この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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めぐみんめぐみん






第六話 戦う少女に爆焔を!

 

「上級職の募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

肩口くらいの艶やかな黒髪、片目を眼帯で隠した赤い瞳。黒いトンガリ帽子にマントとローブ、黒いブーツに手には杖。

 

 現れたのは、典型的な魔法使いの格好をした女の子だった。年齡は私と同じか少し下くらいだろうか……人形みたいに綺麗な顔だ。

 

「そうですけど、お名前を伺っても?」

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……ッ!」

 

 女の子はバサッとマントを靡かせて、決めポーズを取りながら名乗った。

 

「 …………。 」

 

 思わぬ事に沈黙する私達。えっと……。

 

「フッ……! あまりの強大さ故、世界に疎まれし我が禁断の力を汝も欲するか? いいだろう……だが、油断召されるな! 深淵を覗く時、深淵もまた、こちらを覗いているのだから……」

 

「なんだ?冷やかしに来たのか?」

 

「ち、違わい!」

 

 カズマさんが突っ込みを入れると、女の子はくだけた口調で否定した。

 めぐみん……?あだ名かな?

 

「その赤い瞳。あなた、もしかして紅魔族?」

 

 アクア様の問いかけに、女の子は再びマントを靡かせる。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の使い手めぐみん! 我が魔法は山をも崩し! 岩をも砕き! 天をも衝く! ……という訳で、すいませんが面接の前に食べ物を頂けないでしょうか? もう三日も飲まず食わずで限界なのです……」

 

 そう言うと少女、めぐみんはふらりとよろけた。

 

「だ、大丈夫?」

 

 私が慌てて支えると、めぐみんは「すいません……」と小さく呟いた。

 お腹が鳴る音が聞こえる。

 

「まぁ、飯を奢るくらいなら構わないけどさ、その眼帯はどうしたんだ? 怪我でもしてるんならこいつに治してもらえよ」

 

 アクア様を指差すカズマさん。

 アークプリーストは回復魔法のエキスパートで、どんな怪我も癒せるという。

 

「フッ……! これは強大なる我が魔力を抑える為のマジックアイテム! ひと度外されれば……この世は大いなる災厄に飲み込まれるであろう……!」

 

 そうなの?……いや、ここは巨大なカエルが存在するような異世界だ。きっと魔法使いもスケールが違うのだろう。眼帯には触らないように気を付けないと……。

 

「ほー。封印みたいなもんか?」

 

「まぁ嘘ですが。ただお洒落で着けてるだけで……あっごめんなさい! 引っ張らないでください! やめっやめろ――っ!!」

 

 カズマさんが無言でめぐみんの眼帯を引っ張る。めぐみんは抵抗しようとカズマさんの手を抑えるが、力が入らないようだ。

 

 封印は嘘かあ……。ほっとしたような、少し残念なような。

 そういえば、一時期お兄ちゃんが封印がどうとか右目がどうとか言っていたような覚えがある。私はまだ幼かったので意味がわからなかったけど、結局あれは何だったんだろう……。

 

「説明しておくとね、彼女達紅魔族は名前の通りの赤い瞳が特徴的で、生まれつき高い知力と魔力を持ってて、大抵は魔法のエキスパートで、全員が変な名前を持ってるのよ」

 

 カズマさんとめぐみんを気に留める様子もなく、アクア様が説明した。

 

「へえ……」

 

 あれって本名なんだ。あだ名じゃなく……って。

 

「あの、カズマさん。そろそろこの子の眼帯を……」

 

「おう、そうだな」

 

 カズマさんが伸びきった眼帯を放すとパチーンッと元に戻る。

 

「目がぁあああああっ!?」

 

 悲鳴を挙げるめぐみん。すごく痛そうだ……。そっと戻してあげてほしい。

 

「すまんな。からかってるのかと思ったぞ。訳わからんこと言うし、変な名前だし」

 

「ううっ……変な名前とは失礼な! 私から言わせれば街の人達のほうが変な名前です!」

 

「……ちなみに両親の名前は?」

 

「母はゆいゆい! 父はひょいざぶろー!」

 

バサッと靡くマント。

 

「 …………。 」

 

 何故だろう。今すぐめぐみんの両親に会いたくなってしまった。

 価値観の違いを笑っちゃいけないけど、このもやっとした気持ちはめぐみんの両親に会えばきっと解る。そんな風に私の本能……いや、フォースが囁いている。ような気がする。

 

