雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

44 / 192
旧71話前半のリメイクです。
短くすると言っておきながら前作の一話の半分しか内容がないという……どゆこと?
しかも後半、あまりにも長い説明(切れなかった)が入るという。原作既プレイしていれば分かる話を文章で取り敢えずまとめると超絶長くなる件。

では、どうぞ。


レイストン要塞、急襲

 見る見るうちにアガットの顔色が悪くなってきたことが分かり、急いで医務室に担ぎ込んだ後。アガットの容体について医務室付きの医師ミリアムが下した判断は、七耀教会に頼るしかないというものであった。しかし、七耀教会を訪ねてみたものの材料を切らしており、すぐには処方できないことが分かった。その材料はカルデア隧道の途中にある鍾乳洞に生える『ゼムリア苔』なる苔だという。

 エステル達は遊撃士協会に依頼したことがあるというビクセン教区長の言葉に従って一度遊撃士協会に戻り、キリカに情報を貰って鍾乳洞へと向かうことになった――先ほどアガットを運んでくれた巨体の遊撃士ジンと、無茶な動きをしないと約束させられたアルシェム、そしてどうしてもアガットのために動きたいと懇願するティータと共に。

 鍾乳洞に入ったアルシェムは、最短距離でゼムリア苔を採取すべくわき道をすべて無視して道筋を指し示して行った。

 それを見て、エステルがいぶかしげにアルシェムに問う。

「……何でアルが知ってんのよ?」

 それに、アルシェムは遠い目をしながらこう答えた。

「手配魔獣の温床だったり犯罪組織の温床だったりしたから、ここ」

「物騒すぎない!?」

「こういう人の寄り付かないとこって結構そういうのが多いんだよねー」

 はっはっはっは、と笑いながらアルシェムはさくさくと誘導を続ける。無論、途中の魔獣たちは殲滅されていた。ジンは顔をひきつらせながら内心で思う。やっぱこいつらカシウスさんの子供達だ、と。

 ジンはそこでふと気になったことをアルシェムに問うた。

「お前さん、遊撃士協会の協力員だったとキリカが言ったが……今、いくつだ?」

「ジンせーんぱい。レディに体重と年齢を聞くのはマナー違反ですよ」

「う……す、済まん」

 ジンは怯んだようにそう答えた。確かにデリカシーがない、空気読めとは何度も言われた。しかし、まさかエステル達とも年齢が変わらないように見える小娘にそれを言われるとは思ってもみなかった。それにヨシュアは苦笑し、エステルは首を傾げてこう告げた。

「えっと、確かヨシュアよりぎりぎり年下だったんじゃないの?」

「エステルェ……ま、いっか。ヨシュアよりも多分五日ほど年下かな」

 溜息交じりにアルシェムがそう零すと、ジンは眉をひそめてこう問い返した。

「多分?」

 その言葉に、エステルとヨシュアは顔を見合わせた。そう言えばそうだった。アルシェムには記憶がない。ということは、当然誕生日も明白ではないわけで――エステルが慌ててフォローしようとしたが、アルシェムは少しばかり大きめのペンギン型魔獣を一撃で仕留めてこう返した。

「拾われた日が誕生日らしいですよ。小さい頃は毎年雪の降る中で祝われていたので」

「……済まん」

 ジンはしょげ返ってしまったが、エステルとヨシュアは眼を見開いていた。というのも、アルシェムから過去のことを明白に聞けたのはこれが初めてだからだ。今までは何を聞いても記憶がないの一点張りだったのだから。

 エステルが動揺しながらアルシェムに問う。

「え、えっと……アル、思い出したの?」

「ちょっとだけね。もーちょっといろいろ思い出してから話そうと思ってたんだけど、まーいい機会だったかな。……っと、前」

 アルシェムはそう言って前方を指し示した。そこには――

「わあ……」

「綺麗……」

 エステル達が持ち込んだ明かりで美しく輝く地底湖が目の前に出現した。岸壁から露出しているらしい紅耀石がその光を増幅して周囲を幻想的に照らし出す。しばしその光景に見とれたエステル達だったが、我に返って『ゼムリア苔』を探し始めた。ゼムリア苔は七色に光り輝く発光植物である。岩場に近づき、地底湖に落下しないように固まってから明かりにカバーをかぶせると、すぐに見つかった。目の前が美しい七色に輝いたからである。

