この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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初めての討伐クエストです。



第四話 働く少女にクエストを!

 

 私はライトセーバーの赤い輝きを見つめながら、絶句していた。

 赤い。どこからどう見ても赤い。いっそ清々しいまでに赤い。もう、本当に。

 

 なんで赤いの………。

 

「おいフーコのやつ泣いてないか?」

「固まったまま泣いてるな」

「さっき叫んでたよな?」

「泣くほどビックリしたのかな」

「というかあれ何なんだ?」

「何か、凄く光ってるな」

 

 なんでこんな赤くて曲がって……あれ、なんだろう。

 よく見るとこのライトセーバー、同じ形の物を何処かで見た事があるような気がする。

 

 刃が赤色で柄の色が黒と銀で形が曲がってて……。

 

「……あっ」

 

 ああ、そうか分かった。このライトセーバー……たぶん、ドゥークー伯爵と同じ物だ。

 

 転生する前に見た事がある。見たのは映画の中と、確かお兄ちゃんの部屋に飾ってあったレプリカがこれだったような。

 

 ところで、女神様はどういうつもりでこれを渡したんだろう。こんな赤いなんて聞いてない。祈ったら降りて来てくれたりしないかな……。

 

「おいフーコ。泣いたり真顔になったりブツブツ言ってないで教えてくれ。そいつは何なんだ?剣って言ってたが、本当に剣なのか?」

 

「え?あ、えっと……」

 

 親方の声で我に還った私は、ライトセーバーのスイッチを切って刃を収納した。

 

「これはライトセーバーです。ある映画の……。えーと、遥か彼方の銀河を守る光の騎士と敵である闇の騎士が使う剣です」

 

 親方にセーバーのグリップを掲げて見せる。

 

「何を言ってるのかさっぱりだが、そいつが剣ってことだけは分かった。……似たようなのは知ってるが……赤くもないし、ありゃ魔法だしなぁ……」

 

 親方が呟く声が聴こえる。似たようなもの?

 

「親方、これと同じようなものがあるんですか?」

 

「おっと聞こえてたのか。ああ、あるにはあるが、上級魔法だからこの街で見かけるのは稀だぞ」

 

 上級魔法かあ。いつか見てみたいな。

 

「ところで、フーコは魔法職じゃないんだろ?何て言ったかな……お前の職業」

 

「……何でしたっけ?」

 

「何で覚えてねえんだよ!?冒険者カード見ろ!」

 

 親方が怒鳴ると仲間たちが苦笑する。

 だってこの一週間、壁のペンキ塗りと薬草採集と犬の散歩しかしてないし、使う機会もなかった。そもそも使う予定もない。

 

「はぁ……フーコもそろそろ討伐クエストでも受けたらどうだ?」

 

 そう言って親方が私の傍の椅子にドカッと座る。

 

「そうだぜ?せっかく冒険者に、しかも出来たての新しい職になったんだからやらないと勿体無いぜ?」

 

「どうせ引っ張りだこでパーティーには困らないだろ?」

 

「武器も手に入ったみたいだしなー」

 

 仲間たちが口々にそう言うが、私は乗り気にはなれなかった。

 私の職業の物珍しさのせいか、ギルドにいけばパーティーへの勧誘は後を絶たない。だけど、全て断った。それには理由がある。

 

「だって……」

 

「だって、なんだよ?」

 

「モンスターって怖そうじゃないですか」

 

「……は?」

 

 あれ?親方が固まった。

 そして他の皆も固まったり、あちゃーみたいな顔でこっちを見ている。

 何で?だってモンスターだよ?怖くない方がおかしいでしょう?

 

 ギルドでも、パーティーに誘ってくる人の大半が討伐クエスト行きだ。私みたいな初心者には無理そうだし、足を引っ張るのは申し訳ない。何より怖い。

 

「お前ってヤツは……本当に……」

 

 親方が小刻みに震えている。

 私が首を傾げていると、お兄さんの一人が顔色を変えた。

 

「お、おいフーコ!悪いことは言わねえからさっさと逃げるか謝るかしないと……」

 

「ふっ……二度も川に落ちるわ……自分の職を覚えてないわ……。挙句にはモンスターが怖いだとぉ……?」

 

 あ、これ私やっちゃった。

 ああ、仲間たちが居なくなった。

 

 

「冒険者なめてんのかああああああっ!!?」

 

「ごめんなさいっ!!?」

 

 

 

 

 あの後、激怒した親方に『何の為の職業とスキルだと思ってんだ!さっさとパーティー作ってモンスターの一匹や二匹狩って来い!!狩ってくるまで帰ってくんな!』

と叩き出された。

 

 そもそも、あの宿は緊急で借りているものなので戻るつもりはないのだが、そんなことを言うと火に油を注ぎそうなので何も言えなかった。

 

 なので現在、私はギルドの掲示板の前で貼り出された依頼を眺めていた。

 

『ジャイアント・トード1匹討伐』『犬の散歩。報酬は時間と距離による』『畑で薬草4種類の採集』『水回りの工事』

 

 掲示板にはいつもの依頼の他に、新しい依頼が貼られていた。

 

 このジャイアント・トードっていうのはどうだろうか。説明を読むと、どうやら名前の通りの大きなカエルらしい。

 でも一匹だけなので、これならわざわざパーティー募集を掛けなくても何とかなりそうだ。ちょっと怖いけど、カエルだし。そうだ、せっかくだからスキルを試してみよう。

 あとはライトセーバーの使い心地を確かめるのにも、ちょうど良い相手かもしれない。

 

 私は腰にぶら下げたライトセーバーの感触を確めながら、クエストを決めた。

 

 よし頑張ろう!明日から!まずはお風呂に行って夕食だ。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 街の外に広がる平原。そよ風が吹き、緑が茂る平原地帯の清々しい青空の下で。

 

 

「わああああああっ!ごめんなさいごめんなさい!!」

 

 私は一匹のでかいカエルから必死に逃げていた。

 

「親方ごめんなさい!舐めてました!冒険者舐めてました!!」

 

 いやいや聞いてない。こんなの聞いてない。

 依頼書には牛くらいの大きさって書いてあったのに、どう見ても像くらいはあるよね!?もう、こんなことなら誰かとパーティー組めばよかった……!

