この素晴らしい世界にフォースの導きを!   作:つむじヶ丘

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トレードです。グダグダです。

カズマさんの視点から始まります。

誤字修正と一部改訂しました。


第二話 凍える少女にトレードを!

 雪精討伐から数日が経った。

 俺が死んで生き返ったあの日から、アクアに絶対安静を言いつけられ、一日の大半をギルドでぬくぬくと過ごす日々を送っていた。

 

 今の今まで働き詰めだった俺は、せっかくなのでと思う存分羽を伸ばし、他の冒険者と談笑したり、飲み明かしたり、寝て過ごしたり、それはもう日々の生活を楽しんでいた。

 

 俺が休養を満喫している間のアクア達はというと、街なかで出来る依頼をこなして過ごしているようだった。

 犬の散歩や畑の薬草採取や剣術指南の依頼を請けては成功と失敗を繰り返し、その度にギルドで作戦会議を開いていた。

 休養中の俺はあえて口を出さず、推移を見守っていたのだが、その内容が……。

 

「やはり、犬の散歩と薬草採取の同時進行は厳しいですね」

 

「私としては犬の散歩と剣術指南を同時にやる方が難しかったぞ」

 

「あの、何も同時にやる必要はないような。そもそも、手分けすれば簡単に済むような?」

 

「フーコ。そんな大した苦労もせず、依頼をこなしても得られるものはありませんよ」

 

「え? 報酬は得られると思うけど……」

 

「いつからそんなカズマみたいな事を言うようになったのですか。日々の訓練の弊害ですか?」

 

「え、えっと、そんな……」

 

「師弟は似るものだからな。……ん? つまり、このままいけば、フーコがカズマのようになる可能性があるのか?」

 

「待って! それは困るわ! この子がカズマみたいになったら、私への扱いが大変な事になるじゃないの!」

 

「しかし、そんなフーコに責められるのも悪くはない……」

 

「どうしようめぐみん。皆の言ってる事がよく分からない」

 

「大丈夫です。私も分かりません」

 

 何言ってんだこいつら。ツッコむ人間が居ないとこんな事になるのか?

 俺は痛む頭を抑えつつ、テーブルを囲んでどこから突っ込めばいいのか、突っ込む気力も失せるようなやり取りを繰り広げるアクア達を眺めた。

 

「ねえ、ところでこれ見て欲しいんだけど!」

 

「これ……おしぼりの兎ですか?」

 

「そう! 今ちょちょいと作ってみたのよ。売れそうじゃない?」

 

「売れますかね」

 

「売れるだろうか」

 

 女三人寄れば姦しいとは言うが、いや、この場合四人か。とにかく、大勢が集まるとこうも話にまとまりがなくなるものなのか。いや、世間一般の女性とこいつらを並べるのは女性に失礼だ。

 

「ん? カズマ、どうしたのですか? 顔色が悪いようですが」

 

「もしかして貧血ですか? やっぱり寝ていた方が……」

 

 俺の様子に気付いためぐみんがそう言うと、フーコが心配そうに見つめてくる。

 

 貧血とは我ながら変な言い訳を思い付いたもんだ。

 俺はフーコに死んだ事を伏せ、休養の理由を貧血という事にして話していた。

 この数日は悠々と過ごしながらフーコの様子も見ていたのだが、記憶が飛んでいる事以外は特に変わった様子もなく、いつも通りの緩い雰囲気だ。

 

「いや、別に何ともないぞ。改めてツッコミが不足するとヤバイと思っただけだ」

 

「はい? ……いえ、何ともないならいいんですけど」

 

 もう、フーコには本当の事を話しても大丈夫かもしれない。

 というか、勘違いさせたまま放っておくと、アクア辺りが不用意にポロリと零してややこしい事になりかねない。ちょうど面子も揃ってるし、今が良いタイミングだろう。

 

「それよりフーコ」

 

「あっ! カズマカズマ! 言い忘れてたんだけど、もう軽いクエストならやってもいいわよ」

 

「おい邪魔すん……今なんて言った?」

 

 アクアに話を遮られたかと思いきや、突然の言葉に眉を潜める。

 

「だから、あまり負担にならない程度のクエストなら出来るわよって言ったんですけど?」

 

 聞こえないのー?という仕草をするアクアにイラッとしながらも、不覚にもその言葉に安堵してしまった。だが、ホッとしたのは俺だけでは無かったようで。

 

