上条当麻に転生したんだけど、ヒーローになるのは難しい 作:ゆぅ駄狼
アクセラさんどうしよう。
仲間に出来ればいいなぁ(遠い目
七月二十日………。
忘れていた。今日から夏休み初日を迎えるという事を。
夏休みだけあって、溶けると言った表現が似合う程蒸し暑い天気。部屋の中は天然のサウナ状態になっていた。
何よりも、油断していた。電化製品が八割が死滅するという事を。
昨日の夜中に、稀に見る位の大きな雷が落ちたそうだ。落ちた雷の影響で
昨夜の落雷……原作上条さん曰く、
自分以外の寮の生徒達は電化製品が無傷だと言うのに、一体どういう原理が働いて、自分の家だけが死滅しなければいけないのか。……理不尽極まりない。
因みに、昨日の戦いは何とか逃げ切りました。
逃げるのはダサいとかカッコ悪いとか思ってしまうかもしれませんが、初見で雷を防いだばかりの人間が戦いたいと思いますか。生まれるのは勇気じゃなく、恐怖しか生まれませんよ。
最大の難関は逃げ切った後。
上条さんの家は一体何処にあるのか。ぶっちゃけ、もう詰んだかと思った。途中でキレかけましたから、うろ覚えの癖に、原作に載ってなかったしとか原作の所為にして涙目で都市部方面へと彷徨うように歩いていた。
こんな所にずっと居たら未来が変わってしまう……!なんて聞いたことのあるようでない大佐と思われる人物のセリフを吐いてみたりしてた時───救いの手が差し伸べられた。
「あるぇーカミやん、こんな所でなにしてるにゃー?」
「…………土御門じゃねぇか!」
転生上条である私めは初顔合わせというのにも関わらず"クソ"が付く程馴れ馴れしくした。
けれども、上条に声を掛けたグラサン金髪の土御門元春───土御門は家が何処にあるのか分からない迷子の子羊状態の上条にとって、神様同然の人間になっている。
何故なら、土御門は上条と同じ寮に住む住人だからだ。
「土御門………俺の家は何処にあるんですか…………」
「な、カミやんどうし─────………こっちだにゃー」
土御門は言いかけていた言葉を途中で止め、上条を見ると手招きして寮へと連れて行った。
上条は鼻水を垂らし、涙で目を潤ませながら土御門を見ていた為、土御門は、聞くのはよそうと気を利かせたのだ。
つまり、簡潔に言ってしまおう。
偶然歩いていた土御門に助けられました。
そんなこんなで今は生で拝めるとは思わなかった原作上条さんの家で非常食のカップ焼きそばにお湯を注ぎ、数分待ってお湯を捨てる過程まで来ている。
うろ覚えと言えど、原作で冷蔵庫の中身が腐っているなんて事くらいは覚えている。
電化製品死滅?丁度良いハンデだよ。こっちは未来予知が出来るんだから。
そう思いながら、上条がカップ焼きそばに注いだお湯を流し台に捨てる時だった。
カップ焼きそばを傾けてお湯が流し台に捨てられていき、刹那───気付く。原作の上条はカップ焼きそばを流し台に全てブチまける。こんな事に気付けるなんて何とも言えない幸運だ。未来が分かっていれば、不幸を消す事は可能なのかもしれない。
安全策を取る為に、上条は台所を適当に漁って割り箸を手に取る。
割り箸で麺がカップから吐き出されない為に抑えつつ、残りのお湯を捨てる。昨夜の少女と戦った時に閃いた、"擬似ショットガン目眩し作戦"並みに良い考えだと自分でも思う。
「悪いな〜上条さんの中に存在する不幸とやら、今回は俺の圧勝になるみたいだ」
完全にお湯を捨て切り、上条は勝利を確信していた。
残りのソースとふりかけをカップ焼きそばにかけて出来上がり、この過程からのハプニングなんて有り得ないだろう。
「あれ………硬いなこれ……上手く開けられねぇ」
ソースを入れたまでは良いが、自分の手が大きく、ふりかけの袋が小さいからか、ふりかけの袋を上手く開けられない。
「っく…………こ……の………!」
顔が赤くなる程に力を込め、ふりかけの袋を開けると───
「…………えー、こうなっちゃうんですかー」
やっとの思いで開けられと思ったが、中身のふりかけは空中に舞い上がり、力を入れ過ぎた所為で、開けたと同時に自分の手が勢い良くカップ焼きそばの角に命中。
ワイシャツは麺とソース塗れ、頭にはふりかけがトッピング。これが真のカップ焼きそばなのだろうか。
「シャワー浴びて寝よ………」
耐えるんだ。耐えなくてはいけない。原作の上条当麻はこんなことじゃちっとも萎えやしない。全ては慣れ、そう慣れだ。寧ろ、トラックに轢かれるなんて不幸が起きないだけ幸せではないか。
