雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧130話のリメイクです。

 こいつをレッドにしても良かった気もする。

 では、どうぞ。


刀剣戦隊カタナンジャー、《剣聖》ブルー

 拠点で少しばかり休憩し、気力を回復させた一行は改めてレイストン要塞(偽)の三階まで辿り着いていた。メンバーは変わらずリシャール、エステル、ヨシュア、アガット、レン、ケビン、アルシェムである。モルガンに粉砕されていた建物は、一応通れるレベルには修復されているようだ。

 皆が覚悟を決めて扉を開くと――そこには、果たしてカシウス・ブライトが待ち受けていた。

「……来たか」

「「父さん……」」

 カシウスの呟きにエステルとヨシュアが声をそろえて反応した。気が合うというか相性ピッタリというか、取り敢えず突っ込んではいけない域でシンクロしているらしい。アルシェムは遠い目をしながらカシウスを見つめた。

 当のカシウスは溜息をついてケビンに問う。

「まさか、まだ異変が終わっていなかったとは……ケビン殿、騎士団の方では予見できていたか?」

「いえ……まあ、封聖省の歴々がどれだけ把握しとるかは分からんですけど」

「ふむ、そうか……まあ良い。どうせ前座ではあるが後ろは茶番だ。安心して挑むと良い」

 カシウスはそうケビンに返すと、棒術具を取り出した。普通に戦う気満々である。しかも、視線はアルシェムの方を向いているあたりお灸をすえられそうでならない、とアルシェムは思った。

 その後、カシウスは一同に声をかけてからアルシェムに告げる。

「それで……アルシェム。戻ってくる気はないのは分かるが、そのまま突き進むつもりなのか?」

 カシウスはアルシェムが星杯騎士だと――リオの上司だと知っている。故に、そのまま進めばいばらの道だと知っているのだ。未だに義娘だと思っているらしいのは分かるが、どう考えても血も繋がっていなければ気持ちも通じ合えない。

 故に、アルシェムはカシウスにこう返した。

「今更後退できるとでも?」

「……そうか」

 今はとりつく島もないと思ったのか、カシウスは素直に引き下がる。どのような事情があって隠しているのかは分からないが、今ここで積極的にアルシェムの正体を明かしたいわけではないことだけはよく分かった。出来れば手加減してやりたいところだが、そうもいかないのがこの世界。むしろアルシェムの正体を明かさせるつもりで行くしかないだろう。彼女には、理解者が必要なのだろうから。

「では――行くぞ」

 そうして、カシウスは猛然と駆け出した。まず襲撃すべきは、一番厄介な人物。この場においては――恐らく、ケビンだろう。《聖痕》という存在が一体いかなるものなのかはカシウスも完全には理解出来ていない。だが、潰すべきなのはそこなのだろう。ケビンの前にいるエステル達を蹴散らそうとして――失敗する。

「悪いけど、一発逆転につながりかねない奴を一番に狙うのは分かってたから、ねッ!」

 カシウスの目の前に立ちふさがったのは、アルシェムだった。その手に持っているのは、カシウスと同じく棒術具。このメンバーの中では後方支援に徹すると思っていただけに意外なチョイスだ。

「良いのか? 支援に徹しないで」

「冗談。本気のカシウス・ブライトがいるのにわたしが後方支援なんてしてられるかってーの」

 アルシェムの判断の意味を掴みかねたカシウスは、取り敢えずアルシェムを目の前から排除すべくクラフトを発動させる。無数の打撃がアルシェムに襲い掛かる――と思いきや、アルシェムも似たような軌跡でカシウスの棒術具を辛うじて弾き返した。

 と、そこでカシウスはクラフト直後に反転する。そこにリシャールが現れたからだ。いくらリシャールが研鑽を積んでいようがカシウスに対応しきれないことはないだろうが、ここでアルシェムとリシャールに挟まれるのはよろしくない。双方ともにさばききることは出来るだろうが、少し厳しいのは確かだ。

