カズマさん達と合流後、作戦会議です。
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ライトセーバーの説明部分を改訂しました。
「立てるか?」
「は、はい……」
私はジャージ姿の男の子に助け起こされると、よろめきながらも身体に付いた土を払って頭を下げた。
「助けてくれて本当にありがとうございます」
「ああ、まあ無事で何よりだ」
そう言って頬を掻く男の子を改めてよく見ると、私より年上に見える。男の子……は失礼なので、ここはお兄さんと呼んだ方がいいかもしれない。
「あなた危ない所だったわね。でも私が助けたわ! そう、アクシズ教団の崇めるご神体にして、この女神アクア様がね!!」
そして、お兄さんの背後で名乗った人。
名乗った通り、そして私が思った通り、この人は私を転生させた女神様で間違いないようだ。もしかして、私の祈りが通じたのだろうか。
「ところで、あなたはあの時の何とかっていう女の子よね? よかったら助けたお礼に後でお金を貸しひゅぐっ」
微かな寒気を感じた瞬間、女神様の姿が消え、入れ替わったように巨大なカエルの頭が現れた。
「……え、あれ? 女神様?」
「ちょっアクア!! 何食われてんだよ! おい返事しろ!!」
私が突然の事に固まっていると、お兄さんが剣を抜いてそのままカエルに突撃していった。
「た、助けないと……!」
やっと状況を理解した私はお兄さんに続こうとライトセーバーを拾うも、体力が尽きているせいか上手く身体が動かない。モタモタと焦る私とは裏腹に、お兄さんはカエルの頭に剣を叩きつけると、倒れたカエルの口の中から女神様を引き摺り出した。
あのお兄さん、凄い……。
◇
「うぅっ……うぇぇええええんっ! あぐぅっ……!」
目の前には、地面に座り込んで号泣する女神様の姿があった。
カエルの粘液まみれになって泣く姿は、胸に迫るものがある。
「あの、これどうぞ……」
いたたまれなくなった私はハンカチを女神様に渡した。
「うぅっ……ぐすっ……ありがど……! あなたもカズマさんもありがどうね……うああぁぁぁぁん!!」
ハンカチを握りしめて泣きじゃくる女神様の気持ちは痛いほどよくわかる。
カエルに食べられてネチョネチョになるなんてトラウマものだろう。
女神様のような綺麗な人なら尚更だ。
「おい、大丈夫かアクア、気をしっかり持て。もう今日は帰って風呂に入ろう。カエルも今ので一匹は仕留めたし、また今度にしようぜ?今度はもっと強い武器を手に入れて仲間を増やしてからリベンジってことでさ。ほら、この子も待ってるし、な?」
お兄さんが女神様に優しく声をかけつつ、こちらを振り返った。とても心配そうな表情だ。
「えーと、そういえば怪我とかしてないよな? 大丈夫か?」
「はい。お陰さまで無事です。ところで、お名前をお伺いしても……?」
今更だけど、命の恩人の名前くらいは聞いておかなければいけない。
プリーストのおじさんの時のような事は避けたい。
「え?あ、そうだった。俺は佐藤和真。そこで泣いてるのはアクアだ。よろしく」
お兄さんの名前はサトウカズマ。サトウカズマさん。……ん?この名前って。
「あの、もしかしてお兄さんは日本人ですか?」
「え? ああ、そうだけど……まさか君も?」
この反応……この雰囲気、この名前、間違いない。
この街に私以外の転生者がいたんだ……!
