この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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スティール!



第七話 忘却少女にスティールを!

 

「なあ、スキルの習得ってどうやるんだ?」

 

 翌日、冒険者ギルドで少し遅めの昼食を食べているとカズマさんがそんな事を聞いてきた。

 

「スキルですか?確かカードに出る、現在習得可能のスキルの欄で習得したいスキルを選ぶと出来るはずですよ」

 

 私が三杯目の豆のスープを注文しながら答えると、カズマさんが首を傾げた。

 

「それが、何も出てないんだよ」

 

「出てない……ですか?」

 

 カズマさんの持つカードを覗き込んで見ると、おかしい……何も書いてない。

 初期のスキルも出ていないので、スキル欄が空白になっていた。

 

「どういう事なんですかね……」

 

「さっぱり分からん」

 

 すると、新しく仲間に加わっためぐみんがコップに水を注ぎながら。

 

「カズマの職業である冒険者は、誰かにスキルを教えて貰わないとスキルを覚えられませんよ。まず、自分の目でそのスキルを見た後に、スキルの使用方法を教えてもらうのです。すると、習得可能になるのでポイントを払って習得するのですよ。あっ定食を追加でお願いします」

 

 そうだったんだ……ってまた注文してる。

 アクア様も含め、このパーティーの女性陣は食欲が旺盛のようだ。

 

「ん? つまり……めぐみんに教えてもらえば、俺でも爆裂魔法が使えるようになるって事か?」

 

「そう! その通りです! その通りですよカズマ!」

 

 突然、ガタッとテーブルを揺らして、カズマさんの方に身を乗り出すめぐみん。

 コップが倒れそうになった……危ない危ない。

 

「爆裂魔法を覚えたいなら、いくらでも教えてあげましょう! というか、それ以外に覚える価値があるスキルがありますか? 否! ありませんとも! さぁ私と共に爆裂道を歩み、極めようではありませんかっ!!」

 

 めぐみんが興奮したようにカズマさんに詰め寄る。

 顔がくっつきそうなくらい近い。

 カズマさんの肩越しからでも、めぐみんの爆裂魔法に対する熱意が伝わってくる。

 

「ちょっ近い! 落ち着けロリっ子!! 今、ポイントは3ポイントしかないんだが、これで……」

 

「ロリっ子……?」

 

 めぐみんが愕然としたように呟く。

 

「ろ、ロリっ子……。この我が……ロリっ子……ふっ」

 

 ショックを受けたような顔で、再びカエル定食を食べるめぐみん。ろりっこって……。

 

「あの、カズマさん」

 

「なんだよ?言っておくが、俺は本当の事を言っただけだからな」

 

「ろりっこってなんですか?」

 

「……おう?」

 

 私が質問すると、カズマさんがきょとんとした表情で私を見つめる。

 あれ?もしかして変な事を聞いてしまったのだろうか。

 

「こいつマジか……。いや、別に知らなくても不思議じゃない……のか?」

 

 何やらカズマさんはブツブツと考え込んでいるようだが、ろりっこというのは、そんなに説明が難しい物なのだろうか。

 

「あー……別に知らないなら知る必要はないが、一応言っておくとだな、ロリっ子っていうのは、めぐみんとかお前みたいな子の事を指す言葉だ」

 

「私とかめぐみん……ですか」

 

「ああ。分かったならさっさと飯を食え」

 

「はい、分かりました」

 

 よく分からないけど、頷いておこう。カズマさんはこれ以上は聞くなという顔をしているし、あまり聞かれたくない事なのかもしれない。

 

「ただいまー……って何の話してるのよ? 何かめぐみんが落ち込んでるけど」

 

 何処からかアクア様がやって来て、隣に座った。

 

「ちょっとスキルの習得の話をな。そういや、アクアは何か便利なスキルとか持ってないのか? あとお前どこ行ってたんだよ」

 

「そういう事ならちょうど良かったわ。今ね、このスキルを向こうの皆に披露してたのよ。ほらこれ!」

 

 そう言うと、得意気に扇子を手に持つアクア様。

 カズマさんも少し期待するような顔をする。

 

「いくわよ? 『花鳥風月』!」

 

 アクア様がスキル名を言うと、扇子からピューッと水が飛び出してコップの中に注がれる。これはちょっと面白いかもしれない。でも何に使うんだろう。

 

