黒崎一護 異世界へ   作:妃宮千早

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第26話

「やっと着いたか…。」

 

「一護。無理をしたな。」

 

「達也か、仕方ねぇだろ。自分で止めた方が手っ取り早かったんだよ。」

 

「ふっ、お前らしいな。1つだけ言っておく。あれは事故じゃない。」

 

「っ!?どういうことだよ?」

 

「あの車の挙動は不自然だった。調べたら案の定魔法の痕跡があった。トータル3回。タイヤをパンクさせる魔法。車体をスピンさせる魔法。そして、車体を浮き上がらせこちらの車道に飛ばす魔法だ。犯人は運転手。つまり自爆攻撃だ。」

 

「胸糞悪い手だな。」

 

「今考えても仕方ない。ただ、この九校戦では何か起こるかもしれない。警戒はしておいたほうがいい。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「懇親会は直ぐだ。早く荷物を置いてきた方が良いぞ。」

 

「あぁ。」

 

一護は荷物を置き、そして集合場所に行く。

 

「さて、そろそろ時間よ。さぁ、行きましょうか。」

 

真由美の声に反応し、皆がホールへ入る。

 

「色んな制服の奴がいるな。」

 

「それはそうだろう。全国の魔法科高校の生徒が集まってるからな。」

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

やってきたウェイトレスが一護達に声をかけた。

 

「エリカじゃねぇか。お前来てたのか。」

 

「一護くんには言ってなかったわね。ま、親のコネでちょちょいとね。」

 

「関係者ってそういうことだったのね。」

 

「よく潜り込めたな。」

 

「ほら、男2人。何か言うことないの?」

 

「この2人にそんなこと聞いても無駄よ。表面的なことには囚われたりしないもの。」

 

「なるほどねぇ。ミキの奴はコスプレとか抜かしたからしっかりお仕置きしたんだけどね。」

 

「ミキ?誰だ?」

 

「そういえば、一護くんと深雪には紹介してなかったわね。呼んでくる!」

 

「ミキとは吉田幹比古のことだ。エリカとは幼馴染らしい。」

 

「定期試験で上位のやつか。」

 

「深雪!達也さん!一護さん!」

 

「ほのか、雫。君たちはいつも一緒だな。」

 

「友達だから。」

 

「他の奴らはどこにいんだよ?」

 

「あっち。」

 

雫が指を指した先を見ると男子生徒がこちらをチラチラ見ていた。

 

「深雪に近付きたくても2人がいるから近寄れないんじゃないのかな?」

 

「俺たちは番犬か…。」

 

「きっと2人とどう接すればいいのかわからないんだよ。」

 

「…。深雪。みんなのところへ行っておいで。ほのかも雫もまた後で。」

 

達也に言われ、3人とも渋々行ったが、心配そうに何度かこちらを見ていた。

 

「悪いな一護。」

 

「別に気にすんなよ。」

 

「達也くん!一護くん!あれ?深雪は?」

 

「また後で紹介するよ。こいつは黒崎一護だ。一護、こいつが吉田幹比古だ。」

 

「よろしくね一護くん。達也から話しは何度か聞いてたんだ。」

 

「あぁ、よろしくな幹比古。それと君付けはよしてくれ。むず痒いからよ。」

 

「オーケー、一護。本当はこんな格好では会いたくなかったんだけど。」

 

「別に変じゃねぇぞ?」

 

「ほらね!ミキは自意識過剰なのよ!」

 

「僕の名前は幹比古だ!大体僕は元々裏方のはずだろ!」

 

「だから手違いだって言ってるじゃない。あっ!お皿空いたわよ?」

 

「クッ、後で覚えてろよ!」

 

幹比古はその場を立ち去った。

 

「オメェ酷えな。」

 

「どういう事情かは知らないがら少し手加減してやったらどうだ?」

 

「これは八つ当たり。大した事情じゃないんだけどね。互いが同じ境遇だから哀れんでるだけ。」

 

「事情は聞かない、今のは聞かなかったことにするよ。」

 

