博麗転生譚   作:ヒフカ

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第一話

 

 

 

 

 雨が降っていた。ザーザーと雨粒が屋根を叩く。私は同居人に気づかれないように音もなく布団から忍び出た。玄関に辿り着き心の中だけで小さく別れを告げて玄関の戸を開いた。

 

「待ちなさい」

 

 声とともに私の服の袖を掴む手が一つ。ため息を小さく吐いてゆっくり振り返るとそこには私の同居人である赤の巫女服を着た黒髪の少女が立っていた。

 

「どこへ行く気?」

 少女は怪訝そうな視線を私に向けてそう言う。

 

「さあ?どっか知らない場所」

 私は袖を掴んだ彼女の手を乱暴に振り払い言い捨てた。私の態度が気に食わないのか彼女は表情こそ変わらないが口調に怒気が混ざりお祓い棒をこちらに向ける。

 

「あんなくだらないこと信じるの?落ち着いて考えればあんなのすぐにわかるわ。嘘だって。頭冷やしなさい」

 

「!っうるさい!」

 

 くだらないこと?今までずっと探してた。やっと見つけた自分を知る手がかりをくだらないこと?自分を知りたいだけなのにどうして止められなきゃならないんだ!!

 怒った私はお札を取り出し、抜き打ちで少女に攻撃する。

 

「二重結界」

 

「っ!?」

 

 不意を突かれた少女はあっけなく私の結界の中に閉じ込められる。これでしばらくは追って来られないだろう。私は玄関の外に出て未だ結界の中にいる彼女に別れを告げる。心の中だけですましていた別れを。

「・・・じゃあね。霊夢」

 

 

 肩まで届く黒髪をなびかせて私は雨降る闇夜の空に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー ー ー ー ー ー

 

 ある晴れた昼下がり、どこかの長い石段の前に俺は寝ていた。

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 赤ん坊の泣く声が近くで響いている。うるさいなあ、静かにしてくれよ。音の発信源を探そうと体を起こす。

 あれ?おかしいな、うまく立てない。不思議に思って目を開いた。そこには紅葉の葉のごとく小さな手があった。

 腕を上げる。すると紅葉が宙へ舞う。腕を下げる。すると紅葉が降ってくる。

 ・・・え?これ、俺の手?な、なんで?慌てて自分の体を見ても、自分の記憶にある俺の体は無く、赤ん坊になっていた。うるさい泣き声も自分のものだった。・・・なぜだ。

 いや、おかしい。まてよ。俺は昨日、休日で、確か・・・何があったっけ?昨日したことを思い出そうとしても記憶は霞がかったようにひどく曖昧だった。昨日どころか、自分の名前も覚えていない。覚えているのは俺が確か男だったということと、ちょっとした生活の知識だけだった。

 混乱して頭を抱えていると(頭を抱えて悩んでいる赤子ってのも変だけど)、誰かの手が脇の下に入れられ俺を抱え上げた。

 

「・・・捨て子?困るわねー、ときどきいるけど親は何やってんだか。ウチは託児所じゃないっての」

 

 な、なんだ?何が起きてる?体が宙に浮き、操り人形のようにぶらーんと持たれている。ジタバタと暴れても赤ん坊のこの体じゃ俺を抱え上げたのが誰かも見ることができない。

 

「はいはい、暴れないの。大丈夫よー」

 

 抱え直されてようやく声の主を見上げる。声の正体は巫女服を着た黒い長髪を後ろで縛っていて、まさに大和撫子とでも言うような綺麗な女性だった。

 

「あうああ?(あなたは?)」

 

「んー?大丈夫よー」

 ・・・この体は喋ることもできないようだ。つくづく不便である。ふと女性が俺をなにか確かめるように見ている。

 

「うーん、この子ならもしかして・・・そうね、紫にも見せてみましょう」

 

 何処か明るい顔になった女性は俺を抱えたまま走って石段を登り始めた。ちょ、ちょっと待って、頭が揺れる!痛い痛い!ガクンガクンと頭が激しく揺らされてぐったりした頃ようやく彼女の動きが止まる。どうやら階段は終わったようだ。

