黒崎一護 異世界へ   作:妃宮千早

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第35話

一護とリューは買い物を済まし、豊饒の女主人へ帰っていた。

 

「すみません。助かりました。」

 

「構わねえさ。俺は毎日暇みてえなもんだしよ。」

 

「? 貴方はダンジョンには行かないのですか?」

 

「あぁ、あまり行きたいとは思ってねぇな。」

 

「では…どうして冒険者に?」

 

「簡単な話、ここで生きるためだ。俺は何も持たずにここにたどり着いて生きるためにそうした。」

 

「そうでしたか…。貴方も色々苦労されていたようですね。」

 

「別に、苦には思ってねぇさ。もう慣れちまったしな。今俺が目指してるのは元の場所に帰る。それだけだ。」

 

「……。」

 

「ん?どうしたんだよ?」

 

「いえ…、大半の人はこのオラリオを目指し、そしてダンジョンへと向かっていく中、貴方は真逆を行くのかと思うと少しだけ不思議に思いまして。」

 

「あぁ、確かにそうかもしれねえな。ん?アレが…。」

 

一護は遠くにある屋台に目を向けた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、アレがアイズがしょっちゅう食ってるジャガ丸くんってやつかって思ってな。」

 

「食べたことがないのですか?」

 

「リューはあんのか?」

 

「まぁ、数回は。」

 

「味はどんなんだ?」

 

「気になるなら食べてみたらどうですか?時間に余裕はありますので多少時間を潰しても問題はありませんよ。」

 

「そうか、なら食ってみるかな。」

 

こうして二人はジャガ丸くんを手に入れるために行列に並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ロキとアイズはある店で神を待っていた。

 

「遅れてごめんなさいね。」

 

「ええわ。ってアンタは…。」

 

「…ウル…キオラ。」

 

フードを被った女神、フレイヤが席に着くと、その後ろにかつてロキ・ファミリアを訪れたことのあるウルキオラが立っていた。

 

「あら、ウルキオラを知っているの?」

 

「まぁ、前に少しウチに来たことがあるだけや。」

 

「聞いてないわね。」

 

本当に知らなかったのか、フレイヤは鋭く後ろのウルキオラを見た。

 

「ファミリアに入る前にしていたことなどお前に言う必要はない。それは契約には含まれていないことだ。」

 

「……。まぁいいわ。」

 

「ほぉー、お前が男を扱いきれんなんて初めて見たわー。」

 

「コレは男ではなくて化け物よ。」

 

「フレイヤ、それは言い過ぎや。いくら自分の思い通りにいかんからっt」

 

「そういう意味ではないわ。」

 

フレイヤはロキの言葉を遮る。

 

「どういう意味や…?」

 

「まあ、別にそんな事はどうでもいいでしょう?」

 

「…なら、聞きたいこと聞かせてもらおーか。今度は何企んでんねや?ウルキオラを手に入れるだけじゃまだ足りんのかいな。全く、諍いの種ばかり撒きおって…。この色ボケ女神が…。それで?アンタが狙うとる奴は他におるんか?おるなら誰や?ウチの中やったら1人だけ心当たりがあるわ…。」

 

「へぇ…。誰かしら?」

 

「一護とちゃうか?」

 

後ろのアイズがピクリと動く。

 

「彼ね…。彼もとても良いわ。人間の部分の色はとても綺麗。それだけなら彼も欲していたわ。」

 

「人間の部分やと?」

 

「ええ、そうよ。彼の人としての色はとても綺麗。だけど他の3つの色も混じっている…。まばゆく光り輝く青色、静かに広がる薄い水色。そして、ウルキオラと同じ、どの色も入り込めないほどの暗く、深く、禍々しく、恐ろしい…絶望の色。」

 

「……どういう意味や?」

 

「それは時が来れば分かることよ。」

 

「チッ、ならどないな奴や?アンタが興味を持った子供は。」

 

「とても頼りなくて、少しの事で泣いてしまう…そんな子。綺麗だった…透き通っていた。貴方の所の彼は眩いほどに煌めいているプラチナ。でも、あの子はとても透明でなおかつ輝いているの。まるでダイヤモンドのように…。今まで見たことがない色だったわ。見つけたのは本当に偶然…。偶々視界に入っただけ…。」

