雪の軌跡・リメイク 作:玻璃
クロスベル自治州の、南の湿地帯に出現した碧色の大樹。それを支えていた少女は、今役目を終えた。絶望して自らの存在を消し去ろうとまでした少女は、しかし青年に救われた。《零の領域》と後に呼ばれるようになるその地から、青年は少女を連れ戻してくれた。その、青年の腕の中で。皆を見回しながら少女は安堵の溜息を吐いた。
……良かった。皆、生きてる。生きててくれて、良かった。そう、少女は内心で思った。微かに聞こえる胸の内のどす黒い声は、聞こえないふりをした。
泣きながら皆に迎えられて。皆は少女を赦してくれて。少女は青年の仲間たちに謝罪と感謝の言葉を述べた。
「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……! でも、来てくれて、ありがとう……!」
泣きじゃくる少女に、周囲にいる青年や少女たちは慌てながらも抱き着いた。まるで赤子をあやすように。少女は皆に慈しまれた。
ただし、少女の内心は少しずつどす黒い思いが満ちて来ていた。一言で表すのならば、『どうして』である。『ごめんなさい』と、『どうして』がないまぜになった少女の心は、とどまることを知らなかった。
ごめんなさい、自分のせいで死んでしまった人たち。でもどうしてなんだろう。どうして、自分がこんなことをしなくてはならなかったのか。
ごめんなさい、自分のせいで傷つけられた人たち。どうか死なないでほしい。でもどうしてだろう。どうして、自分がこんなことをしなくてはならなかったのか。どうして自分でなければならなかったのか。
ごめんなさい、皆。でも、皆とまた一緒に生きていけてうれしい。これからも一緒に歩んでいけて幸せだよ。だけど、どうしてなんだろう。どうして自分だけがこんなことをしなくてはならなかったのか。どうして自分でなければならなかったのだろうか。自分が、やりたかったわけではないのに。――私が、望んだわけではないのに。
そうして、少女は力を喪う直前にこう思った。思ってしまった。それが力を喪った後ならば何ら問題はなかったのだろう。しかし、少女がそれを願ってしまったのは力を喪う前だったのだ。
――普通の少女でいたかった、と。普通の少女だったらこんなことしなくてもよかったのに、と。
そして、その願いは叶ってしまった。それも、歪んだ形で。暴走した力は肥大化して時をさかのぼり、全てを巻き戻した。そうして、有り得ないはずの存在を生んで時は再び動き始める。その歪みが顕著に出始め、ついに露見したのは七耀暦にして1202年のこと。不穏な空気を漂わせ始めたリベール王国の片隅であった。
そう、言うなれば――その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ。それは野を這いずり丘を駆け抜け空に災厄を振りまいたのだ。
ここに歪んだ物語が幕を開ける。かつて稚拙に語られた物語は、虚飾されて再び動き始めた。
FC編改稿が終わり次第、次話を投稿します。