魔符『スターダストレヴァリエ』!
私はスペルカードの宣言と共に星型の弾幕を展開する。
「チッ!」
数多と放たれた星が向かうのはもちろん今回の異変の犯人のもとへだ。
しかし目の前の吸血鬼は躱し続ける。霊夢と私を同時に相手して結構経つのににまだ躱す。舌打ちしてもヘタは打たないってか。
まあ、私もただで躱させてはやらないけどな。今の弾幕に私は敢えて穴を作った。簡単に言えば逃げ道をそこに限定するためだけにスペルカードを使った。おいしいところを取られるのは癪だがこの異変の締めは後ろにいる紅白の巫女に譲ってやろう。
「ふっふっふ、どうしたのかしら?人間、弾幕が雑になってきてるわよ?やはり私には…」
「今だ、霊夢!」
なにか言っているがうまくひっかかったな。私は振り返り霊夢に合図する。後ろを見るとすでに準備万端の霊夢が見えた。
「言われなくてもわかってるわよ!」
そして終止符が打たれる。
霊符『夢想封印』!!
「なにっ!?」
驚く吸血鬼を他所に色とりどりの霊弾が彼女に殺到した。
「うう…」
「さあ、霧を消してもらいましょうか?」
私たちと紅い霧の首謀者の弾幕ごっこは私たちに軍配が上がり霊夢は吸血鬼にお祓い棒を突きつけていた。
「まさか本当に人間に負けるなんて…」
「いいから、さっさと霧を消しなさい」
悔しがる吸血鬼に霊夢は特に感慨もなさそうに素っ気無く言った。ため息一つついて吸血鬼はやれやれと肩を竦める。
「せっかちねえ、まあ負けたんだから言われた通りにするわよ」
そうして手を宙へ向けて差し出すとだんだんと紅い霧が彼女の手のひらに集まっていた。徐々に薄まりゆく紅の中、思い出したように吸血鬼は言った。
「そういえば貴女、名前は?この私を負かすなんて面白い、興味が湧いたわ」
「名前?どうせ宴会の時にまた名乗るでしょ?いいじゃない、今じゃなくても」
おいおい、霊夢それはいくらなんでも素っ気無さ過ぎだぜ。あんたとかあなたとかじゃ呼びにくいだろうし。
そう思っているうちにも吸血鬼はしつこく霊夢に聞いていた。
「あーもうわかったわよ。霊夢、博麗霊夢よ」
やがて根負けした霊夢は口を開く。私もついでに「私は霧雨魔理沙だぜ!」と便乗して名乗っておいた。名前を聞いた吸血鬼の方は「よろしい」と言って満足気に頷き、そして名乗ってきた。
「私はこの紅魔郷の主、レミリア・スカーレットよ。霊夢、魔理沙、そう遠くない未来、また会いましょう」
ふふん、と鼻を鳴らして胸を張ってそう遠くない未来とか言ってカッコつけても結局明日会うんだけどな。
「…明日の夜に宴会で会うんだけどね」
霊夢も同じことを思っていたようだ。そして霧が晴れたのを確認すると霊夢は地面を蹴って飛びたった。
「じゃーな!レミリア!」
恥ずかしいのか少し頬を赤くしたレミリアに声をかけて私も霊夢の後を追って元に戻った黒色の夜空に飛んだ。
「あー疲れた!」
「そうね」
暗い夜道を霊夢と共に飛んでいた。不気味な霧は消えて夏の夜特有の湿ってひんやりした風が頬を撫でる。涼しさを感じるとともに異変の解決途中は気づかなかったけどやっぱ疲れたぜ。
「霊夢ー。もしかしなくても今回が初めての異変だったんじゃないのか?どうよ、感想は?」
と言っても私も初めてなんだけどな。
「そうでもないわよ。ただ蓮夢が待ちくたびれちゃってるかもしれないわね」
「そうだな、蓮夢はずっと神社に居たんだしな。暇してるだろ……あっ!忘れてた!」
「どうしたの?」
しまった、大事なことを忘れてた!勝手に自分で決めた約束なのに忘れるところだった。私は高度を上げてとどまった。そして手にした八卦炉に魔力を込める。
「よし、いくぜ!」
充分に魔力を込めた八卦炉を真っ直ぐ上を向けた。そしていつの日かのあの技を力の限り放った。そしてあの時の記憶も鮮明に蘇ってくる。情けなかったあの時のこと。
『ごめんな、ごめん、蓮夢!」
『まったく魔理沙、私が勝手に怪我したんだから気にしないの』
『違う!私が悪いんだ!あの時は…んむっ!?」
『はい、ストップ。これ以上後悔しないで。過去にとらわれてると私も、魔理沙も、前に進めなくなっちゃうよ?』
『でも…』
『でもじゃない。これでも少しは動けるんだから。多分』
『でも…』
『…はあ、じゃあさ、今度はちゃんと見せてよ』
『え?』
『あの技!それで異変解決するところ見せて!』
『蓮夢…そうだな!完成したら蓮夢に一番に見せてやる!』
『ん、よろしい』
───恋符『マスタースパーク』!!
「わっ!?」
急にマスタースパークを撃ったことに霊夢は驚いているが気にしない。あいつにだけに見えてればいい。とりあえず今は夜空に放ったマスタースパークが収まるまでは無視だ。
「で、どうしたのよ急に?」
八卦炉に込めた魔力を解放し終わってすぐに霊夢は珍しく本当に不思議そうな顔をして私に聞いてきた。
「いーや、なんでもないぜ!」
「そう…。実際は?」
ここまで霊夢が聞いてくるのも珍しいな。いつもは何にでも興味なさげなのに。勘ってやつなのかね?
