この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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冒険者登録に行きます。


第二話 転生した少女に職業を!

 

 川から助けられた翌日の朝、宿から出た私は道を急いでいた。宿代は昨夜のうちに親方さん達が肩代わりしたらしく、またもやお世話になってしまった私は親方さん達への感謝と、自分への情けなさで泣きそうになった。

 

 その時に宿の人に「あの人達は何円払ったんですか?」と尋ねると「ナンエンって何ですか?」と返ってきて、私は更に追い打ちをかけられた。金額を聞くような野暮な真似はよせということだろうか。宿の人のきょとんとした顔が印象的だった。

 

 でも、これでますます目的を果たさなければならなくなった。

 

 事前に宿の人に教えてもらった道を進むと、やがて目的の場所に着いた。周りの建物よりも大きくて立派な建物が、私の目の前にそびえ立っている。

 

「ここが、冒険者ギルド……!」

 

 私がここに来た目的。冒険者になること。

 

 親方さんに聞いた話によると、親方さん達と働く為には冒険者ギルドで冒険者として登録し、冒険者ギルドを通して斡旋して貰わないといけないらしい。昨日、親方さん達はノリと勢いで私を採用したらしいのだが、あくまでギルドからの依頼で働いているのでギルドに登録しなければならない。

 

 とにもかくにも冒険者になる。全てはそこからだ。

 

「すー、は~」

 

ドキドキと高鳴る胸を抑えて深呼吸。

 

「よし」

 

 気合いを入れ、大きな扉を開くと……。

 

「いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターで、お食事なら空いてる席へどうぞ!」

 

 ウェイトレスらしきお姉さんが出迎えてくれた。凄く可愛い。異世界のウェイトレスもいいなあ。あっちには重そうな鎧を着た人がいるし、杖を持った人や大きな斧や槍を担いだ人もいてまさに異世界という雰囲気だ。……って、あまりジロジロ見るのは止そう。今は目的を果たす事に集中しないと。

 

 私が足早に受付カウンターへ向かうと、受付のお姉さんが微笑んだ。

 

「おはようございます。今日はどうされましたか?」

 

「おはようございます!えっと……冒険者になりたいので冒険者の登録をお願いしたいのですが、ここであってますか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。登録には手数料がかかりますが、よろしいでしょうか?」

 

はい……?今なんと?

 

「手数、料……?」

 

「はい。1000エリスになります」

 

「……?」

 

 手数料、つまりお金?

 1000エリス?エリスって何?単位?円じゃないの?

 

「あの、どうかされましたか?」

 

「……あっ」

 

 あ、ここ異世界だった。お金が違うのは当たり前か。

 宿の人の反応も納得だ……というか、何であの時点で気付かなかったんだろう。

 

 ど、どうしよう……。お金持ってない。

 

「……す、すいません。また来ます」

 

「は、はい。次の方どうぞ」

 

 何をするにもお金がいる。

 なんでこんな当たり前の事を今まで忘れてたんだろう。

 

 私は気が付くと、ギルドを出て街の中を歩いていた。どこに行く当てもなく、通りを歩く。ふと、遠くを見ると街を囲んでいる外壁が見えた。親方さんの顔が頭を過る。

 

 そうだ、親方さんにお願いして……って駄目だ!駄目駄目。何を考えてるんだ。もうこれ以上迷惑はかけられない。甘えちゃいけない。

 

 でも、お金なんて持ってない。

 

「うぅ……っ」

 

 あ、まずい。泣きそう。

 でも泣いちゃ駄目だ。ここで泣いても何にもならない。

 鼻の奥が痛い。目頭が熱い。

 

 我慢しなきゃ。我慢我慢我慢……。

 

「あうっ」

 

「おっと失礼」

 

 しまった。誰かにぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 咄嗟に体勢を立て直し、頭を下げて謝る。

 

「いやいや、こちらこそ……お嬢さん大丈夫か?」

 

「……え?」

 

 顔をあげて見ると、丈の長い服を着たおじさんが心配そうな顔で立っていた。

 私はこの人にぶつかってしまったようだ。

 

「何だか酷く顔色が悪いが、どこか痛むのか?」

 

「いえ、そういうわけじゃ……あの」

 

 優しそうなおじさん。ぶつかって本当にごめんなさい。

 

「私はプリーストをやっている者でね。ぶつかったとはいえ、これも何かの縁だ。よければ話を聞くよ?」

 

「……」

 

 

 

 

 結局、途方に暮れていた私はプリーストのおじさんと街角のベンチに座り、街をさ迷っていた理由をおじさんに話していた。おじさんが聞き上手だったせいか、それとも知らない人だから話せたのか、私は昨日の出来事まで話していた。

 転生の部分は『事情があり家族と離れ、遠くの街からやってきた』と誤魔化した。

流石に転生なんて言っても信じてくれないと思う。

 

「なるほど、事情はわかった。では、こうしよう」

 

おじさんは話を聞き終わると、そう言って懐から何かを取り出した。

 

「手を開いて」

 

「え、はい」

 

 おじさんに促されるがままに手を開くと、微かな重みと共に数枚の硬貨が乗せられた。

 

「2000エリス。これで十分足りるはずだ」

 

「は、え?あああ、あのこれはあのあのあの!?」

 

「お嬢さん、落ち着いて」

 

 突然の事に混乱すると、おじさんが苦笑する。

 

「さっきも言ったが、これも何かの縁だ。持っていくといい」

 

「で、でも……これ」

 

「足りないかな?」

 

「ちち、違います!そうじゃなくて、い、いいんですか……?」

 

 こんな見ず知らずの私にお金を。なんで?どうして?

