俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
本日のエピソードは、ちょっと閑話というか幕間というか……本筋から少し離れて「少女と龍の物語」になります。

まあ、33話後書きの「オマケ」に間接的に繋がる話とも言えますが(^^
今まで謎ワードとして出てきていた”龍の巫女”の正体が、なんとなくわかるような仕様になってる筈です……多分。

()()アーシア”は、お好きでしょうか?




第34話 ”龍の巫女ってなんですか?”

 

 

 

わたし、アーシア・アルジェントはよく夢を見ます。

いいえ、正確には夢をよく見るようになりました。

 

『娘、今夜も愛でてもらえたようだな?』

 

「はい♪」

 

そしていつも夢に出てくるのは大きくてとても立派な……”赤い天龍(ウェルシュ・ドラゴン)”。

赤龍帝の二つ名を持つ大賢龍、”Y Ddraig Goch(ア・ドライグ・ゴッホ)”様です。

 

『今はそれでいい。相棒を主としての認識を無自覚のまま無意識に刷り込めばいい。お前が相棒の中で「自分に付き従う”媚び諂う者”」として結実すれば、それは同時に”()()()()()()”へまた一歩近づくことにもなろう』

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********************************

 

 

 

 

 

私とドライグ様が出会ったのは……そう、あれは確かアジュカ・ベルゼブブ様のお宅にお邪魔してからほどなくしてからの、ある夜のことでした。

 

『娘、我が声が聞こえるか?』

 

「えっ? どなたでしょう……?」

 

気が付けば、わたしは深い霧が立ち込める湖の(ほとり)に居ました。

それが夢の世界……わたしの中にあった心象風景(イメージ)だと気付いたのはずっと後の話です。

 

『我は”Welsh Dragon(ウェルシュ・ドラゴン)”。お前たちが”赤龍帝”と呼ぶ二天龍の片割れ、”Y Ddraig Goch(ア・ドライグ・ゴッホ)”だ』

 

霧の中から現れたのは、立派で大きな龍でした。

だけど大きすぎるせいか、霧で隠れて全身は見えません。

ちゃんと見えるのは大きなお顔だけでした。

 

「えっ? それってイッセーさんの篭手に封じられた、伝説の龍のことじゃ……」

 

驚きました。

小さな篭手に封印されていると聞いていたので、こんなに大きいなんて思っていませんでしたから……

 

『その通りだ。アジュカ・アスタロトに少々頼んでな。”変異の駒(ミューテーションピース)”に細工してお前と話せるようにした』

 

「えっ? わたしに何か御用なのでしょうか?」

 

偉大……そう評して当然の龍様に話しかけてもらえるような覚えはありません。

わたしが困惑していると、

 

『戸惑うのも無理もない。こうして話しかけるのは、我……いや、()の都合だ』

 

「は、はあ……」

 

むしろ優しげに語り掛けてくれる龍様に、わたしはますます困惑しました。

 

『娘、お前は悪魔にその身を転じた。それは罪ではない。これから先、長い年月を……”()()”と同じく星霜の(とき)を生きよう』

 

「は、はい!」

 

『だからこそ、汝に問う。娘、我が相棒……兵藤一誠と共に生きたいか?』

 

「は、はいっ!」

 

だってその為に悪魔になったんだから……!

 

『だが、今のままではそれは難しいであろう』

 

「えっ……?」

 

わたしは一瞬体中の血液が凍りつくような感覚を覚えました。

 

「ど、どうして……」

 

『単純だ。力が足りん。確かにお前の身に宿す神器、回復と治癒を司るそれは稀有であろう。だが、相棒が歩むのは修羅の道……その程度の力では事足りぬ』

 

「そ、そんな……」

 

『娘、見るがよい。我が相棒……兵藤一誠の足跡を』

 

 

 

***

 

 

 

ドライグ様が見せてくれたのは、イッセーさんの遠い遠い記憶でした。

幼い頃に死にかけ、命を救われた『天空の彼方に輝く白銀の翼』……

 

そこに手を伸ばすことがイッセーさんの始まりだと知りました。

 

イッセーさんの体のことを知りました。

いっそ『人の姿をしていることが奇跡』と呼べるイッセーさん……でも私はその奇跡を、”大いなる恩寵(アメージング・グレイス)”を賜ったであろう神様に心から感謝します!

