雪の軌跡・リメイク   作:玻璃

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 旧171話のリメイクです。


推測/確定された結果

 ロイド達と別れ、支援課ビルに一度戻ってきたアルシェムは脅迫状の内容を思い返していた。『公演を中止しなければ《炎の舞姫》に災いが降りかかるだろう――銀』。ここで重要なのは脅迫状の内容などではない。差出人の方である。アルシェムはある事情により、その人物のことを知っていた。何故なら《銀》は、その脅迫状を持って依頼に来たその当人なのだから。

 ここで調査すべきなのは、誰が《銀》を騙って脅迫状を出したかである。そもそも《銀》本人が脅迫状を出すことなど有り得ないのだ。何故なら《銀》とは、東方人街の魔人の総称であり、根本的に暗殺者であるからだ。《怪盗紳士》ことブルブランのような劇場型犯罪者ではなく、どちらかと言われると《漆黒の牙》ヨシュア・アストレイに近い。その存在すらも悟らせずに対象を暗殺するのが《銀》。依頼人が存在しようが、そもそも《銀》を知っている以上はその存在を隠匿するだろう。脅迫状を書く意味がない。

 つまり、その脅迫状を書いた人物は《銀》の名を知っていながらも、その暗殺者という特性を知らない/活用しようとしない人物であるということだ。そういう意味では、一番に黒幕と思われる《黒月貿易公社》――東方系マフィア《黒月》は犯人足りえない。もしも彼らが本当に《銀》とコンタクトをとれていたとしても、彼らにとって《銀》はいわば虎の子である。たかがイリア如きに駆り出すような人物ではない。そもそもイリアを襲撃したいのならば夜道にこっそり襲撃すれば済む話である。

 かといって、イリアに恨みをもつであろう人物――彼女に手を出そうとして思い切りビンタされた《ルバーチェ》会長のマルコーニが関わっているかと言われればそれもおかしい気がする。確かに警察関係者に《銀》の存在を知らしめるためには有効かもしれないが、それが《ルバーチェ》にとって得になるかと言われると疑問である。後々に使おうと思えば使えるカードにはなるのだろうが、それとイリアに復讐するのとは別の話だ。

 そこまで考えてアルシェムは溜息をついた。

「……ふー……イリア・プラティエを害する必要がある人物、ねー……」

 そんな人物がいるとするのならば、劇団《アルカンシェル》内のはずだ。だが、もしもイリアを主役から引きずり落としたいのだとしても、脅迫状の内容がオカシイ。公演を中止した時点でイリアの代役は――もしそんなつわものがいたとしても――表に出られない。何せ、その公演は中止されているのだから。故に、内部犯であればこう書くはずなのだ。『イリアを降板させろ。さもなくば彼女に災いが以下略』と。そういう意味では、内部犯である可能性はほぼない。

 もしも本当にあの脅迫状を出したのが《ルバーチェ》だとすれば。イリアの身はかなり危険だろう。そういう意味では特務支援課が警護に就くというのは少々危険であるともいえる。流石に大勢のマフィアどもを相手取れるほど、ロイド達は強くはないのだから。そこにアルシェムが加わったとしてもあまり結果は変わらない。アルシェムは戦うことは得意だが守ることは苦手なのだから。

「……潜入、か」

 そうつぶやいたアルシェムは、仮面をつけつつ目立たない服に着替えてその場から姿を消した。同業者がいれば気付かれるのだろうが、気付かれた方がむしろ話は早いだろう。万万が一《銀》が脅迫状を出していた場合、彼女が《ルバーチェ》周囲をうろつくことはないのだろうから。正体は明かさないまでも情報交換が出来れば上々だ。そう考えたアルシェムは、《ルバーチェ》のビルへと気配を消して侵入した。

 《ルバーチェ》のビルの中でアルシェムが探すものはというと、帳簿だ。裏帳簿でも普通の帳簿でも良い。ここ数か月以内に帳簿さえあれば《ルバーチェ》が黒幕かどうかは確定するだろう。彼らが黒幕ならば、そこには共和国あるいは彼女にむけて支払われた痕跡が必ず残っているはずなのだから。帳簿を見つけ出すのにはさして時間は必要ない。隠す場所は大体分かっている。

