俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような?   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
いよいよこのシリーズも20話となりました。
そしてソーナ・シトリーとアーシア・アルジェントの対話です。

立場は違えど、”兵藤一誠”という()を通じて知り合った二人の少女……

果たして二人はどんな結論に至るのでしょうか?




第20話 ”転生と眷属と、その重さです”

 

 

 

「イッセーさんと同じ時間……ですか?」

 

それは高校の生徒会応接室で行うには、あまりにも困惑する内容だった。

 

「ええ。正直に言いまして貴女を人間の種としての寿命……残り1世紀あるかないかの時間を保護することくらい、シトリー家にとり造作も無いことです」

 

「す、すごいお家なのですね……」

 

素直すぎる表情で感心するアーシア・アルジェントに、ソーナ・シトリーは見下ろすようなそれでなく自然な微笑で、

 

「確かにシトリー家は悪魔の中でも名門に数えられてますが……それはシトリー家だからできるというわけではなく、上級悪魔に数えられる家ならば、やる気があればどこの家でもできるでしょう。言ってしまえば、人間の一生という時間は悪魔にとってその程度ということなんですよ」

 

どう反応してよいか困った顔をするアーシアだったがソーナは特に気にした様子も無く、

 

「その長さであるのなら、貴女の身柄を冥界のシトリー家の領地で悠々自適な生活でも、あるいはシトリー家の後ろ盾の元で一誠の庇護下にすることも可能です……もちろん他にも無数なプランニングは出来ます。ですが、この場合はどの選択肢をとってもアルジェントさん……貴女は先に老い、そして一誠より先に、貴女達風の言い方をすれば天へ召されるでしょう。これは貴女に残された時間がどれほど長くとも、人の生である以上、我々悪魔にとっては誤差の範囲です」

 

ゴクリと生唾を飲み込むアーシア。

淡々と語るソーナの口調は、ただただ真実と現実のみを告げているようだった。

 

 

 

ソーナは一度言葉を区切り、お茶で喉を潤すと同時にアーシアに言葉を咀嚼して理解する時間を与えた。

 

「あの……さっき言われたイッセーさんと同じ時間を生きるというのは……?」

 

「簡単なことです」

 

ソーナはティーカップを置き、

 

「一誠同様に、”()()()()()”することです」

 

「!?」

 

そのさらりと言われた回答に、アーシアは思わず息を呑む。

 

「それは……」

 

”ことり”

 

言葉を詰まらせるアーシアの前にソーナは小さなオブジェを置いた。

 

「チェスの駒……ですか?」

 

アーシアは困惑気味だった。

確かにそれは一見するとチェスで使う、城や塔を象ったような”戦車(ルーク)”の駒だ。

しかし、脈絡も無く駒一つをテーブルの上に置く意味が理解できない。

 

 

 

「これはただのチェスの駒ではありません。それを象っていますが、悪魔以外の種族を悪魔に転生させる一種のマジック・アイテム……”悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”と呼ばれています」

 

「イーヴィル・ピース……」

 

アーシアは口の中で発音を反芻してみるが、やがてあることに気付く。

 

「!? もしかして、イッセーさんはそれで……?」

 

「ええ」

 

ソーナは頷きながら、

 

「一誠が悪魔に転生した経緯は知っていますか?」

 

「はい……大まかには聞いてます」

 

「結構。細かい機能や能力、そもそも何のために作られたのか……細かい説明は今は割愛させていただきます。今のアルジェントさんに必要なのは、この駒が『生きた生身の人間を、神器を保有した状態のまま悪魔に転生させることが可能』というただ一点の情報でしょうし」

 

別にソーナに情報を隠蔽し、アーシアを騙す気はない。

ただ、過多な情報を与え混乱させるより、必要な情報のみを与えて深く考えてもらったほうが賢明だと判断したからだろう。

 

「幸い、私の手元には未使用のルークが一つ手元に残ってます。この駒を使えばアルジェントさんを悪魔に転生させること自体は、可能です。無論、条件はあって私の眷属悪魔としてですが」

 

 

 

***

 

 

 

そして、ここからが本当の意味での本題であった。

 

「私は以上、二つの道筋を示します。無論、ここを去り孤立無援で生きるという選択肢もありますが……それはあまりお勧めできません。貴女を放っておいてくれるほど、世界は優しくありませんので」

 

「はい。それは今回のことで重々承知してます」

 

もっともそれだけではないだろう。

教会という”失楽の園”から追放されたから苦難の旅路を進んだ彼女だからこその重さがそこにはあった。

 

「単独で生きていけないのは、人も悪魔も同じですのでお気になさらず」

 

ソーナは少し空気を入れ替える気遣いを見せ、

 

「本来なら悪魔は人を惑わし騙し唆し堕落させる生物……確か教会ではそう教えられるのですよね?」

 

「えっと……」

 

「別に責めてるわけじゃありませんので御安心を。ただ……」

 

返答に詰まるアーシアをソーナは珍しく可笑しそうに笑み、

 

「敵ながらよく見てるなと感心していたところです」

 

「えっ?」

 

「大筋において、古き良き時代の悪魔はその通りの存在だと思いますよ? されど現代生れの悪魔としては、もう少し別の見解がありますが……」

 

そしてアメジスト色の神秘的で真っ直ぐな視線が、アーシアをとらえて離さない。

 

「アーシア・アルジェント、ソーナ・シトリーの名において命じます……自分の歩むべき道を、深くよく考えなさい」

 

「……へっ?」

 

 

 

***

 

 

 

『深く考えて、歩むべき道を決めろ』……それはアーシアにとって意外すぎる言葉だった。

 

「そんなに意外でしたか?」

 

