雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧123話~124話終盤までのリメイクです。

 風なんだしグリーンにしようと思ったけどこいつはブラックかなって。

 前話をもって20000UA達成しました。ありがとうございます。

 では、どうぞ。


刀剣戦隊カタナンジャー、《風の剣聖》ブラック

 ようやく膝を付いたフィリップは、この先にまだ戦うべき人物がいることを告げ、消えて行った。その瞬間、ケビン達は膝を付く。流石にきつかったというのもあるが、皆がそもそもフィリップを甘く見すぎていたからだ。過信せずに挑んでいればもう少し余裕は出来たのだろうが、あの外見であの力強さは想定できるはずがない。

 皆が息を整えている間、アルシェムは荒く息を吐いているふりをしながら周囲を見回した。フィリップは『第一の守護者の門番』と称したのだ。当然、この先に第一の守護者がいるはずなのである。

 そして、彼女の視線はとある物体を捉えた。ここに来てからはお馴染み『扉』である。アルシェムはその扉に近づいて記されている文言を読み上げる。

「『銀色の吹雪、天使を殲滅せし者、金色の暴走姫。そして、水色の喪服の少女を引き連れよ。さらば道は開かれん』……だってさ」

 アルシェムはその文言を見てどれが誰なのかを類推する。『銀色の吹雪』は勿論アルシェムだろう。そして、『天使を殲滅せし者』はレン。『金色の暴走姫』はアーツが暴走してしまう『異能モドキ』を持つメル。最後の『水色の喪服の少女』は恐らく――彼女だろう。

「成程な。取り敢えず一回戻らんとあかんみたいや」

 ケビンは皆がまだ息を整えている最中に《レクルスの方石》を使い、拠点に戻った。『水色の喪服の少女』――ティオを連れて行かなければならないため、その間だけ休憩である。

 そして、取り敢えずまだ力尽きていたアガットとクローディアを置いてケビンが説得して連れてきたティオを連れ、一行は再び扉の前へと舞い戻った。その扉は何事も変わった様子もなく佇んでいる。

「……ほな、アルちゃん」

「分かってるって」

 アルシェムがそう応え、扉に触れた瞬間――ケビンは複雑な顔で後ろを向いた。扉に吸い込まれる時の感覚がなかったのだ。置いてけぼりになったのは間違いないだろう。そのまま万が一扉が破壊されたときに備えてケビンはわびしく待機した。

 一方、扉の中に吸い込まれたアルシェム、レン、メル、ティオはというと――目の前に佇む長髪の男に困惑していた。一応全員が彼のことを知っているのだが、何故今ここで出て来るのか理解出来なかったからである。

「……成程。お前達を排除しなければならないのか」

 その男の――現在では遊撃士協会クロスベル支部所属のA級遊撃士にして《風の剣聖》の異名を持つ――名はアリオス・マクレインという。ティオにとってはある意味恩人の一人である。彼女を救いに来たのが彼とガイとその上司、それに《銀の吹雪》と名乗ったアルシェムなのだから。

「えー……何で今よりによってコイツなわけ……」

「あら、じゃあやっぱり彼なのね?」

「……えっと、斃さなくちゃいけないんですか?」

 アリオスの顔には困惑が浮かんでいた。誰かと戦うよう義務付けられたような『夢』で、まさか猛者ではなく少女達と戦う羽目になるとはつゆほども思っていなかったのである。

 だが、彼のその油断には付け入るすきがあるだろう。侮られていればそれだけやりやすい。アルシェムは念のためにメルを後方待機させ、レンと共に特攻することになった。ティオはメルの隣で支援をお願いする。流石に前衛はやらせられないからだ。武器的にも、事情的にも。

「ま、アレを倒さないと帰れないのは確実なんだし……ねッ!」

 アルシェムはティオにそう告げて――消えた。アリオスは目を見開くが、どこを見てもアルシェムの姿はない。状況を察したレンがアリオスに迫ってきていたので仕方なく彼はレンと相対する。

