上条当麻に転生したんだけど、ヒーローになるのは難しい   作:ゆぅ駄狼

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駄文投下③
リア充が手を繋ぎながら帰っている現場を目撃し、友達と一緒に中指を立てたのは良い思い出です。


補習と御坂とインデックス

「はーい。それじゃ先生プリント作って来たので先ずは配るですー」

「(小萌先生は小さいって聞くけど、実物は本当にちっこいなー……)」

「ジェットコースターの身長制限に引っ掛かって、断られた事もあるらしいんやで」

 

 声に出さず、心の中で呟いた筈なのに、隣の席に座っている青髪ピアスの男が上条に向かって話し掛ける。

 

 何で心を読めるのか、と若干の気持ち悪さを覚えた上条は顔を引き攣らせた。

 

 此処は原作上条当麻の通う学校で、転生上条である今の上条は補習を受ける程頭が悪く無いのだが、原作の上条は頭が弱いが為に小萌先生から電話を受け、呼び出しをされた。

 

「お喋りを止める気はありませんけど、先生の話を聞いてくれないと困るのですよー?今回、先生は気合を入れて小テストを作って来たので、点数が悪いと透け透け見る見るですー」

「先生……すけすけみるみるって何ですか?」

 

 透け透け見る見るという実技に、疑問を抱いている上条は挙手をして小萌に尋ねる。

 

「カミやん……このクラスで一番やってるのは多分、カミやんだと思うんやけど」

「え?そうなの?」

 

 周りをキョロキョロと見渡すと、青髪ピアスのみならず、他の補習組の連中も上条に対して呆れ顔をしていた。

 

 小萌はと言うと、視線的にはピッタリ平行である教卓の中をガサゴソと何やら漁っている。

 

 取り出したのはトランプカードと大きめの黒い布で、それらを手にした小萌は上条の席に近付いて、机の上に置く。

 

「ど忘れするような上条ちゃんの為に用意してみましたー」

「今からやるんですか!?」

「今からでも、後からでも、変わり無いのですよー?」

「それってどうゆー………」

 

 上条は言葉を途中で区切ってしまう。

 

 何故なら、小萌も太陽のような輝きを放つ笑顔が上条を照らし、眩しさの所為で目が眩んでしまったからだ。

 

 自分は決してロリコンでは無いと、上条は心の中で頭を抱えて叫ぶ。

 

「上条ちゃんは記録術(かいはつ)の単位が足りてないですし馬鹿なので、小テストをやってもやらなくても透け透け見る見るですよー?」

 

 はぁ、と上条は軽く息を吐く。

 

 しかし、良く考えてみようではないか。

 

 原作の上条当麻はすけすけみるみるという意味不明な罰ゲームを苦手としていたが、転生上条である自分は原作上条とは違う。

 

 案外、サクサクとこなしてしまうのではないかと思い始めていた。

 

「はい、ではこの布で目を隠して下さい」

「あ、はい」

「小萌ちゃんの特別個人レッスン……カミやん羨ましいで………」

 

 隣でボソボソと独り言を言っている変態を無視して、小萌に言われた通り、上条は黒い布で目を隠す。

 

 当然、周りが見えなくなってしまった。

 

「準備が出来ましたー」

「………どうすればいいんですか?」

「もう始まってますよー?」

 

 何を始めているんでしょうか、私には全く分からないのですが……何かをしろと言う事ですか。

 

「ふんッッ!」

「あばぁッ!?」

 

 上条の右拳が何かにぶつかり、青髪ピアスの汚い声が教室に響き渡る。

 

「な、なんだ!?」

「なんだはこっちのセリフや!腰の入った右ストレートをかましてくるなんて正気やないで!?」

「上条ちゃんー?透け透け見る見るは目隠ししながらポーカーをやるのですよ?」

 

 ………何て無理難題なんだ。

 

 目隠し状態のトランプ、ゲームルールはポーカーのようで、手探りで机の上を探ってみると確かにトランプと思われる薄っぺらく、四角い紙が五枚置いてある。

 

「(ポーカーってあれだよな……ツーペアとか、役を作って強い方が勝ちって言う奴だから……全入れ替えで勝つ事も不可能じゃない)」

 

 上条は持っていたトランプカードを全て机の上に戻す。すると、小萌がトランプカードを取ったのか、シャッシャとシャッフルする音が聞こえて来る。

 

 やがて音は聞こえなくなり、数秒して上条は再び手探りでトランプカードを手に取る。

 

「ではいいですかー?」

「構いませんよ」

 

 上条は机の上に表向きでトランプカードを置き、目隠しを取る。

 

「ノーペア………」

 

 せめてワンペアくらいは欲しかったが、まさかの役無しで勝負を迎えてしまった。

 

 だが、目隠しポーカーだなんて運が物を言うのではないのか、元々運の勝負ではあるが、本来のポーカーに目隠しが加わって来ると完全に運ゲーである。

 

「ん、先生の勝ちですねー」

 

 そう言って、可愛いロリロリな笑顔のディーラー兼、上条の対戦相手である小萌はトランプカードを上条に見せる。

 

「ロイヤルストレートフラッシュなのです」

 

 先生、それ反則してません?

