博麗転生譚   作:ヒフカ

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今回の話から時間軸は紅魔郷スタート直前くらいまで飛びます!もう少しで原作の時間軸に入りますね。


第十話

 

 サッサッサッ、と箒が砂や落ち葉を掃いている。

 外に出るのが躊躇われるくらいのうだるような暑さの中、とある神社の境内では掃除をしている巫女の姿があった。

 

 その巫女は袖の部分が服の部分と離れていて脇の部分が露出されている特徴的な青色の巫女服を着ている。それに服と袖の間、時折ちらりと見える彼女の右肩の辺りには見るも痛々しい傷痕がさらに印象的だった。

 

 入り口から賽銭箱の前まで丁寧に。かき集めた落ち葉たちを所定の位置に集めて最後に仕上げと言わんばかりにサッ、と一掃きして巫女は軽く伸びをした。

 

「う〜ん、こんなもんかな。今日のお掃除終わりっと!」

 

 箒を片付けてお賽銭箱の中を覗き、その中身を見て巫女は表情を曇らせる。

 

「…今日もお賽銭は無し、と。わかっちゃいたけど悲しいものねえ」

 照りつける太陽を眩しそうに見上げやってられない、と言わんばかりに肩を落とす。

 

 

「それにしても暑い…。やっぱり夏はいつでもどこでも暑くてやだなあ」

 

 そう呟いて巫女はふらふらと神社の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 そう言って俺は玄関に入り、居間でだれている霊夢の元へ向かった。

 

「ごうろうさまー。お賽銭はあったー?」

 開口一番霊夢はお賽銭のことを聞いてくる。もうちょっと他に無いのか。

 

「残念ながら…」

 俺が無かったことを伝えると霊夢はさらにだるそうにちゃぶ台に突っ伏した。

 

「なんでー?なんでウチには参拝客も全然来ないのよう」

 

 そりゃあ巫女がこんなだるそうにしてたら当然…とは言わず俺は適当に相槌を打つ。

「なんでだろうねー。あー私お茶飲むけど霊夢もいる?」

 

「あーお願い。冷たいやつ」

 

「わかった。霊夢の分も用意するね」

 

 そうして俺は湯のみを二つ用意して、茶請けは…まあこのお煎餅でいいか。そして冷たいお茶を持って居間に腰を下ろした。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがと、蓮夢」

 

「どういたしましてと」

 

 二人でのんびりし始めすぐに霊夢がパリパリと煎餅をかじりながら口を開く。

「やっぱ蓮夢が淹れたお茶はおいしいわね〜」

 

 人に淹れてもらった方がおいしいのは当然じゃないだろうか。タダ飯ほどうまいものは無いと思う。俺もまたパリッと音を立てながら喋る。

 

「そんなこと言って、実は人から淹れてもらえれば誰でもいいんじゃないの?」

 

 それを聞いた霊夢はバリッと煎餅を噛み砕き心外そうに頬を膨らます。

 

「そんなことないわよ。蓮夢が淹れるお茶が一番だと思うわ」

 

「…いや、まあそんなに良く言ってくれるんなら悪い気はしないけどさー」

 

「そうよ、褒めてんだから蓮夢もそんなに気にしないの」

 

「はいはい」

 

「はいは一回!」

 

「はーい」

 

 そんな風に他愛もない会話は続く。けれどいつしか会話のネタも尽き、聞こえるのは茶を啜る音、煎餅を咀嚼する音、そして外の蝉たちの鳴き声だけ。

 

 平穏。平穏がそこにはあった。お茶はどちらともなく気がついた方が中身の減った湯のみに注ぎ足す。お互いに気を遣わない程度に気を遣う。さっき外にいた時には感じ得なかった涼しい風も吹いていた。そんな二人でぼーっとしながら外を眺めるこの時間が俺はとても好きだった。

 

「…あら?」

 しかしそんな平穏も一時中断の時だ。急須に入れておいたお茶も底を突く。霊夢が注ごうとしていた急須からはフリフリと振ってももう一滴たりとも出してはくれなかった。

 そんな様子を見て俺は尋ねる。

 

「…作り直す?」

「…お願いするわ」

 

 仕方なく立ち上がろうとした時に平穏を中断どころか乱す黒白が現れた。否、降りたった。

 

「よう!相変わらずだなお二人さん!この私にも分けてくれないか?」

 やはり魔理沙だった。ズザーっと庭先に着陸したら縁側に腰掛けてお茶を要求してくる。…しかし残念だな魔理沙。もう飲み尽くしちゃったのさ。

 

「今日は遅かったわね魔理沙、生憎だけどもう無いわよー」

 

 そう言って空になった急須を見せつけた。それを見た魔理沙は不満気な顔をしてこう提案する。

 

「まあ待て、どうせ今から淹れ直すところだったんだろ?だったら私の分くらい用意してくれても問題ないぜ!」

 

