今回アレが出ます。
誤字修正と主人公の服装の詳細を追加しました。
「おーし、ご苦労さん! 今日はこれで上がっていいぞ! ほら、今日の日当だ」
「ありがとうございます! お疲れ様でした!」
「おう、お疲れ!」
「また明日なフーコ」
「はい! お疲れ様です!」
異世界に転生してから一週間が過ぎた。
あの冒険者登録の日から、私は親方たちと一緒に働いている。
最近は皆から『フーコ』と呼ばれるようになったのが、少し嬉しい。
私の仕事は主に皆の休憩中にお茶や水を配って回ったり、手の足りないところのサポートだ。最近は壁にペンキを塗る仕事もしている。
親方曰く「フーコは野郎共と違って隅々まで綺麗に仕上げるからチェックのし甲斐がなくてつまらん」とのこと。褒められてるのか微妙だけど、親方の仕事を減らせるのなら良いのかな。
ちなみにお給金はきちんと貰っている。
親方に「受け取らないなんて言うなよ?行き倒れの世話なんかしねえぞ」と言われ、考えてみると、自分が最初に行き倒れ上等のような事を言っていた事に気づき、受け取らない訳にはいかなかった。でもまさか、人生初のお給金が異世界のお金になるとは思わなかったけど、自分で働いて得た物は嬉しい。
そして、そのお金で服を買った。
元の世界の部屋着では色々と目立つので、街に溶け込むような服装を心掛けた。今では立派な町娘の格好だ。それ以外には特に使わずに貯金している。
冒険者登録の件でお金の大切さを身に沁みて理解した私は、無駄遣いはしないと誓っていた。
眠る時は街の外れにある掘っ建て小屋か、外壁の傍で簡易的なテントを張って眠っている。毎日宿を取れるのは金持ち冒険者くらいのものらしい。
宿といえば、親方たちにお金を返そうとしたのだが「いらねえ」の一言で突き返されてしまった。でも私は諦めない。いつか返す。プリーストのおじさんにも返す。
「さてお風呂だお風呂~」
私は今日の日当をポケットに入れると、鼻歌を歌いながら街の大衆浴場へ向かう事にする。異世界の大衆浴場は偶然なのか何なのか、日本の銭湯と中身もシステムもさほど変わらないので、日本人としてはとても助かっている。
「ふーんふんふん、ふふふー、ふふふ~ん」
鼻歌も佳境に入った頃に橋の上を歩く。
橋の上からアクセルの街と、流れる川を照らす夕日を眺めるのが日課になっていた。
本当に綺麗な景色だ。これが毎日拝めるなら、転生も悪くないかも。最近はそう思うようになった。
まあ私の家族が隣に居て、一緒にこの景色を見ていたら、もっと良かったんだけど……っていけないいけない。夕日を眺めるとどうも感傷的になってしまう。
私が涙を拭いてお風呂に急ごうと歩調を速めた時だ。
「あれ……?」
川の中に何か光る物が見えた……ような気がする。
立ち止まって橋の上から川を覗きこむ。
何かあるけど、水面が反射してよく見えない。少しだけ乗り出してみよう。
あれ、まだ見えないな。
もう少し……。
もう少しだけ…………。
◇
「おい! 女の子が川に落ちたぞ!」
「なんだって!?」
「きっとアクシズ教徒よ!」
「あれ? またあの子じゃないか?」
「本当だ! 誰か親方を呼んで来い!」
「いや呼んでないで助けろよ!?」
◇
「この馬鹿娘! なんでまた川に飛び込んだりしたんだ!!」
「飛び込んでません……。落ちたんです」
「なお悪いわ!!」
「だ、だって……」
「だってもクソもねえ!」
あの後、私は街の人々と駆けつけた親方達によって救助され、事なきを得た。
そして今現在、近くの宿に担ぎ込まれ、毛布を巻かれた状態で親方達に囲まれながらお説教を食らっている。
「まぁまぁ親方。ここはフーコの言い分も聞いてあげましょうぜ」
「そうっすよ。心配なのもわかりますがね」
憤慨する親方を目の前にして縮こまる私に、仕事仲間のお兄さん達が助け舟を出してくれた。お兄さん達は暖炉の火をガンガン焚べている。ちょっとだけ熱い。
「はぁぁ……わかった。言ってみろ」
親方が大きく息を吐くと、ドカッと座り込んだ。私はほっとして姿勢を正すと、親方に向き直る。
「川である物を拾ったんです」
「ある物?」
「えっと、前に私が落として、それ以来行方不明だったんですけど……」
私がゴソゴソと毛布の中からある物を取り出して見せると、親方と仲間たちが一斉に覗きこむ。
「そりゃあ……」
「……なんだ?」
私の手の中にある物。それは、長さ約30センチメートルの金属製の棒状の物体。
これは私が転生した時に一緒に付いてきた物だ。勘違いと現実逃避で余裕がなかった私は碌に触りもせず、ポケットに入れたまま川に飛び込んだ挙げ句に失くしてしまっていた。
ずっと気にはなっていたのだが、泳げない私が川底を探せる筈もなく、そうかといって誰かに探してくださいと頼むわけにもいかず、半ば諦めていた。
でも何の因果か私の手に戻ってきた。
「これは剣です」
「剣?これが……?」
「変な形だが、こいつは剣の柄か?」
親方が腕を組みながら聞いてくる。一目で分かるなんて、親方は鋭い。
親方の言う通り、これは剣の柄だ。だけど、この部屋の中で私以外にこれがどういう剣の柄なのかを知る人はいない。
「親方、皆も。私から離れてください」
「おい、いきなり何言って……」
「お願いします」
おもむろに立ち上がった私の表情で察したのか、親方達は頷くと、私から距離をとった。親方達が十分に離れたことを確認すると、私は手に持った金属の柄を構える。
これは、ある世界的な傑作映画に登場する象徴的な武器。
その映画の中で登場人物達が何度も振るった、もう一つの主役。
――ライトセーバー。
親方達が固唾を飲んで見守る中、起動スイッチらしきボタンを押し――。
あれ?これ少し曲がってる?何で今まで気づかなかっ……。
空気を切り裂く鋭い起動音。
「うおおおおおおおおっ!?」
現れた光の剣に親方達が叫ぶ。
「……えええええっ!?」
私も叫んでいた。
「な、なな、なんで……?」
部屋の中を照らす光。
それは私が想像していた『青』でもなく『緑』でもなかった。
それは『赤』だった。
赤い刃のライトセーバーだった。
・町娘の服を装備しました。
・川に落ちました。
・ライトセーバーを入手しました。
次回はカズマさんとアクア様です。