黒崎一護 異世界へ   作:妃宮千早

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第31話

「何だァ?てめぇ1人かよ。呆れるほど覚えの悪い奴だ。さっき俺にボロカスにやられたのをもう忘れたのかァ!?」

 

一護は虚一護の前に立っていた。

 

「うるせぇ。ガタガタ抜かしてねぇで早く構えろよ。」

 

「ハッ、斬月を手に入れたからって随分と強気になるじゃねぇかよ!一護!!」

 

虚は一護に切り掛かる。一護はそれを斬月で防ぐが踏ん張り切れずに吹き飛ばされる。

 

「クッ!!速え…。」

 

「所詮その程度かよ。諦めろ。テメェじゃ弱過ぎる。っ!!」

 

その瞬間、一護は虚に向けて頭から斬月を振り下ろす。虚は手に持つ白い天鎖斬月でかろうじて防ぐ。

 

「クッ!!テメェ……。」

 

「弱過ぎる、だと?笑わせんな。」

 

一護は鍔迫り合いの状態から敵の天鎖斬月を掴む。

 

「てめぇ!!」

 

 

月牙天衝

 

 

一護はその状態で月牙を放ち相手を吹き飛ばす。

 

「テメェは所詮偽物だ。すぐに終わらせてやる。だから…さっさとやられろよ。」

 

「一撃入れたぐらいで調子に乗るんじゃねぇよ。お前は俺には勝てねぇ。何故なら…」

 

虚は響転を使い、一護の背後を取る。

 

「お前は俺を作り出した。それが全てだァ!!」

 

虚は一護の背中を斬る。一護もかろうじて反応し、傷は浅く済んだが、虚は体を捻り、回転しながら一護を地面へ蹴り飛ばした。

 

「グハァ!!!」

 

一護は建物に突っ込んで行き、虚はさらに追い討ちを仕掛ける。

 

 

月牙天衝

 

 

虚は一護へ向けて月牙を放った。

 

「今のを躱すか…。」

 

虚が目を向けた先には左腕がボロボロになった一護がいた。

 

「解せねぇって顔をしてるなァ!良いぜ、教えてやるよ。俺はなァ、テメェの恐怖する心から出てきたんだよ。」

 

「恐怖の…心だと…。」

 

「テメェは崩石を虚化と重ねた。そして恐怖した!。また暴走が起こるんじゃねぇか?ってな。それが俺を生み出した鍵だ。だが原因はそれじゃねぇ。」

 

「鍵だと…?なら、原因ってのはなんだ!?」

 

「コレだ。」

 

虚は一護に向かって何かを投げ渡す。

 

「これは……代行証!!」

 

「そうだ、テメェがこの世界に来て、崩石がお前と融合した時に巻き込まれた物だ。それにはテメェの思念が存分に詰まってる。テメェが浮竹に貰った時から前の世界までの思念がたっぷりとな。それが全ての根源だ。テメェの強くなりてえっていう心は俺を呼び起こした。そして願いは聞き届けられた……。だが、テメェの願いはそれだけじゃなかった筈だ…。さて、一護。意味がわからねぇって顔をしてるなァ…。テメェにも分かるように簡単に言ってやる。この世界にいるのは俺だけじゃねぇって事だ!!!!!」

 

「っ!!!」

 

ドゴオオオオン!!!!!!

 

次の瞬間、別の場所で大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深雪たちは藤林の護衛を受けながらシェルターへと避難していた。しかし、その最中にも一護の戦闘音がこちらまで響いてくる。

 

「凄いわね…。サイオン以外の何かが一護くんのいる方から吹き荒れてくる…。」

 

「真由美、今は黒崎よりもこっちを心配しなければならんぞ?」

 

「あら?摩利は心配じゃないの?」

 

「心配さ、だが、それで私たちがやられてしまっては黒崎が1人で敵を倒しに行った意味がないだろ?それに、私たちが不安にしていると他の皆まで不安になるからな。ほら、アレを見てみろ。」

 

摩利はある場所に指をさし、真由美はそちらを見る。

 

「深雪、そんなに心配しなくても大丈夫よ!一護くんはやられたりしないわ。」

 

「そうです!一護さんが斬月を手にしたとき、あの偽物の一護さんと同じぐらいプシオンが吹き荒れてましたから。」

 

「エリカ…美月…。そうね、私が一護さんを信じなくては…。えぇ、そうね。一護さんは負けないし、お兄様もこの事態を収拾してすぐに一護さんの手助けに行ってくれるはずだわ。」