「まぁ、あんま気にやむなよ。」

 

「一護くんも達也くんも冷たいよね。達也くんは遠くで眺めてるみたいで、一護くんは側にいるけど自力でやれって言って助けてくれない。」

 

「助けを求めたら助けるぜ。」

 

「ハハ、ありがとね。2人とも。」

 

エリカはそう言い残し立ち去った。

 

『ご静粛に、これより来賓の挨拶に移ります。九校戦開催に伴い、後援会会長よりお言葉をーーー』

 

『続きまして、かつて世界最強と目され、20年前に第一線から退いた後も九校戦を支持してくださっております。九島烈閣下より、お言葉を頂戴します。』

 

(へぇー、十師族を作った人だよな…。ん?霊圧が2つ?後ろか…。)

 

『悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。』

 

「九島閣下!?いつの間に」

「いつからいたの!?」

 

女性が現れ去った瞬間、真後ろにいた九島が挨拶をする。

 

『今のは魔法というより手品の類だが、この手品のタネに気がついたものは見たところ6人だけ。つまり、もし私がテロリストだったとして、私を拒むべく行動を起こせたのはたった6人だけということだ。

今私が用いたものは低ランクの魔法だが、それでも君たちには効果覿面だったようだね。明日からの九校戦はこのように魔法の使い方を競う場だ。皆さんの工夫をたのしみにしているよ。』

 

(なんて爺さんだ…。深夜さんがよく話してたわけだ…。総隊長の爺さんに根の部分が似てる気がする…。アレがこの世界の本物か…。)

 

「どうした?一護。」

 

「いや、あの爺さんスゲェな。」

 

「あぁ、流石はトリックスターだ。」

 

「今日はもう部屋に戻るわ。」

 

「わかった。七草先輩には俺から言っておこう。」

 

「悪いな…。」.

 

一護は自分の部屋へと戻りベッドへ倒れこんだ。

 

「グ……。くそ!なんだ…。崩石が…。俺の霊圧を吸い取って……。」

 

一護はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う…。くそ、朝か…。疲れが全然取れてねぇ…。今日が試合当日じゃなくて助かったぜ…。にしても…一体何が起きたんだ…。今度浦原さんに相談しねぇとな…。」

 

一護はのそのそと起き上がり時間を確認する。

 

「おいマジかよ。もう昼じゃねぇか…。しょうがねぇな。とりあえず午後からの競技ぐらいは観ておくか。」

 

一護は部屋を出て会場へ向かう。そして、いつもの達也以外のメンバーを見つけ、そちらへ歩いていく。

 

「「「一護(さん)!!」」」

 

「おう、おめぇらか。達也はどうした?」

 

「お兄様は受け持つ選手とCADの調整を……ではありません!!」

 

「なんだよ?びっくさせんなって。」

 

「すみませ、じゃないです。今何時だと思ってるんですか?朝の選手の集合場所にもいなかったですし、部屋に呼びかけても反応がなかったので、何処かに行ったのかと思ってました。」

 

「悪い悪い、思ったより爆睡しちまったみてぇだ。」

 

「もう…。試合がある日にそんなことしないで下さいね。」

 

「わかったわかった。それで?これから誰の試合が始まるんだ?」

 

「次は七草先輩のスピードシューティング…。」

 

「へぇ、タイミング良かったぜ。」

 

「よくない。午前中の渡辺先輩のバトルボードと七草先輩の予選を見逃してる。」

 

「お、おう。悪い。」

 

「雫は九校戦のファンだからね。熱くなってるんだよ。」

 

「そうなのか。それで、七草さんはどれくらいすげぇんだ?」

 

「なに?一護くんそんなのも知らないの?」

 

「エリカは知ってんのか?」

 

「あたしじゃなくでも知ってるわよ。」

 

「レオもか?」

 

「おう、本当にみんな知ってるぜ。」

 

「そうなのか…。」

 

「全く、それぐらい調べておけ。一護。」

 

「達也か。」

 

「お兄様!」

 

「遅くなった。どうやらまだ始まっていないようだね。」

 