 ついでに、いい機会なのでアルシェムは《ルバーチェ》内を探索することにした。気配を消しているので誰にも見とがめられることはないのだが、ばれれば普通に不法侵入で逮捕である。要はばれなければ問題ない。その考えで、アルシェムは帳簿を探しつつ内部を探索する。あからさまに仕掛けが必要な場所は無視して、抜け道を探しながらの作業である。

 その内部には、かなりの数の違法な物体が存在した。武器は当たり前に置いてある――クロスベル自治州内で武器を持つことができるのは警察官か遊撃士、警備隊員または武器携帯許可証を持つ人間だけである――上に、恐らくリベールから持ち込まれたのであろう飛び猫という名の魔獣、それに人形兵器まで。これを公に出来れば普通に《ルバーチェ》を潰せるだろうと思えるだけの物証がそこにはあった。

 そして、目的のブツ――帳簿を手に入れたアルシェムは、念のために数年分ほどを音が出ないように改造してあるオーバルカメラで撮影してその場を後にした。《ルバーチェ》ビルから脱出したところでアルシェムはとある気配に気づく。相手も気づいてはいるようだが、個人の特定にまでは至っていないようだ。それを幸いとアルシェムはその人物を撒いて自室へと帰還した。

 自室へと戻った後はすぐに施錠をする。その人物がアルシェムに目星をつけていた場合、侵入してくる可能性があるからだ。ついでにカーテンも閉めて成果を確認した。その結果は――

「普通にシロ、か。振り出しじゃん、もー……」

 そこに、誰かに暗殺の依頼をした痕跡はなかった。ついでにとばかりにガイが死んだ時期の分の帳簿もみてみるが、そちらも外部の人間に暗殺を依頼した痕跡はない。《ルバーチェ》内の誰かがガイを殺したにしては、その人物に対する褒賞が出ているわけでもない。つまり、そちらに関しても《ルバーチェ》はほぼ無関係だということだ。

 ここで前提は振り出しに戻った。ある意味黒幕が《ルバーチェ》ではないと分かっている点については進展したともいえるが、犯人の目星が全くつかなくなった点では後退したともいえる。このあたりで一度思考の方向を変えなければならないということか。そう考えて、アルシェムは有り得そうな可能性を口に出した。

「目的がイリア・プラティエである場合。もしくは目的が《銀》である場合。あとは、イリア・プラティエが手段の場合……手段?」

 そこで、アルシェムはふと何かが引っ掛かったような感覚を覚えた。目的がイリアでない場合の方が何となくわかる気がしたのだ。たとえば、目的が《銀》の場合。この世の大多数の人たちが《銀》についてほとんど知らない。ただ《銀》という名だけを知っていた場合だ。それが裏社会の人間であることを理解したうえで、つなぎを取りたい人物がいるのならばどうか。

 そう仮定した場合、ある意味では別の犯人像が浮かび上がる。何らかの目的のために人手として《銀》が必要で、その名を民衆に知られるリスクを犯しつつもそれでもリターンが大きい場合だ。仮定するならば、共和国が黒幕だった場合である。《銀》を雇い、クロスベルの要人全てを闇に葬ってそこに電撃侵攻し、占領する。それならば確かに説明できないこともない。むしろ《銀》の存在が知られることによって共和国の子飼いだと認識させ、《銀》とクロスベルを手元に引き寄せられる。

 だが、その場合ならば何故共和国内で接触しなかったのかという問題が浮上する。接触できなかったからこそクロスベルで接触を図ったという可能性もあるが、それこそ人の行先などというものをあてずっぽうで当てられるほど共和国に優れた人材が眠っているとは思えない。たとえキリカ・ロウランがいようとも、《銀》の正体を掴むのには時間がかかるはずだ。ましてや《銀》がクロスベルに現れたのは数か月前。正体を掴むには少々時間が足りないような気もする。