「おい! 私の両親の名前について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

 沈黙する私達を、めぐみんが睨みつけてくる。ちょっと涙目になっていた。

 

 

 

 

「冒険者カードは偽造できないし、彼女はアークウィザードで間違いないわね。高い魔力値も記してあるし、これは期待できると思うわ。彼女が本当に爆裂魔法が使えるならそれはもう凄い事よ? だって、最上級の攻撃魔法だもの!」

 

 アクア様がめぐみんの冒険者カードを見ながら興奮したように言った。

 

「確かに、この子の魔力値見たことないくらい高いな」

 

「凄い数値ですね」

 

 めぐみんのカードを覗き込むと、とんでもない数値が見えた。

 特に魔力値が飛び抜けて高い。魔法使いだから当然なのかもしれないが、それでもどんな魔法が飛び出してくるのか、期待が膨らんでいく。

 

「もぐもぐ……。おい、この子でも彼女でもなく、ちゃんと名前で呼んで欲しい。もぐもぐ」

 

 めぐみんが机に並べられた料理を頬張りながら言う。

 

「俺はカズマ。こいつはアクア。その隣がフーコ。おかわりいるか? アークウィザード」

 

「……いただきます」

 

 カズマさんが差し出したメニューを、めぐみんはむすっとした表情で受け取った。

 

 

 

 

 

 満腹になっためぐみんを仲間に加えた私達は、街の外の平原に来ていた。

 残る四匹のジャイアント・トードの討伐の為だ。

 

「爆裂魔法は最強の魔法。その代わり詠唱に結構な時間が掛かります。私が詠唱している間、カエルの足止めをお願いします」

 

 そう言って杖を構えるめぐみん。

 

 すると、離れた場所にいる一匹のカエルがこちらに気づいたのかひょこひょこと向かって来ている。更に逆方向からも一匹がこちらに向かって来ていた。こちらは距離が近い。

 

「二匹同時か……。魔法で遠い方のカエルを狙ってくれ。近い方は俺達が片付けるぞ」

 

「はいっ」

 

 ショートソードを抜くカズマさん。

 私も手にセーバーを持ち、いつでも起動できる準備をしておく。

 

「よし……」

 

 私は気持ちを落ち着かせて集中すると、スキルを発動する。意識して集中するだけなので発動自体は楽かもしれない。だが、発動した瞬間に微かな寒気が襲ってくる。これが発動したという合図でもあるのだが、やはり少し辛い。

 

「おい、元なんとか。お前もちゃんと役にたてよ」

 

「元ってなによ! 今でも私は現役の女神よ!」

 

 アクア様がどこからか出した杖を振り上げて、涙目で抗議する。

 

「……女神?」

 

 めぐみんが僅かに振り向いて呟く。

 

「……を、自称している可哀想な子だよ。たまに妄想と現実の区別が付かなくなるけど、そっとしておいてあげてくれ」

 

「ああ……なるほど」

 

 カズマさんの言葉に気の毒そうな目をするめぐみん。

 

「あ。そういえば、アクア様は何故この世界に来たんですか?」

 

 ふと、私はずっと気になっていた事をカズマさんとアクア様に尋ねた。

 

「何故って、転生特典としてカズマに連れて来られたのよ」

 

「転生特典!?」

 

 ちょっと待って、転生特典?……え?女神様って特典に含まれてるの?でもそんな事って……。

 

「あのアクア様――」

 

「なあ、今それ聞く?今聞く事か?後にしてくれないか?」

 

「あ、すいません!」

 

 しまった。つい口を突いて出たとはいえ何を言ってるんだ私は。タイミングがおかしいにも程がある。

 

「……世界?転生って何の事ですか?」

 

「……何処からか転生してきた設定でアクアの相手をしてるんだよ。たまにあの子がああやって遊んであげてるんだよ。出来れば放っておいてやってくれ」

 

「はあ……よく分かりませんが大変そうですね」

 

 私に同情するような視線を送るめぐみん。

 違うんです。そうじゃないんです。ごめんなさいアクア様……。

 

「うぅ……何よ皆してバカにして! いいわよ! 打撃系に強いカエルだけど……! こうなったら女神の力を見せてやるわ!!」

 

 半泣きになったアクア様は杖を槍のように構えると、カエルに向かって猛然と走り出した。

 

「はぁぁぁ! 震えながら眠るが良い! ゴッドレクイエム! ……ゴッドレクイエムとは、女神の愛と哀しみの鎮魂歌! 相手は死ぬ!」

 

 杖の先端から出る眩しい光。凄い!あれなら……!