 

「因みに、このポーカーは十回連続で勝たないと家に帰れませんよー?」

 

 もう、やってらんない。と上条は拳を机に叩き付ける。同時に、綺麗で透き通った雫が上条の頬を伝って落ちて行った。

 

「カミやん……諦める事ないで。寧ろ嬉しい事や、ロリっ子センセに付きっ切りで補習して貰うんやから!」

「はぁ……ロリっ子に一日中付いて貰うのも悪くないかー……」

 

 上条と青髪ピアスがロリロリと一々言う事が癪に障ったのか、小萌はムッとした。

 

「はい、二人共。それ以上喋りやがったらコロンブスの卵です」

「………先生、コロンブスの卵ってなんで──────」

 

 コロンブスの卵という謎の生命体に疑問を抱いた上条は再び挙手するが、青髪ピアスの手によって無理矢理降ろされてしまう。

 

 しかも、虎を狩るような眼差しで上条を睨み付けている。

 

「なんでも!なんでもあらへんよ小萌ちゃん!それよりもボク達は小テスト受けたいんで、トランプも片付けたらどうやろーなんて……」

「むっ、そうですね。上条ちゃんの透け透け見る見るに付き合っていると小テストをやる時間が無くなってしまいますからねー。今回、先生は気合を入れて来たのですよ!」

「うん、それ聞いたで小萌ちゃん」

「小萌ちゃんでは無く、小萌先生って呼んで下さいねー?ちゃんと呼ばないと五十連勝するまで透け透け見る見るなのですよー?」

「小萌先生ッ!」

 

 良く出来ました、と小萌が微笑むと青髪ピアスは鼻の下を伸ばす程、小萌に対してデレデレになってしまった。

 

「やっぱり、小萌ちゃんは天使やなー……カミやんもそう思うやろ?」

「はいはい……ところでコロンブスの卵ってなんなんだよ」

「あのなぁカミやん、何でもかんでも小萌ちゃんに聞いたら危ないで、さっきのは特に。小萌ちゃんは身を挺してしっかりと教えてくれるから危うくボクも巻き添えになるところやったわ」

「はぁ?」

「コロンブスの卵っちゅーのはな、逆さにした生卵を何の支えも無く机の上に立てるんや」

 

 そんな事をして、何の意味があるのだろうか。と上条は流すように青髪ピアスの話を聞いた。

 

念動力(サイコキネシス)専攻の人間も脳の血管が引き千切れるくらいに踏ん張って行う奴らしいで。実際に血管が千切れた人間もいるとかいないとか」

 

 何それ、とてもとても楽しそう。(錯乱)

 

「つーか、レベル0(無能力者)にそんな事をしろっていうのが無理難題だと思うんですが………」

「レベル0の生徒達をレベル1(低能力者)、更にその上の段階に上げる為の記録術(かいはつ)なのですよー?」

「目隠しポーカー以外に薬を投与したり、電極パッドを体に貼り付けまくったりしてるのも授業なんですか………」

「はい♪」

「拷問かよ!」

 

 正直言って、初めて参加する学園都市での補習や、理不尽なポーカーを上条は楽しんでいた。

 

 しかし、能力開発の過程で電極パッドを貼り付けるのは許すが、薬を投与するのはどうしても許す事が出来ない。

 

 注射を刺すだけでどれだけの苦痛を要する事か、針を人間の体に突き立てるなんて正気では無い。

 

「うーん、拷問とは全く違う事だと思いますよ?肉体的に苦痛を与えているわけではないのですし、寧ろそれだけで能力を開発できるので良い事だと思いますよ?」

「いや、あの、物理的ダメージは若干あると思いますし、それ以上に、精神的ダメージが強大過ぎると言いますか………」

「カミやん………電極パッドの衝撃波受けるようなあの感覚が嫌なんやね」

「違う、注射が怖いんだよ」

「え、マジかいな……カミやん、注射は大好物だって言ってたやないか」

「それは絶対に言ってないと断言出来るぞ」

 

 皆のヒーロー、幻想ブチ殺すぞ上条さんがそんな事を言う筈がない。って信じたい。…………言ってないよね?