「はい、名乗るのが遅くなりました。私は星野風子って言います。日本人の転生者です」
「やっぱり俺と同じ転生者か! ……で、いつこっちに来たんだ?」
「一週間くらい前です」
「おお! 俺とアクアも同じくらいにこっちに来たんだが……やっぱりバイトとかしてるのか?」
「北の外壁の拡張工事の仕事をしてます。あと犬の散歩とか色々です」
「へえ北の方か、俺たちは南の方の外壁で――」
「ちょっと! 泣いてる私を放置して転生者談義してんじゃないわよ!! 何なの? イジメなの?女神に対する嫌がらせなの!?」
私とお兄さん……カズマさんが話に花を咲かせていると、今まで泣いていた女神様が怒って立ち上がった。その勢いで粘液が飛び散る。
「あ、いえ、そういうわけじゃなくて。そっとしておいた方がいいかなって……」
「邪魔するなよアクア。あえて放置したんだから空気読めよ」
「いやなんで私が悪いみたいになってるの!? さっきの優しい言葉はどこいったのよー!」
泣きわめく女神様。これは悪いことをしてしまった。泣き止むまでそっとしていた方が良いと思ったけど裏目に出てしまったようだ。
「くっ! 女神がたかがカエルにやられた挙句、転生者にイジメられたなんて信者達に知られたら……麗しい私のイメージが台無しだわ!」
「いやいやそんなもん最初から……って待てアクア!おい!」
すると女神様はカズマさんの制止も聞かずに、遠くの方で跳ねているカエルに向かって駆け出した。
「神の力、思い知れ! 私の前に立ち塞がった事! 神に牙を剥いた事! 地獄で後悔しながら懺悔なさい! 八つ当たりのゴッドブロ――ッ!!!」
女神様が勇ましく雄叫びを上げると、その拳が光輝いた。
「八つ当たりかよ! そういえば、カエルに打撃系の攻撃はあまり効果がないってギルドの職員さんが言ってたような……」
カズマさんが隣でぼそりと呟く。って……え?そうなの?あれ?ということは。
女神様の方を見ると、ちょうど輝く拳がカエルのお腹に直撃していた。
ぶよん……とその拳を受け止めたカエルは女神様を見下ろして、大きく口を開けた。
「…………や、八つ当たりで殴るのはよくないと思うの。あなたもそう思うでしょ?きゃぷ」
「あいつまた喰われやがった!」
「そんな、女神様!!」
どうしよう、このままだと女神様が死ん――そういえば、私の手には女神様に貰った武器がある。
「どうやらカエルは捕食してる間は無防備みたいだ! 俺が行くから出来れば援護を……っておい!」
気が付くと、私はカズマさんの言葉も聞かずにカエルに向かって走り出していた。
止まっているカエルとの距離を詰め、ライトセーバーを起動すると一気に突き立てる。……ジュッと焼けつく音と強烈な匂いが鼻を突く。
「女神様を、放して!!」
グリップを握り締め、そのまま薙ぎ払った。
◇
「ライトセーバー!? ライトセーバーって……あのライトセーバーか!?」
「は、はい。そうです。あのライトセーバーです」
あの後、街に戻った私達は大衆浴場で汚れを落とし、ギルドで食事をしながら作戦会議を開くことにした。
私が椅子に座って注文を終わらせると同時にカズマさんが真っ先に武器について聞いてきた。どうやら光る剣が気になっていたらしい。
私は件のライトセーバーをテーブルの上に置いて見せた。
「……ちょっと触ってみてもいいか?」
「どうぞ。でも十分気をつけてください」
カズマさんはセーバーを手に取ると、色々な角度からしげしげと眺めた。
「これグリップが曲がってるな。カーブ=ヒルト・ライトセーバーか」
「カーブヒルト……?」
「これの名前だ。知らないのか?」
セーバーに名前がある事を知らない私はおずおずと頷いた。
でもそういえば、前にお兄ちゃんがレプリカを振り回しながら言ってたような……。
「ドゥークー伯爵のイメージが強いけど、古代のジェダイやシスに愛用者が多いやつだな」
「そうなんですね……カズマさんってこういうのに詳しいんですか?」
私がそう尋ねると、頬をポリポリと掻くカズマさん。
「まぁかじった程度には。えっと、スイッチはこれか……」
カズマさんがセーバーを起動すると、赤い輝きがその顔を照らす。うん、とても赤い。
「って赤いライトセーバーかよ! いや、さっきも赤いのは見たけどさ。でも見間違えたかと思うだろ?」
「見間違えならよかったんですけどね……。あはは……やっぱり赤いんだ……」
赤いのは私の目が悪くなった訳じゃないんだね。ちゃんと赤いんだね。知ってた。
「あー……まあ、そんなに色は気にしなくても大丈夫だろ。赤は悪のイメージだけど、色は刃の発生源のクリスタルが天然か人工かの差だし、結局は使う人間次第だからな」
そんなフォローを入れてセーバーのスイッチを切ると、私に返すカズマさん。
色が赤いから不安だったけど、詳しい人が大丈夫って言うならとりあえずは安心してもいいのかな?
「ありがとうございます……」
「どうしても気になるならアクアに聞いたらどうだ? これ転生特典なんだろ?」
あ、そういえばそうだった。ここに女神様が居たんだった!
