博麗転生譚   作:ヒフカ

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第十二話

 

 

 

 

「…て、れいむ。」

 

 声が聞こえる。まだ意識のはっきりしない私にはそれはおぼろげに聞こえ、夢か現か悩ましいところ。

 

「起きて、れいむ」

 

 もう一度聞こえたその声は私のよく知る声だった。薄く目を開けると私の巫女服と色違いの青と目が合った。

 その少女の背景に見える朝空はまだ早いのか曇りない青色ではなく、少し黄みがかった白が混じったような淡い空色だった。なるほど、どうりで起きるのが億劫なわけだわ。

 まだうとうととしている自分の欲に従って目を閉じるとすぐそばで小さくため息が聞こえた。

 

「起きてってば霊夢。今こっち見たでしょ」

 

「…なによ、蓮夢。まだ朝早いじゃない…」

 

 見逃してはくれないようでまだ眠く気怠い体を揺すられる。しょうがないので私は腕をひっぱってもらってゆっくりと身を起こすことにした。

 上半身を起こして、軽く伸びをしてから私は疑問を口にする。

 

「…でどうしたの?蓮夢?こんな早いのは珍しいけど」

 

 そうだ、この子は私よりも早起きだ。

 だけどこんな早く起きているのは珍しいし、私をこうして起こしてくるのも無い。それだけに何故起こされたのか不思議だった。

 そうすると蓮夢は神社の入り口の方を指差す。

「ちょっとこっち来て」

「?」

 言われるがままに縁側から外に出て、境内を通り、入り口の階段まで行くと先を歩いていた蓮夢は足を止めた。

「…これどう思う?」

 

 蓮夢の目線を追って下を見下ろすとまず飛び込んで来たのは一面の紅。

 赤より紅い霧が広がっていた。ここは素直な感想を一つ。

「赤いわね」

「異変ってやつじゃないの?」

「そうかもしれないわね」

「そうかもって…」

 はあ、誰よこんな暑い時期に面倒くさい。解決する方の身にもなって欲しいわ。

 まあ、とりあえず第一にするべきことをしましょうか。

 

「とりあえず…」

「とりあえず?」

 

 

「朝ごはんにしない?」

「・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん…朝か?」

 何故だか今日は早く目が覚めた。ちょっと早いが体が起きてしまったのだからしょうがない。

 二度寝をしようにもできそうにないぐらいすっぱりと目が覚めたので昨日の晩飯の残りの私特製キノコの味噌汁を温め直す。

「〜♪」

 鼻歌でも歌いながらグツグツと鍋をかき回す。

 なかなかいい匂いだぜ。我ながら味噌汁の出来に感心しながらふと窓の外を覗くといつもよりも薄暗い魔法の森が広がっていた。

「ん?」

 薄暗い…というよりはなんか赤い?

 確認をしようと火を消して外に出ると鬱蒼と暗い森の中をさらに暗く、赤くする不気味な霧が漂っていた。

「なんだこりゃ?」

 

 当然、私の疑問に答えてくれる相手もなく、私の声は森に吸い込まれていった。

 

 だけど、これは、もしかしたら。

 

「異変か?」

 

 自然と口角が上がる。やっと待ちに待った異変だ。いつの日か、誓ったあの時よりも私はすごい魔法使いになれているのだろうか。

 試してみたい。そうと決まれば、善は急げ。

 私は急いで家の中に戻った。

 寝巻きからいつもの黒い服に白いエプロンを着けた格好に着替える。…おっと、帽子も忘れずにな。

 

 そして冷めた味噌汁を一気に流し込んでとりあえず私はあの巫女姉妹のいる、もう行き慣れた博麗神社に箒を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするの霊夢?これ異変でしょ?」

 器用に川魚の骨をどかしながら朝ごはんを食べる霊夢に俺は質問をする。すると霊夢は箸を止めてこう答えた。

 

「でもそんなすぐに解決しなきゃいけないって訳じゃないでしょ?涼しくなる夕方ぐらいになったら行くわ」

 

 おいおい、それでいいのかこの巫女は。

 

「まあ、別に私は解決できないから霊夢に任せるけどさ」

「そうね、蓮夢は安心して私に任せてちょうだい。大丈夫だから」

「なんだかんだで霊夢はちゃんと仕事はするしねえ」

 

 霊夢はやる時はやるし大丈夫だろう。それに解決できる力の無い俺にとやかく言われるのも嫌かろう。そう思って俺はこれ以上の追求はやめにした。

 