「ああ、やっとカズマが復帰するのか。これで本腰を入れてクエストに臨めるな」

 

「ええ。私も早く平原以外の場所に爆裂魔法を撃ちたかったところです」

 

「よかった……。カズマさん、また一緒に訓練できますね」

 

 こうも嬉しそうな表情をされると、何だか俺も満更でもない気分になってくる。

 ここは気分の良いうちに、軽いジャブ程度の依頼を請けるのもアリかもしれない。

 

「それじゃあ、さっそく荷物持ちとかの簡単な依頼でも請けてくるか。お前らもそれでいいよな?」

 

「構いませんよ。カズマの負担が少ない方がいいでしょう」

 

「カズマさんにお任せします」

 

 ああ、ちょっと待て。俺とした事が忘れるところだった。

 

「なあ、フーコ……」

 

 立ち上がった俺が、中断した話の続きをしようと振り返った時だった。

 

「おい、冗談だろ? なんで上級者ばかりのパーティーでそんな依頼を請けるんだよ。流石に笑えないぞ?」

 

 すぐ後ろから、俺の気分を台無しにするような声が聞こえたのは――。

 

 

 

 

 sideフーコ

 

 

「なんだよ、何か文句でもあるのか?」

 

「ああ、あるさ。なんで上級職だらけのパーティーに居ながら、荷物持ちなんてショボい仕事を請けようとしてるんだ?」

 

 数日休んでいたカズマさんが、アクア様からの許しを得てクエストを探しに行こうとした矢先。突然、横から見覚えのない戦士風の男の人が絡み、それに対峙したカズマさんと口論になっていた。

 

「あっそうか! すまねえな、お前が足を引っ張ってるせいだったな。なんたって最弱職だもんな?」

 

 どうやら男の人は、カズマさんが請けようとした荷物持ちの仕事が気に入らないらしい。どう見てもただの言い掛かりにしか見えないのだが、それに加え、カズマさんの事を貶すような言葉を言い放っていた。

 その貶されたカズマさんからは沸々と怒りが伝わってくるが、絡まれても余計な騒ぎを起こすまいとしているのか、何も言わずに怒りを抑えようとしているようだ。

 

「おいおい、何か言い返せよ最弱職。ったく、こんな美女に囲まれてハーレム気取りか? いいよなあ、三人は上級職で一人は新職業だ。さぞかし毎日取っ替え引っ替え良い思いしてるんだろうな? 羨ましいぜ、なぁ皆もそう思うだろ!」

 

「ああ! おまけにギャンブル運もあるときたもんだ!」

 

「いいよなあ~。俺にも運と女を分けてくれよ! カズマさんよ!」

 

 男の人が後ろを振り返りながら言うと、その様子を眺めていたギルド中の冒険者が囃し立てて笑い声を上げる。

 ほとんどの冒険者が愉快そうに笑う中、一部の冒険者達、普段からカズマさんと情報交換をする人やその苦労を知る人、そしてギルド職員のお姉さん達は顔を顰めたり、周りの冒険者に注意を促したりしていた。

 

「……っ」

 

 ギリッと歯軋りする音が聴こえるが、カズマさんは動かない。

 おそらく、諌めようとする人達の存在があるから我慢しているのかもしれない。

 そんなカズマさんは男の人を睨みつけながら、静かに口を開いた。

 

「お前、この間の賭けで負けたヤツか? こんな絡み方しなくても俺は……」

 

「カズマ、こんなの相手にするだけ時間の無駄ですよ。早く掲示板に行きましょう」

 

「そうだぞカズマ。こんな酔っぱらい共の戯れ言など、捨て置けばいい」

 

「きっとこいつも皆もカズマに嫉妬してるのよ。私は気にしないから放っときなさいな」

 

「行きましょう」

 

 皆が一斉に立ち上がり、私がカズマさんのマントの端を掴むと、カズマさんはチラリと振り返って小さく頷いた。

 皆の言葉が利いたのか、そっと息を吐いたカズマさんが男の人に背を向ける。

 私達もその後に続こうとすると、男の人がカズマさんの肩を乱暴に掴んだ。

 