「……ふうん?」

「な……」

 レンとアリオスとの力の差は大きい。無論アリオスの方が強いという意味で。だが、レンは体捌きと遠心力、その他もろもろを駆使して彼と互角に打ち合い始めた。打ち合い始めたのは良いのだが、彼はすぐにレンに対応してくる。流石はA級というべきか。

 だが、レンに対応されたとしてもそれ以外のことでアリオスの調子を崩せれば良いのだ。気配を消したままのアルシェムはアリオスの背後から静かに殴りかかる。武器を使わなかったのは、先ほどフィリップに反応されてしまったからだ。

「ぐっ……」

「浅かったかなー……ま、でも間は詰められたわけだしね。レン!」

「うふふ、やるのは久し振りよね♪」

 アルシェムの声にレンが反応して。拳のままアリオスに加えられていた攻撃が一瞬だけ逸れる。その隙を見てアリオスがアルシェムに刀を突き出そうとして――思い切り引き戻す。刀の柄から響いてくる硬質な音。

 ちらりとレンを見れば、彼女は意外そうな顔をしながら大鎌を振るっていた。

「あら、危機察知能力はそこそこあるみたいね?」

「うん、そうみたいだね。でも――」

 レンの言葉に答えたのはアリオスでなくアルシェム。そして、今の一瞬の間に彼女の手には一振りの剣と銃が握られていた。アリオスはそれにはまだ気づいていないが、アルシェムとレンに完全にはさまれたことを悟った。

「……それが狙いか?」

 このまま嬲れば確かにアリオスは落ちるだろう。だが、彼もタダでやられるつもりはなかった。そこまで甘く見られているのであればまだ対応できる。その場から飛び退ろうと足に力を込めた瞬間――

「情報を入手しました」

 感情の乏しい声がアリオスの耳朶を打った。その声に聴き覚えがあった彼は思わずその少女の方角を見てしまい――あえなく跳び退るのに失敗する。ちらりと見えた限りでは、他人の空似などではなく確かにあの時の少女だった。何故ここにいるというのか。

 その思考が、ここでは命取りとなる。彼の目前からレンが。そして背後からはアルシェムが攻撃を開始したからである。それも、猛スピードで。いつ補助アーツが掛けられたのかと錯覚しそうになるほどのスピード。彼がいくら刀を振るおうがその攻撃をいなしきることが出来ない。

「最初は――」

「アルからよ!」

 アルシェムが発した言葉に気を取られたアリオスは、背後から叫ばれたレンの言葉に動揺する。未だに彼はアルシェムとレンの名を知らないのだ。何となくは把握しているだろうが、それに確証はない。故に、アリオスが取った行動はレンに向けて刀を振るうことだった。

 アリオスの行動を見たレンが薄く笑いながら大鎌でその刀を受け止めた。

「残念ね?」

「不破・雪牢!」

 アリオスは背後から聞こえた声に、背後から襲い来る攻撃に思わず横に飛び退った。しかし、攻撃から逃れることが出来ない。どういうことなのか理解が追いつかずに、それでも背後の攻撃に対応するために振り向いた。彼の頭上から迫りくる一撃を、辛うじて肩に掠らせるだけで済ませる。

 頭上からの一撃目を喰らってしまい、左下からの二撃目、右からの横薙ぎの三撃目をアリオスが受け止めた時だった。アルシェムは右の脇の下から左手を閃かせてアリオスを近距離から撃った。聊か曲芸じみているのだが、意表を突くときには使えないこともない。アリオスは辛うじてアルシェムの剣を滑らせ、当たらないようにしてその銃弾に対応するために刀を動かす。

 だが、彼が行うべきはその行動ではなかったのだ。何故なら――アリオスが振り向いたせいで背後に回ることになったレンが、少しだけ離れた場所にいたのだから。それは、彼女のSクラフトの一つだった。

 

「うふふ、もう逃がさない……!」

 