 カシウスは体をひねってアルシェムとリシャールを少しばかり跳ね飛ばし、その場を離脱する。一歩飛び退ったところで背後から近づいてくる気配に気付き、棒術具を振った。

「……流石だね父さん」

「お前もな」

 猛スピードで突っ込んできていたらしいヨシュアを弾き返したようで、くるくる回りながら遠ざかっていく。それを視認することなくカシウスは再びクラフトを発動させた。今度のクラフトは、飛来していたレンの鎌を思い切り地面にたたきつける形で炸裂する。

 だが、彼の想像した通りに彼女の鎌は粉砕されなかった。その代わり猛スピードで地面を滑って行ったのである。

「……いやいや、ゼムリアストーンよりも硬くしなやかな金属って……」

「喰らえオッサン!」

 呆れたようにそれを思わず見送ってしまったカシウスは横合いからアガットの襲撃に遭った。それも一歩下がることで躱すが――不意に背中に何かが当たるのを感じた。それが何なのかを確認することなくアガットの振るった大剣を追いかけるように上体を倒す。

 股の間からちらりと視認した限りでは、エステルのようである。アガットと挟撃して突きを放ったのだろう。正直に言って、追い込まれていたと言っても過言ではない。

「気持ち悪いわよその避け方……」

「お前ねえ……父親に向かって気持ち悪いはないだろう」

 そのままカシウスは横に転がってアガットの二撃目を避けた。この時点でまだ動いていないのはケビンのみ。ということは――後方支援はケビンだけということだろうか。押し切るしか勝機はないと思われたのであれば心外である。

 要は、支援が飛ぶ前に無力化すればいいのだ。手加減できないのなら稽古をつけるつもりでやるしかない。どう考えても同時攻撃は四人までしか出来ないのだから、完全包囲される前に誰か二人ほど落とすしかない。

 一番最初の生贄は――突っ込んできたリシャールか。

「押し切らせて貰います、カシウスさんッ!」

「出来るものならやってみろ、リシャール!」

 骨を切らせて肉を断つ。そのくらいの覚悟で行かなければリシャールは落とせない。幸い、リシャールに教えていた流派は《八葉一刀流》。独自のアレンジはあまり加えていないようだから剣筋を見切るのはたやすい。

 次に来るのは恐らくクラフト・洸波斬。技の出で分かる。

「おおおっ!」

「ふんっ!」

 そう来るのなら――カシウスとしてはそのクラフトの真下を潜り抜けてナニに一撃を当てるしかない。あまりやりたくないが、男であれば一撃でノックアウトしてくれるだろう。ついでにこの光景を見ている約半分の男性陣も怯ませられるはずだ。

「おごっ……」

「済まんリシャール、しばらく落ちていろ」

 悶絶するリシャールを後目に、次に襲い掛かってくる少女を迎撃する。どうやら鎌は無事に回収できたらしい。カシウスはリシャールから距離を取りつつレンと打ち合った。

「ヨシュアといいお前さんといい、《結社》の連中は子供を兵士にして楽しいのかねえ?」

「知らないわ。でもレンはこうやって戦えるようにならないと生きて来られなかった。戦うすべを教えてくれた点に関しては確かに《結社》には感謝しているかも知れないわね」

 一撃でも掠ればレンは沈むだろうと分かっているのに、カシウスは当てられないでいる。レンもそれなりに場数は踏んできているらしい。カシウスの打撃を受け切れるだけの膂力がないのは双方ともに理解していた。

 故に、カシウスは一撃だけでも喰らわせるべくクラフトを発動させて――その隙に、レンに背後に回り込まれた。

「何……」

「うふふ。隙、見つけたわ」

 そうしてレンはカシウスに向けて鎌を振るおうとして――突如突き出してきた棒術具に派手に吹き飛ばされた。気力でカシウスがクラフトをキャンセルし、棒術具を引き戻したのだと気付いた時にはもう遅い。レンは壁に打ち付けられてしまっていた。

