俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
さて、今回からいよいよバトルステージの開始です。

今まで以上に血腥くなる予定なので、ご注意を(^^




第42話 ”戦場の空気ってなんですか?”

 

 

 

中級悪魔、ゲル・ゲリアは幸せだった。

いや正確には、自分の幸運に笑みが浮かぶのを止められなかった。

 

とある大王派の上級悪魔からあった依頼は、彼が裏路地で行ってきたあらゆる”仕事”よりも簡単に思えた。

そのくせ……

 

「報酬たんまりに眷属への仕官……たまらんぜ!」

 

確かに相手は、一時期冥界を震撼させた『上級悪魔を殺した”はぐれ悪魔”』という少なからず危険な相手だが……

 

(逃亡生活に疲れ、グレモリーに投降してきたってんなら話は別だぜ)

 

なら主殺して逃亡し、追っ手を皆殺しにしたときのようなヤバさはもう無いはずだ……そうゲルは判断していた。

彼は”猟犬”役として、それなりの裏仕事をこなしてきた。

だから知っているのだ。

どんな屈強で精強な猛者でも長い逃亡生活は心も体も磨耗させ、いずれはロクに抵抗もできない枯れ枝のような脆く弱い存在になることを。

 

依頼主から渡された詳細なデータを見れば、どんなに強くとも自分の一割程度しか生きてないほんの小娘。

しかも聞けば行き倒れ寸前で元の主に拾われたというのだ。

 

(ならばさぞかし磨耗してるだろうよ)

 

行き倒れになるということは、武力ではなく他の部分が弱いということだ。

メンタルかもしれないし、もっと単純にサバイバル術かもしれない。

 

弱いからこそ死に掛ける……それがゲルの辿り着いた真理であった。

 

 

 

「強ければ俺のように生き残れるし、美味い話も転がり込んでくるもんさ」

 

もしゲルに不満があるとすれば、

 

(チッ! 樹液にたかる虫みてぇに集まりやがって……)

 

そう、この襲撃計画に集合したのはゲルだけではなかったということだ。

彼はどうやら自分も「樹液にたかる虫」の一匹だとは気付いてなかったようだが……今いるのは、ゲルを含めて中級悪魔が数名。片手の指の数よりは多いが、両手の指の数よりは少ない程度。

 

そしてゲルの主観では消耗品、あるいは捨て駒に等しい塵芥に等しい下級悪魔が十数名。

ゲルもかつては同じ塵芥……下級悪魔だったことは、彼の記憶から都合よく抹消されていた。

 

 

 

***

 

 

 

さて、ゲルたち中級/下級悪魔総勢二十数名が所定の位置に隠れていると、情報どおりに護送車がやってきた。

 

広い冥界、グレモリー領からシトリー領へ行こうとするなら、直通の列車でも使わない限り普通の車両なら数ヶ所の転移中継ポイントを通らなければならない。

 

転移魔法で一発でいけると思われるかもしれないが、そもそも「長距離移動を平然とこなす転移魔法」を使える膨大な魔力と術式の使用者は限られている上、何かと物騒……先の大戦の前までは、平然と自分の私兵を使った大物悪魔同士が武力闘争を繰り広げた冥界だけあって、セキュリティはしっかりしたものだ。

 

ちょっといい家柄の悪魔の邸宅には幾重もの防御結界が張り巡らされていて、見ず知らずの者が転移で侵入することなどまず不可能だ。

というよりむしろ、その屋敷の住人や使用人、また許可を受けた認証持ち(例えば、シトリーとグレモリーは互いの魔方陣に浮かぶ紋章が認証コードになっていて、基本的に出入り自由)の存在以外が転移で潜り込むのは、まず諦めたほうがいい。

転移魔法がキャンセルされる程度ならいいが、凝ったシステムを導入していたり厳重な警戒が敷かれているところなどは、自動迎撃プログラムで術式に介入され、任意或いはランダムでとんでもないところに飛ばされることがあるのだ。

 

だが、だからこその好都合だ。

あのタイプの護送車は、次の転移を行うまでのチャージング・タイムが相応に必要だ。

その間は陸路を走り、動きは人間界の車両と変わらない。

 

ならば、”攻撃魔法(飛び道具)”が使える彼らにとって、それは絶好の”座ったアヒル(シッティング・ダック)”に過ぎないのだ。

 

”BOM !”