気分を改めて、ワイシャツを脱ぎ、中に着ているオレンジ色のTシャツを脱ぐ。
シャワーを浴びるとは言ったが、洗面所で頭を洗うだけにしておく。……不幸が悪いんだ。水道会社の人達は悪くない。シャワーから出る液体が冷水なのは不幸が悪い。
風呂場からシャンプーを取り、洗面器に頭をセッティング。今日のツンツン頭は中々にキレが良い。
……………………………冷たい。
シャワーから洗面器に変えても、ツンツン頭に注がれる液体はお湯ではなく冷水。しかし、まだ想定内。冷水だからこそ頭だけを洗う事にしたのだ。
後先考えずに、どーせ頭洗うならついでに全身洗っちゃおーぜ☆なんてやってみろ。風邪でも引いたらシャレにならんぞ。こちとら不幸が付いているんだ。風邪だった物がインフルエンザ、それからの謎の病原体が体を蝕み、余命一ヶ月という最悪の事態が起こり得るかもしれないんだ。
それに比べたら、冷水で頭を洗う事位どうってことない。
「あひぃー……サッパリしたー。洗ってる時は辛いけど、洗い終わったら気持ち良いな」
夏だから丁度良いくらいだろう。
しかし夏とは言え、上半身裸でいるのもどうかと思い、夏服に着替えてベッドに座る。………本番は此処からだ。
記憶が正しければ、持っている携帯電話が鳴り始める頃だ。
「お、きたきた。
携帯電話の画面を見ると、"小萌先生"と表示されていた。
間違いなく補修の話で、電話に出たら『上条ちゃんはバカだから補習でーす』と言われるに違いない。しかし、原作の上条は言うまでもなくバカであるが、今の上条は高校の教科書を見ると、ある程度解ける脳は持っていた。
だが、今の上条は嬉しさ半分、楽しみ半分がある。
目で見る事しか出来なかった、本の中の人物と会話でき、叱られる事が出来るからで、昨日に至ってもそうだ。ネット上でSSと呼ばれる二次創作に多く使われるヒロインに出会い、語尾に"にゃー"と付けるグラサン金髪にも出会えて正直嬉し過ぎる。
上条は期待を胸に、電話に出た。
「はい、もしもし」
『あ、上条ちゃん』
「どうかしました?」
『もう、夏休み入る前に言ったじゃないですかー。赤点の人は補習なのですよー?』
「ちゃんと覚えてますよ………」
『上条ちゃんはバカだから補習ですよー。先生は学校で待ってますので、早く来て下さいね」
「わかりまし───切られてる………」
なんてこったい!あの言葉が聞けると思ってたのに、少しだけ文章が違うじゃないか!
小萌先生は用件だけ言うと、電話を一方的に切ってしまった。と思ったが、上条の携帯の電池が切れただけであった。───小萌先生が涙目になっていない事を願う。
あの人を泣かせると青ピなる人物を始め、学校中の男子生徒達が猛烈な殺意を持って自分をリンチしに来る。そんな事態だけは避けたい。
こちとら不幸が付いているんだ。リンチからの骨折、からの入院、トドメに闇討ちで死亡という見事なコンボが決まるかもしれないんだ。
もう、トイレで篭ってようかな。なんて事を思いつつ、上条はベランダへと向かう。ベッドから立ち上がって、一歩踏み出した途端にキャッシュカードを踏み砕いたが上条は動じない。
流石に常識はある上条は頭の中で、通帳があれば大丈夫と何十回も呪文みたく唱えていた。
青ざめた顔をした上条はベランダに入る為の網戸からベランダを覗く。すると────
「いる………うわぁ………マジもんじゃないかぁ………此処ってやっぱり、とあるの世界なんだな………」
ベランダの手すりには白い物体が干されている。干されている物、それはまさに。
☆O・HU・TO・N☆
勿論、見た目が白いからそう見えるだけであり、実際は
白い修道服を着た女の子、シスター。名前は
完全記憶能力を持ち、魔術サイドの人間に悪用される女の子。
「
ガラガラと網戸を開け、ベランダに乗り込む。
ぶら下がっている女の子の手を左手で掴み、揺する。すると、女の子の首が動き、綺麗な銀髪の間から顔がヒョコッと出てきた。
ゆっくりと女の子の目が開く。
「お……………………」
「お腹減ったのか?」
「…………………うん」
「悪いんだけど、冷蔵庫の中は全滅で非常食は流し台に流されたから食物は無いんだ」
「うー……………」
物語のヒロインを見つけたまでは良いが、食べ物を与えないと仲間になってはくれなさそうな雰囲気。………昔話でこんな話なかったっけ?