 

「あ、食われた」

 

「アクア様!?」

 

 そのままカエルの口に飛び込んだアクア様は、やがて動かなくなり、カエルも動かなくなった。

 

「さすが女神……身を呈して囮になるとは」

 

カズマさんが呆れたように呟くが、それどころではない。

 

「助けないと!」

 

 私が向かおうとすると、カズマさんに肩を掴まれた。

 

「待て。大丈夫だろ腐っても女神だし。それより……うおっ!?」

 

「うっ……なにっ?」

 

 突然、背後から突風が吹いて身体がよろめいた。

 振り向くと、めぐみんの杖の先端が光り輝き周囲の空気がビリビリと震えていた。

 

 

『黒より黒く、闇より暗き漆黒に、わが真紅の混交に望み給もう。 覚醒の時来たれリ、無謬の境界に堕ちし理。むぎょうの歪みと成りて現出せよ。』

 

 

 空気が震える中でも、めぐみんの詠唱がはっきりと聞こえる。

 杖の先端が徐々に輝きを増して、そこから溢れ出る熱がこちらに伝わってくる。

 

 

『踊れ、踊れ、踊れ。我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。』

 

 

 詠唱は続く。

 身体の内側が熱くなり震えるのを感じたが、めぐみんから目を離すことが出来ない。

 

 

『万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ! これが人類最大の威力の攻撃手段! これこそが! 究極の攻撃魔法……!』

 

 

 杖の先端が強く輝き、その眩しさに目を細める。

 

 

『 エクスプロージョン!! 』

 

 

 めぐみんが一際大きな声を上げると、限界まで高められた魔力が炸裂する。

 それと同時に強烈な閃光と轟音、熱波と爆風が駆け抜けていく。

 

「~~~ッ!!」

 

 私は声にならない悲鳴をあげると地面に蹲り、襲い来る地響きと爆風に耐えた。

 

 全てが収まった時には、地面には二十メートル以上のクレーターが出来ており、カエルはこの世から消え去っていた。

 

「すげえ……これが魔法か」

 

 カズマさんの声が聞こえるが、私は初めて見る魔法の威力に言葉が出ない。

 

 ―――!

 

 背後からの感覚。

 振り返ると、めぐみんが立つ場所の近くの地面が盛り上がり、カエルが這い出て来た。のっそりとして、動きが随分と緩慢だ。

 

「どうやらこの爆音で起きたみたいだな。めぐみん! 奴は遅い! 距離を取って魔法で……」

 

 カズマさんも気付いたようで、指示を出し――……。

 

「え?」

 

「めぐみん!?」

 

 ドサリとめぐみんが倒れた。

 

「ふっ……。我が奥義である爆裂魔法は威力が絶大ゆえ、消費魔力もまた絶大……。つまり、私は力を使い果たして身動き一つ取れません。すいませんがこのままでは私は食べられてしまいます。あ、まずい。非常にまずいです誰か助けっあ」

 

「「めぐみーん!!」」

 

 補食されためぐみんに、カズマさんと私が叫ぶ。

 

「どど、どうしよう……! めぐみんどうしよう!」

 

 焦って右往左往する私の肩をカズマさんが掴んだ。

 

「おい落ち着け。俺はアクアの方をやるから、フーコはめぐみんを頼めるか?」

 

「りょ、了解です」

 

「落ち着いていけよ。相手は止まってるんだから近付いてバッサリやればいいだけだ。昨日みたいにな、やれるな?」

 

「……っ」

 

 そう言うカズマさんの首筋に汗が伝っていくのが見えた。

 平静を装ってはいるが、内心は焦っているのかもしれない。……そうだ。私だけじゃない。落ち着こう。今私達が取り乱してしまうと、助けられるものも助けられなくなる。

 

「はい。冷静に、ですね」

 

「……ああ。いくぞ」

 

 私はカズマさんと分かれると、めぐみんを呑み込んでいるカエルにゆっくりと近づいていく。落ち着いて……昨日は咄嗟の事で必死だったけど、今は違う。

 

 上を向いてモゴモゴしているカエルはこちらに気付く様子はない。

 

 そっと背後に近付くと、ライトセーバーを起動させ……。

 

 ―――!!