「いえ、わたし、てっきり……」

 

「強要などするわけ無い……出来るわけないでしょう? 確かに私は貴女に一誠と同じ時を生きれる時間と強靭な肉体は与えられます。ですが、同時に貴女は失うものもあるのですから」

 

「わたしが……失うもの?」

 

「ええ」

 

アーシアはピンと来なかった。

元々、自分は赤子の頃に教会の前に捨て置かれ、両親の顔すら知らない。

だからこそ、教会が自分の知る世界の全てだった。

しかし、そこからも破門され、追放された身の上では残ってるもの……失うものなんて無いはずだった。

 

「悪魔に転生するということは、神の敵対者に転生するのと同義です。だから、貴女方が言う”父と聖霊の大いなる恩寵(アメージング・グレイス)”は享受できなくなり、教会にも近づけず、祈りを捧げたり聖書を読むだけで絶え難い頭痛に苛まれる……そんな日常になるのです」

 

「……」

 

「私は今からとても残酷な言葉を言います。いいですか?」

 

”こくり”

 

「アーシア・アルジェント……貴女は人としての天寿を全うし神への祈りを貫くのか、悪魔となりて苦難の中にあっても一誠と共に生きるのか……そのどちらかを選ばなくてはなりません」

 

「はい……」

 

「私が用意してあげられる時間はさほど長くはありませんが、それでも今すぐ決めるようなことではありません。思う存分、悩みなさい」

 

「それで……それでソーナ様はよろしいのですか?」

 

「かまいません」

 

ソーナは鷹揚に頷き、

 

「ただし……自分を騙すような、あるいは自棄(やけ)で決めるような短絡な結論は絶対に許しません。人にせよ悪魔にせよ、貴女の身を預かるのはこのソーナ・シトリーなのですから」

 

「はい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

 

 

 

アーシアは少し散歩したいと言い出した。

ソーナはそれを許し、

 

「では、案内をつけましょう」

 

そして呼び出したのは……

 

「えっ? アーシア?」

 

「うふふ。イッセーさん、お邪魔してます」

 

柔らかく微笑むアーシアに一誠はちょっと反応に困ってるようだった。

 

「一誠、アルジェントさんに学園の案内をしてさしあげなさい」

 

「えっ? ソーナお嬢様、それはかまいませんが……」

 

ソーナは無論、状況が読めぬ故に戸惑う一誠を分った上で、

 

「ではエスコートを頼みましたよ?」

 

そう助け舟を出した。

 

「はっ。かしこまりました」

 

そしてアーシアはぺこりとソーナに頭を垂れ、

 

「ソーナ様、ありがとうございます」

 

 

 

二人が応接室を出た後に、

 

「ソーナ、ダメ押し?」

 

いつの間にか自分の分も含めて新しいお茶を淹れて部屋にいたのは椿姫だった。

 

「そういうのじゃないですよ。ただ、人も悪魔も”()()()()”というのは必要でしょうから」

 

「相変わらず、無愛想なくせに優しいわね?」

 

「無愛想は余計です。それに私はリアスのように感情を表に出すのは苦手ですので」

 

「そう? 貴女も自分が思ってるほど上手く表情を隠せてるような気がしないけど?」

 

「ふん」

 

そして上質な紅茶の香りを楽しんだ後、

 

「で、眷属になりそうなのかしら?」

 

しかし、ソーナはあえて明言しなかった。

ただ、

 

「なるようになるでしょう」

 

 

 

***

 

 

 

小1時間ほどしてアーシアと一誠は戻ってきた。

散歩というより自分の考えをまとめるための時間だろうとは察しがついていたが……

 

「イッセーさん、申し訳ありませんが少しだけ席をはずしていただけませんか?」

 

「椿姫、お願い」

 

そして二人は一礼と共に退室し、

 

「もう、答えは出たのですか?」

 

「あの……その前に一つだけ質問よろしいですか?」

 

「許しましょう」

 

アーシアはソーナの前にひざまずくと、

 

 

「大いなる恩寵を受けられなくなるのはかまいません。だけど、主への信仰まで捨てなければいけないのでしょうか……?」

 

それは真剣な、願いや祈りに似た想いだった。

ソーナは嘆息する。

 

「貴女は自分がいかに常識はずれな事……矛盾していることを言ってるのか自覚はありますか?」

 

「……あります」

 

「私は人ではないし、そうである以上……信仰とは人の心の拠り所の一つであり、貴女の心の一部であるという知識しかありません。そして、私は忠誠は誓って欲しいですが、アーシア・アルジェント、」

 

ソーナは優しい目で告げた。

 

「貴女の心を全て私に捧げろとは言いません。生憎、私は強欲の悪魔ではありませんので」

 

「ありがとうございます! ソーナ様!」

 

「改めて問います。どちらの道を選びましたか?」

 

「わたしは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
二人のヒロインの対話はいかがだったでしょうか?

ソーナは転生悪魔や眷属について、リアスとまた違う考え方をもっているようです。
「人を騙し惑わし唆す」が悪魔の本質というのなら、原作リアスのゼノヴィアやロスヴァイセを眷属にしたときのやり方が悪魔としては正しいような気がしますが(^^

ソーナは眷属を「気が遠くなるような長い時間を共に過ごす存在」という点を重んじてるようです。
だからいい加減な気持ちや不安定な精神状態、迷いを持ったまま眷属になることを望まないのではないかなぁ~と。

さて、どうやら次回で長かったアーシア編もラスト・エピソードになりそうです。
というか普通、アーシアのエピソードで20話以上も引っ張ったりしないでしょうが(苦笑
はてさて、どんなエンディングになるのやら?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もしご感想などをいただければ、とても嬉しいです。


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