 それを採取し、急いでツァイスへと帰ろうとした瞬間だった。アルシェムとジンは身構え、次いでヨシュアが双剣を抜いた。すると――

 

「クエーッ!」

 

 奇声を上げながら登場したのは、大型のペングーだった。それを見たアルシェムは途轍もなく遠い目をしながらその場を飛び出した。

「え、ちょっとこらアル!?」

「目つぶしかーらーのー、吹っ飛べ!」

 慌てるエステルをよそに、アルシェムはオウサマペングーに銃弾で目つぶしをしてバランスが崩れたところを蹴り飛ばした。面白いような勢いで飛んだペングーはそのまま何故か対岸に開いていたらしい穴に突っ込み、そのまま奥へと消えていく。

「悪は滅びた!」

「多分それ絶対違うからね!?」

 ヨシュアに突っ込まれつつ、あの魔獣を狩りに行くすべもないことからそのままツァイスに帰還することになった一行。途中の魔獣たちはすぐさま蹴散らされ、ビクセン教区長にゼムリア苔が渡されたのは未だ日付も変わらない頃。結局、その日の夜のうちにアガットへと薬を届けることが出来た。

 そして――ティータがアガットを看病している間。エステル達は体力を温存してラッセル博士の救出に動くべく体を休めていた。アルシェムはツァイス市街に戻るなりラッセル邸へと向かおうとしたのだが、エステル達に連行されてたらふくご飯を詰め込まれたあと、遊撃士協会の階上で眠らされることになった。

 エステル達もラッセル邸ではなく遊撃士協会で眠り、ヨシュアがどこかへと消えて戻ってくるのをアルシェムは気配だけで察した。ここまでくるともう明白だ。ヨシュアは敵と――《身喰らう蛇》と繋がっている。そのことに内心で溜息を吐きながらアルシェムは体を休めた。

 そして、次の日。エステル達は早起きし、ジンを見送ってから遊撃士協会へと舞い戻っていた。ラッセル博士を連れ去った飛空艇の情報が王国軍から来ていないか確認するためだ。

 アルシェムは昨夜から言い出せなかったことを、ようやく口に出来た。

「あー、えっと……博士の行方、頑張ったらわかりますけど」

「え……」

「あ、あんですってぇー!?」

 エステルはアルシェムを掴んでがくがく揺さぶり、何故それが分かるのかを問い詰めた。アルシェムはエステルをいったん止め、未だ治っていなかった貧血で頭がくらくらしながら答える。

「発信器、仕込んでたの。何があっても良いようにね。だから痕跡をたどられても困らない博士の家で追おうと思ってたのにエステル達ってば問答無用で連行するし……」

「……う、ごめん」

「そういうことならアルシェム、貴女はすぐにその発信器の場所を特定しなさい。くれぐれも一人で向かおうなんて思わないように」

「分かってますよ」

 アルシェムはキリカにひらりと手を振ると、勝手知ったるラッセル邸へと向かった。中に侵入すると、早速機器を使って発信器のある位置を割り出す。座標を出し、方角を見定めて――そして、指し示す場所を特定して顔をしかめた。

「……レイストン要塞、か」

 アルシェムは地図と解析結果を持ったまま遊撃士協会に戻り、キリカに報告する。エステル達は別の情報――ドロシー・ハイアットが訪ねて来てレイストン要塞の写真を撮っていたらしく、そこに飛空艇がうつりこんでいたのをエステルが発見した――をもとにレイストン要塞に揺さぶりを掛けに行ったようだ。

 アルシェムは結果をキリカに説明し、そして推測をまとめるために情報を口に出した。

「もしも軍が――いや、ここまで来ると多分正規軍じゃない、非正規軍のうちの誰かがこの状況を望んでいるんだとしたら何を目的にしてるか」

 その言葉に、キリカも呟きを返す。協力員の時にやった方法だ。情報をキリカに話せば非常にまとめやすいのだ。キリカしか知らない情報だってたまに漏れてくる。

「額面通りにとらえれば黒のオーブメントをどうしても解析しなければならない状況にあるわね」

「じゃー、何でそれを解析しなくちゃいけないの。この国で導力止めて軍が得する場所なんて……あるかも」

 アルシェムはふと思い出してしまった。かつて酒の席でラッセル博士が洩らした言葉を。グランセル王城の地下にある、巨大な導力反応のことを。もしもそれすらも止められるのだとしたら。アルシェムは眼を見開いて震えた。