 もしくは、共和国が全く関係なかった場合だ。たとえば、帝国。別の諸外国でも恐らく同じなのだろうが、共和国の一番の敵は帝国である。帝国が《銀》という手札を手元に置きたがっている場合ならば、どうか。その場合ならば標的は無論《銀》だけでなく共和国系議員も含まれるだろう。《銀》をミラで雇い、共和国系議員を殺させることで共和国に帰りづらくして手元に引き込む。有り得ない話ではない。

 そういう想定で動いているとすると、それはそれで奇妙な点が出てくる。ここまででクロスベルに潜入している《鉄血の子供達》をアルシェムが認識していないことだ。こういう大きな事態を動かすためにはまず前兆があるはずなのである。たとえば《銀》を雇うために使う人手が、彼女に容易く殺されるようでは意味がない。交渉相手として誰かが赴くのであれば下っ端ではなく必ず《氷の乙女》や《かかし男》などの《鉄血の子供達》が動くだろう。だが、それがないのだ。

 そこまで思考を巡らせたアルシェムは溜息をついた。

「……流石に、どうやっても綺麗に説明がつかないってのはねー……目的がやっぱ違うのかな? 目的はイリアでも《銀》でもない、とすると――彼女達は手段ってことかな?」

 再びアルシェムは思考を転換した。いっそイリアと《銀》が何かを隠すための手段であれば、もっと納得のいきそうな説明が出来るのではないか。そう思ってアルシェムは、まずは脅迫状が指し示す公演について情報を整理し始めた。

 劇団《アルカンシェル》のクロスベル自治州創立記念祭公演。演目は『金の太陽、銀の月』。内容はともかく、クロスベル自治州民がこぞって見に行くだろう公演である。演者は主役がイリア・プラティエ、準主役がリーシャ・マオ。その他の演者はほぼ雑魚と言っても過言ではないが、興行収益は過去最高レベルになるだろう。プレ公演には各界の重鎮を招いてお披露目される予定だったはずだ。

 そこまで考えて、アルシェムは気づいた。誰かが邪な思いを抱いて狙うとすれば、イリアや《銀》以外にも狙いどころがあることに。

「そっか、重鎮の暗殺か! それなら《銀》を犯人に仕立て上げれば操作の間に証拠を隠滅できるし……でも、それで『誰』を狙う?」

 またしても思考の渦に巻き込まれたアルシェムは、狙われる可能性のある人物をリストアップしていく。クロスベル自治州議会議長ハルトマン。クロスベル市市長ヘンリー・マクダエル。商工会議所の取りまとめ役――否。そうではない。アルシェムは忘失していた事実を掘り起こす。そう、そもそも彼らを狙うとしても、黒幕が《銀》の存在を知っていなければならないのだ。《銀》を知れてなおかつ大物を狙うならば、ハルトマン議長かマクダエル市長以外に有り得ない。

 そこで、アルシェムは狙われている人物をマクダエル市長だと仮定して捜査を開始することにした。マクダエル市長が狙われる可能性は確かに低くはないのだが、調べる数の多いハルトマン議長から調べるのは骨だからである。それと、アルシェムはハルトマン議長が心底気に喰わないからだ。警察官としてはあるまじきことだが、大勢さえ揺らがないのであれば普通に死んでもらっても構わないと思っている。別に死んでも彼に関しては代わりは存在するのだから。

 アルシェムはENIGMAを置いたまま自室から出て――因みにこの時点では既に夕方になっている――、職務から帰宅して誰もいないであろう市長室へと姿を消しながら侵入した。どういう場所で誰が狙っているか分からない以上隠形で隠れて油断させるという目的もあるが、アルシェムはマクダエル市長に話を通す気がないので普通に侵入罪で訴えられるからともいえる。

 ここでもまず調べるものは帳簿である。ミラの流れを見れば大体のことが分かるためだ。たとえば、そう――

「――ッ!?」

 アルシェムが思わず息を呑むような証拠。そこにあったのは不自然なミラの流れ。どう考えても誰かが別の目的で流用しているミラがあるのだ。それがあのダルモア元市長の時と同じようにマクダエル市長が横領しているというのならばまだ分かりやすい。人格を見る限りでは有り得ないようにも思えるが、やむにやまれぬ事情があるという可能性もある。