「おいおい! 上級職の姉ちゃんとそのお嬢ちゃんに庇われっぱなしかよ? こりゃ普段から相当な苦労知らずと見たぜ。良いご身分だよな、よかったら俺と代わってくれよ。兄ちゃんよ!」

 

 男の人が肩を叩いてそう言った瞬間、カズマさんから何かが切れる音が聴こえた。

 

「あっ」

 

 焦った私が声を掛けようとするも……。

 

「……………るよ」

 

「なんだ? 聞こえねぇよ」

 

「大喜びで代わってやるっつったんだよぉおおおおおおっ!!!!」

 

カズマさんの絶叫が響き渡り、ギルド内が水を打ったように静まり返った。

 

「……はっ?」

 

「……え?」

 

 予想外の反応だったのか、男の人は口をパクパクさせている。

 それは私達も同じだ。まさかここでカズマさんが爆発するなんて……。

 

「代わってやるって言ったんだよ!! ああ、そうだ! お前の言うとおり俺は最弱職だ! 文句なしの最弱職だ!! それは認めてやるよ! だがな、お前その後なんつった!?」

 

「カ、カズマ……?」

 

アクア様がおずおずと声を掛けるが、カズマさんは構わずにテーブルに拳を叩きつけた。

 

「ひうっ!?」

 

 テーブルが揺れ、その音にアクア様とギルド中がビクッと震えるも、カズマさんの怒りは収まらない。

 

「美女?ハーレム気取り? ふざけんじゃねぇぞ!! お前のその目はビー玉か何かなのか? おい、教えてくれよ、どこに美女がいるんだよ。なあ、どこにいるのかって聞いてんだよ!!」

 

「え? えっと……。ほら、お前のすぐ後ろに……」

 

「どこだよ!! 見当たんねーよっ!!!」

 

「「「えっ」」」

 

 アクア様とめぐみんとダクネスさんが困惑したような声を上げる。

 

「よく見ろこの野郎!!俺の後ろにいるのは穀潰しとロリ二人と変態だろうが!!取っ替え引っ替え?羨ましい?何言ってんだお前、頭沸いてんのかっ!?」

 

「穀潰し……」

 

「ロリ……」

 

「へ、変態……っ!」

 

 アクア様とめぐみんとダクネスさんの愕然とした呟きが聞こえてくる中、カズマさんは狼狽する男の人の胸ぐらを掴み上げた。

 

「しかもお前その後なんつった? 苦労知らず? 良いご身分? ふざけんなっ!! 俺の日頃のストレス舐めてんじゃねーぞ! ……おいお前、俺と代われよ。一回代わってくれよ頼むから。代われって言ってんだろコラあああああっ!!!」

 

「わわ、わかった! わかったから! 酔った勢いで言い過ぎたのは謝るからさ!!い、いや、ほらあれだ。隣の芝生は青く見えるって言うがな……」

 

「ああっ!?」

 

「き、聞けって! そうは言うが、お前さんの境遇は羨ましいって皆が思ってるんだ! 俺も勢いで言っちまったけど、えと、その、俺と代わってくれるんだよな? なら、今日一日だけ代わるっていうのはどうだ? なあ、お前らもそれでいいよなっ!?」

 

 男の人はカズマさんに揺さぶられながらも後ろを振り返り、テーブルを囲んでいる仲間らしき冒険者達に確認を取る。

 

「お、俺は別にいいけどよ……。今日のクエストはゴブリン退治だしな」

 

「あたしもいいよ? でも、ダスト。あんた居心地がいいから、もうこっちのパーティーに戻ってこないとか言い出さないでよ?」

 

「俺も構わんぞ。ひよっ子一人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、良い土産話を期待してるぞ、ダスト」

 

 男の人……ダストさんの仲間は口々にそう言うが、話が急すぎて置いてきぼりだ。 焦った私は隣に立っているめぐみんに声を掛ける。

 

「えっと、カズマさんとあの人が交代するって事……?」

 

「そのようですが、なんだか納得がいかないのです」

 

「カズマ。その、勝手に話が進んでるけど、私達の意見は通らないの?」

 

「通らないし通さない。おい、そこの人達! 俺の名前はカズマだ。聞いた通りの訳だが、どうぞよろしく!」

 

 カズマさんは私達を振り返ることなく、向こうのテーブルに歩いて行ってしまった。

 

「「「えぇ……」」」

 

