俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、おはようございます。
さて、今回のエピソードは……”この世界”のドライグが「()()/()()()」してしまった理由が語られます。

なんというか……ドライグって頭はいいけど、結構腹黒い?(^^





第26話 ”赤龍賢帝”

 

 

 

かつて、白い龍と赤い龍が居た。

その二天龍と称されし二匹の龍は争い、余波で破壊と殺戮を撒き散らし、戦争中だった三大勢力の怒りを買い聖書の神が創りたもう”器”、その中でも”神滅具(ロンギヌス)”という人、あるいはかつて人だった者のみが保有できる魔具の中に封じられることになる。

 

それから気の遠くなる月日が、星霜の刻が流れ……

かつての”赤い龍”を封じた”赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”と”白い龍”を封じた”白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)”は、多くの宿主(マスター)に受け継がれた。

 

時とは偉大で巨大なものだ。

例え”無限”であっても時は、容赦なく変化を強いる。

 

それは二天龍の片割れ”赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)”、赤龍帝の二つ名を持つ「ア・ドライグ・ゴッホ」とて例外ではなかった。

 

 

 

「お前は本当に、”赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)”……あのア・ドライグ・ゴッホなのか……?」

 

アジュカ・ベルゼブブは問う。

「お前は一体何なんだ」と……

 

『興味深い質問だな。どういう意図で聞いている?』

 

「かつてのお前は、”悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”を”龍脈の駒(ドラゴニック・ピース)”に作り変えるような存在でも、”新生の龍”の創生を心待ちにするような奴じゃなかった。ましてや予測も予想もつかない進化の行き着く果てを『冥利』などと、まるで自身が科学者のような視点で万象を見るような奴じゃなかった筈だぞっ!!?」

 

『ほほう。面白い見解だな? アジュカ・アスタロト……お前にとっての赤龍帝(オレ)は未来永劫、かつての”暴虐の主”という見解なのか? これは愉快だ』

 

楽しげな口調でアジュカの古き名を呼ぶドライグに、アジュカは困惑気味に問う。

 

「……なぜ、愉悦を感じる?」

 

『無理もないだろう? 俺が一体これまで何人の宿主と同じ時間を過ごしたと思う? その中で錬金術師や科学者が何人いたと思う? お前には信じられないかもしれんが……かつて俺を生涯の友と呼び、生涯を俺の研究に費やした者とているのだぞ?』

 

「なんだと……?」

 

『確かに俺はかつて龍の本能に、力の所以に導かれ闘争こそがその存在だと思っていた。今でも闘争は”()()()()”だ。だが、俺には時間があった。「()()()()()()()」を覚える時間が。かつて龍が戯れに人化し、人との間に子をなし血を……力を残したように、俺もまた戯れに叡智を蓄えた……それだけの話だ』

 

「龍の本質を、在り方を変えたというのか……」

 

『まさか。龍という本質も、闘争を好む性質も、俺は何一つ変えちゃいない。ただ”()()()()”が加わったに過ぎんのさ』

 

 

 

***

 

 

 

唖然とした。

呆然とした。

 

具体的にかつての宿主達から何を学び、何を得たのかは分らぬが……

暴虐の代名詞が今は自分と同じ分野、あるいは領域におり、

 

『アジュカ・アスタロト、お前たち悪魔族は自分達が考えてる以上に(我ら)を分ってはいない。なぜ”無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”は無限でいられる? そんな根本的なことすらもな』

 

無知を問うというのだから。

 

「……否定はしない。否定は出来ない」

 

『悪魔はその種族的な強さゆえに単体では脆弱な人間を見下し、ただの餌のような認識しかしてこなかった。だが、どうだ? 今となっては人から転生させねば種の存続を危ぶませるほど危機的状況だろうが。神も悪魔も龍も、良かれ悪かれ等しく変化はするものだ。時とはそういうものらしいからな』

 

「ドライグ……お前は我々が、いや三大勢力全体が守旧派と革新派など組織内の軋轢で足踏みしてる間、早々と次のステージに至ろうというのか?」

 

『どうだろうな。最強種として種族の強さに胡坐をかいていたのは我らも同じ……なら、アジュカ・アスタロト。お前は先を見たいとは思わぬか?』

 

「先……?」

 

『俺が相棒に見ているのは、既存の”()()()()()()姿()”さ。今までの龍にはとらわれぬ姿と言い換えてもいい。だから俺は相棒に「龍としての在り方」を戦いを通じて、龍らしい教え方で伝承する。全ては”()()()”を見る土台を創るため……相棒が龍という枠組みを飛び越えようとするとき、その踏み切り台となるために』

 

 

 

「ドライグ、そこまで……」

 

アジュカは正直に圧倒された。

その執着、あるいは執念に……伝説にまで謳われた赤龍帝(ドライグ)がそこまで入れ込み、見たいと願う未来を、

 

(俺は見たいと願ってる……同じ”()()()”として……!!)