 

「馬鹿が! 先走りやがって!」

 

護送車(獲物)が目の前に来たのだろう。

いかにもまだ裏家業の経験が浅そうな若い下級悪魔が、功を焦って攻撃魔法を勝手に放ったのだ。

 

ここで彼らの欠点が如実に出た。

この悪魔達は所詮、金と眷属入りを餌に”追っ手(チェイサー)”に志願した者ばかりであり、最初から連携もへったくれも考慮されてなかった。

 

要するに『黒歌の首を取り、魔王一派の鼻を明かせればよい』という考えの下、『黒歌を確実に殺せるだけの火力の集中』ができればいい……その一点のみが重視され集められた面子に過ぎない。

 

もっとも、客観的に見てその目的は達成されつつあるように見えた。

若い悪魔の一発を皮切りに、「若造ごときに手柄を取られてたまるか!」とばかりに大中小様々な魔力弾が護送車に集中したのだ。

 

その為に護送車は破壊されながら何度も横転し、やがて荒野にみすぼらしい残骸を晒すのだった……

 

 

 

***

 

 

 

「この馬鹿どもがっ!! ここまでスクラップにしちまったら遺体も何も判別できないじゃねぇかっ!!」

 

一番槍を若造に取られた腹いせに、思い切り自分も撃ちこんでいた事を棚に上げ、ゲルは下級悪魔達に怒鳴り散らした。

 

そして他の中級悪魔達と共に車両に近づく。

無論、連携を取ってるとか警戒しているとかではない。

互いが互いを抜け駆けしないように牽制しているのだ。

 

当然であろう。標的の首を挙げたものが武勲一等に決まってるのだから。

 

中級、下級の悪魔のランクは純粋な実力差だ。

故に普通、下級より中級悪魔の方が強い。

一部の転生悪魔のように下級悪魔なのに桁違いの者も居るが、あれは例外中の例外。

今回の作戦に選ばれたのは、”悪魔至上主義(選民思想)”の強い大王派が選抜しただけあって、居るのは冥界の市民階級と言える純粋な中級以下の悪魔だけだった。

 

要するに、当たり前の市民生活を歩めなかった”ならず者(アウトロー)”の集まりだったのだ。

故に階級差は実力差であり、それが分っているからこそ下級悪魔達は車両に近づけなかった。

今、下級悪魔達が考えてるのは、どう中級悪魔達を出し抜き手柄を掠め取るかだった。

 

 

 

「チッ……!」

 

車両に近づくにつれ、その損傷の酷さが分る。

ゲルは思わず舌打ちした。

 

(”DEAD OR ALIVE(生死問わず)”だから、別に死んでくれててもかまわねーが……)

 

だが、それでも標的が死んだことを雇い主に示さねばならない。

 

(首が回収できるかはこうなっちまうと微妙だな……最悪、肉片でも持ち帰るしかねーか?)

 

そんなことを考えながら残骸を漁ろうとした時……

 

「ん?」

 

何かがキラリと輝き……

 

”サクッ”

 

 

 

***

 

 

 

ゲル・ゲリアは誰がなんと言おうと幸せな悪魔だった。

今のように眉間を刺し貫かれ、脳を破壊した”ブルトガング・レナトゥス”の切っ先が、後頭部から突き出ていたとしても……

 

彼は怯えることも恐怖に震えることもなく、それどころか痛みを感じる暇もなく逝けたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

 

 

 

「思ったより違和感あるなぁ」

 

『ぼやくなよ相棒』

 

さすがアジュカ様の作った車載シェルター。三次元投影(ホログラム)式の外部視察モニターによれば、現在、この車は魔法砲撃の集中砲火を浴びて派手に大破しながら地面を転がってる筈だが、シェルター内部には衝撃や振動など一切伝わってこない。

無論、横軸回転の慣性もだ。

お陰で攻撃が始まる前と変わらず、俺は寝そべりモードのまま観戦中だ。

 

「擬似的に空間を隔絶しているのかな?」

 

『当たらずとも遠からずだろうな。発動しているのは、防御魔法というよりむしろ封絶系の結界術式に性質が近い』

 

というわけで俺はどちらかというと寝転んだまま3Dシアターでファンタジー系戦争映画でも観てる気分だ。

映像だけでなく音声も拾ってるから尚更。

というか立体音響にする必要あったんか?

