雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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旧75話~77話半ばのリメイクです。
ジークさんマジ便利。そしてどうしてこうなった。

前話をもってお気に入り50&UA10000到達しました。皆様本当にありがとうございます。

では、どうぞ。


王城の地下に眠るモノ

 ようやく特務兵たちを全員捕縛し終えたヨシュア達は急いで女王宮へと向かっていた。というのも、彼らが退治した特務兵の中にベルガー少尉が混ざっていなかったからである。ついでにカノーネも。もしかしたら、エステル達が危険かも知れない。そう考えるとヨシュアは飛んでいきたくなるのだが、今ここで素の身体能力を見せるわけにもいかない。だからこそ焦って駆け付けたのだが――

「……何コレ」

「いやはや……女性というのは恐ろしいねえ」

「……え、エステル……流石はカシウスの旦那とレナさんの娘御だな……」

 そこで彼らが見たのは、エステルに説教されているアルシェムだった。また無茶をしたのだろうというのは比較的すぐに分かったのだが、怒られている内容がイロイロおかしすぎて判断に困る説教でもある。

「大体ねえ、何だってあんなに挑発してんのよ! も、もしかしたら死ぬかも知れなかったじゃない!」

「死んでないから問題ないね」

 などなど。主にエステルがアルシェムの不用意な行動に注意をしているはずなのだが、いつもとは違ってアルシェムは甘んじて説教を受けているわけではないというのがヨシュアにとって違和感だった。一体何があったのか、と聞こうにも荒ぶるエステルを止めることもままならないためそのまま説教を流し聞いていると、とんでもない言葉が次々と飛び出してくる。

 ロランスとアルシェムが戦った。まあそれはイイ。互角に戦ってみたり言い合いをしてみたり挑発をしてみたり最終的には吹き飛ばされたり。一体アルシェムは何をしているのだろうか。ヨシュアはそう思って遠い目で空を見上げた。今日も空が綺麗である。

 と、そこでエステルに反抗していたアルシェムが話をそらすように女王に話しかけた。

「聞きたいことは恐らく大量にあるでしょーが、それは後で。今はそれよりもリシャール大佐の確保に動かないといけません」

「アル、まだ話は――」

「エルベ離宮にも王城の中にも姿が見えないとなると、急がなくてはなりませんね。申し訳ありませんがエステルさん、お説教は後になさってください。事は一刻を争うのです」

 エステルの言葉を遮った女王はエステルにそう告げ、そして駆け付けて来たユリアにエステル達を地下の宝物庫に案内するように命じた。ユリアに先導された一行は地下の宝物庫に向かい、何者かが出入りした痕跡を横目に見つつ内部に侵入する。すると、そこには――

「な――こんなもの、この前まではなかったはずなのに!」

 そこにあったのは、地下に通ずる昇降機。ここまで探してリシャールが見当たらない以上、ここにいる可能性が高い。それを知ってエステル達は何とか昇降機を動かそうと試みるが、導力式のロックがかかっていることが判明した。

「そ、そんな……」

 途方に暮れる一行から一縷の望みを掛けられたアルシェムはロックの方式を見て顔をしかめた。今は材料がない、というよりも何度も大量に水(のようなもの)をかぶってしまっていたため、アルシェムの持っている道具はショートしてしまっている可能性が高いのである。

 と、そこでアルシェムはとある気配に気づいて宝物庫の入口を仰ぎ見ながらこう告げた。

「この程度ならすぐって言いたいとこだけど、生憎カードキー方式のは道具がないと無理かなー。っつーわけで博士、出番ですよ」

「何じゃい、この程度すぐに解決できるじゃろうに」

 溜息を吐きながら現れたのは、何とラッセル博士だった。アガットとティータも一緒に来ていたようで、アガットはクローディアとコントのような会話を繰り広げていた。

 そして、博士の手によってロックは外される。昇降機に乗り込んだ一行――何故か女王も乗り込もうとしていたが、地方から舞台が王城奪還のために駆け付けて来るという急報を聞いて断念していた――はそのまま地下へと降りた。

