帰ってくる気ないでしょ」

 俺の隣で霊夢は口を尖らせる。

「だから帰ってくるって言ってるでしょ」

 

 そう、買い出しのフリをして本当は慧音先生の家でかくまってもらうつもりだったのに霊夢がついてきたのだ。こいつは困った。

「ははは…まあ、姉妹の仲が良さそうでなによりだ。じゃ、私はもう行かせてもらうよ」

 

 勝手に話し始めた俺と霊夢を見て先生は苦笑しながら昨日とは打って変わって賑やかな雰囲気が戻った里の人混みに消えていった。しかしそれでも俺と霊夢の話は終わらない。

 

「本当に帰ってくるつもりだったのにねー」

「嘘おっしゃい、あんたそうする気ないでしょ」

「ううん、なんでそう言い切れるのさ」

 霊夢はふふん、と鼻を鳴らして自信ありげに言い切った。

 

 

「勘よ!」

 ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、来たぜー」

 夜が近づいて晩蝉が一日の終わりを惜しむ様に寂しげな声が響く頃、準備が終わったから宴会の参加者が来るまで二人でのんびりしていたら最初の来客が箒に跨り降りてきた。

 

「あら魔理沙、早いわね」

「へへん、魔理沙さんはいつでも一番乗りなんだぜ」

 

 そう言いながら魔理沙は俺たちのいる居間へ上がってくる。そして他愛もない会話をしだす。

 

 

「レミリアたちはいつ頃来るのかしらね」

「うーん、あいつ吸血鬼なんだろ?日が落ちないと来ないんじゃないか?」

 どうやら今日来るのは吸血鬼らしい。人ではないのはわかっていたが幻想郷には吸血鬼もいたとは。

 

「ねえ霊夢、やっぱ私いなくてもいいんじゃない?」

 俺がそう言うと霊夢は飽きれた顔をして口を開いた。

「蓮夢、いい加減にしなさいよ」

「うん?どうしたんだ蓮夢は?」

 今日何度目かになるやりとりを今日初めて見た魔理沙はやっぱり不思議そうな顔をして俺たちに聞いてくる。

 

「怖がってんのよ、知らないやつらがたくさん来るから」

 それを聞いた魔理沙は面白そうなものを見つけたような顔をして俺を見る。

 

「なんだ?蓮夢、人見知りだったのか?意外だぜ」

「そ、そんなわけないじゃん!ただ、私は…」

「びびってるのよ、蓮夢は。そうでしょう?」

「・・・」

 

 そんな訳はない。…そんな訳はないけどなぜかその言葉は俺の言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗くなってきたわね」

「そうだな、そろそろあいつらも来るんじゃないか?」

 魔理沙が到着してからまたしばらく時間が経って、とうとう夜がやってきた。俺はなんとなく神社の表に出て石段の下を見たが誰かが来る気配は無い。

 

「霊夢、ホントに来るの?」

「まあ、待ってれば来るでしょ、来なくてもいいけど」

 屋内にいる霊夢に問うても答えになっているんだかなっていないんだか。しかし、同じ部屋にいたはずの魔理沙がいないことに気づいた。

 

「あれ?魔理沙はどうしたの?」

「えっ?」

 

 これには霊夢も気づかなかったようでキョロキョロとしていた。だがさらに奥から件の人物は出てきた。

 …すでに空いた酒瓶を持って。

 

「いや〜うまい酒だぜ」

「あっ!?」

「魔理沙もう飲んだの!?」

 どこに消えているかと思いきやすでに酒に手をつけてたよこいつは。さらに奥の部屋を指差してさらに続ける。というかそれ、宴会ようにとってあったんだけど…。

 

「あっちにもっとたくさんあるんだぜ!」

「ま、待ちなさい魔理沙!」

 

「…あれ?これもしかして?」

 さらに酒を取りに行った魔理沙を追って霊夢も奥の部屋に消えていってしまった。表に一人取り残された俺は宴会から逃げる千載一遇のチャンスだということに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふう」

 

 チャンスとは意外とあっけなく転がってくるもんだ。魔理沙が霊夢を引き連れてくれたおかげで簡単に逃れられた。この時ばかりは魔理沙に感謝かな。もうびびってるとか言われようが知らん。

 

 表ではもう宴会が始まっている。ちょうど隠れた時に聞きなれない声が聞こえたからそのまま始まったのだろう。あとは何事もなく終わるのを待つだけである。

「…ん?」

 ふと顔を上げると、視界の端、博麗神社の裏手の隅っこ、粗末な墓のように石が積まれていた。なんだろうと思い近づいて石をよく見ると何か字が刻まれていた。

 

「…ふぅん」

 どうやら代々の巫女たちが眠る場所みたいだ。今までここに住んでたけど全然気づかなかったな。こんなのがあったなんて。

 軽く石に触ると少し苔が生えているそれはじめっとした感触を指に残した。そういえば霊歌さん…母さんもここに居るのかね。

 俺は母さんがどうなったのかはよく知らない。あの日、俺が意識を失っている時に死んだことは知っている。けれどそれ以上は紫さんが教えてくれなかった。まあ、子どもだった俺たちへの配慮なんだろうけどさ。

「母さん…」

 

 口に、出してみる。血の繋がりは、無い。だけど家族として過ごした。母…?いや、俺にとっては急に生まれ変わったこの世界で一番初めにあった人。むしろ恩人のように思えたその人の墓前で気がついたら言が口をついて出てきていた。

 

「霊夢が異変を解決したよ。巫女になって初めての異変だってのにいつも通りなんでもなさそうに解決してた。やっぱ霊夢はすごいね」

 まず出ていたのは今回のこと。それでも俺の口は止まらなかった。

 

「私?私は、まあ大丈夫。時々傷が痛むくらいで普通にちゃんと暮らせるから」

 

 そして俺のこと。それでもまだまだ止まらない。気がついたらいろいろ話していた。賽銭のこと、日々の暮らしのこと、いろんなことを。

 

「母さん…私、いや『俺』の正体をあなたは知っても受け入れてくれたかな…?」

 

 そうして最後に俺はこう小さく呟いた。そう、俺は多分おかしい。薄くではあるが前世であろう記憶、心を持っている。

 このことは最後まで霊歌さんには聞けなかった。そして霊夢にもこのことは明かせずにズルズルとこの日々を甘受している。怖いのだ。霊夢がこのことを知ったらどんな顔をするのか。

 裏切ったと思われるかもしれない。蔑むかもしれない。

 そもそも俺自身、掴みかねている。俺がなんなのか。

 

「ふふ、さすがにずるいよな。死んだ人にこんなこと言うのは」

 

 急に一人で話していることに恥ずかしくなってきて苦笑する。なに言ってるんだが俺は。

 髪をくしゃりと掴んで頭を振った。そしてこっそりくすねてきた酒瓶を見つめる。

 

「今日は俺も飲もうか。宴会には出ないけどね」

 

 幻想郷に俺がいる故は知らない。だけれど俺はここにいたいという気持ちがあった。

 

 

「今世の恩人へ、敬意を込めて。

…献杯」

 作法なんて俺は忘れた。ただ酒瓶を一つ。俺は開けた。

 

 

 






書きたいこと詰め込んだので読み難かったかもしれないです。申し訳ないデス。

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