 あっという間にこんな事になるも、やっと理解が追い付いてきた私は、カズマさんを追いかけようとして足を止めた。

 クエストや訓練で培った経験上、こうなると意思が固いカズマさんなので、おそらくは帰ってこないだろう。私じゃカズマさんには敵わない。

 

「でも、どうか、カズマさんが無事に過ごせますように……」

 

 私は遠ざかる背中に祈りながら、この後の事を考え始めた。

 

 

 

 

「めぐみん、ダクネスさん、アクア様。ちょっといいですか?」

 

「どうしたのですかフーコ」

 

 私はカズマさんを見送った後、アクア様達を周りに集めて姿勢を低くする。

 すると皆それに倣って中腰になった。私は見回しながら、考えていた事を話し始める。

 

「たぶん、この後の流れを考えると、代役のリーダーは誰かという話になると思うんです」

 

「うむ……。たしかに」

 

「カズマがいなくなりましたからね」

 

「じゃあ、この私がやってあげてもいいわよ?」

 

 アクア様が自信満々に名乗り出るが、私は首を横に振って小さく頭を下げる。

 せっかくのアクア様からの申し出だが、ここは別の人に頼みたい。

 

「すいません。それも考えたんですけど、やっぱり他の人がいいと思うんです」

 

「えっ……。あ、そうなの……」

 

 しょんぼりしてしまったアクア様には悪いので、後でお酒でもご馳走しよう。

 私が顔を上げると、めぐみんが怪訝そうな表情で見てくる。

 

「でもフーコ、私は誰かを導いたり、誰かに指示したりする柄じゃありませんよ?」

 

「それは私もだ。私はどちらかと言うと、リーダーを守って敵に捕まるポジションなのだが」

 

「私もリーダーなんて出来ません。そこで提案なんですけど、今回のリーダーは交代したあの人……ダストさんにお願いしませんか?」

 

 私がそう言った瞬間、皆の動きが止まった。

 うん、こうなる事は予想できた。皆、さっきまで不満そうな表情をしていたのだから。

 

「皆が不満なのは分かってるけど、でもここは私達の働きを見せて、このパーティーをよく知ってもらう事が大切だと思うんです」

 

 私としては、カズマさんがリーダーを務めるこのパーティーが、どんなに素晴らしいパーティーであるかをダストさんに知って貰えたら良いと思っていた。

 そして、仲間の冒険者に良い土産話を持ち帰って、これを切っ掛けにしてギルドの皆にもそれが伝われば、更に良いとも考えた。

 

「上手くいけば、このパーティーの話がダストさんから伝わって、ギルドの大半が誤解してることも払拭できると思うんです。さっきの様子だと、ダストさんは知り合いが多そうだったので」

 

 なので、ここはあえて空いたリーダーの席に交代で加わったダストさんを据えれば、私達の普段の雰囲気やカズマさんの立場も見えやすくなるだろう。そうすれば、ハーレムだとか何とかの誤解も解けるに違いない、と思ったのだが……。

 

「あの……どうでしょうか?」

 

 とりあえず、考えた事をまた一から全部説明した方がいいかもしれない。

 動きが止まった皆に、私が話し掛けようとした時。

 

「……いいわねそれ。そうしましょうよ!」

 

 アクア様がパッと表情を輝かせてそう言った。

 

「なるほど……。その手がありましたか」

 

「うむ、これは妙案だな」

 

 今の説明で分かって貰えたのか、皆が頷くのを見て私も安堵する。

 

「ありがとうございます。それじゃあ」

 

「そうよ! 私達が活躍して、カズマを見返してやればいいのよ!」

 

「……えっ?」

 

あれ?ちょっと待って欲しい。

 

「そうですね。こうなったらあの男を使い、私達の有能ぶりを見せてカズマを見返してやりましょう」

 

「しかし、こんな事をよく思い付くものだ。やはり、フーコはそのうちカズマのようになるのではないか? そ、そうなると私も楽しみだぞ……!」

 

「あの、いえ、私はそんなつもりで言ったんじゃ……」

 

 おかしい。今の話のどこからこんな結論に行き着いたのだろうか。アクア様はやる気満々のようだし、いつも冷静な筈のめぐみんとダクネスさんも何故かノリノリだし、一体どうしてこんな……。

 

「カズマったら、この私を穀潰し呼ばわりした事を後悔させてあげるわ!」

 