「それより七草さんと説明してくれよ。」

 

「七草先輩は遠隔魔法のスペシャリスト、魔弾の射手と呼ばれている。七草先輩の遠距離魔法は高速にして正確無比。それを支えるのは遠隔視系のマルチスコープ。あらゆるアングルから実態物を捉える非常にレアなスキルだ。それより、もう始まるみたいだぞ。」

 

七草とその対戦相手が入場し、定位置へと立つ。そして、試合開始のブザーがなる。

 

「スゲェな。両方ともやるじゃねぇか。」

 

「七草先輩は一発ずつ、相手の選手は移動魔法を使って1つを操作しもう1つのクレーンに当てる、効率のいい戦略だが…。」

 

「!?おい。今七草先輩の撃った魔法が下から出なかったか?」

 

「七草先輩のマルチスコープなら死角はありません。」

 

「深雪の言う通りだ。そして、七草先輩なら全方位から撃つことが出来る。作り出しているのは弾丸ではなく銃座。ドライアイスの弾丸を撃ち出す魔法、ドライブリット。十師族である七草真由美が得意とするAランク魔法だ。」

 

「へぇー、七草さんって普段おちゃらけてるように見えてかなりスゲェんだな。」

 

「何を呑気なことを言ってるんだ。一護。想像してみろ。戦場で殺傷ランクを最大にして使われたら…。」

 

「…全滅だな。」

 

真由美は全てのクレーンを破壊し、パーフェクトで勝利した。

 

「んじゃ、俺は戻るかな。」

 

「一護、お前の参加するクラウドボールも明日あるから、ちゃんと見ておけよ。」

 

「はいはい、わかった。」

 

一護はそう言い、その場を後にした。

 

「やっべ、迷った?ったく無駄に広すぎんだろここ。」

 

「ちょっと、そこの貴方!ここは三高の控え室前です!一高生徒が何をしてるのです!」

 

一護がその声に振り向くと金髪の女と、赤い髪の男、そして真ん中で髪を分けている小柄な男がいた。

 

「ん?悪い悪い、ちょっと迷っちまってよ。」

 

「迷う?貴方、毎年九校戦をやっているこの会場で迷うなんて、ここに来たことがないのかしら?」

 

「あぁ、無い。」

 

「フッ、そんな人を選手に選ぶなんて、一高は相当人手不足のようですね。」

 

「愛梨、それは言い過ぎだ。すまない。連れが失礼を、俺は一条将暉だ。」

 

「一条…。十師族か。俺は黒崎一護だ。そっちのあんたは?」

 

「僕は吉祥寺真紅郎。ほら君も。」

 

「一色愛梨ですわ。」

 

「それで、黒崎。君は何の競技に出るんだ?」

 

「クラウドボールとモノリスコードだ。」

 

「へぇ…。なら僕達と当たるね。」

 

「そうなのか。ま、お互い頑張ろうぜ。」

 

「そうだな。それで外に出たいんだったな。愛梨、案内を頼む。俺はこれから知り合いと会わなければならないし、ジョージも選手と打ち合わせがあるんだ。」

 

「っ…。分かったわよ!貴方!ついてきなさい!」

 

「それじゃあな、一条。吉祥寺。」

 

「あぁ。」

 

「またね。」

 

一護は先を歩く一色についていく。

 

「おい、アンタ。」

 

「アンタなんて呼び方は止めてもらえるかしら?」

 

「じゃあ一色。なんで俺を…、いや、違うな。一高を嫌ってんだ?」

 

「嫌ってなんていないわ。ただ今年は私たちが勝つ。あなたたちの天下もここで終わりよ。…はい、ここから先に進めば外よ。それじゃあさようなら。」

 

「おい。」

 

「なによ?」

 

「ありがとな。」

 

「フンッ。」

 

一色はそのまま何も言わずに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ、崩石は暴走しなかったみてぇだな……。今日はなんとか起きれたみてぇだし、競技でも見に行くか。」

 

