俺、悪魔になりました!……でも契約先とか色々違うような? 作:ボストーク
なるべく今週中にアーシア編を終わらせたいので、ちょっとだけペースアップです(^^
さて、今回のエピソードは……ソーナとアーシア、二人のヒロインの対話の前に少しだけ今まであえてあまり触れてこなかった主人公の過去に触れてみたいと思ってます。
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その謎の一端が明らかに……?
上級悪魔72柱が一つシトリー家次期当主、ソーナ・シトリーは『余人を交えず話がしたい』とアーシア・アルジェントを生徒会室附属の応接室に呼び出した。
それは生徒会長としてではなく彼女が考える『
本来であれば、兵藤一誠は自分の眷属としてゆっくり大切に育てたかった。
堕天使と相打ちになり、彼が死にかけて時に自分が駆けつけられたのは不謹慎ながら僥倖だったとソーナは今でも強く思っていた。
あの日、堕天使と相打ちとなった一誠の姿を見たとき……心突き動かされた。
生まれてから感じたこともない強い衝動に駆られた。
強く激しく荒々しい……自分の悪魔としての”
『死なせるのは惜しい』
心からそう思った。
断じて他の存在に渡したくない……例え相手が神でも。
例えるなら、そういう衝動だった。
ソーナはそのクールな言動からリアスなどに比べて身内や眷属への情が薄いと言われがちだが、激しく表に出さないだけで断じてそんなことは無い。
だが、身内でも眷属でもない……所詮は「ただの人間」にここまで強い感情を持ったのは初めてだった。
転生させるときに
実はソーナは前々から兵藤一誠という少年のことは知っていたのだ。
生徒会長の当然の知識として駒王学園高等部の全生徒/教師のデータを把握していたソーナだったが、彼はその中でも印象的な生徒だった。
曰く、「全身是運動神経之塊也(ぜんしんこれうんどうしんけいのかたまりなり)」。
学業に目立ったものはないがスポーツ万能で、様々な運動部によく助っ人として参加していた。だが、そのくせ不思議とどこの運動部にも入部しようとしなかったのだ。
だから体裁的には文化部である”オカルト研究部”の部長という肩書きであるリアス・グレモリーが、割と有名な彼を知らなかったのも無理なかったことである。
それを言うなら、ソーナが一誠の存在を記憶に残していたのも兵藤一誠獲得の為に運動部の一部が「少々目に余る勧誘行為」に及んだため、それを注意/警告したのがきっかけだった。
***
彼が悪魔に転生したとき、非常に感謝していた。
その理由は、「”憧れ”に手を伸ばし続ける」ことを諦めずに済んだからだといわれた。
悪魔に転生したにもかかわらず、そのどこまでも澄んだ邪気の無い瞳にソーナは自分が飲み込まれそうな感覚を覚えた。人を惑わすのが本職の悪魔なのに、だ。
その感覚が恐怖だったのか願望だったのか、未だに判然としない。
そして恩を返したいと強く願い出られた。
だから、こう返したのだ。
『なら、執事になる気はありますか?』
と。
シトリー家の執事に求められる基準は、名門上級悪魔である以上は高い。
間違っても一朝一夕でなれるものではない。
しかし、ソーナは「いつの日にか自分が受け継ぐべきもの」を考えたとき、やはり自分の行動や思考パターンを先読みできる補佐が欲しいと思った。
椿姫は筆頭秘書と副官の立場は勤められるが、そうなるとより身近で椿姫と担当分野違いの補佐が欲しかった。
貴族としての趣向と様式美がそこに加わった結果、彼女の感覚的には
主人を公私にわたって補佐するのが執事だからだ。
無論、執事に要求される仕事は多岐に渡り、今の兵藤一誠ではどれにも届いていない。