アジュカ様、凝り性だからなー。趣味に走りがちだし。

 

『相棒、そろそろ準備をしておけ』

 

ドライグは出発するときから展開し、エネルギーは俺の許容量限界(リミット・キャパ)まで”貯蔵(プール)”済み。

俺は、”赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”から業物の片手剣、”ブルトガング・レナトゥス”を抜いて、

 

「”硬化(キュリング)”!」

 

『Curing !!』

 

「”延伸(エクステン)”!」

 

『Extension !!』

 

剣に硬化と延伸をかけ、本来の強度より幾分硬くそしてカトラスサイズの刀身を刃渡り1m弱あたりまで伸ばす。

この処理をしても重さやバランスが変わらないのがありがたい。

 

10秒するとまた自動で”倍化(ブースト)”がかかり、エネルギーを再びリミット一杯まで戻す。

ホントに便利だな。

 

そして近づいてくる一匹の悪魔が間合いに入ると同時に、

 

封印解除(ディスロック)!」

 

呪文と同時にシェルターを開放し……

 

「せやっ!」

 

そのまま、敵の眉間に突き入れる!

 

 

 

***

 

 

 

ああ、外の空気が新鮮だ。

特に悪意と敵意にまみれた”()()()()()”というのが余計にたまらない。

 

シェルターから外に出た俺は、展開を理解できずに唖然とする周囲をよそに、

 

「よっと」

 

無造作に瞳孔が開いたままピクピクと痙攣する雑魚悪魔の頭から剣を引き抜き、

 

”ヒュッ”

 

振るって血脂を落す。

朽木のように倒れるかつて悪魔と呼ばれていた肉の塊から鮮血が溢れ、地面に戦化粧を施した。

 

 

 

「ドライグ、『赤龍帝の軽装鎧(ブーステッド・ギア・ライトアーマー)』を展開!」

 

『まかせろ相棒! ”Boosted Gear Light Armor” !!』

 

ドライグもノリノリのようで何よりだ。

”ブーステッド・ギア”から解放された赤い粒子……”龍の力”その物を示す”()()()”、別名”DQ粒子”が俺の両肩と両足に纏い付くと量子転換を起こし物質化、『鋭く長い()()の付いた”ショルダーアーマー”と、靴と一体になった”レガース”』を出現させる。

 

最大限まで溜めたエネルギー、DQ粒子の半分ほど持っていかれたが、10秒経てば再びフルチャージに戻るので問題はない。

 

そして、これで戦闘準備は完了だ。

だから、ここで告げよう。

古式ゆかしい戦場の慣わしに従って。

 

 

 

「さあ……待ちに待った”戦争”を始めようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
いきなり作者にしては珍しいオリキャラ(まあもう躯になってますが)が登場したエピソードはいかがだったでしょうか?

いきなり頭を串刺しする主人公(イッセー)というのも……(汗

さて、いきなり登場したオリ設定、”赤龍帝の軽装鎧(ブーステッド・ギア・ライトアーマー)”ですが、細かい機能や性能などは次回に譲るとして、基本的には”禁手化亜種”の一種で、まだ()()()()に至れないイッセーの、()()では最強モードになります。

まあ、「力及ばず中途半端なスケイルメイル」と思っていただければと(^^

さて次回は本格的に乱戦モードに入る予定です?
ライトアーマーの性能やいかに?

それではまた次回にてお会いしましょう!

ご感想や評価などいただけると、とても嬉しいです。


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