「あの女神様、これどうして赤いんですか? あとなんで曲がってるんですか?」
「ふぁ? ふふぁいふぉうっへっ」
私の問いかけに、今までずっとカエル肉に夢中になっていた女神様が、頬をハムスターのように膨らませて何事かを話し始める。
「おい飲み込め。飲み込んでから喋れ」
カズマさんがピシャリと注意する。なんだかお父さんみたいだ。
「ごくん……いや知らないわよそんな事。カタログの通りなんだから、カタログを作った神に聞きなさいよね」
「えっ……」
女神様なのに知らないんだ……。
そういえば、口調といいカエル肉にかぶり付く姿といい、今の女神様は素の状態なのかな。
「お前も含めて神々適当すぎないか? ……いや、さっきも言ったけど気にすんな。後は使いようだ」
困惑する私にカズマさんが二度目のフォローを入れてくれた。優しいお兄さんだ。
「使いようってカズマ。あなた、さっきこの子がカエルを思いっきり突き刺して掻っ捌いたの見てたんじゃないの? あれ私の頭スレスレだったんだからね? 死ぬかと思ったんだからね? ねえ、あなた謝って?」
改めて言われると、我ながら何というエグい事をしたのか。本当に何であんな事したんだろう。気付いたら身体が動いてたし……。
いつの間にか疲労も飛んでたから、アドレナリンでも出てたのかな。
「あれは自分でも無我夢中だったので……いえ、本当にごめんなさい」
「まあいいわよ。カエル肉とお酒の美味しさに免じて許してあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
あっさり許された……。ここはカエル肉とお酒に感謝するべきだろうか。
「それでいいのかよ。じゃあわざわざ言うなよ、空気読めよな駄女神」
「駄女神って言わないでよね! ヒキニートのくせに! 引きニートのくせに!」
「ひひヒキニートじゃねえし! 今は外に出て働いてるからヒキニートじゃねえし!ってか二回も言うな!!」
立ち上がった女神様と同時に立ち上がったカズマさんが私の方をチラチラ見ながら必死に訂正する。いや私、そういうのはあんまり気にしないので……。
「ま、まぁまぁ。お二人共その辺で……。えっと、それより今はあのカエルをどうするかじゃないですか?」
慌ててそう言うと、二人は矛を収めて座り直してくれた。
「……カエルは今日で二匹倒したんだよな? いや、正確にはホシノさんが一匹のクエストを受けてたから、俺とアクアは一匹しか倒してないことになるのか」
私が受けたクエストのカエルの数は一匹。カズマさん達は五匹だった。
さっき私が一匹倒したので、私のクエストは達成されたのだが、カズマさん達が倒したのは私を助けた時の一匹だけなので、あと四匹も残っていた。
「あと四匹をどうするかだな……。流石にこの人数じゃ不安だぞ」
「それって私も人数に入ってるんですか?」
「え? 駄目だったか? てっきりイケる流れかと思ったんだが……。旅は道連れっていうし」
念の為に聞いてみると、カズマさんがバツの悪そうな顔でそんな事を言った。
よかった……。手伝う気満々だったから除かれたらどうしようかと。
「私なんかでよければ是非お供させてください。あと私の事はフーコでいいですよ。私の方が年下ですし」
この街では皆からそう呼ばれてるし、私も年上相手にカズマさんと呼んでいるので呼び捨てで呼んでほしい。いや、流石に呼び方を指定するのは失礼だっただろうか。
「いえ、やっぱり好きに呼んでください。すいません」
「いや謝る必要はないぞ。……じゃあフーコ。よろしく頼む」
カズマさんは何処か照れくさそうにそう言った。私にはお兄ちゃんが居たので年上への耐性があるが、カズマさんはあまり年下を相手にした事がないのかもしれない。
「それじゃあ私の事はアクア様でいいわよ?」
女神――アクア様がフォークを振りながら言った。
お許しが出たので、お言葉に甘える事にする。
「はい、よろしくお願いします。アクア様」
「ねえ聞いた? これが正しい反応よカズマ、カズマ!」
何やら嬉しそうに目を輝かせて私とカズマさんを見るアクア様。
「お前、普段そう呼ばれてないからって喜び過ぎだろ……って話が進まねえよ。人数をどうするかの話だろ」
「人数もだけど、パーティーのバランスをどうするかも大事じゃない?」
そう言うと、私の皿から手付かずのカエル肉を取るアクア様。
「バランスか。俺が冒険者でアクアがアークプリーストでフーコがえーと、フーコの職業は何だ?」
「アプレンティスです」
「アプレンティス……ってギルドで噂になってた新職業か! あれってフーコの事だったのかよ。ちなみにどんな事が出来るんだ?」
「一応フォースが使えます」