一護は準備を済ませ会場へと向かう。会場に入るといつものメンバーが固まって見ていた。

 

「一護。今日はしっかりと起きたようだな。」

 

「昨日はたまたま寝坊しただけだっての。」

 

「一護さん、こちらへどうぞ。」

 

「サンキュー、深雪。」

 

一護は深雪の隣に座り開始を待つ。

 

「渡辺さんって七草さんと同じぐらいスゲェんだろ?どんな魔法を使うんだ?」

 

「渡辺先輩は臨機応変に多種多様な魔法をコントロールするタイプだ、十師族の2人に並ぶだけはある。」

 

「あの人もやっぱスゲェのか。」

 

「あぁ、伊達や酔狂で九校戦二連覇なんてできるものじゃない。……始まるみたいだな。」

 

摩利やほかの選手が入場し、コースに並んでいく。

 

「随分と余裕そうだな。」

 

「それはそう。昨日のを見ていれば納得してたはず。というか去年も一昨年も見てなかったことが不思議。」

 

「す、すみません。」

 

選手の皆が構え、開始のブザーがなるのを待つ。そしてブザーが鳴り、一斉にスタートを切る。

 

「うお、随分と速いんだな。しかも出だしから一位じゃなねぇか。」

 

「渡辺先輩は終始一位をキープして終わるタイプだからな。後から追い上げたり、そういう小細工を使う人ではない。」

 

「まぁ、あの人性格的にしなさそうだもんな。ってかその後ろにぴったりついてる奴も随分速いじゃねぇか。」

 

「あれは七高だな。海が近くにあるから水上の競技に力を入れている学校だ。」

 

「通りで…。それでも渡辺さんの方が速いみてぇだけどな。」

 

「渡辺先輩は特別だよ。あの人が出る前は、バトルボードの優勝者は七高だったからね。」

 

「へぇ…。」

 

摩利と七高の選手が争いを繰り広げ、カーブに差し掛かる。

 

「おい、七高の選手はあんなにスピード出して平気なのか?」

 

「まずい、あれではぶつかるぞ!」

 

「クソ!」

 

一護はそう呟き、完現術を使い全力で駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七高の選手はカーブで減速ではなく、何故か加速をし、壁に向かって行く。摩利はそれを受け止めようと魔法で七高のボードを吹き飛ばし、態勢を整え七高の選手を受け止めようとするが、水面が不規則に動きバランスを崩す。そして、七高の選手と一緒に吹き飛ばされる。

 

(クソ…このままじゃ壁にぶつかる…。せめて七高の選手だけでも…)

 

摩利は壁への衝突を覚悟し、衝撃に備えようとする。そして強い衝撃が背中に走る。が思っていたほどの衝撃はなく、痛む背中に手を添えながら壁の方を見る。すると

 

「く、黒崎!!どうしてここに…。というよりお前、腕が!!」

 

後ろには左腕が完全に折れている黒崎一護の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(クソッ!ギリギリだ!受け止める余裕はねぇ。体を滑り込ませねぇと!)

 

一護は壁に向かって行く摩利に無理矢理左半身を滑り込ませ、衝撃を吸収する。

 

「っ!!!!」

 

(クソ!今ので左腕が逝ったか。)

 

「く、黒崎!!どうしてここに…。というよりお前、腕が!!」

 

「いや、平気っすよ。」

 

「平気なわけあるか!救護班!!」

 

「いや、自分で歩けるんで。」

 

一護は人目があるため、魔法を使い達也のところまで跳躍する。

 

「一護!平気か?」

 

「まぁな。」

 

「まぁなって…それ折れてるじゃない!!」

 

「一護さん…無茶はしないでください…。」

 

「いや、本当に大丈夫だって、つうか、俺が行かなかった方が渡辺さんが大怪我してただろ?七高のやつだって危なかったしよ。ま、病院に行ってこねぇとな。」

 

「まて、一高の本部に救急箱があったはずだ。それで手当てをしてから行ったほうがいい。」

 

「分かった。」

 

一護は手当てを受けるために一高の本部へと向かっていった。

 


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