 石段を登り、鳥居の向こうには木造の建築物、賽銭箱らしきものが置いてある。どうやらここは神社らしい。縁側に赤ん坊を抱え、紫色の服を着た女性がいる。俺を抱えた彼女は少し興奮気味にその人のもとへ駆け寄り、俺を見せて言う。

「ゆーかーりー!次の巫女候補見つけたわよ!」

 

 ゆかりと呼ばれた金髪の女性は意外そうに目をパチパチとさせ口を開いた。

 

「あら奇遇ね霊歌。ちょうど私も見つけてきたの」

 

 どうやらこの巫女さんは霊歌さんと言うらしい。それにしても巫女候補?俺は男ですよ?霊歌さんはゆかりさんの抱えている赤ん坊を指差す。

 

「その子が紫の見つけてきた子?」

 

「ええ、そうよ。この子は素質があるわ。・・・あらその子も素質があるわね」

 紫さんは驚いた様子で俺を見つめる。すこし恥ずかしくなって目を逸らす。それを見た紫は微笑んだ。

 

「あらあら、恥ずかしがり屋さんなのね」

 

「ううー」

 いきなり赤ん坊になってて知らない人に囲まれたら誰だってこうなるだろ。一つ唸って黙ることにした。

 

 

 俺ともう一人の赤ん坊を見ていた霊歌さんが思いついたように手を叩いた。

 

「そうだこの子に名前をつけましょう!この子は捨てられてたから名前が無いの。紫、なんかいい案ない?」

 

 紫さんはにっこり笑って口を開く。

 

「あら、また奇遇ね。この子も捨て子で名前無いの。霊歌一緒に決めてあげて?」

 

「ええっ!?二人分も!?思いつかないって。紫がつければいいじゃないその子には」

 

 霊歌さんが口をとがらせる。紫さんはそれを予想していたのか涼しい顔をしてこう返す。

 

「この二人のどちらかがあなたの仕事を継ぐことになるんだからあなたがつけなさい。それがあなたの義務よ。それに、「あーわかったわかった。つければいいんでしょつければ!」・・・よろしい」

 

「う〜〜〜んこの二人の名前ねぇ・・・」

 

 霊歌さんが顎に手を当てて考える。十分ほどたっただろうか、うつむいていた顔を上げて、宣言する。

 

「決めた!この子が蓮夢!こっちの子は霊夢!博麗蓮夢と博麗霊夢の姉妹巫女!・・・なんてどうかしら?」

 

 したり顔で腰に手を当ててえっへんと言わんばかりに紫さんを見た。

 

「姉妹って、どっちが年上なのかしら?」

 

 紫さんが笑いながら訪ねる。どうやら今世の俺の新しい名は博麗蓮夢と言うらしい。さらに霊歌さんと紫さんは相談を続け、もう一人の赤ん坊、博麗霊夢と名付けられた子と俺は姉妹として、博麗の巫女とやらとして育てられることになったらしい。

「ふふん、どっちが年上かなんてくだらないことは気にしないわ!二人ともウチの子!」

 

「なんかいいこと言った風にしてるけど、答えになってないわよー」

 紫さんが霊歌さんの揚げ足を取る。それを聞いた霊歌さんは顔を少し赤くした。

「う、うるさい!」

 

 

 

 

 

「…まあとにかく、これからヨロシクね!二人とも!」

 

 一通り話が終わり、霊歌さんが俺ら二人を抱きしめて挨拶をする。俺は小さく頷き、霊夢はぼーっとしていた。いきなり、いきなり赤ん坊になり、まだ頭の整理が整っていなかったからこれからどうなるのか不安感でいっぱいだった。

 

 思えばこれが始まりだったか。




自分はまだまだ文章を書く力が足りないのでまずはただ書くことを存分に楽しもうと思います!
でも、いつかは面白い話を書けるようになりたいなあ。

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