博麗転生譚   作:ヒフカ

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第十四話

「ほんとーにすまなかった!」

 

「いや、いや、あなたは悪くないですよ。顔を上げてください」

 所変わって先生の家。目の前には先ほどの威圧感はどこへやら。白髪の少女が俺に頭を下げていた。

 この人ははどうやら先生と知り合いらしい。先生が来るのがもう少し遅かったら俺は燃やされていたそうだ。おっかな。

 頭を下げ続けている少女にもういいと頭を上げるように促すと彼女は苦笑しながら顔を上げて口を開く。

「で、だ。なんでこんな時に人里を出歩いてるんだ?えーと…慧音の教え子らしいけど」

 目の前の人が口ごもったのを見てまだ自己紹介がまだだってことに気づく。

 

「あー、申し遅れました、さっき先生が言ってた通り昔、寺子屋に通ってました、博麗蓮夢です」

 

「そういえば自己紹介がまだだったね、私は藤原妹紅だ。それにしても博麗?ってことは蓮夢はあの博麗神社の巫女か?」

「いや、違います」

「蓮夢は博麗の巫女の候補だった子だ、妹紅」

 

 俺の言葉に付け足しながら先生が奥からお茶を持って出てきた。

 妹紅さんは目の前に置かれた湯呑みに一回口をつけてからまた口を開いた。

「候補?じゃあ誰が巫女やってるんだ?」

「今代は候補が二人いたんだ。そして今の博麗の巫女はこの子の姉妹の霊夢がなっている」

「へー、それじゃあ異変解決とかはその霊夢がするんだろ?蓮夢はどうして出歩いてたんだ?人里には外出禁止令が出てただろう?」

 

「外出禁止令?そんなの出てたんですか!?」

 外出禁止令…どうりで人がいないわけだよ。

 まさかの情報に俺が狼狽していると横から慧音先生が説明してくれた。

「この妖霧に当てられて体調を崩す者が続出してな。妖怪の活動も活発的になっているから外に出ないように人里に呼びかけたんだ」

 そうそう、と妹紅さんも頷いて困ったように頬をかいた。

 

「いやーだからさ、まさかこんな時に人里を出歩いてる奴が人間だって思わなくてな。しかも、それが慧音の教え子ときたとは」

「うっ…ごめんなさい」

「あー別に責める気は無いんだ、ただなんで出歩いてたか気になってさ。異変解決に来たって訳でもなさそうだし」

「そうだな、私もそこが気になるんだ。人里は私が隠しておいたはずだし、どうしてここまで来れたんだ?」

 

 さっきの質問をした妹紅さんに先生も不思議そうな顔をして俺に問うてきた。

 隠した?人里を?どういうことかわからない。

 だって人里は確かにあって特に変わりなかったけど。第一隠すってなんだ。

 

「隠した?…えーと少し薬屋に用があって来たんですけど、別に人里は普通にありましたよ?」

 

 だが俺の言葉に不信そうな顔をするのは慧音先生だ。

「なに?おかしいな、確かに能力で人里は隠したはずなんだが…」

 とんでもない事をさらっと言ってるが全く意味がわからん。

「先生、そもそも人里を隠すってどういうことですか?」

「ん?そのままの意味だ」

「へ?」

 

 舌足らずな説明にさらに俺が困惑してると今度は妹紅さんが口を開いた。

「蓮夢、慧音の能力のことだ、覚えてないか?」

「能力?いや寺子屋に通ってた時にそんなの見たことも聞いたことも無いですよ?」

 

 ああ、と先生がすまなそうにして説明してくれた。

「すまない蓮夢。寺子屋じゃあ能力なんて教える必要も無いからな。能力というのはな妖怪なら妖力、人間なら霊力といったように種族ではなく人妖問わず個々に発現する力のことだ」

 

「個々に発現する…紫が使うスキマとかですか?」

 パッと浮かんだイメージを適当に言うと慧音先生は苦笑してこう続けた。

 

「そうだな、賢者の使うスキマも能力の一部だ。私の能力はそんな大層なものではないが“歴史を食べる程度の能力”と言わせてもらっている」

「そーいうこと。それで慧音はここに人里があったことを無かったことにしたって訳さ」

「なるほど。それでその能力がなぜか私に効かなかったとそういうことですか?」

 

「そうなんだ、別段強力な妖怪とかでもない限り効かないことはないはずなんだが」

「なんででしょうねえ」

「そうだ!」

 二人で首を傾げていると妹紅さんがニヤニヤしながら言ってきた。

 

「蓮夢ももしかしたら能力があるんじゃない?」

 

「……いやあ、まさか」

 唐突に言われたその言葉に俺はただ雑な返ししかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、蓮夢。霧が晴れるまでここにいなさい。私たちはまた見回りに行ってくる」

 雑談もそこそこに慧音先生が立ち上がった、妹紅さんもそれを見てゆっくりと立ち上がる。

「えっ?あ、じゃあ私も手伝いますよ」

 

 そう言って俺も立ち上がろうとすると先生はそれを手で制してくる。

「いいから。薬屋に用があるなら私が取ってくる。だから蓮夢はここにいてくれ」

 

 家主が外に出るのにこっちは中にいていいとはいかがなものか。

「うーん、それだと悪いし一旦神社に帰りますよ」

 