 キリカはそんなアルシェムを見て告げる。

「導力で封印された兵器でも取り出したいのだとすれば危険だけど、今のリベールの情勢ではそれは有り得ないのではないかしら」

「いや、女王陛下は高齢だよ、キリカ。次期国王の選定の時期が近づいてる……国が、揺らぐ時かも」

「もしその想像が当たっていたとするなら、危ないのは傀儡にしにくいクローディア殿下の方でしょうね。ついでにクローディア殿下と懇意にしている親衛隊を貶めているというのも理由になるかしら」

 キリカは難しい顔をしてそう零す。アルシェムには何のことだか分からなかったが、恐らく黒装束たちが親衛隊の格好で逃亡したのだろう。そうでなければここでそんな話は出ない。ということは――

「そうなると――クローディア殿下が危ないわね」

「国家不干渉だから助けに行くなって?」

「いいえ。クローディア殿下を確保する際に周囲の一般人に被害が行く可能性があるから出来れば救出に向かった方が良いわ」

 キリカはそういうと飛行船公社に連絡を入れ、王都グランセル行きのチケットを確保した。そしてアルシェムに向けてこう告げる。

「本当なら正遊撃士に頼むべきなんでしょうけど、事情を知った上で今すぐに動けるのは貴女だけ。よって、アルシェム・ブライトに依頼するわ。クローディア殿下を発見し次第遊撃士協会まで護衛なさい」

「分かりました。すぐに発ちますんでエステル達には説明お願いします」

「分かったわ」

 キリカはアルシェムに向けて必要経費としていくばくかのミラを手渡すと、すぐに遊撃士協会を発たせた。アルシェムはそのまままっすぐに空港に向かい、グランセルへと一足先に旅立ったのであった。

 

 ❖

 

 レイストン要塞でマクシミリアン・シード少佐に揺さぶりを掛けたエステル達。運よく導力停止現象が起こったため、そこにラッセル博士が囚われていることが確定的になったことを受けて遊撃士協会に帰還し、キリカと彼女を訪ねて来ていたマードックに報告をした。

 すると、そこに毒から快復したアガットと連れ立ってティータが現れたため、エステルはアガットに乞われて同じ説明を繰り返した。遊撃士規約第三項で軍への干渉は認められていないのだが、ラッセル博士は民間人。ならば遊撃士協会第二項を抜け道として救出に向かうことが出来る。その代償に中央工房は王国軍と敵対したと言われても仕方のない立場におかれることになるだろうが、マードックは救出を依頼した。マードック曰く、ラッセル博士はリベールにとって欠かせない人材だからだそうだ。

 そうなると救出方法を探る必要があり、手段を探しているとティータがあることを思い出した。きっかけはエステルの発言。引き金はマードックの返事だった。工房船《ライプニッツ号》で潜入できないかとエステルが提案して否定され、アガットが積み荷に紛れても無理かと問うたその返事が、ティータに天啓を齎した。

「あ、あのね、お姉ちゃん……おじいちゃんがね、お姉ちゃん達が来る前に完成させてた発明が使えると思うんだ」

 それは――生体感知器の走査を妨害する装置。エステル達がラッセル家を訪ねる直前に博士が作成していたオーブメントである。黒のオーブメントを調査した後にこっそり博士が動作実験をしていたので動くのは間違いない。ティータはその装置が存在することをキリカに訴え、念のためにエステル達を護衛としてラッセル家へとその装置を取りに戻った。家は荒らされていなかったため、比較的すぐに手に入れることが出来た。

 その装置を持って遊撃士協会へと戻り、潜入のプランを立てるエステル達。ティータにしかその装置は動かせないことをアガットが知ると反対したが、それ以外の手段がないことを盾にティータは同行する権利を得た。

 そして――エステル達は、工房船に乗ってレイストン要塞をめざし、同乗していたグスタフの機転によって細かいチェックを免れてレイストン要塞へと降り立った。見張りを躱し、事前に見当をつけておいた場所へと進んでいく。

 幸い、誰にも見つからずにその場所――中央の研究棟に辿り着いたエステル達。鉄格子のはまった窓からちらりと内部を覗き込むと、そこにはラッセル博士と情報部のリシャール大佐、そしてカノーネ・アマルティア大尉がいた。