 

「はいはい、そろそろ小テストを始めるのですよー」

 

 小萌は教卓に置いてあるプリントを手に取り、プリントを片手でパンパンと叩く。

 

 騒がしかった教室は次第に静かになり、上条以外の補習組クラスメイトはシャープペンシルを片手に、小萌からプリントが配られるのを待っていた。

 

 筆箱を忘れた上条は青髪ピアスにコンタクトを送り、シャープペンシルを借りる。

 

 やがて、配られているプリントは上条の元まで辿り着く。

 

「では始めますね、テスト時間は四十五分です」

 

 小萌が両手を叩き合わせると、それが開始の合図で、クラスメイト達はカリカリとペンを走らせた。

 

 制限時間四十五分、小テストの問題は学園都市の歴史について。問題数は二十問で、どれも原作で見た事のない内容。

 

 そもそも、原作に載ってたとしても覚えてはいない。

 

「(ふっ………わけわかめだぜ)」

 

 

 

 

 

 

 校内の食堂、食券販売機や飲み物の自動販売機があり、食堂自体はそれなりに大きい。

 

 奇跡的にポケットの中には百三十二円が入っており、上条は百二十円を自動販売機に入れてボタンを押す。

 

 ガコンと出てきた缶タイプの炭酸飲料を手に取り、開けてゴクリと飲む。

 

「んく……くはぁ………炭酸は何処の世界でも最高だぁー!」

「………その感じだと補習も楽しそうだね」

 

 隣でポツリと立っている白い修道服の女の子、インデックスは炭酸で幸せを感じている上条に笑顔で言った。

 

「完全下校時間まで居残りさせられた上に、夏休みの半分が補習に変わったって言うのに?」

「何が起きたのかな………」

 

 小萌が作った小テストはこの世界の住民にとっては簡単過ぎる問題なのだろうけど、上条にとっては違う。

 

 五教科の問題をそれなりに解ける頭脳を持っていると思っていたが、歴史の教科で学園都市についての問題が出るなんて思ってもみなかった。

 

 四十五分、全ての時間を使って上条は、自分の名前をどれだけ綺麗に書けるかで奮闘していた。

 

 当然、テスト終了後に数分で小萌からの呼び出しを受けてしまったのは言うまでもない。

 

「むぅ……とうまだけ飲み物を飲んでるなんてズルいかも」

 

 インデックスはぷくーっと頬を膨らませ、上条のワイシャツを引っ張る。

 

 何故、インデックスが此処に居るのかと言うと、それは上条が連れて来たからである。

 

 この先の未来を知っている上条は、血塗れになる未来を抱えているインデックスを一人に出来ないと思い、補習先である学校へと一緒に連れて行き、食堂で待機させていた。

 

 上条は水滴の付いている未だに冷たい缶ジュースを不満そうに見ているインデックスの頬に触れさせる。

 

「ひゃぅっ!」

「あはは、冷たかったか?」

「……これは虐めなのかな?こんな幼気な女の子にそんな酷い事をするなんて許せないかも。何処の世界でも虐めは決して許されないんだよ?」

「違うから。ほら、やるよ」

 

 そう言って、上条は飲みかけの缶ジュースをインデックスに差し出す。

 

「え、でもこれ………」

「何迷ってんだ?飲みたいんだろ?」

「だってこれって………とうまの口付いてたのだし………」

「あ、悪い……流石にそれは嫌だよなー」

「えっと………その………とうまのだから嫌ってわけじゃなくて、その………か、間接……きき、キ……スになるかも」

 

 あー、と理解した上条は間接キスという言葉に動揺する事は無かった。

 

「別に気にしなくて良いよ、直接ってわけじゃないから俺は気にしないし」

「と、とうまが良くても私が気にするんだよ!」

「ならやめとくか?残りも全部俺が飲むよ」

 

 上条が手を引こうとすると、インデックスも両手が上条の片手ごと缶ジュースを掴んだ。

 

「………飲むもん」

 

 インデックスは上条の持っている缶ジュースを手に取り、口元に近付けた。

 

 口を付けようとすると、インデックスは顔を真っ赤に紅潮させ、何度も何度も口を付けようとしては離す事を繰り返している。

 

「っ……………」

「そんな反応をされると思いの外傷付くんだけど………」

「ちょっとうるさいかもっ!」

 