「ぶら下がってないで、家に入って待ってろ…………って、こっち来れるか?」
ぶら下がっている女の子、インデックスはふるふると首を横に振った。
「お腹が減って力が出ない」
え?あんぱん○ん?
「じゃあ、俺が腕を引っ張るから出来るだけ前に体重を乗せてくれ」
「ん、分かった」
そう言って、上条はインデックスの両腕を掴む。急に引っ張ると痛いだろうから、掴んだままゆっくりと後ろに下がる。
このまま下がるとインデックスは顔面からベランダの床に叩き付けられる事になるので、最終的には抱っこする状態で受け止めなくてはいけない。
背中に手を回し、抱っこというよりは抱き締めると言った表現の方が正しい状態で受け止めた上条はインデックスの体重が軽いと思いながら、
「(待ってくれ……これは相当ヤバイ気がする。ついうっかり、右手でインデックスの服を触ったんだけど、この手を離したら一体……………!?)」
「ちょっと、早く離して欲しいかも。知らない人でも抱き締められるとドキドキしてしまうんだよ……?」
「無理無理無理!絶対に無理なんだけど!」
「それってどういう事?もしかして一目惚れ………?」
インデックスは恥ずかしさで頬を赤らめ、上条を上目遣いで見る。対し、上条は顔を逸らして抱き締めた状態を維持した。
修道服が崩れ落ちていることを言った方が良いのか、黙って抱き締め続けた方が良いのか、今の上条には分からない。
ただ言える事は、前者を選んだら歯型を聖痕として刻まれてしまう。仮にもシスターだから聖痕とは言っているが、暴力の賜物───うん、ただの歯型。
悩んだ挙句、抱き締めながら家の中へ連れて行く方法が頭に浮かんで来た。
「本当になんなのかな………これはセクハラに入るんだよ?それにシスターである私は神様が夫だって決まってるから…………」
「違うんだ、勘違いしないでくれ。俺は今、お前の為に頑張ってるんだから静かにしていてくれませんか」
ベランダから家の中に入ると、先ずは第一フェーズが完了。第二フェーズは布をどうするかだ。そして思った。
側面の布がベランダに置いてある…………。
更に怒涛の三連撃が上条を襲った。
今すぐにでも噛み付きそうな目つき。
頬を膨らませて見つめて来る。
恥ずかしさで俯向く。
俯いたらあかん!下を向いたらいつバレるか分からないよ!