「フォース!? ……そうか、だからライトセーバーにアプレンティスなのか……。しかし」
カズマさんが腕を組んで納得したように頷いた。
私が何かを言う前に察して繋ぎ合わせているので、何だか申し訳ない気持ちになる。
「フォースは私の転生特典なんです。この世界ではスキルになってるみたいですけど」
私はアクア様の方を伺うが、カエルの骨から肉を削ぐのに夢中みたいなので、そっとしておく事にした。
「フォースがスキル扱いか。どんなのがあるんだ?」
「えっと……」
私はカズマさんに冒険者カードを取り出して見せると、カエルと戦っていた時の事も含めて説明する。
攻撃を感知すると寒気が襲うこと。そのせいで精神的に疲れること。この際なので、私より知識がありそうなカズマさんに助言を求めた。
「理力――フォースで攻撃を感知すると寒気がする、か。うーん……フォースで相手の殺意とか敵意を感じ取ってるから、とかか?」
「殺意と敵意……?」
「ほら、漫画とかでよくあるだろ? 殺気を感じるとか何とかって。それと同じようなものなのかもな」
なるほど。それと同じようなものなのかな……。
「あとは単純に慣れの問題じゃないか?」
「慣れ、ですか」
「ああ。スキルになってるから数をこなせば慣れるか、レベルが上がって緩和されるか、はたまた別のスキルで補うか。……まあ何にせよ、俺はフォースを使えないし、そもそも知識としてのフォースの感覚ってのが漠然としてるから、推測でしかないがな」
慣れる。確かに私はまだ一回しか戦ってないし、続けていけばあの感覚に慣れるかもしれない。でも、フォースの感覚については映画の劇中でも漠然としか語られなかった覚えがあるので、どうなっていくのか不安がある。
「ところで、この剣技ってのは使えないのか? 物凄く気になるんだが」
カズマさんがカードの『剣技』の欄を指差した。
カードのスキル欄に載ってはいるが、初期に割り振られるポイントでは取得できなかった。おまけに剣技の名前も『第一の型』と書いてあるだけだ。
「それはまだポイントが足りないみたいです。私も気になってはいるんですけど……」
「剣技も気になるけど、今はとりあえずフォースか。早く使いこなせるようになるといいな」
カズマさんの言葉に大きく頷く。
「はい。話を聞いてくださって、ありがとうございます」
私がお礼を言うとカズマさんが頬を掻いて頷いた。
すると、横で眺めていたアクア様が小さなあくびをして身体を伸ばした。
「ふぁ……ねえ話は終わった? 途中から眠くて仕方なかったんですけど。ていうかもう適当にパーティー募集すればいいんじゃない?」
「いやお前……はあ、じゃあ今日はここまでにするか? とりあえず明日にでもパーティー募集してみるけど、フーコもそれでいいか?」
アクア様が眠そうに目を擦ると、カズマさんが溜め息を吐いて立ち上がり、そう言った。
「はい、私はそれで構いません」
「よし、じゃあまた明日な」
私はカズマさんとアクア様を見送ると、カエルの報酬で宿を探す事にした。
今日はちゃんとした寝床で寝て、明日に備えて英気を養わなければいけない。
親方に報告は……また今度にしよう。
◇
カズマさんとアクア様に助けられてから翌日。
朝からギルドに集まった私達は色々と案を出しあったものの、結局はアクア様の提案で上級職を募集することになった。アクア様は上級職のアークプリーストだがカズマさんは下級職、私は未知の職で特色がよくわからないので、とりあえず上級職で補おうという理由だった。
だが掲示板に募集の紙を貼ったまでは良かったものの、一向に上級職が来る気配はなく、ただ時間だけが過ぎていた。
「誰も来ないなんておかしいわね……」
アクア様がポツリと呟く。
「なあ、やっぱり上級職限定ってのはハードル高すぎたんじゃないのか?」
「でも一人くらいは来てもいいじゃないの」
アクア様は頬を膨らませるが、カズマさんの言う通りかもしれない。
このアクセルは本来、初心者の街なので上級職を見かけることは稀らしい。
特に、アクア様のように最初から上級職になれる人など滅多にいないという。大抵は初級から時間をかけて上がっていき、上がると別の街に移動するというのが常識のようだった。
「あの、やっぱり……」
ハードルを下げて募集してみては、と提案しようとした時だ。
「上級職の募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」
――救世主が現れた。
・カズマさんのパーティーに参加しました。
・ジャイアント・トードを討伐しました。
・新しいメンバーを募集しました。
おかしい……カズマさんが優しいなんて……。
次回は爆裂です。