 

「―――!」

 

 ぞわりとした寒気を感じて振り向くと、ビョーンとカエルが飛び跳ねていた。

 そのままこっちに落ちてくる。

 

「わっ!?」

 

 地面を転がり、回避すると同時にビターンッとカエルの巨体が着地した。

 

 今のは危なかった……!

 少しでも反応が遅れればペシャンコになっていた。流石にカエルに潰されるのは御免だ。

 

「……!」

 

 と、またトードが跳んだ気配がしたので慌てて地面を転がると、すぐ背後からの震動を感じてまた駆け出す。

 

 カエルが跳び、私が転がり、カエルが突っ込み、私が跳ねる。

 この平原でカエルことジャイアント・トードに遭遇してからの私は、休む暇も反撃する暇もなくトードから逃げ続けていた。

 

「うっ……!また!」

 

 刺すような寒気に反応しながら避けると、私は後ろを振り返る。

 攻撃を避けられたトードは口を大きく開けて私をじっと見つめた後、また動き始めた。

 

 段々と強くなっていく寒気に、私は身体をぎゅっと抱き締めながら走り続ける。

 この厄介な感覚……原因は私のスキルにあるようだ。

 

 私の職業、アプレンティスの初期スキル。

 理力(フォース)感知。

 

 スキルの説明欄には、『フォースを感知する』としか書かれていなかったのだが、このスキルを発動してからトードが私に攻撃しようとする度に、全身を刺すような寒気が襲っていた。

 寒気にはかなりの波があり、そのせいか私は急激に疲れが溜まっていくのを感じていた。

 

 スキルを切ろうかとも考えたが、切った途端に反応が遅れて餌食になるかもしれないので切れない。

 

 反撃しようにも、肝心のライトセーバーは動き回っていては使えない。

 先程走りながら起動したのだが、私は危うく自分の足を斬る所だった。

 

「はぁはぁ……!き、きつい……!!」

 

 そして、これが一番の問題なのだが、私は昔から体力に自信がない。

 ステータスにもそれが反映されていたので、出来れば早く終わらせたかったんだけど……。というかクエストを放棄して今すぐ街に逃げたい。逃げたいのに……。

 

 ジャイアント・トードは私を易々と逃がしてくれるほど、甘い相手ではなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 

 つらつらと考えながら逃げている間に、もうどれくらいの時間が経ったのだろう。

 脚が、肺が、心臓が悲鳴を上げているのが分かる。跳んだり転がったり、慣れない事をやり続けていた私の身体は限界を迎えつつあった。

 

「も、もう……!」

 

 もう、やっぱり逃げ続けても駄目だ。逃げ切れないなら、戦おう。

 戦わないとクエストは終わらない。

 ここは一か八かやるしかない。あれこれ考えてる余裕はない。

 

「はぁ、はぁ、落ち着いて……っ」

 

 頭の中で動きをイメージする。あとは冷静にイメージ通りに身体を動かすだけ。

 

 トードの方を見ると、まっすぐに私を追いかけて来ている。

 大丈夫、できる。タイミングを見計らって……。

 

 よし今だ……!

 

 私は立ち止まると即座にライトセーバーを起動させ、振り向い――。

 

「あっ……?」

 

 ガクンと膝から力が抜け、セーバーが手から転がり落ちた。

 視界がぐらつき、軽い衝撃と共に草の感触が顔をくすぐる。

 

「……あ、逃げなきゃ、うあっ!?」

 

 だが、起き上がろうとしても、身体からすぐに力が抜けてしまう。

 

「う、嘘……。こんな所で限界って……」

 

 強烈な寒気と共に、地面から伝わる振動に身体が震える。

 

 藻掻こうとしても私の手足は地面に張り付いたように動かない。

 頭は必死に動けと命令しているのに、動いてくれない。

 

「誰か……」

 

 こんな、こんな誰もいない平原で私は終わってしまうのだろうか。

 せっかく異世界に転生できたのに、何も出来ないまま終わってしまうのだろうか。

 私を助けてくれた人達に、まだ何も返してないのに……。

 

「助けて……」

 

 ふと、脳裏によぎったのは綺麗な水色の髪と水色の瞳。

 私を転生させた、美しい女神様の姿だった。

 

「女神様……!!」

 

 目を閉じて、必死に叫んだ―――その時。

 

 

『 ゴッドブロ――ッ!!!相手は死ぬ!!』

 

 

 誰かの叫び声と、何かが破裂するような音が響いた。

 

 そして全身に感じる振動と鼻腔をくすぐる土の匂い。

 

 全身の寒気が急速に引いていき、私の手足が動いた。

 

「…………え?」

 

 ゆっくりと上体を起こすと、倒れたジャイアント・トードのすぐ傍に一組の男女が立っていた。

 

「おい!大丈夫か!」

 

 ジャージ姿でショートソードを持った男の子と。

 

「何とか間に合ったわね!この私が来たからにはもう安心よ!!」

 

 日の光を浴びて、輝きながら風に流れる綺麗な水色の髪と水色の瞳。

 

「女神、様……?」

 

 私を転生させた女神様が、そこに立っていた。




・討伐クエストを受けました。
・カズマさんとアクア様に出会いました。

次回はパーティ加入です。

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