「……ただの宴会芸じゃねえか駄女神」

 

「宴会芸!?」

 

 ショックを受けたようにガクッと肩を落とすアクア様。

自信満々だった分、ダメージが大きいように見える。

 

「宴会芸じゃないもん……」

 

 そんなアクア様はやがて項垂れながら昼食を食べ始めた。私も残りのスープを完食しなければ。うん、美味しい。

 

「はぁ……何処かにお手頃スキルが転がってないもんかな」

 

 そう呟いたカズマさんと目が合った。

 

「そうだ、フーコは……」

 

「探したぞ。そこの御仁」

 

 突然、凛とした声が響いた。顔を上げると、そこには金髪碧眼で色白の美人……ファンタジー映画に出てくるような、輝く甲冑を着た女騎士が立っていた。

 女騎士さんは颯爽とカズマさんの隣に座ると、ふっと微笑んだ。

 

「昨夜はすぐに帰ってしまったから、話の続きがしたくてな」

 

「い、いえ、お構い無く……」

 

 話しかけられたカズマさんは何だか歯切れが悪い。昨夜?ということは、カズマさんの知り合いなのだろうか。昨夜の私は大衆浴場で汚れを落とした後そのまま宿に泊まって眠ってしまったので、他の皆が何をしていたのか知らない。

 

「単刀直入に言おう。私をパーティーに加えてほしい」

 

「お断りします」

 

 どうやらパーティー希望者のようだ。

 色白で碧い瞳が綺麗……って断っちゃうんだ。

 

「くっ! 即答だと……! だ、だが」

 

 女騎士さんが僅かに仰け反った。断られたのがショックだったみたいだ。

 でも、すぐに断らなくても一度くらいは話を聞いてみてもいいんじゃ……。

 

「あはは! ちょっと強引に行きすぎだよダクネス」

 

 笑い声が聞こえて振り返ると、銀髪で細身の女の子が立っていた。

 頬に傷があって、どこか活発そうな印象を受ける。

 

 女の子は女騎士さんの隣に座った。

 

「勝手に話を聞いちゃったんだけど、有用なスキルを探してるんだろ? なら盗賊スキルなんてどう? オススメだよ」

 

「えっと盗賊スキル、ですか。どんなのがあるんすか?」

 

 カズマさんが尋ねると、女の子はピッと指を立てる。

 

「罠解除に敵感知、潜伏に窃盗と盛りだくさん! 習得ポイントも少ないし、覚えておいて損はなし。どう? 今なら冷えたクリムゾンビアを一杯ご馳走してくれるだけでいいよ?」

 

 それは安い。クリムゾンビア一杯でいいんだ。

 ちなみにこのクリムゾンビア、お酒なので私は飲めない。異世界に年齢制限はないらしいが、それでも飲めない。例えジュースでも泡は苦手だ。

 

 当のカズマさんもお得な話だと踏んだのか、少し考えた後、手を挙げてウェイトレスさんを呼び止めた。

 

「よし! すいませーん! この人にキンキンに冷えたのを一つ!」

 

「決まりだね。あたしはクリス。こっちは友達のダクネス。よろしくね」

 

 そっちの子もよろしく、と銀髪の女の子、クリスさんに言われて私は頭を下げた。

 

 

 

 

 カズマさんとクリスさんとダクネスさんの三人がスキル習得の為にギルドを出て行くと、私とめぐみんとアクア様が残った。

 アクア様は昼食を食べ終わると、向こうに座っている冒険者の人達に花鳥風月を披露しに行った。向こうはかなり盛り上がっているようだ。

 

「あの、昨日は助けていただきありがとうございました」

 

「え? あー……えっと?」

 

 隣に座っているめぐみんが唐突にお礼を口にしたので、私は首を傾げる。

 するとめぐみんも首を傾げた。

 

「覚えていないのですか? まあ、途中で気を失ってはいたようですが……」

 

 私は昨日のカエル討伐で途中からの記憶がない。食べられて気絶していたと思っていたのだが、私がカエルを二匹倒したらしい。

 そのうちの一匹はカエルのボスで、普段は中々現れないのだとか。しかし、カズマさんとアクア様に昨日の詳細を訊いても「こう、バッサリと」としか返って来ないのでよくわからなかった。

 

「ごめんなさい……」

 

「謝らないでください。助けられた事には変わりないので」

 