「ふっ……久しく呼ばれていなかったロリという言葉の悲しみ、カズマに分からせてあげるのですよ」

 

「私はむしろ嬉しかったが……。い、いやなんでもない」

 

「あー……」

 

 どうやら、カズマさんが怒りに任せて言った言葉が、皆の癇に障ってしまったらしい。

 ダストさんの態度が原因かと思いきや、カズマさんの言葉で火が点いてしまうとは。

 

「そうと決まれば善は急げよ! ……そこの男! ダストとか言ったかしら」

 

「あ、ああ……。話はまとまったのか?」

 

 アクア様が振り返ると、今まで椅子に座って手持ち無沙汰に待っていたダストさんが立ち上がった。

 

「まとまったわよ! あんたリーダーやりなさい!」

 

「は? リーダーって、俺が!?」

 

 当然ながら戸惑うダストさんだが、それに畳み掛けるように、めぐみんが頷く。

 

「ええ、ちょうどリーダーの枠が空いていた所だったので、お願いするのです」

 

「リーダーか……。でもいいのか? 俺は一日だけの」

 

「この私達を引き連れて歩けるのよ? とても光栄な事なのよ? やりたくないの?」

 

「やる! やるよ! やらせてくれ!」

 

 アクア様の言葉に勢い良く答えるダストさん。

 こうして、私がオロオロしている間にダストさんがパーティーの臨時リーダーになり、その流れでクエストに行くこととなった。

 

 

 

 

 町の外に出た私達は、今回のクエストである『ゴブリンの討伐』のためにゴブリンが棲むという山道に向かう事にした。

 山道に向かって移動している途中、私達はダストさんの提案により、改めて自己紹介をする事となった。

 

「じゃあ、改めて名乗らせてもらうが、俺はダスト。今日一日だけリーダーをやらせてもらうぜ」

 

 初めにダストさんが立ち止まって自己紹介をすると、皆も続く。

 

「私はアクア。アクセルで一番のアークプリーストよ。アンデッド退治と回復なら私に任せなさい」

 

「私の名はダクネス。職業はクルセイダーだ。パーティーの盾として、どんな災いからも守ってみせるぞ」

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強魔法を操る者!という訳で、このパーティーの最大火力に期待してください」

 

「私はフーコと言います。職業はアプレンティスです。まだ未熟なので至らない所がありますが、どうぞよろしくお願いします」

 

「おう、皆よろしくな。……いや本当に美人揃いだな。羨ましいぜあの野郎……」

 

 表情が緩んだダストさんがブツブツと呟いて私達を一頻り眺めた後、何故か私を見て首を傾げた。

 

「そういえば、お嬢ちゃんはさっきと格好が変わってるが、どうしたんだ?」

 

 私もつられて首を傾げていると、そんな事を聞かれたので自分の格好を確認する。

 クエスト前に準備をする時間があったので、寒さ対策にローブを擦り切れた茶色から厚手の黒に替えたのだけど……。

 

「元のローブが擦り切れたので替えたんですけど、やっぱり変ですかね……」

 

「いや、色が変わってたから気になっただけで、むしろ俺はかわ」

 

「どこも変ではないですよ。むしろ私とお揃いの色になったので、喜ばしいのですよ」

 

「えへへ、ありがとうめぐみん」

 

 めぐみんが誇らしげな顔をするので、思わず頬が緩む。

 よかった……実際に着てみると、少し重々しく感じたのだが、寒さに耐えられそうな厚手のローブがこれしかなかった。

 でも、似合っているのかをわざわざ聞くのは恥ずかしいので黙っていたのだが、めぐみんのお墨付きを貰ったので大丈夫そうだ。

 

「あ、ごめんなさい。何か言いかけてませんでしたか?」

 

 そういえば、ダストさんがめぐみんに言葉を遮られていたような気がしたので、聞いてみる。しかし、ダストさんは微妙な表情で首を横に振った。

 

「いや、なんでもねえ。なんでも……」

 

 なんでもないならいいのだが、やっぱり少し気になってしまう。

 私がじっと見上げていると、ダストさんは咳払いをして。

 

「まぁそんな事より、リーダーとしてはモンスターに遭遇する前に皆のスキルとかを知っておきたいんだが、何か見せてくれないか? 何でもいいからよ」

 

