俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは……”この世界”の兵藤一誠の核心部分に迫ります。
何故、彼は「人の姿」を維持できるのか?
そもそも、兵藤一誠とはなんなのか?

それがドライグの口から語られます。
彼の願い、あるいは野望と共に……

また、”竜の力の継承”には独自の解釈や設定が入ります。




第25話 ”ドラゴン・クォンタム・パーティクル”

 

 

 

ここは駒王町に程近い瀟洒な洋館……というのはあくまで表向きの話で、その正体は四大魔王の一角にしてこの世の全ての事象を数式化、方程式化して読み解きく『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』の使い手である”アジュカ・ベルゼブブ(旧名:アジュカ・アスタロト)”の地上研究拠点であった。

 

アジュカ自身、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、特に”()()()”とレーティングゲームにまつわる()()()()……”クレーリア・ベリアルの死”まで発展したそれに辟易しており、レーティングゲームを運営する老害化著しい古い悪魔とその同類達を信用しなくなり、地上に研究拠点を移したという経緯があった。

 

さて、この彼の隠れ家と呼んでいい屋敷では現在、歴史的ともいえる”()()”が行われていた。

 

アジュカ・ベルゼブブと、”赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”に封じられた二天龍の片割れ、赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)こと”ア・ドライグ・ゴッホ”との対話だ。

 

アジュカが真っ先にドライグ聞いたのはドライグ自身のことではなく、その宿主のことだった。

その人間の少年の姿でありながら、「あらゆる方程式や数式が、”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」存在……兵藤一誠について、高い興味を示したのだ。

 

 

 

ドライグは、相棒をかく語る。

 

 

『端的に言ってしまえば相棒は「人の世に拡散した”()()()()”」、その”()()()”のような存在なのさ』

 

と……

 

『多くの神話体系の龍は、かつて戯れに……時には人の姿に変化して、人との間に子をなした。多くの英雄豪傑、あるいは”()()”を生み出しながらな。だが人は数が多く世代交代も早い……龍の血は時の流れの中に細分化され、龍の力を顕現できぬほど薄まった。血は(我ら)にとり命であり力その物だ。これも当然と言えば当然の話だ』

 

『その力や存在を察知できんぬほど拡散し、薄まった龍の血だが……だが、どのような加減なのか力を顕現されぬまま少しずつ少しずつ「一つの人の血脈」に合流していった。細い小川が大河に合流するように、親から子へ、子から孫へ世代を重ねるたびに薄まった龍の血が集まっていった。細かい理屈は俺にもわからんが……存外、潜在化していても龍の血が惹かれあったのかもしれんな』

 

『誰が意図したわけでも操作したわけでもない。自然発生的に散った血は、気が遠くなるような時間の果てに集まり「人の姿をした龍」へと結実した……それが相棒、”兵藤一誠”の偽らざる正体さ。おそらく、”赤龍帝の籠手(オレ)”が相棒の体に顕現したのも偶然じゃないのだろう』

 

『俺もまた呼ばれたのだろうな……”新生の龍(あいぼう)”にな』

 

 

 

***

 

 

 

「だが、ドライグ……それでも疑問はある。そこまで龍に近い兵藤一誠が、なぜ”人の姿で生れ、人の姿で生きて”これたんだ?」

 

『それは簡単だ。相棒は龍の血脈を”()()()()()()()”いたのさ。遺伝子……いや()()解析したら、きっと面白い結果が出るぜ? 相棒が人の遺伝子に紛れ込ませて引いた龍の因子は、それこそ10や20じゃきかないからな。既に伝承が潰えたマイナーな奴から未だに人間界でゲームの題材になるようなメジャーまで、神龍や聖龍として崇め奉られた奴から邪龍と忌み嫌われ恐れられた連中まで……本当によくぞここまでというぐらいにな』

 

「それで?」

 

『だが、多くの龍の血脈を少しずつ引いていたからこそ、どの龍も”代表()”には成れなかったのさ。相棒の体は遺伝工学的には人間だが、龍の因子だけみれば”完全混交(モザイク)”状態にある。(我ら)の血脈は遺伝子によって継がれるものではないことは知っているだろう?』

 

「”素()子”……別名『Dragon(ドラゴン) Quantum(クォンタム) Particle(パーティクル)』、”DQ粒子”か……」

 

『そうだ。我らの因子はシトシン(C)グアニン(G)アデニン(A)チミン(T) の化学物質の配列では継承されん。我らの血の継承は、人においてはDNAの二重螺旋に付帯する形で存在する遺伝子情報領域外の「()()()()()()()」の集積においてのみ行われる』

 

「龍族の血の、力の継承とは……遺伝子工学ではなく情報工学的な意味での『龍の持つ”生体量子機関(クォンタ・エンジン)”の()()』でもあるということか」

 

『だから我々は力を行使するとき”稼動(ドライブ)”という言葉を使うのだろう?』

 

「なるほど、だから龍の力は”()()()()()()()”……つまり兵藤一誠は、『ドラゴンの因子を量的には十分に引き継ぎながら、逆に多様すぎる因子種類故に特性を相殺、その”核”が定められなく龍の姿が発現できず、遺伝子上の形状である人型をとった』……そういう解釈でいいのか?」