 

 即座に横に跳ねると地面が盛り上がり、そこからカエルの腕が飛び出した。

 

「ふ、増えた?」

 

 私は地面からのっそりと出てきたカエルを見上げる。

 そのカエルは随分と他のカエルより大きくて心なしか色が濃く見えた。おまけに威圧感が凄まじい。

 

「………ボスなの?」

 

 私の問いかけに、カエルは大きく口を開けて……。

 

「わっ!?」

 

 慌てて避けると、直前に立っていた地面が抉れた。昨日のカエルとは比べ物にならない程の速さに血の気が引いていく。フォースが無ければ、今ので食べられていたかもしれない。

 

 間違いない……。このカエル、絶対ボスだ!

 

 

 

 

 

 

 sideカズマ

 

 俺が異世界に転生して一週間あまり。まさか、この短期間にバカでかいカエルと何度も戦う羽目になるとは思わなかった。

 すべては報酬の為だが、異世界でも金がいるという世知辛い現実によって苦労してばかりだ。どれもこれも、世の中と駄女神が悪い。

 

「おい、アクア。大丈夫か?」

 

「うぅん……えぐっ……ぐずっ」

 

 倒れたカエルの口からアクアを引っ張り出すと、アクアはしくしく泣き出した。どうやら泣く余裕はあるようだ。悪いがハンカチはないんでな、風呂まで我慢しろ。

 

「おーよしよし、辛かったなー。ほらいくぞー」

 

 俺は泣き続ける粘液まみれのアクアを立たせると、フーコとめぐみんの元へ歩く。

 

「えうっ……ベトベトするよぉ……」

 

 それにしても、随分と遠くまで運ばれたなこの駄女神は。

 カエルがもぐもぐしながら少しずつ前に進んでいたせいで、緩い丘の向こうまで追いかける羽目になってしまった。おかげでめぐみんとフーコから離れてしまい、向こうの状況が分からない。

 

 まあ、食われためぐみんはともかくフーコは特典持ちのチートなので心配はいらないのだろうが、見た目は小柄な小学……いや中学生だ。おまけにカードのステータス欄に記してあった体力値がかなり低かった覚えがあるので、いくらチートでも体力がないと危ないかもしれない。

 

 ……とは思ったものの、流石に大丈夫か。一匹は仕留めてるんだし。

 

「ぐすっ……お風呂入りたい……」

 

 そういえば、フーコは何でライトセーバーを持ってるんだ?フーコはフォースが転生特典と言ってはいたが、アクアが言うには特典は一つだけだったような気がする。

いや、でもアクアが言った事だからどこまで信じられるかわからん。

 

止めどなく疑問が浮かぶ中、俺は丘の頂上に登るとフーコとめぐみんの方を見渡した。

 

「おいフーコ!そっちはもう終わっ………て?」

 

 そこには、フーコとカエルが正面から対峙して立っていた。

 まるで、西部劇の決闘シーンのようだ。

 

 他のカエルの倍はある巨体がジリジリとフーコに近付いている。

 その巨体の後ろには、めぐみんを飲み込んだカエルが動かずにモゴモゴと空を仰いでいた。どうやら、カエルがもう一匹現れてフーコの行く手を遮っているようだ。

 

 フーコは俯いているので顔が見えないが、肩で大きく息をしているのでかなり辛そうなのが見て取れる。おまけに服が泥だらけでボロボロ。明らかに苦戦していた。

 

「おいアクア! 泣いてる場合じゃないぞ! フーコがヤバイ!」

 

「……ふぇ? え、でも」

 

「ふぇ? じゃねーよ張っ倒すぞ! 助けないと今度はフーコが食われるって言ってんだ! ほら行くぞ!」

 

「え? なんで私も行くの?」

 

 は?この状況で何言ってんだこの駄女神。ふざけてるのか?俺がアクアを睨みつけると、アクアは更に涙目になった。

 

「わ、わかったわよ! 行けばいいんでしょ行けば! うぅ……ここは休んでていい場面なんじゃないの?」

 

 後ろでアクアが何か言ってるが、無視してロリっ子達を助ける為に走りだす。

 

「フーコ!めぐみん!今助け………?」

 

 今まで動きを止めていたフーコが緩慢な動作でセーバーを動かす。

 剣術の八相のような構えを見せると切っ先を相手に向けた。

 

 まるで、そのまま突くような構えだ。

 

「………!」

 

 やがて、痺れを切らせたカエルが飛びかかってくると同時に、フーコは身を翻しセーバーを突き上げ――瞬時に斬り上げた。

 

 ブォンッと鋭い斬撃音が響いた瞬間、飛びかかったカエルの頭が真っ二つに割れ、その勢いのまま地面に沈んだ。

 

