この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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アホの子全開です。



第一話 転生した少女に現実を!

「お嬢ちゃん、これ使いな!暖かくなるぜ」

「あ、ありがとうございます……」

「嬢ちゃん、毛布いるかい?」

「お腹を冷やしちゃいけねぇぞ!」

「もっと毛布追加だ!」

「……本当にありがとうございます」

「いいってことよ!」

 

 異世界に転生して半日。私は屈強な男達に囲まれている。

 震える身体を毛布で包み、燃え盛る暖炉の火をじっと見つめて膝を抱えていた。

 

 そんな私の隣に筋骨隆々のおじさんが大きな身体を屈ませて座ると、溜め息を吐きながら私の顔を覗き込んだ。

 

「お嬢ちゃん。何だってあんな深い川に飛び込んだりしたんだ?」

 

「そ、それは………」

 

 逞しいおじさんに尋ねられた私は、今までの出来事を思い返してみる。

 

 こうなった理由を。

 

 

 

 

 はじまりの街アクセル。

 私、星野風子が異世界転生によって降り立った街。

 最初こそ中世ヨーロッパのような街並みにテンションが上がり、映画みたい!とはしゃぎ回ったのだが……。

 

「おかしいなあ、そろそろ目覚めてもいい頃なんだけど……」

 

 女神様も、転生も、何もかもが夢だと思っていた私は夢から覚めようと必死になった。

 

「起きて―!」

 

「あれ?おかしいな……おーい!起きていいよー!」

 

「あはは。熟睡してるのかな?おーい!おーい!」

 

「起きてー!学校に遅れるよー!」

 

「むむむむ!」

 

「いたたた痛い!あれ?頬っぺた痛い!」

 

「99、100!……うぷっ気持ち悪い……」

 

 思い付く限りの方法は試した。

 叫んでみたり、念じてみたり、頬をつねったり、ぐるぐる回ったり、とにかく試せるだけ試した。

 

「ママー。あのお姉ちゃん何してるの?」

「しっ!見ちゃいけません!」

「頭おかしいんじゃないのか?」

「きっとアクシズ教徒よ……」

 

 そのうち周囲の人の注目を浴び、段々と人が集まるにつれて私の焦りは加速し、半ばヤケクソになった私はあろうことか……。

 

「おい!女の子が川に飛び込んだぞ!」

「あそこって深いんじゃなかったか?」

「きっとアクシズ教徒よ!」

 

 自分が泳げないのも忘れて、川に飛び込んでいた。

 

「がぼがぼがぼがぼ」

 

「おい!溺れてるぞ!」

「助けないと!」

「ああ、お助けくださいエリス様……!」

 

「くそ!俺が行く!」

「親方が助けに行ったぞ!」

「俺達も飛び込めー!」

 

 

 

 

 気が付くと私は近くの宿らしき建物に運ばれ、私を助けてくれたおじさんとお兄さん達に囲まれて今に至っている。ずぶ濡れになった私に宿の人が着替えを用意し、暖炉の火を焚き、お兄さん達が毛布を被せてくれた。

 

「うぅ……」

 

 冷えた身体に熱が戻ってくると同時に、川に飛び込んだ時の記憶も甦ってくる。

 身体が水面に叩きつけられる衝撃、重たい水の感覚。息が出来ない苦しみ、冷たい水の恐怖。

 

 そして、今も感じる寒さと背中を優しく擦る、手の温もり。

 

「うぇっ……ぐずっ」

 

 ここまで来ると嫌でも解ってしまった。

 理解できてしまった。

 私が何故ここにいるのか。

 

 いや……きっとどこかで解っていたはずだ。それはこの街に来た直後か、歩き回っていた途中か、それとも女神様に出会った時か。

 

 ただ認めたくなかっただけだ。もう戻れないことを。

 辛すぎる現実から、目を逸らし続けていただけだ。

 

「うぇぇぇ…うぐっ……」

 

 本物だ。頬を伝う涙も、寒さも、温かさも、何もかも。

 全てが本物。夢なんかじゃない。

 

「ひぐっ……うぇぇぇん!うわぁぁぁぁっ!」

 

 私は死んだ。これが現実。

 

 家族や友達に会いたくても、もう会えない。

 でも、せめて最後に……ひと言だけでも伝えたかった。

 

「ごめ…っなさい……っうっぐすっ」

 