 その声にアリオスが振り向いた時にはもう遅かった。急に振り向いたせいでわずかに崩れてしまった体勢のまま、アリオスはレンからの攻撃を受けてしまう。このままでは嬲り殺しにされてしまうと分かっているのに、対応が出来ない。ひとまず抜け出せばいいのだろうが、それをさせてくれるほど彼女らは弱くはなかった。

 そして、アリオスはその後十分ほど粘ったが、《パテル=マテル》からの砲撃とアルシェムのSクラフト、それにティオの魔導杖――簡易アーツをタイムラグがほぼなしで発動させられる杖のことである――から放たれたSクラフトによってあえなく沈むこととなった。

「……む、無念……」

 ぱたり、と音を立てて倒れたアリオスは、そのまま消えていく。そして彼が消えると同時に、彼女らの目の前に映像が広がった。

 

 ❖

 

 七耀暦1198年のことである。カルバード共和国、アルタイル市のとある場所に向かう銀髪の少女がいた。少女というよりは幼女といっても差し支えないかもしれない。ふわりと広がった姫袖のブラウスに、シックな紺色のスカート。そして編上げブーツをはいた彼女は、その顔を謎の仮面で隠している――というところまで視認したアルシェムは遠い目をした。それをやる必要ある? とでも言いたげである。

 だが、映像は止まらない。彼女は手に握った槍を固く握りしめると、正面からその場所に乗り込もうとして――立ち止まった。正面に複数人の何者かがいたからだ。敵ならば全て屠るつもりなのだが、どう見ても彼らはその中にいる人物たちとは違うようであった。

「……ここか」

「ああ……」

 黒髪の妙齢の男性。そしてもう二人は年若い青年たちのようだった。その後ろ姿を見ただけでティオには誰なのか分かったのだが、それを明言することはなかった。ただどこかにいるであろうシスターに見られてはいないかと気にしただけだ。

 映像の中の少女はそんな彼らに背後から近づいて声を掛ける。

「ここに入る気?」

「誰だっ!?」

 少女の気配に完全に気付いていなかったのか、長い黒髪の青年が刀を抜いて振り返った。反射にしては良い動きである。だが、背後の人間が今敵対する気がないかも知れない状況では悪手ではあった。

少女はその刀を指先だけで止めて淡々と言葉を紡ぐ。

「静かにしてよ。こっちは出来るだけ静かに侵入したいんだから」

「……何者だ?」

 改めて誰何したのは妙齢の男性だった。その手にはショットガンを携え、煙草を吐き捨てて問うた。思わず少女はその煙草を全力で踏みにじる。こんなところで吸って臭いでばれたらどうするとでも言いたげである。

 少女はそのまま妙齢の男性に問いを返した。

「そーいうのを聞くんだったらまず自分達が正体を明かせば?」

 すると、妙齢の男性はぴくっと眉を動かした。この少女がもしも敵側だった場合、今正体を明かすのは下策である。仲間を呼び集められて潰されては終わりだ。彼も、彼の部下もそれなりに場数は踏んでいるものの、数で押されては勝てない可能性だってあるのだから。

 だが、茶髪の青年は妙齢の男性の内心を慮ってなおこう告げた。

「そうだな。俺達はクロスベル警察の者だ。俺がガイ、あっちのおっさんがセルゲイ課長、無愛想なのがアリオスだ」

 青年の――ガイの言葉を聞いた少女は硬直した。まさか本気で答えが返ってくるとは思ってもみなかったのだ。少女が有り得ないこととはいえあちら側である可能性がある以上、それを明かすべきではないと彼女でも分かっていたというのに。

 少女は乾いた声でこう返した。

「……ごめん割と冗談だったんだけど、今この状況で普通そーゆーこと明かす?」

「おいおい冗談だったのかよ。あ、でもこっちが教えたんだからそっちも教えてくれるよな?」

 にかっと笑ったガイは少女にそう求める。すると、仮面の下で物凄く複雑そうな顔をした少女は悶々と考え込んだ後、《銀の吹雪》と名乗った。無論名ではないのだが、そこは突っ込んではいけない。所属を語れないというのも恐らくそれで理解して貰えるだろう。