 

だってきっと、イッセーさんが龍の姿で生まれていたら、わたしは出会えなかっただろうから……

 

 

 

イッセーさんの()()は、即ち”憧れ”でした。

焦がれ憧れ、その人の身では本来届かぬ高みへ手を伸ばした少年……それがイッセーさんでした。

 

それはきっと綺麗な物語ではないのでしょう。

なぜなら、イッセーさんが”()()()()”へ自分を届かせる翼に選んだのは、”()()”だったからです。

 

善悪もなく、正義も悪意もなく、『全ての力を肯定する』ところから始まり、その本質を考え咀嚼し、少しずつでも自分の力へと変換し『力を強さに変換する』作業に没頭していた……それが白銀の翼の持ち主、”ヴァーリ”さんという方と別れて今の今まで続くイッセーさんの”()()”だったのです。

 

イッセーさんは自分に課した苦行とも思えるそれらを、ただ黙々と淡々とこなしていていました。

そこには苦難もなければ喜びもない……イッセーさんにとってはそれは”()()()()”で、目指すのは天の高みだけ。それでよかったのです。

 

 

 

胸が締め付けられました。

人によってはそれは『滑稽で無駄な、浅ましく見苦しい努力』と呼ぶかもしれません。

 

でも、気がついたらわたしは涙を流していました……

哀しい涙じゃありません。

人はどこまで直向(ひたむ)きになれるのだろうって。

その姿に打ち震えました。

 

神様への信仰でもなく……

大儀や理想や使命のような大きな目標ではなく……

ただ、”憧れ”に手を伸ばしたいために……

 

そこには善悪を超えた先にある、”()()”があるような気がしました。

 

 

 

***

 

 

 

『娘、見たとおりだ。相棒には何を持ってしても”辿()()()()()()()()”がある。どんなに無謀だと言われても、手を伸ばし続けるだろう……それはどれほどの苦難に満ちる道かわかるだろう?』

 

「はい……」

 

『ましてや相棒はどれほど人の姿をしてようと、悪魔に転生しようとその本質は”龍”だ。龍とは力であり、力ある存在ゆえに強者を引き寄せる……ならば在るのは闘争の日々だ。龍にとり闘争とは、種が持つ(カルマ)に過ぎぬ』

 

力こそが、戦うことこそが龍の本質……

 

『娘、悪魔に身を(やつ)したとしても、幸せで居たいのならそのままでいるがいいだろう。さっきはああ言ったが、「ただ大人しく相棒の()()()()()」だけなら特に超常の力は要らぬ。疲れ傷つき帰ってきた相棒を、その癒しの力で包むのもまた一つの生き方だろう』

 

「何をおっしゃるのです”()()()()()”」

 

気が付けば、わたしは自然にそうお呼びしてました。

 

「わたしの幸せは、『イッセーさんと()()()()()』ことです。それ以外に、きっとわたしが幸せになれる道はないでしょう」

 

 

 

『言うじゃないか』

 

「はい」

 

悪魔とは己の欲望に正直な者……

なら人としての生を棄て、悪魔として生きることを選んだわたしに、何を偽る必要があるというのでしょう!

 

『ならなってみるか? ”龍の巫女(ドラゴン・プリーステス)”に』

 

「ど、どらごん・ぷりーすてす?」

 

『遠い昔……人がまだ天と共に喜び、大地と共に泣いた時代に存在した巫女だ。今は絶えて久しいがな』

 

ドライグ様はどこか遠くを見るような瞳で告げる……

 

『龍と他の存在を繋ぐ()()()……龍を神の化身と崇め奉り、同時に寿(ことほ)ぐ存在……聖書に記された神をはじめ、多くの神話体系でその力を恐れられるあまり”()”と断じられた龍に切なる祈りを捧げた少女達だ……』

 

「ドライグ様……」

 

『娘、お前に覚悟があるならなってみるか? 龍を信奉するということは力を信奉すると同義。神も悪魔もなく、正義も悪もなく、あるのはただ力のみ。天も地も人も全て力において語られる……娘、お前にその世界を生きる覚悟はあるか?』

 

 

 

ドライグ様は問う。

それはどうしようもない鮮烈な言葉で、刺激的な言祝ぎを……

 

『娘よ、問う。力が欲しいか? 相棒と共に殺戮と破壊の大地すらも生き抜ける力が』

 

「欲しいです……!」

 

どんな時と空の彼方でも、イッセーさんと一緒に生きれる力が……

 

『その覚悟はあるか? 聖女と呼ばれた自身が、悪鬼羅刹と恐れられ忌み嫌われる未来かも知れぬぞ? 相棒と共に生きるということは、心休まることなき修羅の世界に生きることになるやもしれぬ』

 

「わたしは……イッセーさんとただ一緒に生きたいだけで、人を棄て悪魔になったのです」

 

『では……こんどはその聖書の神への忠誠を、信仰を棄てることになるかもしれんぞ?』

 

「もしそうだとしても……」

 

だってもう決めたから!