「それはだめだ、傷も良くないんだろう?」

 咎めるような口調で話す先生は不安気な顔をしていた。

「でも…」

「でもじゃない。…心配したんだぞ、あの時は、大怪我をしたと報されて本当に驚いた。私はお前にもう危険な目にあって欲しくないんだ」

「…」

 そう言って俺の肩に手を置きこっちを真っ直ぐに見つめてくる瞳は確かな意志を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏だというのに何処か寒気を感じる黄昏時。人影のない赤い、紅い黄昏のなか里の広場にて女二人が会話をしていた。

 

「じゃあ妹紅は向こう側を頼む」

 話している二人のうちの一人、上白澤慧音がそう言って会話を切り背を向ける。

 だが、もう一人、藤原妹紅がその背中に声をかける。

「なあ慧音、蓮夢は博麗の巫女の候補だったんならそれなりに強いんじゃないのか?慧音の家でじっとさせなくてもいいと思うけど…」

 

「あの子の肩に酷い傷痕があったろう?」

 暗い顔をして慧音はポツリと言った。そう言われて妹紅は思い出したように頷く。

「そーいえば袖の隙間からチラチラ見えてたな。あれが原因か?」

「そうだ。昔大怪我をしてその時の傷が原因で妖怪退治なんて無理な体になったんだ」

 まあ、普通に暮らせるだけ幸いだが、とそう付け足した。

「なんで大怪我したんだ?…あー、言いたくないならいいけどさ」

「なんでも、人里の外で妖怪に襲われた時、妖怪から友達を逃がすために足止めになったからだそうだ。しかも相手は大妖怪並みの力を持った妖怪だった」

 

「それで怪我をしたと」

 慧音は小さく俯き、自嘲気味に笑う。

「その知らせを聞いた時は本当に驚いたよ。子供だけで人里の外に出るのは私が気付いて止めるべきだったと悔やんだし、なぜ?どうしてそんな危険なことしたんだ?って何度も本人に聞いてしまったよ」

 

 妹紅は首を傾げ、口を開いた。

「別にそれは慧音は気にする必要はないんじゃないかな、心配したとしてもさ、全部見るのは無理でしょ、そもそも子どもだって痛い目見て学ぶものさ」

「気にするさ!教師が生徒を護るのは当然だろう!」

 顔を上げ声を荒げた慧音に対し妹紅は落ち着いて諭す。

「私は死なないからわからないけどさ、生きてたんだからそれでいいんじゃないの?護ろうと思ってもさ、さっきの蓮夢の手伝うって主張を完全に否定するのも良くないと思う」

「…」

「それにそんななぜ?って責めるように聞く前に、友達を守った蓮夢の勇気とか、決断を、褒めるべきなんじゃないの?」

「…」

「…」

 静かになった慧音に気づき、妹紅は申し訳なさそうに頭をかいた。

「…ごめん、説教くさかった」

 

「いや、そうでもないさ。…まさか妹紅に諭されるとは思わなかったけど」

 

「まさかって何さ!?せっかくいいこと言ったと思ったのに」

 

「ははは、言わんとすることはわかったがもっと要点をわかりやすく言わないと格好がつかないぞ。五十点くらいだな」

 ニヤニヤとからかわれて、妹紅は頬を膨らます。それを見て慧音は妹紅の顔に手を置いた。

「でも!うん、ありがとう、妹紅。気持ちが楽になった気がする」

 

 だから怒らないでくれと膨らんだ頬をぎゅっと潰して慧音はさらに続けた。

 

「さ、里の見回りをしよう、妹紅」

 

「…わかったよ」

 

 二人は互いに背を向け、別々の方向に飛びさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間が二人も来るなんて私になにか用かしら?」

 

 黄昏過ぎて夜の時、幻想郷のとある真っ赤な館にて二人の少女と一人の幼女が相対していた。

「お前ってアレか?ほらあの夜の支配者なのに弱点が多いとか言う…」

 二人の少女の内の一人、箒を持った白黒の魔法使いが幼女の背中を見て興味津々に話しかける。

「そうよ、病弱っ娘なのよ」

 

「あんたが異変の犯人?さっさとこの霧消して欲しいんだけど」

 二人の少女の内のもう一人、お祓い棒と御札を持った紅白の巫女がぶっきらぼうに言い放つ。

 

「あら冷たい、こんなにも暑くて楽しい夜だというのに」

 蝙蝠の翼をその背に生やした少女はわざとらしく残念がってそう言った。

「暑い?そうか?涼しい夜だと思うけどな」

 そこに口を挟むは白黒の魔法使いだ。

 

「ふふっ、何も暑いのは気温の話じゃないってことよ」

「そう、何が暑いかなんて知らないけど楽しそうね」

 

「ええ、楽しいわ。目の前の楽しい人間がもっと楽しませてくれたらなおさらね」

 そう言って幼女は空に舞い上がる。追って紅白と白黒も飛び上がった。

 そうして二人の顔を交互に見て、月に手をかざす。そうして再び言葉を紡ぐ。

 

「こんなにも月が紅いから、

 素敵な夜にして頂戴」

 

 

 

 

 

 夜空に輝く紅い月は幻想郷を煌々と照らしていた。

 

 

 

 





紅魔郷の本編の部分の描写はほとんどカットしましたね。ほぼ原作沿いでございますし。

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