 

『大体、それで合っている。事実、悪魔になる前の相棒は「危ういバランスの上、辛うじて人の子の姿を維持してる」という状態だったのさ。とっくに意識が覚醒した……おそらくイレギュラーな形で”()()()()()()()”俺が相棒とリンクできなかった、しなかった理由もそれだ』

 

「どういう意味だ?」

 

『”不安定な人の状態”で俺が意識を繋げたら、一気に相棒が形を決めらないため顕現はしないがエネルギー状態は保ったままの……言うならば”()()()()”にある龍の因子を「()()」させ、一気に”龍化”する危険性があったからな』

 

するとアジュカは心底疑問という顔で、

 

「逆に聞きたいんだが……ドライグ、なぜ励起状態のDQ粒子を暴発させ、兵藤一誠を龍にしなかったんだ?」

 

『考えてみろ。人の姿をもって生れ人として生きてきた存在が、突然自分の姿を失い、力の枷を失うのだぞ? 肉体と精神が不可分である以上、肉体の変化に精神が追いつけるわけ無いだろう? 龍の膨大な力に人のメンタリティーが即座に対応できるものか。これまであった人としての理性や道徳などの”()()()()()”は、圧倒的な力の奔流の前に瞬く間に飲み込まれ、ただ本能と力の衝動の赴くままに破壊と殺戮を繰り広げる……人であったことも忘れ、力のみが龍という”()()()”としてな。そんな無様な者を見たいとは俺は思わん』

 

「なるほど……ならば、ドライグにとって兵藤一誠が悪魔に転生したのはむしろ僥倖ということか?」

 

『間違いなくな。悪魔の生物学的維持能力(ホメロスタシス)は人間とは比べ物にならないくらい高い。相棒の体に充満する”素龍子(DQ粒子)”がどれほど高圧縮/高密度であっても、「特定の力と方向で結束/集束」しなければ相棒が人の姿を失うことは無い』

 

 

 

***

 

 

 

有意義な話だった。

有意義な話だったからこそ、アジュカには新たな疑問が湧いてくる。

 

「ドライグ、お前は今……兵藤一誠に何をしようとしてるんだ?」

 

『アジュカ・アスタロト、先ずは相棒に埋め込まれた”悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”を抜き出し、自分の目で確かめてみよ』

 

「?……!? これはっ!?」

 

アジュカは思わず見開いてしまう。

一誠の体から取り出した8個の”兵隊(ポーン)”の駒全てが、”赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”と同じ色……在りし日の”赤龍帝”と同じ色に変色していたのだから……

ソーナに渡した駒は本来、彼女の美しい髪と同じ黒だというのに。

 

「全てが”変異の駒(ミューテーション・ピース)”化してるとは……ドライグ、これはまさか、お前が……?」

 

『ああ。、夢を通じて相棒に「ドラゴンの何たるか」を教える傍ら、お前の駒の空白領域(ブランク)を使って「相棒の龍の力を使うのに最適化」するために細工した。強いて言うならそれは、”龍脈の駒(ドラゴニック・ピース)”と呼べるものに変質してるのさ』

 

「ドラゴニック・ピース、か……ドライグ、お前は兵藤一誠をどうしたいんだ?」

 

『知れたこと』

 

篭手から何故かニヤリッと笑う気配がした。

 

『先ずは相棒に”龍の力を使うのに相応しい存在”になってもらう。使うのは別に赤龍帝(オレ)の力でなくてもかまわん。ただ、俺は見てみたいんだよ……誰も知らない、どの神話にも登場しない”()()()()”、その誕生の瞬間を、な』

 

「だが、人の姿を維持してるのが不思議なくらいの少年が、悪魔に転生したことを契機に己の身に秘めた龍の力を得る……それは一歩間違えれば、人でも悪魔でも龍でもない、制御不能の”複合の怪物(キメラ)”を生み出すかもしれないぞ?」

 

『随分、お前らしくないことを言うじゃないか? アジュカ・アスタロト』

 

ドライグは嗤う。

在りし日の姿そのままに。

 

『先の読めぬ……予想も想像も及ばぬ進化の観測こそ、科学者の冥利というものではないのか?』

 

 

 

***

 

 

 

「ドライグ……今日のところは、最後の質問だ」

 

『なんだ?』

 

「お前は本当に、”赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)”……あのア・ドライグ・ゴッホなのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
ドライグが平行世界(げんさく)より賢いことが判明したエピソードは如何だったでしょうか?

素龍子(そりゅうし)”=”ドラゴン・クォンタム・パーティクル(DQ粒子)”は何やらやってしまった感が(^^
まあ、実はこれも後々の設定に繋がっていったりするんですが。
例えば禁手の”赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”は龍の因子を触媒にした量子転換装甲の一形態だとかね(えっ?

さて次回はドライグがここまで賢く、”()()”してしまった理由とかも書いてみようかと思ってます。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もしご感想などなどいただけると、とても嬉しいです。



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