 

「ハハッ。龍が魔王を(そそのか)す……世も末だな。まさに世紀末的な情景だ」

 

『そうか? 原初からあった光景だ。楽園(エデン)から最初の男と女が追放されたのは、「知恵の実」を食べるよう蛇が唆したからだ。太古より蛇と龍は同一視されてきた』

 

「ドライグ、お前はいつから”神の悪意(サマエル)”になったんだ?」

 

『龍族の力を危険視した神が遺した”悪意の()()()()”か……フフ。アイツは今頃、地獄の最下層(コキュートス)あたりでお寝んねだろうさ』

 

そして微かな沈黙が流れ……

 

「俺にも見えるのかな? ”その先”は」

 

見物料(たいか)は要求するがな』

 

「ますます悪魔じみてきたな……」

 

『今の相棒が転生悪魔だからな。仕方が無いことだ』

 

「よく言うぜ。それで……何が欲しい?」

 

『あまり有名(メジャー)でない魔剣を一振り、相棒用に。片手剣が原則で、最初はあまり強力すぎない物がいいな』

 

「なら”ブルトガング”なんてどうだ? 折れたそれを俺が修復したものだが、俺の眷属でも使うものがいなくてな」

 

 

 

”ブルトガング”は、別名ブルートガングやブルドガングとも呼ばれ、中世ドイツの「ディートリヒ伝説」に出てくるキャラクター、”英雄”の二つ名を持つ”ハイメ”の最初の剣であり、主人公”ディートリヒ・フォン・ベルン(後のテオドリック大王)”との戦いで折れたとされる。

日本では北欧神話の神、”ヘイムダルの剣”として誤って広まったことがあるそうだが、これは翻訳の取違が理由だったらしい。(ヘイムダルの剣として有名なのは”ボウズ”)

 

「まっ、あえて新たな銘を入れるなら魔剣”ブルトガング・レナトゥス”ってとこか?」

 

『”再生したブルトガング”か? ひねりが無いな』

 

「ほっとけ」

 

『だが、それでいい。「折れた剣を悪魔が拾って修復した」なんてバックグラウンドが相棒向きだ』

 

「だが性能は悪くないぜ? ドライグに格納できるように調整しておくよ」

 

『助かる。それと要求はもう一つ』

 

「いいぜ。言ってみろよ?」

 

『アーシア・アルジェントの”変異の駒(ミューテーション・ピース)”に細工し、待機領域に「夢を媒介し()()()()()()()」できるようにしておいてくれ。時を見て接触(リンク)を試みる』

 

「ちょっと待て! お前、まさかそれって……」

 

『”進化の種”は多いほどいいだろう?』

 

「ヲイヲイ……『進化に必要な不確定要素』を持った”変異の駒”にドライグの介在……お前は、アーシア君をどんな”化物修道女(シスター)”に仕立てるつもりだよ?」

 

『化物修道女か……風情が無いな』

 

ドライグはにやりと笑い、

 

『せめて”天龍の巫女(ドラゴン・プリーステス)”くらいは言って欲しいものだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************************

 

 

 

 

 

 

赤龍帝(ドライグ)魔王の一人(アジュカ)との秘密交渉は、こうして幕を閉じた。

ドライグは魔剣”ブルトガング・レナトゥス”とアーシアの駒の()()を交換条件に、アーシアのみならず一誠にもアジュカの定期健診を受けさせることを確約した。

 

無論、その都度に二人の経過報告を兼ねた余人を交えぬ秘密交渉こみで。

とどの詰まり、ドライグはアジュカを巻き込むことに成功したのだ。

 

後にアジュカは語る。

自分がこの”()()()”に乗ることを決意したドライグの駄目押しの殺し文句は、

 

『アジュカ・アスタロトよ。俺はお前に味方になれとも同志になれとも言わん。ただ、”()()()”でさえあればいい』

 

だったという。

 

 

 

***

 

 

 

「えっ!? アジュカ様、本当にこの剣を貰ってしまっていいんですか?」

 

「ああ。かまわんさ」

 

ドライグとアジュカの間で取り交わされた裏交渉を知らない一誠は、突然手にした魔剣”ブルトガング・レナトゥス”に驚きながらもつい笑みが零れてしまう。

 