 そこに広がっていたのは――古代文明の遺跡であった。しかも、淡く光っていることから未だに稼働しているらしい。時間がないのは確かであるが、探索を行う必要もあると判断したため、エステル達は拠点確保組と探索組に分かれることになった。なったのだが――ここで、問題が発生してしまった。

「ピュイっ」

「ジーク、待って、ダメ!」

 クローディアの制止も聞かず、ジークが隙を見つけたとばかりにアルシェムに襲い掛かったのである。それをアルシェムは余裕を持って躱すが――初見の場所でそんなことをすれば何が起きるか分からないというのに迂闊に動いたのが問題だったのだろう。

「あ、アル、後ろ!」

「へ……ちょ、ま、待てって言ってんでしょーがぁー!」

 がぁー、がぁー、がぁー、とアルシェムの声は反響して消えていく。アルシェムの背後には地面がなかったのである。ジークに思いきり押されたアルシェムは、そのまま遺跡の中を落下する羽目になった。ジークが高らかに鳴いたのを、アルシェムは確かに聞いた。

 

「ピュイイイイッ!」

 

 俺の勝利! じゃねえよ! とアルシェムは思ったらしい。ワイヤーを駆使しながら落下していくアルシェムは、ある意味最速で遺跡を踏破していた。地面を踏んではいないのだが、深部に至るという意味で。

 最深部に辿り着いたアルシェムは身を潜め、待った。アルシェムとしては《輝く環》が出現しても何ら問題ない。というよりは出現して貰わなければ困る。そのため、単独で動くのは危険だというのを免罪符にして完全に気配を消し、リシャールの様子をただ見守っているのだった。

 

 ❖

 

「ど、どうしよう……」

「え、えっと……た、多分大丈夫だと思うよ……ほ、ほら、今までだって相当危ない目に遭ってきたのに生還できてるし」

 途方に暮れるエステルをヨシュアが慰める。微妙に自信なさげなのは、アルシェムが例外なく酷い目に遭ってきたのを知っているからだ。別に彼としてはアルシェムがどうなろうとエステルが無事でさえいればいいのだが。

 クローディアが今にも泣きそうになりながらエステルに謝罪する。

「す、済みません……! ジークがとんでもないことを……!」

 しかし、それに返答したのはエステルではなかった。何かに気付いたヨシュアがエステルを制したのだ。

「クローゼ、多分アルは生きてるよ」

「え……」

「ほら、これ」

 ヨシュアが指し示したのは、近くの柱に刺さっているらしい爪状の物体。それには、透明な糸が結び付けられていて柱に巻きついているようだった。それは紛うことなくワイヤーである。

「これで、アルシェムさんは体を支えている、と……?」

「いや、多分……」

 キン、と音を立ててその爪が外れ、落下していく。ヨシュアの目にはそのワイヤーが一瞬緩んだのが見て取れた。つまり、アルシェムが自分で外したのである。だからこそ生きていると確実に言える。何故そんなものを常備しているのかというのには首を傾げるが。

「うん。やっぱり自分で外したみたいだ」

「えっと、じゃあ先に進めばアルと合流できるってことよね?」

「多分ね。もし合流できない場所にいたとしても、最悪今の道具さえあれば移動には困らないはずだから」

 それを聞いて一安心したのか、クローディアはほっと胸をなでおろして膝を付いた。どうやら気が抜けてしまったらしい。そんなクローディアの様子を見つつ、エステルは皆に指名されて探索のリーダーを任されたために探索組を決めた。

 何となくカンがしばらくはリシャールにかち合わないと囁いていたため、エステルは探索組を決めるのに少しばかり悩んだ。ジンは温存しておいた方がよさそうであるし、オリビエは帝国人であるためそもそも内部をうろつかせてはいけない気がする。ティータは論外、アガットは温存しておいた方がよさそう、などなど考えた末、エステルは探索組を決めた。