 

すると、フレイヤは突然席を立つ。

 

「ごめんなさい。急用ができたわ。」

 

「はぁ?お前いきなり…」

 

「また会いましょう。」

 

そうしてフレイヤは去っていった。ロキは同じくその場を去ろうとしたウルキオラを呼び止める。

 

「ウルキオラ。アンタはどうしてフレイヤの所におるんや?別にフレイヤに魅了されたわけでもないやろ?」

 

「俺の目的のためにアレが一番都合がよかったからだ。」

 

ウルキオラはそう言うと今度こそその場を去った、

 

「神をアレ呼ばわりか…。ホンマに罰当たりなやっちゃなぁ。」

 

ロキとアイズの2人も店を出るために席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ美味かったな。」

 

「それは良かったです。それではそろそろ…。?」

 

「なんだ?さっきからあっちの方が騒がしいな。」

 

「闘技場の方面から人が逃げて来る…。何かあったのでしょうか?」

 

一護は走ってくる男を捕まえ、事情を聞く。

 

「なぁ!そこのあんた!何があったんだ?」

 

「モンスターが暴れまわってんだ!あんたらも早く逃げろ!!」

 

そう言い男は逃げていった。

 

「なるほど…。そういうことか…。」

 

「黒崎さん。貴方は逃げなさい。」

 

「ん?何でだよ?」

 

「今回の件は闘技場のモンスターが逃げ出したと考えていいでしょう。闘技場に連れてこられるモンスターはLevel1で倒すのはかなり厳しいです。」

 

「ならあんたは?」

 

「私は元冒険者なので大丈夫です。早く逃げてください。」

 

「悪いが、そういうわけには行かねえ…。行かせてもらうぜ。」

 

一護はそう言い走り出した。

 

「黒崎さん!!クッ…。」

 

リューも一護の後を追うように走り出した。

そしてしばらく走るとロキとアイズがおり、丁度アイズがモンスターを倒したところだった。

 

「アイズ!無事か!?」

 

「! うん、大丈夫。」

 

「何や?ドチビと行くん止めてリューちゃんとデートかいな。」

 

「ふざけてる場合か!」

 

「神ロキ、残っているモンスターはどこに?」

 

「リューちゃんやん!えーと、あと二匹やけど片方はガネーシャ・ファミリアが相手取っとるからー」

 

「あと一匹か……。」

 

すると一護たちの元に声がかかる。

 

「剣姫!それにロキ様と一護くん!」

 

リューはとっさに一護の背中に隠れる。

 

「ちょうど良かった。ベルくんがモンスターに襲われていて…。お願いします!!助けてあげてください!」

 

「あぁ、任せとけ、お前らは来るか?」

 

「うん、行く。」

 

「アイズたんが行くなら行ったろーやないか!」

 

「お伴します。」

 

「よし!決まりだ!」

 

こうして一護たち四人はベルを助けるために走り出した。しかし、その行く手を阻む者がいた。

 

「ウルキオラ…。」

 

「ここから先は通すわけにはいかない。」

 

4人の前にはウルキオラが立ちはだかった。

 

「今回の事はお前の仕業か…。」

 

「さぁな。」

 

「ふざけんな!どけ!!」

 

「ならば、俺を力ずくでどかすんだな。」

 

「言われなくても…そうするぜ!」.

 

一護は斬月を抜き、ウルキオラに斬りかかる。ウルキオラは剣を抜き斬月を防いだ。

 

「黒崎さん!」

 

「「一護!!」」

 

「お前らは先に行ってベルを助けろ!」

 

「そんな!黒崎さん!」

 

一護の言葉にアイズとロキが頷き、リューが止めようとする。2人が走り出そうとした瞬間、一護と鍔迫り合いの状態にあるウルキオラが指先をアイズたちに向ける。

 

 

虚閃

 

 

翠の閃光がアイズたちを襲う。三人は目を瞑り、衝撃に備える。その時、一護はウルキオラの刀をそらし、アイズとリューを脇に抱え、ロキを肩に担いでウルキオラの虚閃を躱した。

 

「ほう、始解の状態で俺の刀を逸らしたか…。力を付けたな。」

 

「アレ喰ろうたらあかんなぁ。」

 