「因みに何て呼べば良い?」

「好きに呼べば?」

「え、ええー……」

 困惑した表情のガイは、その後の少女の行動を止められなかった。正面入り口から外を窺いに来た人間っぽいナニカに見つかるや否や、少女はそのナニカを殺害したのである。

「あ、ちょ、おい……」

「何?」

「……何で、殺した?」

 ガイは真剣な表情で少女に問う。しかし、少女はそれに答えずに内部へと侵入していった。まるでその言葉に返せるものがないとでも言うかのように。セルゲイは慌ててアリオスとガイを急かし、少女を追う。

 しかし――彼らは追いつけない。すれ違うことは出来ても、追いついて殺人を止めることは出来なかったのだ。何せ彼らは子供達の生死を確認しなければならなかったのだから。ただ、少女は子供達には手を掛けてはいないようだった。

 彼らが少女を止められたのは、彼女が最奥にいたる直前になってからだった。ガイが少女を呼び止めることに成功したのだ。

「おい待てって!」

「何? 早くしないと皆死んじゃうんだけど」

「まだ質問に答えて貰ってないぞ。何で殺した?」

 ガイの真剣な瞳に、少女は溜息を吐いてこう答えた。『もう彼らが人間に戻れることはない』と。そして、その中に連れ去られた子供達がいないことも明かした。それを聞いたガイは眉をひそめる。彼女は――やけに、ここについて知り過ぎてはいないだろうか。

 その疑問をガイは少女にぶつける。

「それを知ってるのは――ここにいたことがあるからか?」

「……鋭いんだか鈍いんだか。その言葉に敬意を表して一言だけ。わたしは――とある女の子を探しに来たんだよ。そして、その子はまだ見つかっていない」

 そう言った彼女はそのまま最奥へと突入する。ガイもセルゲイ達を急かして少女を追った。最奥にいたのは――人の形をしていないナニカと中央の祭壇に水色の少女。その水色の少女を視認した少女はその場から消え、人の形をしていないナニカを一瞬にして殲滅する。

「ティオ……!」

 思わず漏れた少女の悲鳴のような言葉を、ガイは一生忘れることはないだろう。点滴をぶった切り、脈を計った少女は震えながら水色の少女を抱き起していた。弱々しく動くその指は――まさしく彼女が生きていることを示している。

「生きてる……」

 弱々しく水色の少女をかき抱いた少女は、仮面の下から涙をこぼした。生きていてくれてよかったと。心の底からそう思った。だが――それと同時に思うことがある。今の自分が彼女と一緒にいることは出来ない。もう二度と、会ってはならない。同じような目に、もう二度と遭わせないためにも。

 故に、少女はガイに水色の少女を託した。

「……この子を、お願い。多分レミフェリアの子で、名前はティオっていうはずだから」

 そうして少女はその場から立ち去ろうとする。しかし、ガイはその手を掴んで止めた。早くしなければティオという名だという少女の命も危ないのだが、目の前の少女を放置するわけにもいかなかったからだ。

「……何?」

「あ、っと、お前この子の知り合いなんだろ? せめて快復するまでは一緒にいてやってくれないか」

 だが、少女の答えは否だった。そんなことをしてしまえば、ティオを再び闇の中へ誘うことになってしまう。故に少女が取る行動は、ガイの手を振り払うこと。ただそのまま立ち去れば良い。そう思ったのに――立ち去ることが出来ない。

 少女はそのままガイの目を見据えると、一言だけ残した。

 

「わたしはもう戻れないけど、ティオまで引きずり込むわけにはいかないから」

 

 その一言で未練を断ち切って、少女はその場から消えた。ガイは周囲を見回し、病院にティオを預けてからも幾度となく少女を探し続けたが――彼の生きているうちには、遂に彼女を見つけることは叶わなかった。




 この時点でも既にかませ化しているあたり何とも言えん。

 では、また。

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