「ありがとうめぐみん。えーと、めぐみんさん?」

 

「めぐみんでいいですよ。私もフーコと呼んでいますし、あとできればタメ口でお願いします」

 

「うん、わかったよ。めぐみん」

 

 めぐみんと頷き合う。

 こうして同年代の女の子と話すのは転生してからは初めてなので、少し不思議な気分だ。

 

「ところでずっと気になっていたのですが、それは?」

 

 めぐみんが私の腰にぶら下がっているセーバーを指差す。

 私は腰から外して机の上に置くと、めぐみんが手に取った。

 

「私の武器なんだ。ライトセーバーって言う剣なんだけど。あ、真っ直ぐにしててね」

 

「ライトセーバー?……おおっ」

 

 めぐみんの代わりにセーバーのスイッチを押して起動する。

 めぐみんは少し驚いたようだが、やがてしげしげと眺め始めた。

 

「これはよく斬れそうな光の刃ですね。ライト・オブ・セイバー……に似ていると思いましたが、よく見ると全く違いますね」

 

「ライト・オブ・セイバー?」

 

「紅魔族が接近戦で使う上級魔法です。私は爆裂魔法一筋なので使いませんが」

 

 上級魔法……もしかして、前に親方が言っていたセーバーに似たような魔法ってこれの事かな?

 

「剣の柄にしては奇妙な形ですね、曲がっているなんて。それにしても赤いですね」

 

「そうだね。赤いね……」

 

「なかなか格好良い……。いや、しかし私には爆裂魔法が……でもこれもこれで……」

 

 めぐみんが何やらブツブツ呟いている。

 

「はっ! すみません、つい。これお返しします」

 

 セーバーの光刃を収めると、めぐみんから受け取る。

 私が腰のベルトにぶら下げているとめぐみんがコップの水を一口飲んで息を吐いた。

 

「先程から向こうが騒がしいですね」

 

「あはは……そうだね」

 

 さっきから向こう側の盛り上がりが激しいので、声が聞き取り辛い。

 めぐみんの高過ぎることも、かといって低くもない声でもギルドの騒がしさには負けてしまう。めぐみんもそう感じたのか、身体を寄せてきた。

 

「ところで、フーコの職業は新しい物なのですよね? アプ……?」

 

「アプレンティス?」

 

「そう、そのアプレンティスというのは、具体的にどういう職業なのですか?」

 

 めぐみんからの難しい質問。

 私自身が具体的に把握している訳ではないので、どう答えるべきか迷ってしまう。

 

「理力――フォースを使ってあれやこれやして銀河を救う職業かな?」

 

「ふわっとしててよくわからないのですが……その、フォースというのは?」

 

 めぐみんが興味深そうに聞いてくる。紅魔族の天才魔法使いと言うだけに、好奇心が旺盛なのかもしれない。私は自分の知識にあるフォースの概念を説明した。

 

「ふむ。この世の万物を包み流れる力、または力場のようなものですか……。操る事が出来れば触れずに物を動かしたり、予知も可能……魔力と似ているようで、でも少し違いますね。フーコはそれを操れるのですか?」

 

「微妙に感じとる事は出来るんだけど、操るのはまだ無理みたい……」

 

「ん? 昨日、カエルを二匹も倒して、一匹はボスカエルだったではないですか。新しいスキルは増えていなかったのですか?」

 

 新しいスキル?…………あっ。

 

「……確認するの忘れてた」

 

「フーコって意外と抜けてるんですね」

 

 急いでカードを確認する私にめぐみんが呟いた。

 悲しい事に全く否定出来ない。

 

「自覚はあるんだけどね……。うん、スキル増えてる」

 

 どれどれとカードを覗きこむめぐみん。

 私が新しいスキルを習得しようと、項目に指を這わせた。

 

「―――あ、カズマさん達が帰って来たみたい」

 

 ギルドの出入り口を見ると、僅かな間を置いて扉が開き、カズマさん達が入って来た。

 

「結構時間が経ったけど、どこまで行ってたんだろ?」

 

 私がめぐみんに振り返ると、めぐみんは小首を傾げてこちらを見ていた。

 

「フーコ。今のがフォースですか?」

 

「え?」

 

 めぐみんの唐突な言葉に戸惑う。

 

「カズマ達が入ってくるのを予知したように見えましたが」

 

「そんなはず………あれっ?」

 

 めぐみんからの指摘で私は気が付いた。

 さっき、私はカズマさん達がまだギルド内に入っていないのに入ってくる事が分かってしまった。もちろん足音や声が聞こえたわけでもないし、この騒がしさの中では外の音は聴こえない。

 

 あれ?でも私、今スキルなんて発動してなかったような。もしかして無意識に発動でもしたのかな……?