 その帳簿をオーバルカメラで撮影したアルシェムは、その場からマクダエル邸へと移動した。すぐさまマクダエル市長に報告する、というわけではない。脅迫状の件には関係がないのかもしれなくとも、この不自然なミラの流れについて隠蔽されては困るからだ。主に、弱みを握って手駒にするときには。

 マクダエル邸に侵入したアルシェムは、執事の目を盗んで帳簿の中身を確認した。帳簿、というよりは家計簿に近いそれには何ら不自然なところはない。ついでに家探しをしてあからさまに怪しい文書などを探るのだが、そこで見つかるのは乙女の――筆跡からして作者は女性である――ポエムのみ。しかも、一束に限ってはマクダエル市長の自室の本棚にファイリングされていた。

 粗方探し終えたアルシェムは、マクダエル邸を後にした。まだシロではないと決まったわけではないが、クロである可能性もまだあるのだ。ここで得た情報はエリィにも渡さないようにしなければ、と思いつつ支援課ビルに戻ると――

 

「ど こ に 行 っ て た ん で す か 、 ア ル ?」

 

 とてもイイ笑顔で、魔導杖を握りしめたティオが玄関の前で仁王立ちしていた。どう見ても怒っている。それもそのはず、アルシェムは自室を出る際には必ずENIGMAを置いて出ていたのである。主に途中で鳴ったりすればややこしいことになるので。夕食が出来た、という連絡を誰がしてもつながるわけがないのである。因みに現在の時刻は午後十時。夕食には少々遅い時間である。

 アルシェムは引き攣った笑いを浮かべながらティオに返した。

「え、えーっと、その、捜査?」

「そうですか、捜査ですか。夕食を忘れるぐらい頑張ってたんですよね、アル? それで、こんな時間になるまで捜査し続けなくちゃいけないなんて、一体どこに捜査に行ってたんですか? まさかとは思いますけど、私達には言えないような場所に行っていた、なんてことは無論ありませんよね?」

 ゴゴゴゴゴ、とでも効果音が鳴りそうなほどの威圧感を醸し出したティオは怒り心頭であった。というのも、《アルカンシェル》の帰りに会った二人組からとても気になる情報を聞いていたからだ。『こんなこと言うのもどうかと思うんだけど……アルってば、単独行動すると大体危険な目に遭うのよね。だから、出来たらで良いんだけど……あんまり一人で行動させないでくれない?』と。無論話者はエステルである。

既に単独行動をしているという意味で手遅れであることを伝えると、エステル達は顔をしかめて捜査の内容を知りたがった。無論守秘義務があるので教えることは出来なかったのだが、明日までにアルシェムが帰って来なければ調べている概要だけでも話さなければならなかっただろう。そうしなければ勝手にエステル達は付きまとって来ただろうことは容易に想像できた。

そんなこととはいざ知らず、アルシェムはティオの問いに答える。

「はっはっは、言えないかなっ!」

「アルーッ!」

 イイ笑顔でそう返答したのが悪かったのか、アルシェムはその後二時間ほどティオに膝詰めで説教されてしまった。言えないような捜査をしていたのも、言えないような場所に赴いていたのも事実である。特に、特務支援課の面々には伝えるわけにはいかない場所だ。どこから情報が漏れるかもわからず、祖父を大切にしているエリィにも伝えるわけにはいかないことであるからにして。

 無論、玄関先で説教されていたわけでもなく普通に居間に連行されて説教されたのだが、その際にティオは捜査内容をさりげなく説教に混ぜるという技術を披露していた。どうやらロイド達はロイド達で少々進展はあったようだ。といっても、《銀》の実在と《ルバーチェ》が関わっていないだろうという予測のみだったが。そこから察するに、ロイド達は《ルバーチェ》と《黒月》に事情聴取を行ったことになる。