「えぇ……」

 

 その光景に思わず声が漏れる。フーコは倒れたカエルに見向きもせず、そのままめぐみんを飲み込んだカエルに近づくと……。

 

「助けはいらなかったみたいね……」

 

 アクアの呟きに俺は頷くしかなかった。

 

「だな……」

 

 フーコは自分も粘液まみれになりながらめぐみんを引っ張り出すと、そのままめぐみんの下敷きになって動かなくなった。

 

 もうなんというか、爆裂魔法といいカエル真っ二つといい……。

 

「……ロリっ子達がヤバイ」

 

 あと何気にクエスト達成してるし。というか、どうやって帰るんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 sideフーコ

 

 

『……すて……何でも……!』

 

『放……ッ……!』

 

『見捨……ッ』

 

 何だか周りが騒がしい……。

 

 もう少し寝ていたいのに、嫌でも意識がはっきりしてくる。

 寝ていたいのに……。ん?あれ?私何で寝てるの?

 

「はっ……!」

 

「見捨てないでください! もうどこのパーティーも拾ってくれないのです! 荷物持ちでも何でもしますから! お願いです! 私を見捨てないでくださいぃー!」

 

「放せ! もうウチは手一杯なんだよ!!」

 

「お願いしますからー!」

 

「うぇぇ……生臭いよぉ……ぐすっ……」

 

 私の目の前にはカズマさんの背中にしがみついて叫んでいるめぐみんと、その少し後ろで泣きながら歩くアクア様の姿があった。どちらにも粘液のようなものがベットリと付いている。

 

「……何これ?」

 

 見慣れた街の中を進んでいるようだけど……どういうこと?

 状況を飲み込めない私がきょろきょろしていると、突然頭に鈍い痛みが走った。

 

「いっ……!」

 

「ぐすっ……あれ?カズマ、フーコが目覚めたわよ。ぐすっ」

 

 思わず上げた声に気付いたのか、アクア様がカズマさんに呼び掛けた。

 

「おう目が覚めたか。っておい! いい加減に放せって……!」

 

「嫌ですー!仲間にしてくれるまで放しません!!」

 

「おまっふざけんな!!」

 

 カズマさんは背中に張り付いているめぐみんを引き剥がそうとしている。

 そのカズマさんの腰には縄が巻き付いており、縄の先に取り付けられた板の上に私は乗っていた。簡易的なソリだろうか。

 

「あのカズマさん! 私、どうしてこんな……。何がどうなったんですか?」

 

「今ちょっと手が離せないから! 詳しい事はアクアに聞いてくれ……! ぐぬぬぬ! お前、魔法使いの癖に力強すぎだろ!」

 

「伊達に紅魔の里を駆け回ってはいないのですよ……!」

 

 めぐみんの腕がカズマさんの首に絡まって締め上げている。

 

「アクア様。私はどうして寝てたんでしょうか。皆は無事みたいですけど、カエルは? クエストはどうなったんですか?」

 

 とりあえず隣を歩くアクア様に尋ねると、何故かアクア様は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「あなた、まさか覚えてないの?」

 

「はい?」

 

 首を傾げる私にアクア様が微妙な表情を浮かべた。

 

「まぁ、知らない方がいいこともあるわよね……。うん。色々大変だったけど、クエストは成功したわよ」

 

 クエストは成功……よかった。

 ほっと息を吐いて下を向くと、いつの間にか服が泥だらけになって所々が破れており、更には粘液のような物も付着していた。

 

「あ……」

 

 アクア様の表情の理由が分かってしまった。どうやら、私はカエルに食べられてしまったらしい。

 酷く疲れて動けないのも身体の節々が痛むのも、頭が痛いのもカエルに食べられた影響だろうか……。

 

「あの、アクア様……」

 

 顔を上げると、アクア様が私をチラリと見てすぐに目を逸らすのが見えてしまい、たまらず俯いた。

 

「だああっ! もうわかった! めぐみん、これからよろしくな!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 この後、消沈する私を乗せてギルドへ向かうカズマさんに『粘液まみれの小さな女の子を背負いながら、粘液まみれの小さな女の子を引き摺って、粘液まみれで泣きながら歩く女の子を引き連れたカエルプレイを強要する男』という変な噂が付いてしまった。




・めぐみんがパーティーに参加しました。
・ジャイアント・トードを討伐しました。
・フーコが気絶しました。
・クエストを達成しました。

次回は女騎士です。

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