俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ~。
今回でいよいよ、このシリーズも40話となりました。
だからという訳ではないですが、ちょっと変わったエピソードになってしまいました(^^

前回と繋がっていますが、がらりと雰囲気を変えて……龍と姉の語らいです。
ただ、語るネタは妹ですが(笑

なんとなく閑話っぽい話になってます。







第40話 ”子守唄ってなんですか?”

 

 

 

結局、匙の使い魔は見つからぬまま”使い魔の森”から俺たちは戻った。

オッサンと同じく”水の精霊(ウンディーネ)”とかお勧めだったんだが……何故だか、匙に本気で嫌がられてしまった。

強そうだったんだが……見てくれがまずかっとか?

いや、あれはあれで斬新だと思うが。

 

『こんな場所にもミルたんGyaaaa----っ!?』

 

とか絶叫してたが、あれはなんだったんだ?

 

 

 

そして、帰宅し夕飯を軽く取って部屋のドアを開けると……

 

「た、ただいま……」

 

「おっかえりー☆」

 

「にゃおん♪」

 

迎えてくれたのは、魔王少女と黒い仔猫だった。

要するに、もう最近は居ることに何の疑問も抱かなくなりつつあるセラフォルーお嬢様と我が家のアイドル、実は猫又な愛猫の黒歌だ。

というか最近、このコンビ多くない?

 

「ってイッセーちゃん! 顔色がなんか土色だけど、なんかあったの!?」

 

「にゃあ?」

 

「”使い魔の森”でちょっと……フィジカル面じゃなくSAN値的な意味で」

 

ちっぱい行進曲?

そ、そんな呑気なものじゃなかっただろ!? あれは!?

 

「えっ? ”使い魔の森”ってそんなにハードな場所だったっけ? ティアマトちゃんとかとエンカウント・バトルとかした?」

 

ティアマト? どっかで聞いたことあるような……

 

「ああ、第四次会戦まで行われた有数の激戦地ですね? ミュッケンベルガーとロボスの古豪同士が激突した」

 

「そうそう☆ 特に第三次と第四次はラインハルトとか若手の台頭するきっかけになった戦いで……って、ちがーう! そっちじゃなくて……ねぇ、イッセーちゃん、もしかして本気で疲れてる?」

 

「あはは……面目ないです」

 

うん。我ながら情けないけど、色々駄目っぽい。

思考が上手く回らない。

 

「あのね……”()()()()”、正式名称”始末屋稼業作戦(オペレーション・パニッシャー)”の日程と詳細が決まったんだけど……聞ける状態?」

 

「ああ。大丈夫です」

 

黒歌の命運がかかった作戦だ。

呑気にダレてるわけにはいかないだろう。

 

 

 

***

 

 

 

さて、セラフォルーお嬢様の話は聞き終わったし、作戦の全体像もつかめた。

俺の負うべき役割……”パニッシャー”の取るべき行動も確認できた。

すると……

 

”ぱんぱん”

 

ベッドに座るセラフォルーお嬢様が、綺麗なおみ足を……というか具体的にはミニスカから剥き出した太腿を軽く叩いて誘ってらっしゃるんだが?

 

「えーと……もしかして、膝枕サービス?」

 

「だよっ☆」

 

あっ、でも柔らかそう……

あそこに寝転んだら、多分きっと気持ちいい……いかんいかん!

 

「セラフォルーお嬢様、一応俺にも執事見習いって立場が……」

 

「イッセーちゃん……来て?」

 

ああっ、駄目だ……そんな優しく微笑まれたら。

急速に眠気が……

 

”とさっ”

 

「子守唄、歌ってあげるね?」

 

 

 

The little tails of Midnight(それは夜の小さなおとぎ話)♪”

 

like a childhood dream(まるで子供の時の夢のような)♪”

 

When you sleep in deep(あなたが深く眠ったのなら), maybe you can see that(きっとそれは見えるだろう)♪”

 

A Peaceful home which you want(あなたが望んだ安らかな故郷が)

 

 

 

”悪魔の子守唄”か……どこかで聞いたことある言葉だけど、

 

(歌声は天使じゃないか……)

 

ずるいよ。セラフォルーお嬢様……

そんな風に優しく歌われたら……俺は……

 

 

 

***

 

 

 

”すぅ……”

 

「ほーんとイッセーちゃんの寝顔、無防備で可愛いなぁ☆ いっつもお持ち帰り我慢するの大変だよぉ☆」

 

「にゃっ」

 

「わかってるって、黒歌ちゃん☆ わたしだってイッセーちゃんに嫌われたくないもん☆」

 