 合法的な手段でその証言をもぎ取ってきたことに対してアルシェムは少々評価を底上げしたのだが、その後のことが問題だった。捜査一課が出張ってきているというのだ。これまで以上に違和感を覚えさせないように動かなければならないという時点で、アルシェムは全力で溜息をつきたくなった。捜査一課は無能の塊ではないのだ。ただ、検挙数を上げても上からの圧力で釈放せざるを得ないだけで。

 説教から解放されたアルシェムは、自室に戻って端末を立ち上げた。本当は寝ろと全力で言われたのだが、調べ終わっていないのだから寝るわけにもいかない。証拠をつかむのは早い方がいいのだ。それだけ段取りが簡単になるのだから。調べるのはマクダエル市長とその秘書アーネスト・ライズの口座の入金記録と引出記録だ。マクダエル市長の分はすぐに発見できた。帳簿と照合しても何ら不自然なところはない。

 次は――そこまで考えた時だった。

「……え、ちょっ」

 端末の画面が、いきなり乗っ取られた。それを成している人物は恐らく近くにいるのだろうから、そういう意味では驚いてはいないのだが、今このタイミングでやられるというのは面倒である。何せ、もう少しで全ての情報が抜けるからにして。アルシェムは端末のキーボードを激しく叩いて制御を取り返すと、必要な分だけの情報を抜き取ってIBCのサーバーから撤退した。

 そして、自室の扉に向けて声を発する。

「えーっと、入る?」

「勿論です。というか寝ろって言ったじゃないですか」

 扉を開けて入ってきたのは案の定ティオである。先ほどの妨害も間違いなく彼女だ。ティオは憮然とした表情でアルシェムの部屋に入り、椅子に座った。そして、床に散らばっている写真を手に取ろうとしてアルシェムに取り上げられる。

「……何で見せてくれないんですか?」

「何で見せてあげるって言うと思ったの?」

 無言の攻防。勝者は無論アルシェムであるが、ティオは目的を果たしたので何も文句は言わなかった。一瞬だけ見えたその文字が何を示すのかさえわかれば類推は可能である。

 故に、ティオは小声で怒鳴るという器用なことをしてのける。

「何でこんなヤバい場所に不法侵入してるんですかアルっ!?」

「やだなーティオ、迷子になったって言ってよ」

「どうやったら《ルバーチェ》とか《黒月》とかで迷子になれるんですか! 今のところ脅迫状の件でクロである可能性なんてどちらも低いのに――!」

 ティオはそう小声で怒鳴って、不意に気付いた。先ほどから意図的に見える場所にある現像された写真の違和感に。内容自体は恐らく数字の羅列なのだろうが、あからさまにここ最近のミラの動きがオカシイ。ある意味これは収穫だったのでは、と思ったティオはアルシェムが取り上げない写真だけをかき集めて食い入るように見た。この数字の羅列が誰の不正を明らかにするものなのかを、ティオは既に理解している。

 震える声でティオはアルシェムに問うた。

「これ、は……」

「悪いけど、絶対に誰にも言わないでほしいかな。証拠隠滅されても困るし、何よりも現行犯逮捕させたい理由があるから」

「でも、この人って……しかも、脅迫状の件に関係あるとは限らないじゃないですか」

 ティオは困惑したようにアルシェムの言葉に返す。アルシェムの口ぶりでは、まるでその人物が何かをやらかすようにしか聞こえないのだ。しかも、決まった未来として。ティオが見る限りではその人物と脅迫状とにはなんら関連もないのだ。しかも、犯罪を未然に防ぐのではなく現行犯逮捕したいという。ティオには、アルシェムの目的が全く以て読めなかった。

 そんなティオにアルシェムが言葉を告げた。まるで、それは託宣の如く響く。

 

「これは、決まった未来。予定された道筋。その道筋に全面的に従うことはせず、その道筋を辿りながらもより良い未来のために動かなければならない。それが、わたしの役目。それが――『アルシェム・シエル』という駒に与えられた使命なのだから」

 

 その後のことを、ティオは覚えていない。気付けば彼女は自室で目を醒ますことになる。それが予定調和だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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