 そう言い出した。

 確かに、リーダーを任せている以上は私達のスキルや特性を説明しておかなければいけないだろう。

 でも、何を見せたらいいんだろう。

 私が悩んでいると、アクア様が意気揚々と前に出た。

 

「なら、アークプリーストであるこのアクア様が最初に見せてあげるわ! いい? その目にしかと焼き付けなさい!」

 

「おっ! まずはアークプリーストのスキルか!」

 

 ダストさんが期待の目でアクア様に注目する。

 街でも貴重なアークプリーストのスキルが見れるとあれば、高揚するのも分かる。

 その期待を受けて、アクア様が懐から扇を取り出した。

 

「いくわよ。『花鳥風月』!!」

 

 扇からピューッと水が飛び出し、地面を濡らす。

 飛び出した水は日光を受けて小さな虹を作っていた。

 

「どう? 凄いでしょう!」

 

「お、おう……。綺麗な水だな」

 

「そうでしょうとも!」

 

 ダストさんが物凄く引きつった表情でそう言うと、アクア様は満足したように頷いた。

 

「あー……他のスキルは?」

 

「他? あとは回復魔法とか浄化魔法とかだけど、アンデットはいないし、誰も怪我してないじゃないの」

 

「そ、そうか。まぁ、そうだけど……」

 

 ダストさんはアクア様のきょとんした顔を見て溜め息を漏らすと、今度は気を取り直したような表情でダクネスさんを見る。

 

「あんたはクルセイダーなんだよな? それにしては鎧も付けてないし、やたらと薄着に見えるんだが、寒くないのか?」

 

「鎧は修理中だ。だが、鎧がなくとも役目は果たすので安心してほしい」

 

 ダクネスさんは雪精討伐の日から同じような薄着の格好で過ごしていた。

 やはりどう見ても寒そうに見えるのだが、本人が平気な顔をしているので大丈夫なのだろう。

 

「まぁ、そこまで言うなら良いけどよ。それにしても色々とでけえなあ……」

 

「む? 何か言ったか?」

 

「いや、何でもねえ」

 

「そうか? エロい身体してやがるぜこの姉ちゃんたまんねえな。と聴こえたが、私の空耳だったか」

 

「言ってねえよ! どんな空耳だ!!」

 

 ダストさんが叫び、頭をボリボリと掻きながら盛大な溜め息を吐くと、私に向き直った。私の番が回ってきたようだ。

 

「お嬢ちゃんは噂の新職業だったよな。それってどういう職業なんだ?」

 

「アプレンティスです。えっと、遥か彼方の銀河の平和を守る騎士の見習いです」

 

「言ってる意味がさっぱり分かんねえ……。まぁいいや、とりあえずスキルを見せてくれよ」

 

「わかりました。えーと……」

 

 ダストさんに促された私は道端に転がっている丸い石に手をかざすと、フォースを操って宙に浮かせる。

 

「おっ?」

 

 そのまま顔の高さまで持ち上げたあと、ダストさんの周りをくるりと一周させて地面に落とした。

 

「おおっ! 今の何だ? 風の魔法か?」

 

「フォースっていう魔法とは違う力です。宙に浮かせる以外には、物を引き寄せたり……」

 

 足下に転がっている丸い石を手に引き寄せて握り締め。

 

「飛ばしたりできます」

 

 遠くに圧し飛ばし、それを見送った。

 

「あとは……」

 

 ―――……ん?

 

「すげーな! フォースってのは聞いたことないが、なんだか便利そうな力じゃねえか」

 

「あ、はい。あとは敵を感知したり、自分の身体能力を上げたりできます」

 

 何だろう、今一瞬だけ違和感を覚えたけど、気のせいだろうか。

 でも、念のために感知で探ってみようか……。

 

「へぇ、そんな可愛い顔してても流石は新職業だ。期待してるぜ、お嬢ちゃん」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「おう。……あ、あれ? せっかく誉めたのに反応が薄いな……」

 

「フーコのフォースもいいですが、この私を忘れて貰っては困るのですよ!」

 

 私が感知スキルで周囲を探ろうとしていると、満を持したといった様子のめぐみんが前に出た。

 

「えっと、お前さんはたしか、紅魔族のアークウィザードだよな? どんな魔法が使えるんだ?」

 