「っ…。」

 

「なんて魔法だ……。」

 

アイズたちは一様に驚いたいた。しかし、一護はウルキオラを前にして三人の言葉を聞く余裕はなかった。

 

「てめぇ…。退けって言ってんだろうが!!」

 

「何度も言わせるな。退かせてみろ。」

 

一護は三人を降ろして再びウルキオラに切り掛かる。しかし、ウルキオラはその攻撃を簡単に逸らし、蹴り飛ばす。一護は吹っ飛び建物へと突っ込んだ。

 

「強くなったと言ってもその姿で俺と張り合うには些か力不足だ。」

 

「クッ…。」

 

一護は瓦礫から出て、アイズたちの前に立つ。

 

「大丈夫か?一護。」

 

「あぁ、ただもたついてる暇はねぇ…。」

 

一護は斬月を振り被る。

 

 

月牙天衝

 

 

青白く、強大な斬撃がウルキオラを襲う。しかし、ウルキオラは片手で月牙を止める。一護はそれを見越して二撃目の月牙をウルキオラの足元にうち、更にCADを操作し、加重魔法をかけ、ロキを肩に担ぎ、アイズとリューの手を掴んでベルの元へと向かった。

 

「ほう…。新しい力を手に入れたようだな…。」

 

ウルキオラは去って行く一護の背を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一護は空中を踏みしめベルの元へと向かっていた。

 

「ちょー!!一護!?空飛んでる!!」

 

「…一護って本当に何者?」

 

「あ、あの……。」

 

「全部終わってから話してやるから、今はしっかり掴まっとけよ!」

 

一護の声にロキは一護にしがみつき、アイズは手を握り、リューも同様に手を握りながら顔を赤くしていた。

 

(手を……。)

 

一護たちがベルの元へ着くと、既にモンスターはベルによって倒されていた。一護は路地で三人を降ろし、ベルを見ていた。

 

「なんや?ドチビのとこの子供が倒しとったんか。」

 

「やるじゃねぇか。ま、何ともなくて良かったぜ。」

 

「では…私はコレで…。」

 

リューはそそくさと帰ってしまった。

 

「ん?あ、おい。」

 

「そういや、リューちゃんに触れたのにぶっ飛ばされんかったな。」

 

「何で触れるだけでぶっ飛ばされんだよ?」

 

「…アンタそれ知らんで触ってたんかい!リヴェリアに触れる前で助かったな…。」

 

「どういうことだよ?」

 

「…エルフは将来を誓い合った異性以外に触れられるのを極端に嫌がる。殴られても文句は言えない。」

 

「え!?マジかよ!」

 

「本気と書いてマジや。まぁ、今回は緊急事態やから見逃されたんかもなぁ。ちゃんと謝っとき、一護。」

 

「あぁ、わかった。取り敢えず俺の持ってる買い物袋を届けねぇとな。ちょっと行ってくるわ!すぐ帰って来るからよ!」

 

一護はロキとアイズと別れ、豊饒の女主人へと向かった。

 

「すいませーん!」

 

一護は店のドアを開け、女店主に声を掛ける。

 

「あぁ?アンタ。こっち来な!」

 

「は、はい!」

 

一護は女店主の気迫に押され素直に返事をした。

 

「アンタ…。リューに何したんだ…?真面目なあの子が店番を休みたいだなんて今までになかった事だ。事と次第によっちゃただじゃおかないよ??」

 

「い、いえ。何も…ちょっと事故で手が触れて……。」

 

「手だと〜?そんで?あんたは何しに来たんだ?」

 

「あ、謝りに…。」

 

「そうかい、なら行きな。」

 

こうして女店主は調理場へ行った。一護は二階へ上がり、リューの部屋をノックする。すると中からリューの声が聞こえてきた。

 

「すみませんが…少しだけ一人にしてほしい…。」

 

「えーと、リュー?」

 

「っ!!黒崎さん!?」

 

部屋の中から物音が聞こえ、しばらくするとドアが開いた。

 

「あの…何の用でしょうか…?」

 

「えーと…。悪かった。いきなり手を掴んじまって。エルフにとって、アレって良くない事だったんだろ?」

 

「いえ…。あの…大丈夫です。あまり気にしないでほしい。」

 