「たかりに来たみたいだけど残念ねあんたの分は無いわよ、魔理沙」

 

 そんた魔理沙の提案もバッサリと霊夢に切られる。

 それでも魔理沙は諦めない。いそいそと八卦炉を取り出し霊夢に向けて言葉を発する。

 

「たかりに来たんじゃないんだぜ私はそう…力ずくで“貰う”んだぜ!弾幕ごっこで霊夢に勝ったら霊夢の分を貰う!勝負だ、霊夢!」

「いや」

 即答である。

「え?」

 さずかの魔理沙も一瞬で断られるとは思っていなかったのか目が点になる。

 

「・・・な、なんでだ?」

 

 ようやくでた彼女の言葉は素直な疑問だった。

 それに対し霊夢は素っ気なく答える

「いやに決まってるじゃない。こんな暑い中なんで外に行かなきゃならないの?」

 

「あ、暑さなんて関係無いだろそんなの!つれないこというなよー」

「それに面倒臭いし」

 

 霊夢にあっさりと断り続けられた魔理沙は拗ねたように愚痴り出す。

 

「ノリが悪いぜ霊夢は、蓮夢だったらきっとすぐ勝負してくれたぜ」

 いや、俺に振るなよ。関係無いし。そう思っていたら霊夢が急に立ち上がった。

 

「…いいわ、やってあげる。蓮夢、さっさと終わらせてくるからお茶お願いね」

 

「んー?わかった」

 

「おっやるのか?そうこなくちゃ!」

 なんだ?急に気が変わったのかな?霊夢は少し苛立った様子で魔理沙とともに庭先に出て行った。

 残された俺はとりあえずお茶を入れ直しに台所へ向かう。

 

 弾幕ごっこ。霊夢と紫さんが考えた人間と妖怪が対等に戦える遊びらしい。まあ、昔俺と魔理沙がやってた勝負に似たようなものだ。残念ながらまだそんなに広まってはいないらしいが。

 そんなことを考えながら俺は湯のみを三つ用意して急須に茶を入れる。

 二人の弾幕ごっこでも観戦しようかなと思って縁側に向かうとそこには悔しそうな顔した魔理沙と涼しげな顔した霊夢がいた。

 

「ずるいぜ霊夢、その技は!」

「ずるくないわ。それに付き合ってあげただけ感謝なさい」

 

「…もう勝負着いたの?」

 

 この二人の様子を見るにどうやら霊夢が勝ったらしいな。こんな短時間で魔理沙に勝つなんてやはり霊夢は天才すぎると思う。俺の声に気づいた霊夢は微笑みながらこちらに来る。

 

「ええ、ちょうどよかったわ蓮夢」

 

「お疲れさま」

 

「ありがと」

 

 俺から湯のみを受け取った霊夢はおいしそうにこくこくと喉を鳴らしてお茶を飲む。それを悔しそうに眺める魔理沙に俺は手招きする。

「おいで魔理沙」

「ん、なんだ?」

 

 近づいてきた魔理沙に湯のみを手渡した。渡された魔理沙は驚いた顔してこちらを見てきた。

「魔理沙も、お疲れ」

 

「いいのか?サンキュー!」

 

 そうして元から縁側に座っていた俺を真ん中に挟んで霊夢と魔理沙も縁側に腰掛けた。

「やっぱり蓮夢は優しいぜ!」

 

「あら、私も優しいわよ?」

 

「お前はずるいの間違いだろ?」

「魔理沙が暑い中辛い時間を過ごすのを短くしてあげたんじゃない」

「嘘つけ!どう考えても面倒臭かったからだろ!」

「そんなこと無いわよ。ねー蓮夢?」

「えっ?」

「霊夢はただの鬼畜巫女だろ、なー蓮夢?」

「ええ?」

 おいおい、俺に振るなって…。

「…あっはっは!二人とも楽しそうだねえ」

 

 話題をどうにか俺から逸らそうとしてもどうしようもない笑いしかでなかった。そして、両隣から抗議の視線を感じる。

「話を逸らしたわね」「話を逸らしたな」

 

「うう、」

 

 そうして会話は続く、笑いは絶えず。三人で縁側に座って話しているとあっという間に日は傾く。

 

「夕やけ小やけで日が暮れたしそろそろ暗くなるよ。魔理沙、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

「いーや、今日は晩ご飯もいただくぜ!」

「やっぱりたかりに来たんじゃない」

 

 山の向こうに沈みかけ、幻想郷の稜線を真っ赤に染める夕陽を三人で眺めた。今日の夕焼けはいつか見た金色と同じくらいこの茜色は俺の目に綺麗に映った。

 

 

 

 

 

 霊夢と二人で静かに過ごすのと同じくらいこの三人で賑やかに過ごす時間が俺は大好きだ。

 

 

 

 




少しのんびりとした話を書きたかったです。
うまく書けているかどうかはわかりませぬが。

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