 虎を狩るような目をした女の子───猛獣(インデックス)は今にも自分の頭を噛み砕いて来そうで怖い。

 

 気の済むようにさせてあげるかと思った上条は、補習の疲れによって襲い来る眠気の所為で口を大きく開いて欠伸をする。

 

 とっくに完全下校時間を過ぎている食堂内は夕陽の光が差し込み、茜色に染まってきていた。

 

「インデックス」

「ふぇっ!?な、なにかな?」

「そろそろ帰るぞ、眠いし」

「うん…………分かった」

 

 徒歩で移動して、遠くもない玄関へと上条は足を向ける。

 

 中身が中途半端に残され、ぬるくなった缶ジュースを両手で持っているインデックスは、缶ジュースに口を付けながら上条の背中を慌てて追いかけて行った。

 

 食堂から見える窓の外、木の陰からは黒いローブのような服が風に揺れている。

 

「全く………馬鹿な人間もいるものだ。………まぁ、いいさ。あの少年が僕相手にどうこう出来る筈がないからね………インデックスは連れて行かせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

「はぁ………やってらんねぇ………土御門さん、待っていてくれたっていいじゃないですか………」

 

 バス停の時刻表を指でなぞりながら上条はボソッと呟く。

 

 家から学校まではバスで来たのだが、それは土御門が居たから学校に行けたのであって、土御門が居なかったらどうする事も出来ない。

 

 補修中はサングラスで閉じた目を隠して睡眠を取っていた彼だが、小テストの時は普通に起きて普通にテストを受けていた。

 

 ほぼ0点を取っていた上条は居残りが長引き、土御門に置いて行かれてしまった。

 

「帰り道は一応分かるけど、これは遠過ぎるだろ………」

 

 帰る途中にバス停が十数はある道のり、歩いて帰るのはとてもじゃないけど怠すぎる。

 

「バスに乗って帰るとしても、何処行きのバスに乗ればいいかわかんねぇし……あ、あれ?後は研究所行きのバスだけ?」

 

 バス停の前でガックリと項垂れている上条の背後をドラム缶のような物が通り過ぎて行く。

 

「ねぇ、とうま。帰らないのかな?」

「帰りたかった…………」

「なんで今にも死にそうな顔をしているの!?」

 

 ギラギラと輝くアスファルト、錯覚なのか、一瞬だけ砂漠に見えてしまった。

 

 延々と続く灼熱の商店街、夕焼けにギラギラと光る風力発電の三枚のプロペラ。どうやら此処は学園都市のようだ。決して砂漠ではない。

 

 見慣れてしまえば可愛く見えるドラム缶のロボットは灼熱の地獄を行ったり来たりとしている。

 ドラム缶に車輪を付けたようなロボットは何台もあり、赤く光るセンサーのような物を上部に搭載し、動き回っていた。

 

「ねぇねぇ、とうま。とうまの家で見たロボットと同じに見えるけど、アレはなんなの?」

「確か……清掃ロボットだったと思う」

「清掃ロボット?」

「掃除するロボットだよ。自分から進んでゴミを拾ってくれる環境に優しいロボット。学園都市さまさまの機械だな」

 

 ほぇーっとインデックスは唇に人差し指を当てて、ジッとドラム缶を見つめていた。

 

 実際は清掃ロボットではなく、防犯カメラが付いた防犯ロボットである。

 

「あっ、いたいた。この野郎!ちょっと待ちなさ……ちょっと!アンタよアンタ!止まりなさいってば!」

 

 目の前がブレるほどの暑さの中、上条とインデックスは帰り道を歩いていると、上条にとって聞いた事のある声が上条に向けられた。

 

 どうしてインデックスは汗をかかないんだ?と思いながら振り返る。

 

 肩まである茶色の髪は夕焼けに照らされて赤く見え、()()()の顔も真っ赤に染まっている。半袖のブラウスに────あ、ビリビリしてる。

 

「御坂か………」

「ビリビリ言うな!アンタ会った時から私の事ビリビリ……………え?」

「どうしたんだよ、御坂」

 

 阿呆面としか言いようのない、口をぽけーっと開いている女の子───御坂美琴は唖然としていた。

 

「おーい、御坂ぁ?」

 

 上条は美琴の前で手を振ると、美琴はハッとして頭をブンブンと振り出した。

 

「な、なななんでアンタが私の事を御坂って呼ぶのよ!?」

「はぁ?下の名前で呼ぶのは流石に駄目だろうし、馴れ馴れしく思われるだろ?」

「今までずっと、私の事はビリビリって言ってたじゃない!」

「ビリビリって呼ばれたいのか?………び、ビリビリ〜」

「ふざっけんじゃないわよ!私には御坂美琴ってちゃんとした名前があるのよ!」

「どうすりゃいいんだよ!?」

 