 

真由美は深雪たちのやり取りを見て、気を引き締める。

 

「そうね、私は十師族だわ。きちんと責務を果たさないと。」

 

「らしくなったじゃないか。」

 

「世話をかけたわね。」

 

「お待ち下さい。」

 

藤林が皆に静止を呼びかける。皆が止まり藤林をみると、藤林は空の一点を見続けていた。皆もそれに倣い上を見上げると、サングラスをかけだ長髪の男が、一護の使っていた斬月を持って目を閉じて佇んでいた。

 

「なに…あれ…。」

 

「アレは…黒崎の斬月!!」

 

「まさか…やられたっていうの!?」

 

「いえ、真由美さん。まだ戦闘音は聞こえていることを考えると黒崎さんは戦闘中です。」

 

「おい!てめぇ!何もんだ!!」

 

レオの問いを聞き男は目を開いて地面に降り立ち、しかし問いには答えず、男は軍の藤林以外の護衛を吹き飛ばし、戦闘不能にする。

 

「「「っ!!」」」

 

「クッ、期待はしていなかったが、やはり敵だったか…。」

 

「みんな!油断しちゃ駄目よ!摩利!西城くん!エリカさん!桐原くん!4人は取り囲むようにして!残りは後衛よ!」

 

七草は素早く指示を出し、皆が陣形を整え、そして前衛の4人が斬りかかる。

 

「ハァ!!」

 

「おりゃぁ!!」

 

「ハッ!!」

 

「シッ!!」

 

しかし、男は四方向からの攻撃を器用にいなした後、斬月を地面に突き刺し、空いた両腕でエリカと摩利の腕を掴んで投げ飛ばし、レオと桐原を蹴り飛ばした。その時、男の行動後の硬直を見逃さずに藤林ら落雷をかます。

 

「やった!」

 

「いえ、まだです。」

 

藤林は手を休めずに魔法を次々と発動し男を攻撃しまくる。それに続き深雪も最大級の魔法を放ち続ける。二人の魔法師の全力を受け、男の周りには土煙が舞い上がる。

 

「大丈夫ですか!?深雪さん!響子さん!」

 

「はい、問題ありません。」

 

「えぇ、何とかね。」

 

藤林の攻撃で発生した土煙が晴れると、そこには無傷の男が佇んでいた。

 

「そんな……響子さんの魔法が効いてないなんて…。」

 

「クッ…。まさか無傷とは……。」

 

男は剣を掲げ野太い声で言葉を紡ぐ

 

 

月牙天衝

 

 

次の瞬間、皆が光の奔流に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉっと、あっちは派手にやってるみてぇじゃねぇか。」

 

「てめぇ…。誰だ!!誰がいんだよ!!」

 

「おいおい、わかってるはずだろ?」

 

「うるせぇ!!!」

 

「なら、実力で聞き出してみなァ!!」

 

虚は一護へと切り掛かる。一護は踏ん張りをきかせ、それを受け止めていなして、斬りつける。虚は響転で交代し、ツノの間に霊圧を収束させる。

 

「っ!!!」

 

一護は咄嗟に斬月に霊圧を喰わせる。

 

 

月牙ーー

 

 

虚閃

 

 

ーー天衝

 

 

2つの力がぶつかり合う。虚は虚閃を放出し続け、月牙を押し切る。一護はその隙に背後を取り斬りかかる。虚はそれを左手で掴み、右手の天鎖斬月で圧し折る。

 

「クッ!!」

 

「ついに武器がなくなって、霊力も尽きたか…。あっけねぇもんだなァ、一護。これで…終わりだァ!!!」

 

虚は一護の胸を突き刺す。

 

「………へぇ…。咄嗟で辿り着いたか…。」

 

「当たり前だろ…。崩石で造られたのがテメェだと言ったな。その時点で想像はついてたぜ…。」

 

刺された一護の体からは血は流れず、一護は痛みを感じてはいなかった。

 

「チッ、今回こそは俺が勝つと思ったんだがなァ。」

 

「嘘つくなよ。勝つ気なんてなかっただろ?お前の、俺は崩石から出てきた、って言葉で勘付いたぜ。崩石は心を写すもの。恐怖でテメェが出てきたなら、それを、最後の月牙天衝を教えてもらったときみてぇに受け入れるだけだ。恐怖がなかったことなんてねぇ、白哉とやる時も、グリムジョーの時も、ウルキオラの時も、藍染の時も。全部恐怖はあった…。ただ、俺はそれを乗り越えてきたんだ。崩石ぐれぇ乗り越えられねぇわけねぇだろ。」