だから、ソーナはまずは自分の傍に置き「ソーナ・シトリーという存在、その好む思考や行動、趣向を経験則として刻ませ、その後に執事としてのスキルを身につけさせ両者を合致させ研磨する」という方法を選んだ。
時間はかかるが無理の無い方法だった。
それにソーナは焦ってなかった。
『500年も傍に置き、執事の仕事を徐々に学べば形になるでしょう』
そういう長いスパンの話、寿命の長い悪魔らしい感覚だった。
***
だが、ソーナが想いも寄らぬ形で事態は動き出してしまった。
兵藤一誠が規格外の力を持っていることは、先ほどの通り予感していた。
むしろポーンの駒8個全て使ったのだ。一誠が
逆にそれだけのポテンシャルを持っていたことに納得してしまったくらいだ。
しかし、である。
彼にはソーナを持ってしても見抜けなかった卓越した能力があった。
それは単純な戦闘力ではなく、「戦闘という事象に関わる全面的な適性の高さ」であった。
戦闘は戦術に従い、戦術は作戦に従い、作戦は戦略に従い、戦略は戦争に従い、戦争は政治の一選択に過ぎない……兵藤一誠は、その”
それは幼い日、「天空に輝く白銀の翼」に命を救われたその瞬間から始まった。
その時に見てしまった「人の枠外に在った強さ」に惹かれ焦がれ、それが”憧れ”に昇華し人の身でありながら手を伸ばすようになった時から、”
当時は正体不明の”赤い篭手”が具現化したとき、兵藤少年は普通の子供として考えるなら異常な反応を示したのだ。
つまり「喜んだ」。自分の左腕、ほんの一部でも「人の枠外」に至れたことに、怯えるでも竦むでも嘆くでもなく、ただ喜んだ。
そう、これでようやく”憧れ”に手を伸ばせることに。
それからの兵藤少年は「左手の篭手を如何に生かし、左手を最大限に生かすために頼り過ぎない戦い方」を考えるようになった。
戦闘から戦術へのシフトである。赤い篭手は無類の防御力と殴りつければ凶悪な鈍器になった。また任意のときに出したり消したり出来ることに気づいた。
今ではその面影を見るのは難しいが……ある時期、兵藤少年は「手の付けられない暴れ者」「悪魔」など散々な忌み名で呼ばれたことがある。
無論、理由は「子供の喧嘩」である。
強さを手に入れるために、戦術を磨き上げるために必要なのは何より実戦経験であることに気付いた兵藤少年は、効率的に「倒すべき敵を作り、戦闘を行う」方法を思いついた。
答えは簡単だった。「いじめられっ子を露骨に助ける」だった。
いじめられっ子を助ければ自分がいじめられるのを理解した上で彼は助け、自分を新たないじめられっ子の地位を獲得した上で……容赦なくいじめっ子たちを、
そこまですれば普通、「いじめっ子の両親」が黙ってないが……彼には
「いじめられっ子を助けたら逆にいじめられた。だから自衛行動を取った」
「教師はいじめの実態を把握していなかった」
「教師は把握していても見て見ぬふりをした。積極的な問題解決を図らなかった」
「相手は多人数だった」
「相手は武器を持っていた」
「相手は年上で体格も大きかった」
大雑把な解釈ではあるが……兵藤少年は「いつも一人で、しかも
しかも一誠は、表立って武道や武術、格闘技を習ってたわけではなく、「単純にケンカが強い子供」と認識されていたことも大きいだろう。
さらに兵藤少年は、「血の粛清」を行う直前に必ずいじめの実態を「教師や両親を含む詳細な関係者の名前と相関図付」でマスコミ/教育機関/有力議員などに送りつけていたのだ。ここでのポイントは「声高に自分の正義を主張する」のではなく、「消極的正統性を示し、関係各位に判断する余地を残す」であった。
とどのつまり、世論や有力者を味方につける工作を、出来る範囲で彼はすでに行っていたのだ。
以上のこととて全てではないが……この幼少期と言える時代から戦術も作戦も戦略も政治も、その基礎を体験と体感で育んでいたのだ。