 さて、ここまででほぼ動きのない我が娘は――と思って周囲を見渡してみれば、ケビンの護衛に回っているらしい。突っ込めるときだけ援護する形のようだ。次に狙うべきはこちらに迫ってきているアガットになる――と思った、その瞬間。

「ッ、せいっ!」

「ちっ……父さんの野生のカンが鋭すぎる……」

 背後に向かって薙いだ棒術具が再びヨシュアを弾き飛ばした。レンのように壁にたたきつけられることはなかったが、遠ざかったことに変わりはない。カシウスは猛然と近づいてきているアガットに向けて間を詰めた。

「オラァ!」

 アガットの振るった大剣を棒術具で受け止めたカシウスは彼と打ち合い始める。真正面からアガットを打ち破ってもそれはそれでいいのだが、それではあまり成長が見られない。ここは一旦間を取るべきだと思ったカシウスは、嫌な予感を感じつつ身を沈める。

 そのままカシウスはアガットに足払いを掛けて――背後から振るわれていた棒術具を避けた。何となく嫌な予感がしたのは間違っていなかったらしい。だが、今回はその嫌な予感を感じさせたのはヨシュアではなかった。

「まー、避けるよねー」

「アルシェムか……!」

 カシウスは苦虫をかみつぶしたような表情でその棒術具を受ける。視認すらできずに予感だけでしか察知できないということは、ヨシュアと同等かそれ以上の隠密能力を持っていることになる。ここにきてそれはあまりにもマズイ。

 故に、普通に打ち合いに来るアルシェムを沈めようとカシウスは動こうとする。振り返ったことでアガットを背後に回してしまったが仕方がない――と思ったその瞬間。この戦いで最大の嫌な予感を感じてアルシェムの棒術具とアガットの大剣が掠るのもいとわずに大きく横に飛んだ。

 直後、カシウスがいた場所に向けて砲撃が放たれるが、最早そこには誰もいない。

「うふ、うふふ……一緒に戦ってくれるのよね、《パテル=マテル》?」

 全身の痛みをこらえながら《パテル=マテル》の手の上に座り込んだレンはそうつぶやいた。今までのような機動性を保ちつつカシウスを襲撃するのはもう不可能だ。ならば、レンがやるべきなのは大技でカシウスを追い込むこと。そして、それは今回は成功したのである。

 

「僕はもう逃げない……!」

 

 ヨシュアの発動したSクラフトに、カシウスを巻き込めたのである。どこにいても襲撃自体は可能なのだが、襲撃しやすい場所に誘導すればよりダメージを与えられるのは言うまでもない。

 だが、カシウスはヨシュアからの攻撃を全て受け切ってヨシュアを沈めてみせた。これで残るはアルシェム、エステル、アガット、ケビンのみ。レンに関しては《パテル=マテル》の動向に気を配っていれば問題ないし、リシャールは悶絶し通しだったので先ほどの砲撃に呑みこまれていた。しばらくは動けまい。

 と思っていれば、今度はアガットのSクラフトである。ヨシュアを沈めた瞬間に上空から猛烈な勢いで突っ込んでくるあたり、容赦がないとでもいうべきだろうか。だが、カシウスは多少腕にダメージを受けただけだ。そのままアガットを重力加速度に従って地面にめり込ませておいた。

 このままだと全滅である。誰もがそう思った。ケビンの《聖痕》を使っても倒しきれるか自信がないのだ。それを悟ったアルシェムは、ケビンに告げる。今ここでするべきではないことを。ここで全滅するわけには、いかないから。

「ケビン……」

「何や、珍しく名前呼びしてきて」

「わたしに三十秒頂戴。あと、後始末は頼んだ」

 いぶかしげに顔をしかめたケビンは、アルシェムの言葉の意味を正確につかんで思わず制止の声を上げようとした。しかし、それ以外に打破する方法がないのも確かだ。後始末と彼女が言うことも確かに理解出来たしケビンには実行できることだったので渋い顔でうなずく。