「お嬢ちゃん、好きなだけ泣きな。泣いたらすっきりするぜ」

 

「どんな事情があるにせよ、無事で良かったじゃないか」

 

 誰かの優しい声が聞こえる。

 

 その人に、そして家族に、ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい……嗚咽混じりに私は繰り返した。

 

 いつまでも泣きじゃくる私を、大人達は静かに見守っていた。

 

 

 

 

「あじがどうごだいまじだ(ありがとうございました)」

 

「いいってことよ。……ちり紙いるか?」

 

「あい……」

 

 結局、外が暗くなるまで泣きに泣いた私は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で命の恩人達にお礼を言った。

 

「親方。そろそろ行きましょう」

「なんだ、もうそんな時間か」

 

 私をお世話して、ちり紙までくれたこの親切な人達はどうやらこの街で土木関係の仕事をしているらしい。私の目の前にいる筋骨隆々のおじさんは、それを取りまとめる親方さんだという。

 

「あ、あの!」

 

「ん?なんだいお嬢ちゃん」

 

 屈強なお兄さん達を引き連れて宿から出ようとする親方さんを、私は呼び止めた。

 

「今日は本当にありがとうございました。あの、お礼と言ってはなんですが……何か私に出来ることはないでしょうか?」

 

 お世話になったお礼がしたい。私はその一心でそんなことを言っていた。

 受けた恩は返さないといけない。そのくらいは私でも分かる。

 

「なんだって?」

 

 親方さんは私を見下ろしている。

 私より遥かに背が高いので、見下ろされるだけで威圧感が凄まじい。

 不躾かもしれないけど、ここで引くわけにはいかない。

 

「私に出来ることなら何でもします!雑用でもなんでも!だから……働かせてください!お金はいりませんから!」

 

「ほう……。お前ら、どう思う?」

 

 やがて親方さんは後ろで待機しているお兄さん達に意見を求めると、お兄さん達が円陣を組んで何やら話し合いを始めた。

 

「きっと遠い所から来て行き場がないんだろう」

「何でそんなこと分かるんだよ?」

「泣きながら言ってたじゃねえか。お母さん、お父さん、お兄ちゃんって」

「あー……」

「聞いちゃいけない事情がありそうだ」

 

 円陣から声が聞こえてくる。自分でも訳が分からなくなるくらい泣いてたけど、思い返すと物凄く恥ずかしい。

 

「で、どうするよ?」

「どうするったって俺らに決める権限ないだろ」

「ギルドに入ってないのかね」

「入ってなさそうだなあ」

「バカお前、そこはノリと勢いだ」

「まぁ、ノリは大事だな」

 

 ノリは大事?ギルド……?何の事だろう?

 

「もしお嬢ちゃんが入ったとしてだ」

「休憩の時の水汲み係にちょうどいいんじゃないか?可愛いしな」

「まだ子供じゃねーか」

「いや、ありゃあと五年もすりゃ美人になるぜ」

「それに何でもするって言ってたしな……うへへ」

「おいお前カミさんに言いつけるぞ」

「おいそれはマジで勘弁してください」

 

 私から言い出しておきながら、少しだけ不安になってきた。だけど、目の前にいる親方さんは、顔色一つ変えずに私を見下ろしている。

やがて、親方さんがパンッと手を叩くとお兄さん達が円陣を解いた。

 

「おう。お前らどうだ、終わったか?」

 

『俺達は構いませんよ!』

 

お兄さん達が一斉に頷いた。

 

「よーし。決まりだ」

 

「え?」

 

 決まりって、つまり……?

 

「まずは採用だ。明日からよろしく頼むぜ」

 

 親方さんはそういうと、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「あ、ありがとうございます!!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 後ろのお兄さん達も揃ってサムズアップしている。私は笑顔の親方さん達に囲まれながら、心に決めた。少しずつかもしれないけど、絶対に恩返ししよう。

 

 正直、まだ怖いし不安だらけだだけど、いつまでも現実逃避している訳にはいかない。

 現実を受け入れて、この世界で生きていかなくてはいけないのだから。

 

 

 

 

「ああ、ところでお前さん、冒険者登録はしてるのか?」

 

「え?」

 

 ぼうけんしゃとうろく……?って何ですか。

 




・始まりの街アクセルに転生しました。
・川に落ちました。
・親方に助けられました。
・親方と働く事になりました。(予定)

次回は冒険者登録です。

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