「ラッセル博士……本当にありがとうございました。《ゴスペル》の制御方法を突き止めていただいたおかげで我々は先に進めそうです」

「ふん……やはり貴様が黒幕じゃったか、情報部の司令リシャール。カシウスが知ったらぶん殴られるぞ」

 交わされる会話。カシウス・ブライトの行先を探しているという情報。ラッセル博士が黒のオーブメント――《ゴスペル》の制御方法を解明してしまったということ。そして途中で入ってきたロランスという名の男がもたらした、『白き翼が網にかかった』という情報。

 それに次いで、リシャールが博士にこう問うた。

「それにしても、博士……あのような殺人者を庇うなど何をお考えだったのですか」

「殺人者? はて、心当たりなど全くないのう」

「とぼけないでいただきたい。アルシェム・ブライト――あの、小娘のことですよ」

 それを聞いて一同は息を呑む。エステルは今にもどういうことだと問い詰めたくて仕方がない様子だった。しかし、耐える。今行っても間違いなく博士を救出することは出来ないからである。

「あ奴は記憶を無くしておる。それを追及するのは筋違いじゃろう」

「私にはそうとは思えないのですよ。あの娘は――何かを隠している。七耀教会とも繋がっているようなそぶりもありますしね」

 リシャールの言葉にアガットは眉をしかめる。確かにアルシェムは何かを隠しているだろう。しかし、それがスパイだのなんだのという性質のものであるとは思っていなかった。

「じゃったらどうした。また誰かを殺しに行くとでも思っておるのか?」

「いえ、そうならないように手は打つつもりですよ。そのための駒も用意できそうですから」

 そう言ってリシャールはアマルティア大尉とロランスを促して博士の監禁部屋から辞した。

 その会話を聞いていたヨシュアは――実際には、その男の声を聴いてであるが――呆然とした。何故、この声に聴き覚えがあるのか。そして、何故この声の持ち主がこんなところにいるのか。だからヨシュアはエステル達の会話を聞きのがした。ただし状況を見て扉の前の見張りを倒すことは見当がついたのでそう返し、双剣を握りなおして機を測る。すると――その見張り達自身が正体を明かしてくれた。

「俺達情報部の隠密部隊《特務兵》は王国のため、理想のために大佐の手足となって動くことが使命だろ? 爺さんの見張りであっても気は抜くなって」

 それを聞いたアガットは飛び出そうとするが、ヨシュアに止められる。ヨシュアは足元にあった石ころを拾って彼らの気を逸らし、背後に立って一撃のもとに昏倒させた。そして装備を取り上げ、縛り上げて研究棟に押し入り、ラッセル博士と交代で監禁してから脱出を始める。ラッセル博士の要請で《カペル》のユニットを取り出してティータが保管するなどという時間もあったが、概ね順調に脱出できそうである。

 そう油断した、その時だった。部屋に監禁したはずの特務兵が懐から何某かを取り出し、地面にたたきつけたのは。とたんに響き渡るサイレン。巡回を始めさせるシード少佐。エステル達は中央の研究棟のあるエリアから抜け出せなくなってしまった。波止場から逃げるのは諦め、身を隠しながら脱出方法を探るエステル達。

 そして――最終的に辿り着いたのは、よりによって司令部だった。兵士達が丁度報告のために戻ってこようとしており、万事休すと思いきや――

「来い、こっちだ!」

 男の声が響き、エステル達はそこに活路を見出した。もとよりそれ以外に選べる道はない。声に誘導されながら辿り着いた先は、司令室。そして中で待ち受けていたのはシード少佐だった。ヨシュアに指示して扉の鍵を閉めさせると、手短に事情を話して脱出の準備をさせる。

 そして、シードはエステル達に自分とリシャールが元カシウスの部下だったことを明かすと時間稼ぎのために動くことを確約した。エステル達はそのまま脱出口を使って脱出し、ラッセル博士は無事に救出された。

 そのままラッセル博士とティータを逃がす必要があるためにアガットは彼らを連れて逃亡することを決め、少数で動かすためにエステル達に手を引かせた。それを引け目に感じるエステルには博士がアリシア女王陛下への面会を依頼し、彼女に《ゴスペル》について伝えてほしいと言った。エステル達はティータと別れを惜しんだが、あまり引き留めては危険なので程々で済ませて遊撃士協会へと帰還した。

 

 ――かくして、歯車は廻る。




はっはっは……一日でこいつら頑張り過ぎだろうとか突っ込んだら負けです。

では、また。次は閑話を挟みます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。