一つ一つは取るに足らないことかもしれないし、”
だが、それらを平然と
無論、兵藤少年の行動に正義は無い。
いや、そもそも「大義名分の正義」は常に用意してるとしても、「心の核になる正義」など彼は持ったこともないだろう。
それほどまでに正義というのは彼にとっては無用の概念であり、同時に必要なときに自分の行動の正当性に説得力を持たせる”
「子供っぽい正義感」などという言葉は、兵藤少年には最も縁遠い言葉だったろう。
ただ、強くなるために「強さを得る手段と強さの種類と数を模索するため」、そして「強いことと勝つことはまた別と理解し、その因果性と法則性を理解するため」だけに兵藤少年は突き進んだのだ。失敗と成功の経験則を積むために……
暴力を伴わない陰険な手段には、逆に徹底的な暴力による制裁で報復した。
巧妙に隠蔽されたいじめで犯人がすぐに特定できなくとも、その容疑者を片っ端からとらえ爪と肉の間に爪楊枝を突き刺せば、面白いほど口が軽くなるのをその時に学んだ。
無論、その
無論、その後に爪を剥ぎ取る等の
だが、彼の心の内側を知らない他人は、兵藤一誠を「
後ろ暗い者には恐怖を与えたが、無害な者には演技ではなく年相応の素顔を一誠は見せた。
彼は弱きものを嬲ることに快楽を得る、子供が持ちがちな「残酷さ」とも無縁の存在だった。
同時に自分や自分の領域に害をなそうとする者に対しては、科学者が
結局、自分と敵対する者が何人入院しようが、何人心に重大な傷を負おうが知ったことではなかった。社会生活に支障をきたすほどの
それらは等しく”
その強さに真摯で勝利に一途で”憧れ”に真っ直ぐ気持ちを向け……故に
***
そしてレイナーレという存在を
それも急速に。
それがソーナにとり思いも寄らぬ事態を招いたのだ。
『魔王レヴィアタンの
自分やリアスのような「強力な力を持ち、血に恵まれた上級悪魔」は望む望まないに関わらず目立つ存在だ。
動けば必然的に目に付いてしまう。
だからこそ、一誠のような「強力な力を
だが、人知れずソーナ・シトリーは「兵藤一誠を悪魔に転生させた主」として心を痛めていた。
自分が用意しようとしていたはずの「比較的穏やかな未来像」が脆くも根底から崩れてきてるのだ。
だからソーナは考える。
自分が主として、一誠にできることはないのかと……
考えた上での結論が、
「アルジェントさん、単刀直入にお聞きします」
「は、はい」
「貴女は人ととしての生を全うするのと、一誠と同じ時間を生きるのと……選べるとしたら、どちらの生き方を望みますか?」
「えっ……?」
皆様、ご愛読ありがとうございました。
アーシア編を終わらせる前に一度は書いておきたかったイッセーの過去話はいかがだったでしょうか?
ぶっちゃけてしまえば、いくら未だに詳細が謎に包まれた「幼少のときのヴァーリとの邂逅」がその後の人生に影響を残したとしても、”この世界”のイッセーは明らかに原作イッセーと比べて『
持ってるポテンシャルが圧倒的というよりも、「持ってるポテンシャルをどうすれば伸ばし強くなれるのか? 強さをどう勝利に結びつけるのか?」ということを常に考えてる子供だったようです。
無論、”
以前、チラッと出てきたドライグの言葉によれば「一誠はそもそも人の姿をしてるほうが間違いなほど龍との親和性が高い」そうですが……少なくとも、「悪魔になるべくしてなった」と言えるような存在なのかもしれません。
さて、次回はいよいよソーナとアーシア、ダブルヒロインの対話です。
果たして、どんな答えが導き出されるのでしょうか……?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
もしご感想などをいただければ、とても嬉しいです。