「そうだな、強いて言えば…」
「強いて言えば?」
「成長の証、とでも言うやつだぜ!!」
「……はあ?」
「ん、霧が晴れてきたかな?」
慧音先生の家で一人縁側で座ってぼんやりと外を眺めていたら赤い霧がみるみるうちに消えていくのがわかった。どうやら霊夢たちはうまくやったみたいだな。あとは怪我なく帰ってくるだけだ、二人の無事を祈って俺は立ち上がり人里に出ることにした。
「霊夢は神社にいるって思ってるんだよなあ。早く帰らないと」
でも慧音先生は帰してくれるかな?少し不安を覚えながら玄関で靴を履いて独り言をつぶやいていると戸が開いた。
「蓮夢、もういいぞ…って行動が早いな」
「あ、先生。ありがとうございました。霊夢が心配すると思うんで帰っていいですか?」
そう言うと先生は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「せ、先生?」
いきなりのことに驚いているとすぐに先生から返事が返ってくる。
「…すまなかった、蓮夢。私はお前が心配だったが故に蓮夢の意志を無視していたのかもしれない」
「へ?」
俺、先生になにかされたっけ?いきなり心当たりなく謝られて少し困ったが先生の様子を見て無言はいけないと思った。
「先生、よくわからないけど先生は謝る必要ないと思いますよ。心配してくれて家にいさせてくれたんでしょう?」
とりあえず思ったことを言うと先生は俺に向き直った。
「すまない、なんのことがわからなかったな。少し、まーあその、色々あってそれでだ。とにかく謝りたかったんだ」
「…そうですか。本当に気にしなくて大丈夫です先生。とそれより妹紅さんはどうしたんですか?姿が見えないけど…」
このままだとわけもわからず謝り続けられそうだからさりげなく話題の転換を狙う。一緒に出て行ったはずの妹紅さんがいなかったのは気になったしね。
「ん?ああ、妹紅は帰ったよ。妹紅はそんなに人里には寄りつかないんだ」
「え、そうなんですか?」
「そうだ、あいつも少し訳があってな。向こうの竹林に住んでいる。今度行ってみるといい」
そう言って先生は人里の外を指差した。
「わかりました。今度行ってみます。それでは先生、ありがとうございました。今日はもう帰りますね」
「ああ、夜道は気をつけるんだぞ。…っと蓮夢、薬だ。これであってるな?」
話もそこそこに先生と別れようとした時に薬が入った袋を渡された。中を確認するとちゃんといつもの痛み止めが入っていた。
「あ、あってます。わざわざありがとうございます」
「あっててよかったよ。じゃあ、気をつけて……ん?」
玄関側にいて外を見ていた先生が何かを見たらしい。つられて俺も振り向いて外を見ると太いレーザーが上空に打ち上げられていた。大きな力の奔流は夜空にとても映えていた。
ああ、あれは、もしかして。
「な、なんだあれは?もしかしてまだ異変は終わってないのか?」
慧音先生は慌てた様子で外に出ようとするが俺はそれを押しとどめた。当然、先生は不思議そうにこちらを見る。
「なんだ蓮夢?」
「先生、あれは大丈夫です。むしろ異変を解決した合図です」
「…そうなのか?」
「はい。あれが誰のか私は知っていますので!では先生帰ります。さよなら!」
そして俺は人里を後にした。
もうすぐ霊夢が帰って来る。先に帰っておかないと。
帰り道、さっきの出来事を思い出すと自然と笑ってしまった。
「…ふふっ、それにしても魔理沙、覚えていたとはなあ」
いつだったか、あの時の記憶を思い起こされた。
怪我をして一年くらいたったかな?母さんが死んだショックも乗り越え、ようやく俺と霊夢が落ち着いてきた頃だ。
「蓮夢、本当に教えてよ!私がその妖怪、退治してくるから!」
「危ないからやめて、霊夢。霊夢には怪我して欲しくない」
…霊夢が俺を怪我させた相手を倒そうと躍起になってた頃でもあるな。よく修行途中でもこうなって諌めるのは俺の仕事だったな。
「霊夢、紫が困ってるよ?修行は?」
「いいの!その妖怪をこらしめやるんだから!」
ほらまただ、そうして俺はいつもの決まり文句を言う。
「…霊夢?ちゃんと修行しないとその妖怪は倒せないよ?今のままじゃだめ!」
「………わかった」
俺がこう言うとなぜかちゃんと修行に戻たっけ。…すごい不満気だったけど。そうして紫さんのスキマの中に消えていった霊夢を見送ってすぐだ。その日に魔理沙が来たのは。
久しぶりに見たと思ったらいきなり謝られたんだもんな。
あの時は霊夢が聞いてなくてよかった。あの内容だと魔理沙が犯人だと霊夢が勘違いしかねない。
多分今も内緒にしておいた方がいいだろう。
懐かしい記憶を思い起こしているうちに神社の境内にたどり着いていた。
とりあえず中に入って明かりをつけよう。きっと霊夢は疲れて帰って来る。晩御飯の準備でもしておこうか。
そう思っているとすたっと何者かが後ろに降り立った。振り向いて確認するとそこには霊夢が立っていた。無事だったことに安堵しつつ俺は霊夢に声をかける。
「お疲れ、霊夢。魔理沙は?」
「魔理沙?自分の家に帰ったわよ」
「二人とも怪我してない?」
「…してないわよ」
少し不機嫌そうに霊夢が答える。せっかく異変は終わったのになんでだろう?そう思っていたら霊夢が急に抱きついてきた。
「ん、どうしたの霊夢?」
「蓮夢、忘れてるの?」
「何を?」
「家から帰ってきたら?」
…ああ、そうか。
「…おかえりなさい」
「…ただいま」