 

「おや? なんだか様子が変ですね」

 

 めぐみんがカズマさん達の方を見ながら呟くと、そのまま席を立って歩いて行く。

 

 私も思考を中断して慌てて立ち上がると、カズマさん達に近づいた。

 すると、クリスさんがしょんぼりとした様子で小さく鼻をすすっていた。ダクネスさんは何やら顔が赤くなっているような……。

 

「遅かったわねカズマ。どうしたのその子?」

 

 私が尋ねるより先にスキル披露を終えたアクア様が質問すると、ダクネスさんが何処か興奮したような表情で頷いた。

 

「うむ。彼女はカズマに盗賊スキルを教える際にパンツを剥ぎ取られた上に、有り金もすべて取られて泣いているだけだぞ!」

 

 

「「「………………。」」」

 

 

「ちょっと待て!あんた何言ってんだ!?」

 

「ぐすっ……取った財布返すだけじゃ駄目だからって、じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら……自分のパンツの値段くらい自分で付けろって……高笑いしながら……ううっ」

 

「おい待てッ! ちょっと待て! まぁだいたい合ってるけど、いや待てって!?」

 

「その後も、買う人は高値で買うんだから売り飛ばしてもいいんだぞって……っ!」

 

「おぉい! それは流石に言ってねぇ! なんか周りから冷たい視線が刺さってるからやめろって! ああフーコは冷たい視線じゃないけど、そんな泣きそうな目されたら逆にダメージでかいからな!?」

 

 はっ……!私そんな目してたんだ。あまりのアレにビックリして何処かに飛んでた。

 

「え、えっと……そ、それで、カズマさんは盗賊のスキルを覚えたんですか?」

 

 思考が戻った私は話を変えようとしてカズマさんに尋ねてみた。

 カズマさんがどんなスキルを習得したのかは気になる。

 

「へ?お、おう、ちゃんと覚えたぜ! 見てろよ !『スティール』ッ!!」

 

 カズマさんが私に向かって右手を突き出し、スキル名らしき単語を叫ぶとその右手が光った。

 

 だが、特に変わった様子は見られない。カズマさんもきょとんとした顔をしている。

 

「カズマさん、今何を―――」

 

 …………ん、あれ?なにこの違和感。

 

「おお? 何だか温かい感触が。ん? なんだこの純白の……」

 

 カズマさんが右手を広げ、握っていたのものを灯りに透かした。

 それにはとても見覚えがあった。というか朝にお風呂の脱衣場で見たばかりだ。

 うん、見た、んだけど……。

 

「カ、カズマ、あんたそれって」

 

「……アレですか。カズマは冒険者から変態にジョブチェンジでもしたんですか」

 

「キミはあたしのだけでなくその子のまで……」

 

「ち、違う! これはえっと……」

 

 カズマさんの視線が私のスカートに向けられる。

 

 ………ああ、見られた。男の人に見られた。

 

「ぐすっ……なんで? ……なんでカズマさんが私のパンツ持ってるんですか……?」

 

 スカートを震える手で抑えて必死に涙を堪らえる。

 めちゃくちゃ顔が熱い……。もうやだ、なんで私がこんな目に。

 

「くっ! クリスのみならず、こんな幼い少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取って晒すとは! なんという所業、なんという鬼畜……! やはり私の目に狂いはなかったようだ!!」

 

「いや待て! これはだな!? あれ? 奪えるものはランダムの筈なのに、なんでこんな純白のぱん」

 

「うわあぁぁぁん!! 返してえぇぇぇぇぇ!!!」

 

 咄嗟に右手を突き出すと、パンツが手のひらに吸い寄せられた。

 

 

 

 

 

 

 私がトイレから戻ってくると、カズマさんとアクア様とめぐみんに混ざり、ダクネスさんが同じテーブルに座って、何やら話していた。

 

「ただいま戻りました……」

 

「お、おう。おかえり」

 