 

「ハッ、よく言うぜ…。霊圧ガタガタ震わしてたのはどこのどいつだよ。」

 

「うるせぇよ。」

 

「餞別だ、持ってけ。崩石から造られたといっても俺自身の力は本物だ。それともう1つ。ここに来てるのは斬月の野郎だ。」

 

「そうか…。」

 

「腑抜けたことすんじゃねぇぞ。」

 

「あぁ、斬月のおっさんとは正面から向き合ってぶつかる。」

 

「ならいい…。じゃあな。」

 

虚の一護はそのまま一護の体へ吸い込まれ、一護の服装が死神のものへと変わっていった。

 

「…早く行かねえとな。」

 

一護は瞬歩を使い斬月の元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……。なんて攻撃なの…。」

 

七草は瓦礫をどかし地上へ這い上がる。すると、何人もの仲間が地面に横たわって気絶していた。

 

「今の所動けそうなのは…」

 

七草は辺りを見回す。すると立っていたのは深雪と摩利、レオ、エリカと自分を含めた5人だった。

 

「っ…。響子さんが障壁を張ってくれなかったら死んでいたかもしれないわね…。」

 

男から月牙を受けた時、藤林は咄嗟に皆と男の間に立ち、サイオンを全て使い障壁魔法を張っていた。そして、レオは硬化魔法を使い、近くにいたエリカと深雪の前に立ち耐えきっており、摩利は弱い障壁魔法を何枚も重ね掛けして防いでいた。

 

「みんな!動ける!?」

 

「私は何とか大丈夫だ。」

 

「はい、私も大丈夫です。」

 

「あたしも平気ですけど、レオが…。」

 

レオの背中は傷だらけになっており、意識はあるものの動けそうになかった。

 

「すんません、だけど無理矢理にでも動かすんで安心してください。」

 

「5人か…。正直キツイわね…。」

 

「だが、やるしかない。だろ?真由美。」

 

「そうね、やれるやれないの問題ではないわ。」

 

するとそこにムーバルスーツを着用した男が降り立った。

 

「手伝いましょう。」

 

「お兄様!!」

 

「達也くん!!」

 

「今は取り敢えず5人の傷を直します。」

 

達也はそう言い5人にシルバーホーンを向け引き金を引く。すると5人の傷は一瞬で直っていた。

 

「申し訳ございません!」

 

「構わないよ。それよりも、今はあの敵をどうにかしようか。」

 

6人は再び男へ意識を集中させる。しかし、男は突然空を見上げる。

 

「…?どうしたのかしら。」

 

「お兄様。」

 

達也は目を瞑り、精霊の目を使い確認をすると、目を開き、口に笑みを浮かべた。

 

「フッ、来たようだな。」

 

「お兄様?」

 

「達也くん?」

 

深雪とエリカの疑問に答えずに達也は上を見続ける。他の皆も空を見上げると、何かが物凄い勢いで降ってきて、地面に落ち、砂と風が巻き上がった。

 

「っ!何なの!?」

 

「新手か?」

 

煙が徐々に晴れるとそこには皆が待ち望んでいた人物がいた。

 

「「「一護(くん)!!!」」」

 

「悪いな、待たせちまった。」

 

「一護さん…。無事にもう1人の一護さんを倒したのですね…。」

 

「あぁ、達也。みんなを守っててくれねぇか?」

 

「わかった。任せておけ。」

 

一護は皆の安全を達也に託し、斬月の前に出る。

 

「よぉ、斬月のおっさん。」

 

「待っていたぞ…一護。再びこうして相見えるとはな…。」

 

「あぁ、でもアンタは本物の斬月じゃねぇんだ。だから…倒させて貰うぜ…。」

 

「気に病む必要はない。私は喜びを感じている。再びこうしてお前の成長を確かめることが出来ることに。」

 

「あぁ…。」

 

「完全虚化したもう1人のお前も倒し、自分の物にしたようだな…。流石はお前だ…」

 

「もういいって!ウダウダ言ってないでさ!」

 

斬月は静かに目を閉じ、そして開く。

 

「あぁ……そうだな…。では行くぞ…一護!!」

 

一護は泣きそうな顔で言い返す。

 

「すぐに終わらせてやるからな…さっさとやられろよ!!」

 

一護と斬月は互いに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深雪、それにレオとエリカもよくやった。」

 