 そして、ケビンは残っているエステルに向けてこう頼んだ。

「三十秒だけ、カシウスさんをどないかしといてもらえへんか。そうしたら、アルちゃんが何とかしてくれる」

「……悔しいけど、分かったわ」

 エステルもここまでカシウスを観察してきて思ったのだ。アレは勝ち目がない。カシウスの知らない一撃を叩き込まなくては、間違いなく勝てないのだと。そして、アルシェムがそれを成せるというのなら任せるしかない。今エステルがすべきことは、アルシェムを信じて時間を稼ぐこと。

 故に、エステルはカシウスに向けて駆け出した。

「行くわよ、父さん!」

「来い、エステル!」

 カシウスもその狙いについては何となく読めていたが、今は敢えて愛娘の成長を観察することを選んだ。ここをしのぎ切ってもまずいというのもあるが、今それを選べる程度の自由はあるようだからである。

 これで決めて、全員無事に帰ってきてほしい。カシウスはそう願っていた。手加減するのは赦されていないにしても、心情だけは誰にも操らせはしない。手は抜かないが、判断を故意に誤るくらいはしても良いだろう。

 ――五秒。カシウスとエステルが棒術具を打ち合った。エステルの気合は十分で、カシウスの一撃目を受けるどころか二撃目を出させないようにさらに踏み込んでくる。

 ――十二秒。微かに聞こえた声で、アルシェムが何かしらのアーツを唱えたのを察した。だが、今目の前で棒術具を振るっているエステルから逃れようとはしない。逃れたところで、アルシェムが唱えたアーツはただの水属性補助アーツ。立ち上がれた人間がいたとしても一撃で昏倒させられる。

 ――二十秒。エステルに痛撃を与えようとした瞬間に地面から生えて来た槍に気付き、後退を余儀なくされる。このクラフトはどうやらケビンのもののようである。ここで決着をつけてしまっては終わってしまうので有り難い。

 そして――二十九秒。アルシェムが小さく呟くように何かを唱えているのが聞こえた。

 

「……我が深淵にて煌めく蒼銀の刻印よ。我が前にその力を示せ――」

 

 ――三十秒。エステルがそれを数え終わったのか、思い切り飛び退る。カシウスはそれを追おうとして――出来なかった。彼の周囲に氷の檻が生えて来たからである。危うく突き刺さるところだったが、何とか立ち止まることで串刺しだけは免れた。

 そして――カシウスは、アルシェムの方を振り仰ぐ。すると、昏い目をしたアルシェムの背に何かが――《聖痕》が、煌めいているのが見えた。それ以外にも、彼女の胸の前に何かが収束しているのが見える。それがどういう目的で生成されたモノなのかを察したカシウスは氷の檻を破壊して逃げようとしたのだが、もう遅い。

「こんなところで切るはずじゃなかったんだけどな、この切り札」

 アルシェムの言葉と共に撃ち出された氷柱は、必死で体をひねって躱そうとしたカシウスの脇腹を盛大に抉った。そこで技が終わるものだと思っていたカシウスは、いつまでたっても消えない氷の檻から抜け出せていない。

 

「済みません、カシウスさん――ここで、決めさせていただきます!」

 

 その声に気付いた時――カシウスは終焉を受け入れた。何故なら、先ほどまで悶絶していたはずのリシャールが刀を抜いて迫ってきていたのだから。先ほどの水属性補助アーツはアルシェムが決めきれなかった時の保険。そして、それを任せるに足る人物は――リシャールしかいなかった。ただそれだけのことなのだろう。

 カシウスは目を閉じてその剣閃を受け入れた。




 何とか六千字で倒れてくれたよこのおっさん。二話続きでおっさんを倒すとか描写しきれないし。

 では、また。

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