 めぐみんの隣に座ると、めぐみんは何も言わずに私の肩に手を置いた。そして、ダクネスさんが新しくパーティーに入ったことや、ダクネスさんが耐久力のあるクルセイダーなので期待出来ること、今まで一緒だったクリスさんは別のパーティーに誘われ、ダンジョンに行った事などを説明してくれた。

 

「そういえば、先ほどフーコがぱん……アレをカズマから奪い返した技はなんなのですか? 新しいスキルですか?」

 

 説明が終わると同時に、めぐみんが尋ねてきた。

 うっ……思い出すとまた顔が熱くなる。

 

「うん、さっき新しく習得したスキルの一つなんだ。発動させたつもりはなかったんだけどね……」

 

「もしかして『フォース・プル』か?」

 

 カズマさんが察して答えたので頷く。

 

「はい。『フォース・プル』と『フォース・プッシュ』を習得しました。さっきのはフォース・プルです」

 

「プッシュまで覚えたのかよ。ボスカエルの恩恵すげえな」

 

「どういうスキルなのですか?」

 

「えーと……」

 

 めぐみんだけでなく、アクア様とダクネスさんも注目しているのが見えたので、私は皆に簡単に説明する。

 

 『フォース・プル』

 新しく習得したスキルの一つで、手に触れなくても物体を引き寄せる事ができるフォースの技。

 

 『フォース・プッシュ』

 フォース・ブルとは反対に、物体を押し動かしたり、押し飛ばす技。

 

 この二つを応用すれば、様々な事が出来る……はず。

 

「ふーん。リモコン取る時に使えそうね」

 

「へぇ何だか便利そうなスキルですね」

 

「うむ、新職業のスキルとは中々興味深い。よければ見せてはもらえないだろうか」

 

 皆が興味津々といった様子で聞いてくるので、私は少し照れながらもテーブルの上のコップに手をかざした。

 

 その時。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街にいる冒険者は至急、ギルドに集まってください! 繰り返します、街にいる冒険者は至急、ギルドに集まってください!』

 

 ギルド内だけでなく街中に大音量で流れる音声に思わず身を竦める。周りの冒険者達を見ると、皆焦った様子もなく、武器を持ったり担いだりして席から立ち上がっていた。

 

「緊急クエストってなんだ。街にモンスターが襲撃してきたのか?」

 

「いや、キャベツの収穫だろう。そうか、もうそんな時期なのか」

 

 カズマさんが言うと、ダクネスさんが嬉々とした様子で答える。

 

「……キャベツ?」

 

「キャベツってなんだ?モンスターか?」

 

 私とカズマさんが困惑すると、めぐみんが呆れたような表情をする。

 

「二人ともどうしたんですか? キャベツはキャベツですよ。緑で丸くて食べるとシャキシャキする野菜のキャベツですよ」

 

「ああ、そういえばあなた達は日本人だったわね。だったら知らなくてしょうがないわ。二人ともよく聞いて、この世界のキャベツはね………」

 

 アクア様が何故か申し訳無さそうな表情で言いかけた時だ。

 

「皆さん! 急なお呼び出しですいません! もう気づいている方も多いと思いますが、キャベツの収穫の時期が来ました! 今年は出来がいいため、一玉一万エリスでの買い取りになります! すでに街の住民は避難させて頂いてます! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我を負うことのないようにお願いします!」

 

 一玉一万エリス……?キャベツの逆襲……?

 

 ギルド職員さんの謎の言葉にカズマさんと顔を見合わせていると、ギルドの外で歓声が沸くのが聞こえた。

 

「な、なに……?」

 

「分からんが、行ってみるか」

 

 私とカズマさんが急いで外に出ると、緑色の何かが空を舞っていた。それも大量に。その光景に呆然としていると、アクア様が両手を広げる。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮されて収穫の時期が近づくと、食べられてたまるかとばかりにね。街や野山を疾走する彼らは大陸を渡り、海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で、誰にも食べられずにひっそりと息を引き取ると言われているの」

 

「俺もう帰っていいかな……よし帰って寝る」

 

「それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ! だから待ちなさいカズマ!!」

 

 アクア様に追いかけられるカズマさんを見て、私も迷いながらセーバーを抜いた。

 




・ダクネスさんが現れました。
・新しいスキルを習得しました。
・カズマさんにぱんつを獲られました。
・カズマさんからぱんつを取り返しました。
・キャベツが飛んできました。

次回はキャベツとの死闘です。

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