 探索組はエステルとヨシュアが確定しているため、選ばれるのはあと二人となる。それに選ばれたのは――シェラザードと、結局アガットだった。連れて行くにあたって論外だったのは勿論ティータとクローディアである。ティータは度胸はあっても、エステルとしては未知の場所を連れまわすのは怖い。クローディアも以下同文。オリビエは信用できるとはいえ口が軽そうなイメージがあるためにあまり内部をうろつかせたくはないし、何より事故があっては問題になりそうである。自然と選択肢は遊撃士だけに限られ、ジンかアガットかシェラザードを残すことになると考えた。そして、エステルが選んだのはジンをティータ達の護衛として置いて行くことであった。

 そして、エステル達は探索を開始する。襲い来る人形兵器には驚いたものの、先ほどのベルガー少尉との戦いで消耗していないエステルにとってはほぼ敵ではない。ばったばったと薙ぎ倒して先に行き止まりや昇降機のある分岐に目印をつけつつ進む。

 セピスをいちいち拾い集めるのは面倒であるため、それは拠点確保組に任せた。いくつかの部屋からは強力な武器、というか古代遺物が何故か宝箱に入れられて保管されているという謎の光景が見られたがそれはどうでも良いだろう。宝箱を開けるとどうやってその中に潜んでいたのだという人形兵器もあったがご愛嬌だ。

 途中、女狐ことカノーネを確保しつつシェラザードからジンへとメンバーを入れ替えたエステル達は先へと進む。カノーネがいたことによってその先にリシャールがいるのは確実となったため、急いだのだ。

 そして――結局、アルシェムとは合流できずにエステル達は最深部へと突入した。

 

 ❖

 

「……ようやく、念願が叶う――」

 リシャールは手に持ったゴスペルを装置に設置した。このまま待てば、リシャールの望む《輝く環》が出現するはずなのだ。誰から聞いたのかすら思い出せないその情報をうのみにしたまま、リシャールは破滅へと突き進む。

 彼は知らない。ゴスペルをその装置に使っても――《輝く環》そのものは出現しないということを。その様子を冷たい目で見ている人物がいることなど、リシャールは知らなかった。

 

 ❖

 

 エステル達が出現するのを待っていたアルシェムは、ジークの存在に気付いて顔をしかめた。このまま出て行けば話どころではなくなってしまう。ジークに突かれて終わりだ。そのため、アルシェムは敢えて姿を見せずにリシャールの背後に回り込もうとしていた。

 アルシェムの耳にはリシャールの語る『奇跡』とエステルの語る『奇跡に見える可能性』が聞こえていた。そんな綺麗事だけで全てが終わればどれだけ楽だっただろうか。全ての人間の行動が作用して、奇跡を産むこともあれば惨劇を産むこともある。そして、その軌跡がこの世界を形作っているのだ。

 アルシェムはその『奇跡』という都合の良い言葉を嫌っていた。奇跡が起こったというのは結果を見た人間が言うもので、その裏で犠牲になった人間からすれば奇跡でもなんでもないただ起きるべくして起きたことに成り下がる。『正義』も同じだ。都合も耳触りも良い言葉は、時に全てを貶める。それが嫌いだった。

 だからこそ、リシャールの求める奇跡が虚構のものであると教えたくなったのかもしれない。何故かアルシェムには分かってしまったその事実を、彼女は衝動のまま口にした。

「奇跡。都合の良い言葉だよねー。でも残念。多分ここには《輝く環》なんて存在しない」

「何!?」

 リシャールが背後を振り返った時、既にゴスペルは装置の上にはなかった。アルシェムが手でもてあそんでいたからである。ぽーん、と頭上に投げあげ、落下してきたゴスペルを受け止めたアルシェムはリシャールに投げつけながらこう告げた。