『よく言うぜ。歌声の中に睡眠術式を紛れ込ませるなんて地味に高度でエゲツない手を使っておいて』

 

とは自立起動したドライグの弁。

そう、セラフォルーが歌っていたのは、一見……もとい。一聴するとただの子守唄だが、実は音声呪文により術式を歌声に紛れ込ませた一種の”呪歌”だったのだ。

この種の歌い手として有名なのは、セイレーンやローレライなどの「歌声で船乗りを惑わす存在」の伝承として知られている。

 

「ドライグちゃん、失礼だよ☆ 入れたのは危険な術式じゃなくて睡眠どころかせいぜい睡眠導入術式程度だし、普通ならこんなに高い効果でないはずなんだけどなぁ……ねえ、何があったの?」

 

『それに答えてやるのは(やぶさ)かじゃねえんだが……セラフォルー・シトリー、お前に一つ聞きたいことがある』

 

「”セラ”でいいって言ったじゃない☆」

 

『そうだったな』

 

「それで何が聞きたいのかな?」

 

『お前の妹……もしかして”両面宿儺(ペルソナ)”持ちか?』

 

 

 

「な、な、なんのことかにゃー?」

 

『そこまで動揺して誤魔化せるわけないだろうが。それにしても……やはりか』

 

ここでいう”ペルソナ”とは心理学で使う『自己の外的側面』……外面を装う”心の仮面”のことではない。

神や悪魔や天使や龍、鬼などのひっくるめて”人外”に使う場合はちょっと意味が異なり、『一つの存在が異なる二つ以上の魔性や神格を内包する状態』を指す。

 

ただ、それは本来ならあまり歓迎されないことではあるのだ。

理由はただ一つ。「不安定になり易いから」だ。

 

一般に”ペルソナ”持ちの人外は強力ではあるのだが、強力であればあるほど不安定化したときの被害は大きくなる。

 

「……ドライグちゃん、どうしてソーナちゃんがペルソナ持ちだってわかったの?」

 

『それが相棒の今の状態を語る早道でもあるのさ』

 

「どういうこと?」

 

 

 

***

 

 

 

ドライグから語られた”使い魔の森”の顛末……それを聞いたセラフォルーは妙に納得した顔で、

 

「ソーナちゃん、イッセーちゃんが自分の()()()はずの”牝の部分”に反応して”牡の部分”を出しちゃったんだね? きっと、それを嗅ぎ取って『()()』が少し解けちゃったと思うー……」

 

『封印?』

 

「うん。ソーナちゃんの場合、『シトリーの血』が()()()()()()()()()るのよ……ドライグちゃん、シトリーがどういう特性か知ってる?」

 

『人間界に残る伝承くらいはな。かつての相棒には悪魔を研究対象にしていた者もいた……確か「望みの男性または女性を愛させ、裸にし情欲に浸し、また相手の秘密を暴く事ができる悪魔」だったか?』

 

「大体、正解☆ グレモリー家が”情愛”ならシトリーは”性愛”を司る家柄なの。『七つの大罪』の一つ、”色欲”を司る『()()()アスモデウス』ほどじゃないけど、割とその手の感情に支配されがちな家なんだよー☆」

 

『本来はアスモデウス、ベルフェゴール、シトリーだったか? 三大エロ悪魔は』

 

「エロ悪魔とかいうなー! ドライグちゃんて何気に口悪いよね?」

 

『それだけお前を親しいと思ってるんだ。諦めろ』

 

「ほぇ?」

 

鳩が豆鉄砲喰らったような顔をするセラフォルーだったが、

 

『どうした? 意外そうな顔をして?』

 

「まさかドライグちゃんから、親しいなんて言葉が出てくるとは思わなかったから……」

 

『セラ、お前は間違いなく相棒にとって不可欠な存在になる。ならば俺が親しみを感じても不思議じゃないだろう?』

 

「そ、そっか……私、イッセーちゃんの未来に必要なんだぁ?」

 

顔を赤らめながら指先をちょんちょんと合わせるセラフォルーが妙に乙女だった。

 

『それは俺が保証してやろう』

 

”どういう意味で必要か?”を言わないあたりが、ドライグが()()たる所以(ゆえん)だった。

もっともドライグに言わせれば、「予想されるセラフォルーの立ち位置」のいくつかは、それはそれで”牝の本懐”であろうとも思っていたので、黙ってることに特に他意は無いのかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、えっと……ソーナちゃんの話に戻るね? 生まれたばかりのソーナちゃんって、血に引っ張られて”理性(ロゴス)”って呼べるものがほとんどなかったんだよ」

 

中々に衝撃的、あるいは刺激的な告白だった。

 