 上条と美琴が火花を散らす勢いで言い争いをしていると──片方に関しては本当に火花を散らしているが、インデックスは上条のワイシャツの裾を掴んで、くいっと引っ張った。

 

「ねぇ、とうま。この短髪は誰なのかな?」

「え、私?」

 

 上条のワイシャツの裾を掴んでいるインデックスと上条の首元を掴み挙げている美琴の目が合う。

 

 ほんの僅か──数秒の間に上条は美琴の暴力に屈していた。上条はワイシャツの首元を美琴に掴まれ、美琴の細い指の関節が喉を押し込み、擬似的な絞め技を受けているような感覚を覚えた。

 

 呼吸などは一分後には忘れている。

 

「み、み……さか……さん………俺の足浮いて………るから……マジ……で死ぬ………」

「あ、ごめん」

 

 美琴はワイシャツから手を離し、ドサッと上条は地面に崩れた。

 

「(なんて怪力なんだ………一種の火事場のクソ力ってやつか……?」

「私は御坂美琴……って、貴方、珍しい格好してるわね」

「うん、私はシスターなんだよ?あ、私の名前はインデックスって言うんだよ?」

「インデックス?」

「そう、あと魔法名はDedicetus545だね」

「あーえっとー………宜しくね、インデックスちゃん」

「御坂、そいつはシスターさんだから俺達の知らない事を沢山知っている。だから話が分からないのも当然だ」

 

 ドヤ顔で上条は、美琴を見下ろすながら言った。

 

「なんでアンタが得意気に言うのよ………」

 

 お前よりは知っているからさ、と言った感じに上条はフフッと鼻を鳴らす。

 

「それより、お前は俺に何か用があったんじゃねーのか?」

「そうよ!勝負よ勝負!私と勝負しなさい!」

「しません、帰りなさい」

「な!?ふざっけんじゃないわよ!私はレベル5なのよ、ワケの分からない能力を持ったアンタなんかに負けっぱなしなのは嫌なのよ!」

「みことー……?」

「知らねーよ……前回は初戦だって言うのにマジで死を覚悟したんだぞ!?」

「とうまー………」

「何言ってんのよ!アンタは何回もこの私を負かして来たじゃない!あれくらいは余裕なんでしょ!?」

「うぅ……………」

「お前は遠回しに俺に死ねって言ってんのかよ?あんな高電圧が体に触れてみろ、性別不明の遺体になるわ!」

「二人とも喧嘩しないでほしいかも…………」

 

 二人の喧嘩の波に揉まれて、おどおどとしていたインデックスの頭にポフッと大きい手のひらが乗った。

 

「………今日は疲れたんだ。早く帰らせてくれ」

「っ………しょうがないわね………次は勝負よ!」

 

 インデックスは頭の上に乗っている上条の手を両手で掴み、上条の事を上目遣いで見上げていた。それを見た美琴はやる気を失ったようだ。

 

 指を指してきた美琴に対し、上条はへいへいと言った感じに軽くあしらい、再び帰路に着いた。

 

「ばいばい、みこと」

「あ、うん。ばいばい………」

 

 インデックスはそう言って美琴に手を振り、上条を追い掛けた。

 

「はぁぁ…………」

「疲れているみたいだね」

「あぁ、疲れ切ってるよ全く…………」

 

 体が疲れ切っているからか、大して重くもない鞄が重く感じてしまう。

 

 灼熱地獄のアスファルト、コンクリートロードはまだまだ先があり、学生寮が見える事は当然無い。

 

「………とうまはみことが嫌いなの?」

「嫌いじゃないよ、好きっていうのは変だけど………まぁ、好感は持ってる」

「あんなに喧嘩してたのに?」

「色々あるんだよ、色々、な。言ってしまえば俺はお前にも好感持ってるしな」

「うっ………まだ会ったばかりなのに、とうまって変な人だね………」

「俺は皆とは違うからなぁ………うん、好感、ね…………持ってるよ……誰にでも。この世界の人なら殆どの人に好感は持ってるよ…………ステイルにも神裂にも」

「うん?なんだか分からないけど、とうまって凄いんだね」

「はは、そうかなー?」

 

 家に帰ったら彼奴がいる。炎を身に纏い、炎の化身のような化け物を従える───ステイルが待っている。

 

 インデックスを"回収"する為に、暗闇の中、彼は待っている。

 


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