「あぁ、悪かった。それじゃあ俺はこれで。」

 

一護は引き返し、そのまま帰ろうとすると、リューは一護の服を掴み呼び止める。

 

「黒崎さん!」

 

「ん?なんだよ?」

 

「あの…今度また…私と出掛けて欲しいのだが……。」

 

「で、出掛ける!?」

 

「はい…。その…駄目…だろうか?」

 

リューは上目遣いで一護の顔を覗く。

 

「っ!!い、いや。わ、わかった!それで…いつ出掛けるんだ?」

 

「今度の休日はどうでしょう?」

 

「あぁ、わかった…。」

 

「それで…もう今日はもう日が暮れて来ているから、夕食はここで食べませんか?」

 

「あ、あぁ、じゃあ、そうする。」

 

「はい!では、着替えてからそう伝えてきますね!」

 

リューは部屋に入って速攻で着替え、一階へと降りて行った。

 

「もう平気なのか…?」

 

一護はポツリと呟いた。

 

その後一護は夕食を豊饒の女主人で食べ、何故か女店主に色々とサービスをしてもらい、夕食を終えて、リューに見送られながら店を出た。

 

「ふぅー、もう食えねぇわ…。っ!」

 

一護は気配を感じ、振り向く。すると、フードで顔を隠した女神が立っていた。

 

「何か用か?」

 

「ええ、少しだけ…。黒崎一護くん…。」

 

その女神はフードをとり、一護と目を合わせる。すると、一護の心臓は高鳴り、体が熱くなった。

 

(グッ…なんだ…。何か変だ…。クソ…。)

 

一護は頭がぼうっとし、思考が回らなくなる。女神はゆっくりと一護の近くに寄り、耳元で囁く。

 

「さぁ…口を開いてこれを飲みなさい……。」

 

一護は素直に口を開き、女神の指を滴る赤い血を飲み込んだ。そして、一護の鼓動は大きくなり、声もあげることができずにその場に倒れ込んだ。

 

「うふふ、あぁ…。やっぱりこの子もこのままつれて帰りたくなっちゃうわ……。」

 

その女神の後ろにウルキオラが現れる。

 

「それは契約違反だ。フレイヤ。」

 

「わかっているわ。貴方の行った通り私の血を飲ませた…。一体何のためにそんなことをしたのかしら?」

 

「……教える義理はない。」

 

「良いじゃない。あなたの思惑に協力してあげたのよ?」

 

「チッ、まぁいい、教えてやる。こいつのある力が上げるためだ。」

 

「ある力?私の血と関係があるのかしら?」

 

「さぁな、ただ可能性があるだけだ。かつて藍染様から秘密裏に教えて頂いた事がある。」

 

「藍染…。貴方の記憶を少しだけ覗いた時に見たあの子ね…。」

 

「藍染様は世界を繋いでいるのは霊王が世界を繋いでいると言った。そして、その正体を滅却師である可能性が高いと言っていた。もし、藍染様の仮定が正しければ、世界を維持していたのは滅却師ということ…。だが…たかが人間風情に世界を留めるなどと言うのとは出来るはずがない。そこから、俺は貴様ら神に似た何かが滅却師にはあるはずだと考えた。」

 

ウルキオラの言葉にフレイヤは頷く。

 

「そういうこと……。四つの色の内、水色がなんなのかわからなかったけれど、あれは滅却師の色だったのね。」

 

「俺が虚夜宮の天蓋の上で黒崎一護の完全虚化と戦った時、その直前に戦った石田雨竜の力に似たものを…普通であれば見逃してしまうほど一瞬だけ感知した。虚と相反する滅却師。共存することが不可能な筈の力が混じっていたその矛盾がずっと気になっていた…。まぁ、万に一つの可能性だ。俺たちの世界とここの世界は別。似ているだけで反応しないかもしれないが…するかもしれない。ただそれだけだ。」

 

「でも、良いのかしら?滅却師の力が覚醒したら、貴方の魂ごと輪廻転生の輪から消滅するかもしれないのよ?」

 

「それはお前には関係のないことだ。」

 

そう言い、ウルキオラは姿を消した。

 

「本当に読めないわね…。」

 

フレイヤもその場から立ち去った。


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