彼が剣士としての資質もあるというのもあるだろうが、単純に年頃の男の子だけあってこの手のアイテムが根本的に好きなのだろう。

年相応の少年らしい無垢な表情で刃を返してニコニコしてる一誠を、アーシアは微笑ましげに見ていた。

 

「そいつは特に攻撃能力が高いとか付与効果があるとかじゃないが、耐物理/耐熱/耐腐食/耐電/耐毒/耐魔法性に優れていて、オマケにある程度の自己再生力がある。また、使い手の意思で刃も出し入れ自由だ。実戦から非殺傷の訓練まで使える。剣としての基本性能はしっかりしてるかな?」

 

「いえ、しっかりしてるどころか……普通に考えたら、ありえないくらいの高性能な剣なんですけど」

 

『貰っとけ相棒。いつまでも「別眷属(グレモリー)の”騎士”」に剣をあてがってもらうわけにはいくまい? それに相棒の未熟な”硬化(キュリング)”や”延伸(エクステン)”の訓練にちょうどいい』

 

「そうだな。ではアジュカ様、この”ブルトガング・レナトゥス”……ありがたく頂戴させてもらいます」

 

「そうしてくれ。物足らなくなったらいつでも言うといい。流石に堕天使総督ほどではないが、俺もそこそこのコレクターでね。使いもしないのに集めた剣がそこそこある」

 

「はい!」

 

そしてアジュカは微笑み、

 

「それとアーシア君」

 

「あっ、はい!」

 

「君にはこれをあげよう」

 

それは先端に花を模した銀の”祭礼杖(ワンド)”だった。

 

「これは……?」

 

『ほう。”蓮の杖(ロータス・ワンド)”か。近代魔術の定義における「第五元素(エーテル)()()()()」だったか? また珍しいものを』

 

「元とはいえ修道女に刃物は持たせられないからね。せめてもの護身道具程度のものだ。今のアーシア君にはまだ使いこなせないかもしれないが……それは携行モードにしておけば、ペンダントとして首から吊り下げられる程度の大きさになる。普段から持ち歩いて慣れておくといい」

 

「はい! あ、ありがとうございます、アジュカ様!!」

 

「礼には及ばない。ソーナの眷属として期待している……その証と思ってくれればいいさ」

 

 

 

***

 

 

 

一誠とアーシア、再開の約束をして駒王町に帰る二人を見送り、アジュカはその姿が見えなくなると呟いた。

 

「やれやれ。我ながら(ずる)い大人になったものだ」

 

「何を今更です」

 

そう主人の隣で呟くのは、いつの間にか来ていた例の瀟洒な銀髪メイドだった。

 

「”シャクティア”」

 

「はい」

 

「屋敷の警戒レベルを引き上げといてくれ。”レムリア”や”フランチェスカ”にも伝えておいてくれ。”パチェッタ”は……まあ、魔法の研究に忙しいか」

 

時には優秀な助手にもなる、魔法使いにして錬金術師の”蓮の杖”の製作者……いつも気だるそうな見た目は少女の姿を思い出し、アジュカは苦笑する。

 

「かしこまりました。我がご主人様(マイ・マスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、御愛読ありがとうございました。
言うならば「アジュカ邂逅編」のエンドエピソードは如何だったでしょうか?

ドライグ、アジュカの科学者の本質……知的好奇心や探究心をツンツンして、見事に共犯者に仕立て上げてしまいました(^^

この一人と一匹が裏で手を組むと、絶対に平行世界(げんさく)どおりに物事は進まないだろうな~と。
早速、アーシアに半端ない強化フラグ立ちまくってるし(笑

それにそのうち、趣味人(アザゼル)あたりが「俺にも一枚噛ませてもらおうか」ってフライング登場しそうな……?(えっ?

とにもかくにもとりあえず、一誠も無事に”初期装備の魔剣(ブルトガング・レナトゥス)”もゲットしたし、次回からはまた学園ステージに戻ります。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もしご感想とかいただけるととても嬉しいです。



***



オマケの設定資料

蓮の杖(ロータス・ワンド)
某禁書目録でくぎみー声のぺったん娘シスターが使っていたものと基本的には同じ象徴武器。
ただ、アーシアは「座標攻撃」として使うより「不可視の防壁」として使いそうな予感が……

アーシア「え~い!」

”こぉーん”

『(見えない)ぬりかべ~』

”ぐちゃ(←激突)”

敵「へぶしっ!?」







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