「んぐあぁうはぁあうえっはぁっはッッッ!!!」
「!?」
突然、異様な程に咳き込んだ上条を見て、インデックスは驚くを通り越してビビっていた。
これにより、緊急事態は回避出来たのだが……布をどうやって回収するか困ったものだ。……此処は冷静に、ベランダへ戻って回収した方が賢明だと上条は推測した。
「ちょっと、悪いんだけど……こっちに戻ってくれ」
「また同じ所に戻るの?………まさか、私をベランダから突き落とすつもりなの!?」
「なわけねーだろ!食べ物やるって言ったのにベランダから突き落とすとか鬼畜過ぎんだろうが!」
「でも、今まさに君はその行為をしようとしてるん────」
言い争いをしながら、覚束ない足取りでベランダへと徐々に向かっていた上条だが、不意に体が大きく傾いた。
倒れたと思ったら柔らかい感触───ベッドだ。何時も寝ている原作上条愛用のベッド。目の前にはインデックス、服は何故か着ていない。というよりも脱がされたと言った方が正しいのかもしれない。
脱がした犯人は紛れも無い上条なのだが。
「あぅ……えっと……悪い………」
「抱き締めた事を謝ってるの?それともこうやって押し倒した事?確かに、ふ、普通の人なら許せないかもしれないかもだけど……私は……その、シスターだから!心は広いんだよ?」
「(何一つ当てはまっちゃいない)」
「それより早く退いて欲しいかも」
ムスッとした顔で、インデックスは上条を押しのけながら体を起こす。起き上がると同時に、残りの布がスルリと体の上を滑りながら落ちて行く。
第三者から見ると、明らさまに襲われている女の子と、外人美少女を襲っている男がいるとしか捉えられない光景だった。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
自分が素っ裸であると気付いたインデックスは迷う事無く、上条の頭に噛み付いた。
ベッドの上には負のオーラを漂わせながら布団に包まったインデックス、隣には頭を摩りながら手鏡で噛み付かれた部分を確認する上条。
忘れていた訳ではない。不可抗力だったのだ。優しさ故に、女の子に手を貸し、右手を使ってしまった。
「まだ直してるのか?」
「………………………………………」
インデックスは今、何をしているのかと思うが、安全ピンで修道服を元に戻す作業をしている。原作で言う、アイアンメイデンへとする為に修道服を
とは言え、インデックスを守っていた修道服の魔術───防御結界は既に無い。上条の
「できた」
「お、早いな」
包まっていた布団から飛び出して来ると、思った通り、修道服の至る所が十数本の安全ピンで留められていた。
インデックスはふふん、と鼻を鳴らし、どうだ自分の裁縫技術はと見栄を張っているが、言葉一発で心を砕くなんて上条にとっては容易い。
「着ていくのか、そのアイアンメイデン」
「はうっ…………」
「日本では針のむしろとも言う」
「うぅ……………」
言ったー!言っちゃったー!キメ顔で原作の台詞言ったよ俺!
ジト目でアイアンメイデンを着こなすインデックスを見ていた上条だが、内心は感動で一杯である。
涙目になりながら怒っていたインデックスは、テレビのコードを見つけるとガジガジと噛み付いていた。これも不幸の内に入っている。
「着る!シスターだし!」
「そうですか…………」
「御詫びの代わりに私はお腹が減った!」
直訳すると、"お腹が減ったから食物出せ"ですかね。
「此方にビスケットとポテトチップスがあります」
そう言って、上条はインデックスが裁縫している間に
「んぐ…………このポテトチップスって美味しいね」
「食べた事無いのか」
「うん、ビスケットならイギリスで食べた事はあるけど……あ、言い忘れてたけど、私の名前はインデックスって言うんだよ?」
どうしよう、知ってる。
流石に転生したから知ってるなんて言ったら面倒な事になりそうだから、合わせるしかないのか。
「目次って名前も珍しいな」
「うん?そっちじゃなくて
「何方にしたって珍しいよ。インデックスなんて名前の人は世界中どこ探してもいなさそうだし」
「そうかもしれないね、そんな名前を持つのは私くらいかも」
「………………それで、誰に追われてたんだ?」
「え?」
上条の質問に、インデックスは疑問符を頭の上に浮かべていた。
しまった、と上条は気付く。
「なんで私が追われてるって分かったのかな?」
「えっと、な………うーん……神聖なるシスターが上から落ちて来るなんて、敵から追われてとかくらいかななーんて、ははは…………」
俺ってこんなに嘘が下手クソだっけ、と思った上条は自分に対して、引き攣らせた微笑みをする。
「むっ、嘘が分かりやすいかも。………でも、私が追われてたのは間違ってないよ」
「追われてたって、魔術師にか?」
「…………魔術師の話なんてしたかな?」
「したと思いますけど何か?」