「ありがとうございます。お兄様。」

 

「おう、まぁな。」

 

「別に、やるべき事をしただけだし……それにしても…一護くん。辛いだろうね…。」

 

「どうしてだよ?」

 

「アンタ話聞いてなかったの?」

 

「わ、悪い…。」

 

「まぁ、良いわ。一護くんはあのおじさんを斬月って呼んでた。つまりあのおじさんは一護君が使ってた斬月そのもの。だけど今まで斬月を持っていなかったことと、さっきの会話の流れ的にあの2人はかなり前に別れたきり…。それが再び対面したのよ?しかも敵として…。長い間連れ添った相棒が敵だなんて……そんなの…悲しいじゃない…。」

 

エリカは俯き、声を漏らさず静かに涙を流した。

 

「エリカ…。」

 

「顔を上げろ。エリカ。」

 

「達也くん…。」

 

「一護の背中を見ろ。あいつは俺たちを守るために戦っているんだぞ?俺たちが見なくてどうする。」

 

「…うん…そうだね。」

 

エリカは再び顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、一護。太刀筋が鈍っているぞ。」

 

「ならこれでどうだ!」

 

一護はウルキオラ戦で使ったように、霊圧を剣に喰わせ、それを放出せずに剣に纏ったまま斬月に斬りかかる。斬月はそれを剣で防ぐが、威力を抑えきれずに吹き飛ばされる。一護は斬月に向かって、放たずに溜めていた霊圧を一気に放出する。

 

 

月牙ーー天衝

 

 

 

斬月は自分も月牙を放ちそれを相殺させる。

 

「流石に強えわ、斬月のおっさんは…。」

 

一護はそう言うと霊圧を高める。

 

「……来るか。」

 

 

卍解 天鎖斬月

 

「そろそろ終わりにしようぜ。斬月のおっさん。」

 

そして、一護は更に手を顔にかざす。そして手を離すと、一護の顔には角の付いた完全虚化時の仮面がついていた。

 

「卍解に虚化か。」

 

「悪イナ、オッサン。コレデ終ワリニスルゼ。」

 

一護は瞬歩で斬月の背後をとり、背中を斬る。斬月は体を傾け何とか躱すが一護に顔面を掴まれ、地面へ投げ飛ばされる。

 

 

月牙天衝

 

 

一護は斬月へ向けて月牙て追い打ちをかけた。斬月は最後に一護へ向け、微笑みながら消滅していった。

 

「ありがとう、斬月。」

 

一護は最後にそう言い、皆の元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「一護(さん)[くん]!!!」」」

 

「無事か?」

 

「あぁ、俺たちは無傷だ。他の皆も気絶しているだけだ。」

 

「さて、一護くん。説明してくれないかしら?どうしてそんな力を持ってるのか。」

 

「一護さん。私も知りたいです。」

 

「俺もだぜ!」

 

「あたしもよ!」

 

「あぁ、私も聞いてみたいものだ。」

 

「悪い。時間がねぇみてぇだ。」

 

「どういうことだ?一護。」

 

達也の問いに答えず、一護は上を見上げる。皆もそれに倣うように上を見上げる。

 

「「「っ!!」」」

 

「なんだアレは!?」

 

皆の目線の先には空間に亀裂が入っていた。

 

「俺はこの世界の人間じゃない。だから、行かなくちゃなんねぇ。」

 

「一護さん…?」

 

「悪い深雪。」

 

「そんな…。今までずっと一緒でしたのに…。」

 

深雪の目に涙が溜まる。達也はそんな深雪の肩に手を乗せる。

 

「お兄様…。」

 

「妹を泣かすとは許しがたい。殴ってやらねば俺の気が収まらないな…。」

 

「達也…。」

 

「だから戻って来い。」

 

「フッ、あぁ…仕方ねぇから今度怒られてやるよ。」

 

一護は笑ってそう言い残し、大きく飛び上がる。

 

「一護!!ぜってえ帰って来いよ!!」

 

「一護くん!また会おうね!!」

 

「帰ったら、ちゃんと話ききますからね!!」

 

「まだ、礼を返しきれていないんだ。帰ってこなかったら承知しないぞ!!」

 

「一護さん!!お待ちしておりますから!!」

 

「またな、一護。」

 

レオ、エリカ、真由美、摩利、深雪、達也の別れの言葉に背を向けたまま手を振って返し、そこから加速し亀裂へと入っていった。

 

こうして、黒崎一護はこの世界から姿を消した。






次はどこにしようかしら


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