 

「わたしはイッセーさんと一緒に居たいっ!!」

 

 

 

”サァァァァァ……”

 

霧が晴れ、現れたのは満天の星空と……

 

『娘、よく言った』

 

大きな大きな、全身赤一色で覆いつくす巨龍……ドライグ様のお姿でした。

 

『お前の覚悟、確かに聞き遂げた。最後に今一度問う。力が欲しいか?』

 

「は、はい!」

 

『力が欲しいなら……くれてやろう!!』

 

 

そしてこの世の全ての空気を震わせるように、ドライグ様の咆哮が響いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

 

その咆哮がその日の夢の終りでした。

明晰夢……もしその日だけの出来事だけだったら、そう言われてしまうかもしれません。

 

でも、その日からドライグ様は毎晩、わたしの夢に来てくださいました。

 

”龍の巫女”とは何か?

”力”とは?

”強さ”とは?

 

そんな基本的なことから教えてもらえました。

そして今は……

 

『イメージせよ。自分の体の中に流れる力の奔流を』

 

「はいっ!」

 

今、夢の中で教わってるのは、いずれわたしが手に入れるだろう”龍の力”……その受け皿(レシーバ)となる為の訓練です。

 

『純然たる体力の強化なれば、言えばすぐに相棒が鍛錬してくれるだろう。魔法や魔具の取り扱いならアジュカ・ベルゼブブやソーナ・シトリーとその”女王”に聞けばいい。なら俺は”龍の巫女”となるための下準備をするとしよう』

 

それが最初の訓練の日にドライグ様が伝えてくれた言葉……

今日も夢の中で訓練です!

 

 

 

***

 

 

 

「”赤龍帝の法衣(ダルマティカ・オブ・ドライグ)”!」

 

私の体が一瞬、術式炎に包まれ……炎は赤い祭服に姿を変えます。

 

『そうだ。お前を加護するのは神ではなく俺という”()”の一つだ。俺という力を己の力と合一し、操るイメージを繰り返せ』

 

「わ、わかりました!」

 

『そう遠くないうちにお前は破瓜し、胎内に相棒の精を注がれることになるだろう。それは生憎()()子種とはならぬ』

 

「はい……」

 

イッセーさんに純血を捧げるのはもう決まったることですが、今はまだ赤ちゃんができないのは残念です。

イッセーさんの精は強力過ぎる上に不安定で、わたしの卵を殺してしまうそうです。

 

だから、今は我慢です。

ドライグ様によればいずれわたしがイッセーさんを受け止めるまで成長できたら、いずれちゃんと孕める可能性もあるみたいですから。

 

『だが、その精は”素龍子”でもある…注がれたお前の子宮に定着し”龍脈”となろう。その時こそ、俺とお前は夢だけでなく現実でも”()()()”だろう』

 

「わ、わたし、頑張ります! ぜったいぜぇ~たいイッセーさんに精を注いでもらいます!」

 

『励め。だが、相棒もお前も男女の性知識には疎い』

 

「うっ……」

 

ちょっと痛いところを突かれちゃいました。

た、たしかに教会ではそういうことはあまり……

 

『フム。あまり薦めはせんが……その手のことで困ったことがあれば同じクラスの”桐生藍華(きりゅう・あいか)”にでも聞くといいだろう。面倒な奴ではあるが、少なくともそちらの方面では頼りになるはずだ。一応は”()()()”だしな』

 

「えっ?」

 

確かに転入初日からアイカさんには仲良くしてもらってますけど……どうしてドライグ様は御存知なんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
アーシアとドライグの「出会いと始まりの物語」はいかがだったでしょうか?

一応、この先の展開を考えると、そろそろ”龍の巫女”にまつわるエピソードを入れておこうかなぁ~と(^^
EXステージ01 ”Dance with Devils”の第24~26話あたりの伏線回収にもなってますが。

実際、変異の駒(ミューテーションピース)化した”戦車(ルーク)”と並んで、ドライグとのつながりは”平行世界(げんさく)のアーシア”と”この世界のアーシア”の最大の分岐点なんです。

ざっくりした言い方になってしまいますが、「イッセーと一緒にいたい」という願いの為に、「他を捨ててでも力を選んだ」のが”この世界”のアーシアとなるでしょうか?
多分、力を魅せてくれるのはフェニックス編あたりになるでしょうが……ちょっと変則的ですが「強キャラなアーシア」を期待していただければと。

それにしても……地味に名前が出てきた”エロ眼鏡(♀)”こと桐生が謎過ぎる(笑

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もしご感想や評価などいただけるととても嬉しいです。


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