俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような? 作:ボストーク
前回から原作のアーシア編に本格的に合流しましたが……今回はサブタイからしていつもと少しだけ雰囲気が違います。
アーシアが原作よりほんの少し強いかもしれませんし、一誠は少し強がるかもしれません。
二人は分っていて、分りきって分かれる……そんな感じの話です。
その日、よりによってパトロールを開始したその日に俺が街でエンカウントしたのは、なんとレアアイテムな回復系のセイクリッド・ギア持ちの
こんな悪魔の支配する街に、ある意味一番不似合いな娘が訪れた理由……それは堕天使とその配下の”はぐれ
***
俺は、自分が『堕天使に襲われ、相打ちになり命を落とした”
「言いにくいんだけど……アーシアが向かってる
その言葉で、アーシアはビシリと固まった。
まあ、無理もないけど。
「アーシア、お前がそれをわかった上で行くなら止めはしないし、教会へ道案内も続けよう。だが、迷うなら……覚悟がないのなら行くべきじゃない」
「覚悟……ですか?」
悲痛な表情を浮かべるアーシアだったけど、これは他の誰でもない……
ならば事実を糊塗したり隠蔽するのは、決して彼女のためにも俺のためにもならない。
「俺と……いや、
「!?」
「今、俺達悪魔と天使、堕天使のそれぞれの陣営の主流派は、今でも補えない先の大戦の消耗から、表立っての衝突は避ける方向に動いている。だが、アーシアが向かう教会に居るのは、堕天使陣営の中でも上層のコントロールを外れた末端組織……非主流の”好戦的
沈黙が流れた……
ギュッと膝の上で両手を握るアーシア……
辛い決断をさせれしまった自覚はある。
だが、何も知らないで突然
(だけど、どうせ煉獄でその身を焼かれるのなら……)
せめて、自分の意思で進んで欲しいと思う。
アーシアがいい娘、善人だってのはわかってる。
だけど、なら余計にだ。
「……行きます」
どれほど時間が経ったろうか?
でも、はっきりした意思の元でアーシアは俺に告げた。
「だって、わたしには……もう、他にいくところなんて無いんですから」
俺に向けられるのは無理やり作った笑顔……
俺は、
「あっ……」
指でそっとアーシアの涙を拭った。
「理由……聞いていいか?」
「えへへ。わたし、破門されちゃって……教会から追放された、だめだめの”はぐれ
いっそ痛々しく微笑むアーシアが話してくれたのは……
***
それは、ある少女が聖女と祭り上げられ、そして”魔女”と呼ばれるまでの転落の物語だった。
人にあるまじきほどの
しかし、それでも少女は幸せだった。
自分の力で苦しんでいる人を助けられるならと。神様の大いなる愛で人々を救済できるならと。
だが、その日々も長くは続かなかった。
ある日、その少女は人間ではなく「
それを知った教会側上層部は、「悪魔を癒すという行為」自体を”
もしかしたら、「悪魔すらも癒す力」その物を危険視した可能性はあるが……
「随分、ケツの穴の小さい話だことで」
それがアーシア・アルジェントという少女の半生を聞いたときの、俺の正直な感想だった。
「け、けつのあな?」
きょとんとするアーシアだったが、
「ああ。アーシアが知らなくていい言葉だ」
思わずそう区切ってしまう俺だった。
破門されたとはいえ、もと聖女様に日本語における「Ass Hole」を連呼させるほど悪趣味じゃない。
(それにしても……)
聞けば聞くほど、短絡的な判断だ。
異質であっても力のあるものを排除すれば、いずれ組織は硬直を招き弱体化を免れないってのに。
組織を守るという大義名分の下、過剰な保守的/排他的組織構造に陥って組織工学的動脈硬化を起こして自浄作用や環境変化に対する適応性や流動性を失い、守ろうとした組織その物が瓦解するケースは、組織の大小を問わず枚挙の暇が無い。
「不憫な……」
「そんなことは……これは神様がわたしに与えてくださった試練ですから……」
俺はベールの上からそっとアーシアの金色の髪を撫で、
「アーシア……それは違うぞ? アーシアの悲劇は、人の作った組織が起こした立派な”
「イッセーさん……」
「今まで良く頑張ったな? アーシア・アルジェント……例え神が見てなくても、俺が認めるよ。お前は本来、救われ報われるべき人間だって」
「えっ……?」
大きく見開いた翡翠色の瞳を俺は真っ直ぐ見る。
「胸を張れ。例え破門されようと追放されようと、お前は人として正しいよ。まっ、悪魔の祝福なんてのは、アーシアにとって呪いにしかならないかもしれないけどさ……」
”ふるふる”
彼女は小さく首を横に振って、
「う……う……うわぁぁぁぁーーーーーん!!」
泣きじゃくる彼女を、俺はただ抱きしめた。
(本来、こういう役回りは祐斗の方が似合うと思うんだけどな……)
「今は泣いていいよ。悪魔の腕の中でよければさ」
彼女が首から下がった十字架が当たって少々痛かったが、涙に暮れる女の子を前にしてこれくらい我慢しなけりゃ男が廃るってもんだろ?
きっとアーシアは、ずっと泣きたくても泣けなかったんだろうから……
*************************************
結局、アーシアが泣き止むまで、落ち着くまで抱きしめていた。
そしてその後……二人揃って無言のまま、教会へ向かって歩いた。
不安でかすかに震えるアーシアの手をしっかり繋いで。
駄目元で俺は問うた。
「悪魔の組織に庇護を受ける気はないか?」
と。だけどアーシアは首を小さく横に振り、
「それでも教会が”わたしの家”なんです」
そう微笑んだ。
なら、もう止めはしない。
教会が見える位置に来たとき、
「お別れだな」
「はい」
「次に会うときは、敵同士になってるかもしれない」
「……はい」
それがアーシアの選んだ道なら、俺はただ見送るだけだ。
だから、これから先は俺の
「アーシア、これを一枚持ってけ」
俺は持っていたチラシを手渡した。
「これは……?」
「チラシに擬態した
「イッセーさん……」
「もし、俺を呼び出したいときがあったら使うといい。理由は寂しくなったでも、話し相手が欲しくなったでもいいからさ」
「はいっ!」
「イッセーさん、
「
別れの最後は笑い泣きだった。
涙で滲んでいたけど、哀しい涙じゃないから許してくれよ?
***
「さてと」
まずは
次は神器持ちの聖職者と接触したことを、生徒会室で待機しているはずのソーナお嬢様に報告だ。
そして、よりによって聖女に無断で接触したことを、たっぷり怒られるとしよう。
救われぬ想いも救えぬ無念も飲み込んで……
ああ、これが俺の日常なんだって噛み締めながら。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
事情も裏事情も知った上で一誠とアーシアが道を別れたエピソードはいかがだったでしょうか?
アーシアが感じたのは名残で、一誠が感じたのは未練でしょうか?
だけど”この世界”の兵藤一誠って少年は、”
意味なんか無いのは判っていても。
意地も見栄もあるんでしょう。男の子ですから(^^
作者的にはアーシアが泣けたのがよかったかなっと。
フラグと言ってはいけません(笑
次回は再びちょっと原作から外れます。
それでは皆様、また次回でお会いできることを祈って。