「フッ……! 聞いて驚くなかれ。何を隠そうこの我こそが、世界最強の魔法にして至高の攻撃魔法……。爆裂魔法の使い手なのです!!」

 

 めぐみんがマントを靡かせ、決めポーズを取りながら言い放った。

 

「おおっ! 爆裂魔法か! そういや、リーンが前に話してたぜ。すげーな、あの爆裂魔法を使えるのかよ!」

 

「そのリーンとやらの事は知りませんが、驚くのはまだ早いのですよ。本当に驚くのはこれからです!」

 

 褒められてノリノリになっためぐみんは杖を高く掲げると、眼帯を外して脇に放り投げた。かなり高揚しているのか、その瞳が赤く輝いて………。

 

 ……ん?いや、ちょっと待って欲しい。

 

「あの、めぐみん?何をしようとしてるの?」

 

「随分と変な事を聞くのですねフーコ。この流れでトリを飾る私がやる事は、一つですよ」

 

 不安に駆られた私がめぐみんがそう聞くも、めぐみんは不敵な笑みを浮かべた。

 掲げた杖の先端の石が赤く輝き、空気の震えを感じた私は、慌ててめぐみんのマントを掴む。だが、魔法を放つ前兆の空気の震えは治まらない。

 

「待ってめぐみん! 魔法は撃たないで! まだゴブリンも出てないのに!」

 

「止めないでくださいフーコ。紅魔族には、やらねばならぬ時があるのです」

 

「それ今じゃないよね!」

 

「カズマがいない今だからこそ! 誰にも許可を求めず、誰にも縛られない本来の爆裂魔法が撃てるチャンスなのですよ! だから撃ちます!!」

 

「待っ……」

 

「平原に轟くは、解放されし我が紅蓮の焔! 『エクスプロージョン』ッッ!!!」

 

 強烈な閃光と爆音が奔り、響き渡る。

 それは心なしか、いつもより強烈だったので目を開けるのに時間が掛かってしまった。

 

「す、すげー!! なんて威力だよ! これならどんな敵でも倒せるんじゃねえか!?」

 

 ダストさんが前方にできた大きなクレーターを見て、興奮したように叫んだ。

 私が急いでめぐみんの方を見ると、案の定、地面にうつ伏せに倒れていた。

 

「……めぐみん」

 

「他には……ん? その子、なんで倒れてんだ? どうしたんだよ?」

 

 ダストさんが倒れているめぐみんに気付き、それを見るなり戸惑いの声を上げた。

 私は涙目になりながらも説明する。

 

「……爆裂魔法は魔力の消費が激しいから、一日に一発しか撃てないんです」

 

「え? ……じゃあ、この子は」

 

「はい、今日はもう魔法が使えません……」

 

「はっ!? なんでそんなの撃ったんだよ! 他の魔法を撃てば良かったじゃねえか!」

 

「ふっ……。爆裂道を探求するこの身は、爆裂魔法しか撃てないのです」

 

「意味わかんねーよ! ……ま、まさか、ギルドで噂になってた頭のおかしい爆裂娘ってのはお前の事だったのか!?」

 

「その噂してたヤツの名前を詳しく」

 

「う、嘘だろ……」

 

 呟いたダストさんが途方に暮れたように立ち尽くす。

 

「ねえ、でも、このクエストってゴブリン退治でしょ? 爆裂魔法が無くても行けると思うんですけど」

 

 アクア様が爆風で服に付いた草や土を払いながら言うと、ダクネスさんも頷いた。

 

「うむ。めぐみんは私が責任を持って守るから安心してくれ」

 

「そ、そうだった。まだあんた達がいるから大丈夫だな。任せたぜ」

 

 ダストさんがアクア様とダクネスさんの言葉に安堵したような表情を浮かべた、その時。

 

 ――――!