「物心付く前に異物をあそこに挿入して自分で処女膜を破ろうとしてた時は、大騒ぎになったっけ……」

 

と、遠い目をするセラフォルー。

話しぶりから考えて、どうやら破らずには済んだようだが……

 

「実はね、私が”呪歌”を歌えるようになったのはソーナちゃんのためだったの。ソーナちゃんを鎮めて、深く安らかに眠れるようにって……さっきの子守唄、”The little tails of Midnight”もよくソーナちゃんに歌ってたっけ……」

 

決して美しいだけの思い出で無いだろうし、楽しいだけの思い出でもないだろう。

それでもセラフォルーは微笑んでいた。

存外、彼女が”シスコン”の(そし)りを受けるほど妹を溺愛するようになったのは、こんなかこがあったからなのかもしれない。

 

 

 

「だけどね、あながち全否定できないの☆ 悪魔って種族は『その本質に近ければ近いほど強い力を持つ』のが定説だから……血の宿命に忠実なソーナちゃんは、そりゃあ大きな力を持ってたんだよ? 力は悪魔にとって正義そのものだから……」

 

『だが、理性無き力……制御不能な力なんて危険なだけだろう? 信管の壊れた爆弾なぞ使い物にならん』

 

「そうだね……だから、シトリー家はアジュカちゃんと組んで一計を案じたんだよ☆」

 

それはあるアイテムの開発で、

 

「”チューリング・グラス”……その存在の論理的思考や理性、そういう固有の存在が持つ”冷静な部分を抽出し表層意識へ押し出す眼鏡(アイテム)”☆ アジュカちゃんの”覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)”の応用だね?」

 

『ああ。あの眼鏡にはそういう意味が。ということはソーナ・シトリーは後天的なペルソナか?』

 

「うん☆ 普段のソーナちゃんは『理性的で冷静な部分を抽出して、その部分が成長したソーナちゃん』なんだよ? でもね、それは同時にソーナちゃんの『こうでありたい自分の姿』でもあるから……」

 

『難しいところではあるな』

 

「そうだね……『本来あるべき自分』と『こうでありたい自分』の(せめ)ぎ合い……二重人格とかじゃなくて人格的には同じで、どっちも同じソーナちゃん……私の可愛い妹なんだよ☆」

 

『だが俺の見立てだと、「本来あるべきソーナ・シトリー」も成長して無くはないだろう? 少なからず”ロゴス無き存在”には見えなかったぞ? 「こうでありたい自分」の姿があるなら尚更だ』

 

「あはは☆ アジュカちゃんの話だと『いずれ二人のソーナは統合されてバランスのいい形で落ち着くかもしれない』らしくどねー☆」

 

『なるほど。むしろソーナ・シトリーのペルソナは、人間の心理学で言うペルソナに近い性質なのかもしれんな』

 

「でも、ホントに意外だよぉ~☆ ドライグちゃんてもっと超然としていて、戦いとか闘争とかにしか興味ないかと思ってたから」

 

『龍としての在り方なら、セラの言うことの方が正しいさ。籠手に封じられ、永き時を過ごすうちに俺もまた変質したということさ』

 

「でも、今のドライグちゃんの方が、大戦で大暴れしていた時よりずっとイイと思うよぉ?」

 

『言うなよ。あの時の俺も”白いの”も馬鹿丸出しだったって自覚はあるさ』

 

 

 

赤い龍と優しい悪魔の語らいは、夜が更けるまで続いたという。

 

「ドライグちゃん……」

 

『ん?』

 

「ソーナちゃんのことも、よろしくね?」

 

『ああ。ソーナ・シトリーもセラ同様に相棒の未来には”()()()()()()()”だろうからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうござました。
ドライグとセラフォルーという平行世界(げんさく)ではあまりありえないエピソードはいかがだったでしょうか?

まずはちょっと分りにくい元ネタ解説(笑
セラフォルーの歌った子守唄は、ブラックラグーンのアニメ第1期に挿入歌、双子の”The World of Midnight”をイメージにして書き下ろしてみました。
あれはあまりに哀しい歌詞なので、もうちょっと希望が持てる感じに(^^

オリ設定の「本来のソーナを抑制するペルソナ・アイテム」の”チューリング・グラス”は、コンピュータの基礎概念となった”チューリングマシン”からです。

それにしても……セラフォルー様が戦術を変更しました(えっ?
いや、嘘です。
ただ、お姉ちゃんキャラなのでこういう一面があってもいいかなぁ~と。

静かな今回と変わって、次回は激しく動くかな?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

ご感想や評価などをいただけると、とても嬉しいです。



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