 赤い霧が神社にまで漂ってきたがこれ以上特に気にすることなく俺たちは朝食をとっていた。

 いつも通りにご飯を食べていると庭先の方で何かが着陸する音がした。その音に俺たちは目を合わせる。

 

「魔理沙かな?」

「それ以外誰がいるのよ。はあ、なんでうちには魔法使いは来て参拝客は来ないのかしら?」

「それにしても朝早いね」

「どーせ朝ごはんをたかりに来たんじゃないの?」

 

 面倒くさそうな様子の霊夢を尻目に、音の主はばたばたと騒がしくこちらの部屋に向かってくる。

 そしてバン!と戸を勢いよく開けて音の主が飛び込んで来た。

 

「霊夢!蓮夢!異変だぜ!」

 

 そう言って入って来た音の主は予想通りに普通の魔法使いだった。異変だと言ってはしゃぐ魔理沙の目は無邪気に輝いていた。

 

「…魔理沙、なんでそんな嬉しそうなの?」

 俺の質問によくぞ聞いてくれたと言わんばかりに魔理沙は勢いよく霊夢を指差した。

「ふふん、霊夢!勝負だ!どっちが早く異変を解決するか競争だぜ!」

 

 …霊夢はこういうのって面倒くさがって乗らないと思うけどな。

 魔理沙の言葉に霊夢は平然とした様子で答える。

 

「…いいわよ。やってあげる」

 あれ?霊夢なら断ると思ったけど、意外だな。

 それを聞いた魔理沙は意外そうに、しかし嬉しそうにニヤリと笑う。

 

「よっしゃ!じゃあ早く行こうぜ!」

「いや、先に行ってていいわよ」

「?なんでだ?」

「ハンデよハンデ。朝ごはん食べてる最中だし、普通にやってもどうせ私が勝っちゃうじゃない。だからほら、行った行った」

 これには魔理沙も不満そうな顔をして頬を膨らませる。

 

「なんだ?余裕だってか?今に見てろ、私がすぐに解決してやるからな」

 

「期待してるわ魔理沙」

 

「!後で吠え面かいてもしらないからなーっ!!

 

 ドタバタと魔理沙は怒ったように出て行った。

 そうして再び静かになった食卓で俺は口を開く。

「…珍しいね」

「なにが?」

「霊夢が魔理沙の勝負受けたことだよ。いつもなら断りそうなのに」

 ああ、と霊夢はいたずらが成功したように笑った。

 

「いやね、魔理沙があんなに異変解決する気なら私は行かなくていいかなって思って。そうすれば私も苦労しなくていいし、魔理沙は異変解決できるし。後で行くとか言ってのんびりしてれば魔理沙がやってくれるでしょ」

 

 なかなか悪どいな。でも、この巫女は大事なことを見落としている。

 

「でもさ、魔理沙だけが解決しちゃったらまずくない?」

 

「なんで?」

 

「…異変解決の報酬ってどうなるの?」

 霊夢の動きが止まる。みるみるうちに霊夢から余裕そうな笑みは消えていった。

 

「…食材は?」

「魚は今だしてるので最後。っていうか、もう漬物とご飯と、お酒ぐらいかな?食べられる物は」

「ごちそうさま!」

 俺が言い終わる前に霊夢はすごい速さでご飯をかきこんで準備をし始めたていた。

 準備が一通り終わったらしい霊夢は魔理沙と同じようにドタバタと部屋を出て行く。

 俺は霊夢を追って玄関までついていった。

 

「ごめん蓮夢!私の分も食器片付けといて!行ってくる!」

 

「わかってるって。でも、気を付けてね霊夢」

「うん、行ってくるわ!」

 

 ああ、あの時と立場は逆だな、背を向けた霊夢に俺は最後に声をかける。

 

「霊夢!」

 

 俺の声に霊夢は振り向く。なるほど確かに待つ側ってのは心配症になるかもしれん。だけど俺はなるべく笑顔を作ってこう言ってやるのさ。

 

「頑張って!!」

 

 霊夢は不敵に笑んで宙へ舞った。その空にはこの夏の時期には珍しく蝉の声は聞こえない。

 

 先に行った魔理沙を探しに霊夢はどこまでも紅い幻想郷の空を飛んだ。

 

 

 俺はその後ろ姿を見えなくなるで見ていたんだ。

 

 

 

 

 










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