「不審な点があると思うけど、そんなに殺意を帯びた目で見られると何も言えないかも…………」
またミスを犯した上条は、インデックスに不審がられないように、獲物を狩る狼の目付きでインデックスを睨んでいた。
不審な点があると言っている時点で意味は無い。
「私を追っていたのは君が言った通り、"魔術師"。それで、逃げてる最中に屋根から屋根に飛び移ろうとしたら背中を撃たれて落ちちゃった」
「ズバリ、狙いは!」
「……君、なんだか楽しんでる?」
「滅相も無い。そんだけされるんだ、何か狙いがあるって事は俺にでも分かる」
馬鹿にされていると思っていたインデックスは頬を膨らませていたが、上条の言葉を聞いて、気持ちを切り替えた。
「…………狙いは私の持ってる十万三千冊の魔道書。代表的なのは、エイボンの書、
「ふーん」
「信じてないね?」
「いや、信じてる信じてる」
「信じてないよね?」
「魔道書的な物なら俺も持ってるよ」
魔道書的なモノ、と言ってもうろ覚えの原作七冊である。
「そこはかとなく馬鹿にしてるね?魔道書は普通の人間が見るだけで魔道書の持つ毒に犯されるんだよ?そんな本を君が進んで読もうとする意味が分からないんだけど」
「ハッ!なるほど………」
「やっぱり馬鹿にしてる!」
再び、インデックスは頬を膨らませて怒り出した。
「まぁ、この科学の街──学園都市じゃ魔術自体を信じる奴はいないと言っても過言じゃないから、俺以外に魔道書の話はしない方が良いかもな」
「人を痛い人みたいに言って………魔術はあるもん!」
「俺は信じてるよ?だけど他の人には言わない方が良いって助言をだな………」
「魔術はあるもんっ!」
幼稚園児が駄々をこねるように、同じ事を言うインデックスは、ベッドの上で立ち上がり、胸に手を当てた。
「この修道服はね、魔術が────…………(泣)」
意地を張って話していたインデックスだったが、途中で言葉を区切ったかと思うと、目に涙を浮かべて黙ってしまった。
暫くして、インデックスは口を開いた。
「魔術のおかげで………絶対に傷付かないんだもん………」
悔しそうに下唇を噛んでいるインデックスを見て、上条は心の中で深々と謝罪をしていた。──傷付けるどころか、魔術自体を粉砕したのだから。
「なんていうか………悪かったよ。俺の右手の所為でそんな風にしちまったんだし………」
「…………………右手?」
「俺の右手はあらゆる異能の力を打ち消す事が出来るんだ。核爆発だろうが、電撃だろうが、斬撃だろうが、異能の力なら全部消せる」
「ふーん」
「よし、出て行け」
「な、なんでそうなるの!?」
「物凄くイラッとした」
自分が言った言葉をそのまま返されるとこんなにも苛立つものなのかと、込み上げてくる微妙な怒りを抑えながら思った。
睨み付けると、インデックスは子猫みたく怯えていたので、上条は、はぁ、と大きな溜息を吐いた。ほぼ同時に、充電しておいた携帯電話が鳴り出した。
携帯画面を見ると、"小萌先生"からの二回目の
「はい、小萌先生………?」
『上条ちゃん………早く来ないとすけすけみるみるですよ?』
小萌先生はそれだけ言うと、今度は間違いなく、相手側から一方的に通話を切られた。
国語でもない、数学でもない、物理でなけりゃ現代社会でもない。すけすけみるみるとは一体なんだろうか。何処と無く、幼児向けの遊び道具に思えてしまう。
「これから補習があるから俺は行くよ。お前はどうするんだ?」
「出て行く」
「………………」
「いつまでも此処にいると、連中追ってきそうだし、君だって部屋ごと爆破されたくはないよね?」
「心配は要らねーよ。言っただろ、俺の右手は異能の力な消せる………受け継いだ力なんだ。爆破がお前の言う、魔術の力なら間違いなく消せる」
「お互い、完全に信じた訳じゃないけど……本当なら凄いね」
インデックスが見せた笑顔は、何故か上条からは憂いを含んでいる気がした。
気付いているのかもしれない。上条が遠回しに言いたい事を言っているのを。
居たければ此処に居ればいい。俺は心配ない、と。
上条は知っているのだ。この先に起こる悲劇を。
インデックスは背中を斬られ、血塗れで上条の家の前で倒れる。そんな未来を知っていて、見過ごせる訳がない。それだけは絶対に避けなくてはいけない。
上条がどうとかではない。……そうするべきだと、自分が心から思うから。
余計な真似をして、この先の未来が大きく変わるかもしれない。でも、自分は本物の上条当麻ではない。この世界は今、新しい上条である自分が主人公で、自分の手で未来を創って行くのだ。
原作はアテにならなくなるかもしれない。所詮、うろ覚えの記憶だ。中途半端に知っているよりも、全く知らない未来の方が楽しいと思う。
もしかしたら、怖くて逃げるかもしれないけど───
「俺が魔術師から守ってやるって言ってんだよ。インデックス」