 

「ここは駆け出し冒険者の街、アクセルだ。わざわざこの街までやってきて、冒険者になろうという若者を歓迎しても罰は当たらないさ。きっとエリス様も許してくださるはずだ。それに、さっきも似たようなことがあってね。一日に二度も遭遇すると運命的なものを感じるよ」

 

「えっと……?」

 

 どういう事だろう?運命的って?

 

「すまないね気にしないでくれ」

 

 そう言って朗らかに笑うおじさん。それを見ていると、沈んでいた気持ちが立ち直っていくのを感じた。

 

「いつか絶対にお返しします!ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」

 

 私は立ち上がって最大限の感謝を込めて頭を下げる。

 

「ではな、お嬢さん。エリス様の御加護を」

 

 プリーストのおじさんはそう言うと、立ち上がってどこかに去っていった。

 私はその背中が見えなくなってから思う。

 

「おじさんの名前、聞き忘れた……」

 

 あと、エリス様って誰だろう。

 

 

 

 

「1000エリスです!」

 

 私は急いでギルドに戻ると受付のお姉さんにお金を渡した。

 改めて受付のお姉さんをよく見ると、かなり際どい格好をしている。色々と見えそう。そして大きい。

 

「はい、では冒険者としての簡単な説明を行いますね」

 

「お願いします」

 

 数分に及ぶお姉さんからの説明を受けながら、頭の中を整理する。

 えっと、まずは……。

 

 冒険者。冒険者稼業を行う者達の総称。

 街の外でモンスターの討伐をしたり、薬草の採集や荷物の運搬等、基本的には何でも屋のようなものだとか。

 

 冒険者には各職業があり、ソードマンやナイト、ウィザード、さっきのおじさんのようなプリースト等々、多種多様だ。レベルがあがると上級職に転職出来るらしい。

 

 冒険者ギルド。

 冒険者に仕事を斡旋したり、支援したりする組織。飲食も出来るのだとか。

 

 最後に、冒険者カード。

 冒険者の身分証明書のような物で、レベル、職業、ステータス、習得スキル、討伐したモンスターの種族と数が表示される。モンスターを討伐することで経験値が貯まり、レベルが上がる。

 レベルが上がると新しいスキルを覚える為のポイントが貯まり、スキルを覚えることが出来る。スキルは職業ごとに色々な種類があり、使うほどスキルレベルが上昇して強くなっていく。

 

 何だかゲームみたいだ。

 

「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」

 

 受付のお姉さんに従って、綺麗な水晶が填め込まれた不思議な道具に手をかざす。

 

「わあっ」

 

 水晶が輝き、その下に置いてあるカードに文字が記されていく。これは魔法で動いているのだろうか。

 

「それでご自分の潜在能力が分かりますので、潜在能力に応じてなりたい職業を選んでくださいね。選んだ職業によって様々な職業専用スキルが習得できる様になりますので、その辺りを踏まえて職業を選んでください」

 

 ちょっとドキドキする。職業か……何にしようかな。あまり危なくないのがいい。

 

「はい、終了しました。えー、ホシノフウコさんですね。えっと……体力が平均よりかなり低いですね。知力が平均、魔力が少し高くて、幸運も高いですね……ってあれぇ!?」

 

 出来上がったカードを見たお姉さんが叫ぶ。

 

「そ、そんな……こんなことって……」

 

 お姉さんが私と水晶とカードを交互に見ながらブツブツと呟く。

 なんだろう。不安になる。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

 私が尋ねると、お姉さんが水晶の下に新しいカードを差し込んだ。

 

「大変申し訳ありません、もう一度だけこの水晶に手をかざしてください」

 

「はい……」

 

 再びかざす。待つこと数十秒。完了。

 

「うぅぅぅん……」

 

 カードを見てお姉さんが小さく呻いている。そのただならぬ様子に、なんだどうしたと周りの冒険者達が集まってきた。

 

 やがて、お姉さんがおずおずと私を見つめながら言った。

 

「……非常に申し上げにくいのですが、何故かその、職業が最初から固定されてまして……」

 

「えっ?」

 

 何?どういうこと?選べるんじゃないの……?

 

「その職業というのがですね、私も見たことがないものでして……というか、たぶんこれ新しい職業……?」

 

「はい?」

 

 お姉さんの言葉に思わず固まる。周りの冒険者もザワザワし始めた。

 私がカードを見せて貰うと、何だろうこれ。

 

「アプ……?」

 

 

 職業、アプレンティス。

 

 初期スキル、理力(フォース)感知。

 

 剣技・第一の型。

 

 

 

 

 ギルド内は大騒ぎになった。まさかのギルド初の新職業誕生に沸いた。

 

 そんな中、私はギルドを出て街の通りを走っていた。

 

 職業の事も気にはなるけど、そんなことより今の私にはやることがある。

 

 とりあえず、当初の目的である冒険者登録も済ませた。

 働き口の斡旋も済んだ。案内のお姉さんが何でも選んでくださいと言ってきたので、即、親方さんのところに登録した。何故かお姉さんに可哀想な子を見るような目で見られたけど、気にしない。

 

 目指すは外壁。親方さん達のところ。




・2000エリスを入手しました。
・冒険者登録をしました。
・職業が決まりました。

次回は武器を手に入れます。

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