「こんな障害があるだけの場所に、本当に《輝く環》が眠ってるとは思えないんだよね」

「……君は知らないかもしれないが、ここには大量の人形兵器が眠っていたのだよ。排除しきれなかった分に関しては導力技術を駆使して使役している」

「別に時間を掛ければ粉砕できるわけだから、たったそれだけの警備で至宝を眠らせておくってのも疑問なわけでさ」

 装置を横目で見ながらアルシェムはそう零す。しかし、リシャールはその言葉を受け入れようとはしないだろう。

 ――分かっていた。どうやってリシャールがここのことを知ったのか。彼がここのことを知るためには――誰かの入れ知恵がなければ不可能だという事実を、アルシェムは知っていたのである。その誰かが誰であるのかすら、アルシェムは推測出来ていた。

 アルシェムの言葉の途中にリシャールの手の中でゴスペルが鈍く輝いた。その光は部屋中に広がり、何かを解放した。少なくともアルシェムはそう感じたし、それは事実でもあった。

 そして、それを裏付けるかのように――装置が言葉を発した。

 

「全要員に警告します……《オーリオール》封印機構における第一結界の消滅を確認。封印区画最深部において《ゴスペル》の使用があったものと推測。《デバイスタワー》の起動を確認しました」

 

 その言葉に、誰もが動くことが出来なかった。何が起きるのかわからなかったため、身構えることしか出来なかったのである。そんな中――言葉を発するものがいた。無論、アルシェムである。

「あーあ、そーいうことか。道理でここまで警備が緩いわけだよ」

 アルシェムの言葉にも誰も応えることが出来ない。何となく理解出来ないことはないが、頭がついて行かないのだ。ここに《輝く環》はない。少なくとも、今は出現する様子がないことだけは分かるのだが。

 四方に立っていた柱が地面に沈み込み、地面と同化する。一体何が起きているのか。リシャールですらもその事態を把握しきれていなかった。何故か把握できてしまっていたのは――アルシェムだけ。

 装置が言葉を続ける。

 

「《環》からの干渉波発生……《銀色》より対抗波の妨害を確認。《環の守護者》の封印、限定解除されました。全要員は可及的速やかに封印区画から撤退してください」

 

 その言葉に続き、この部屋の壁だと思われていた場所が割れる。そこはどうやら扉だったようである。そこから現れたのは――巨大な人形兵器だった。そして、その人形兵器すらも耳障りな合成音を発して告げた。

 

「再起動完了……《娘》の存在を確認……MODE:捕縛・連行に変更……座標確認、封印機構施設最深部……《環の守護者》トロイメライ、これより周囲の人間の排除と《娘》の奪取を再開する」

 

 その言葉が発された瞬間――トロイメライと名乗った人形兵器の背後から、もう一体同じ型の人形兵器が現れた。どうやら《環の守護者》は本気らしい。封印が限定で解除されたとはいえ、することは変わらないようだ、と何故かアルシェムはそう思った。

 動揺からようやく復帰したヨシュアがリシャールに問う。

「た、大佐……これは一体!?」

「い、いや……これは私も想定していなかった……!」

 リシャールは困惑したようにトロイメライを見ているが、どうやら襲い掛かってくるらしいと分かれば刀を抜いた。従えるのではなく斃す道を選んだらしい。

 エステル達も各々が武器を抜き、構える。エステル達もリシャールも、今は気持ちは一つだった。この人形兵器を排除しなければならない。そのためには――今リシャールを拘束しなくても構わない。リシャールにしてみても、今彼女達を無力化すれば自分が生きて帰れるか分からない。だからこそ、彼らはどちらともなく協力することにしたのである。

 そうして――『クーデター』の最終幕が今、始まった。




前回からの変更点
→トロイメライさん達の言葉
→トロイメライさんの数
→リシャールさんと共闘
→トロイメライさんとちゃんとした戦闘になる(!)

ほんと、どうしてこうなった。書いてたらトロイメライさんがいつの間にか増えてしかもリシャールが頑張ってくれた。何を(ry

今後の展開にはあんまり関係ないので良い、よね……?

では、また(逃亡

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