 

 ここからそう遠くない場所で、こちらに敵意を向ける何者かの気配。

 それを感知した私は、即座にセーバーを抜いて起動する。

 

「何か来ます!」

 

「うぉ!? なんだそれ、剣か? ……って何かってなんだよ?」

 

 感知した方向を見ると、ダストさんの遠く後方の山道から、大きな獣のような何かがこちらに向かって来ているのが見えた。ダストさんも振り返って目を凝らす。

 

「あれって……」

 

「……あれは『初心者殺し』ね」

 

「初心者殺しだと!? おい、いくらあんた達でもアレはヤバイ! さっさと逃げようぜ!」

 

 アクア様が言うと、ダストさんがワタワタと慌てながら青褪めた。

 そんなに怯えるほどの相手なのだろうか。

 

「初心者殺し。ゴブリンやコボルトといった比較的弱いモンスターの群れの周りをうろついて、その群れを討伐に来た初心者や弱い冒険者を狩るモンスターよ。釣り餌のゴブリンがその土地に定住しないように、わざと定期的に追い払っては住みかを変えさせ、自分の狩場も変える狡猾で残忍な奴なのよ」

 

 アクア様の説明を聞いていると、嫌な汗が流れた。

 他のモンスターを利用して弱い冒険者を釣り上げるモンスター?この世界にはそんなものまでいるんだ……。

 

「でも、おかしいわね。普通はこんな街の近くにまで寄ってこないはずなんだけど。っていうか、何か怒ってるように見えるんですけど」

 

 確かに、あのモンスターは怒っている……。

 でも、私達は怒らせるような真似をした覚えは……。

 

「……違うのですよ。爆裂魔法は悪くないのです」

 

「いや、誰も何も言って……ってそんな事より早く逃げようぜ! 只でさえヤバイ奴が怒ってるなんて最悪すぎるぞ!」

 

 おそらく、爆裂魔法の爆音で、近くを彷徨いていた初心者殺しが寄っては来たのだろうけど……。

 だが、狡猾で知恵のありそうなモンスターが、音だけで怒って寄ってくるだろうか?むしろ、警戒して近付かないようにするのでは?

 ああ、でも、ブラックファングの時のように叩き起こされた可能性もあるか……。

 

「いや! 怒っていようが関係ない! ダストとやら、めぐみんは任せたぞ!」

 

「ちょっ! おいちょっと待て! あんたどこ行こうってんだよ!?」

 

「あの初心者殺しに遭遇したのだから、やる事は一つだ!」

 

 ダクネスさんが興奮したように剣を抜くと、背負っためぐみんをダストさんに預けて駆け出してしまった。その向かう先は……初心者殺し。

 

「おいおい嘘だろ? いくらクルセイダーだからって、鎧もなしに突っ込むのは自殺行為だろ!」

 

「ダクネスさんは仲間想いなので、いつも自分から囮になろうとするんです」

 

「いつも!?」

 

 ダストさんが驚愕するのも無理はない。

 ダクネスさんにはいつもハラハラさせられるのだが、今日はいつにも増して漲っているような気がする。

 

「久々のクエストに強敵だから、ダクネスも気合い入ってるみたいね。でも、こうなったら私も負けてられないわ! 穀潰しじゃないって所を見せてやるんだから!!」

 

 アクア様はどこからか羽衣と杖を取り出し、杖を槍のように突き出した。

 そして、ダクネスさんの後を追うように駆け出す。

 

「回復役まで行きやがった!? 一体どうなってんだよこのパーティーは……」

 

 本当にどうなってるんだろう。今日はいつにも増して、皆の自制が効かなくなっている。……久しぶりの討伐クエストだからだろうか?

 

「お、おい。お嬢ちゃんは俺とこの子と一緒に、さっさと街まで逃げるぞ!」

 

 いや、違う。そうじゃない。

 討伐クエストが原因なんかじゃない。

 

「そんで助けを呼ぼう。せっかくあのクルセイダーとアークプリーストの姉ちゃんが囮になってくれてんだからさ、な?」

 

 カズマさんに言われた言葉が刺さっているから?

 

「もう俺達だけじゃどうしようもねえよ。ほら、早く来いって! お嬢ちゃんくらいはリーダーに従ってくれよ!」

 

 いや、違う。それも違う。

 それも含まれてはいるが、それが全てじゃない。

 

「……ダストさんはめぐみんを連れて、街へ戻ってください」

 

「いや何言ってんだ!? いくら新職業でも、初心者殺しは……」

 

「私なら大丈夫ですので、お願いします」

 

「おい!」

 

 私は巨大な虎のような巨体に向かって駆けながら、考える。

 今日の皆が、いや、ここ数日の皆の様子がおかしい理由を。

 

「ゴッドレクイム! 相手は……いたたたたっ!? ちょっダクネス! フーコ! 助けて! 助けてー!!」

 

「おい! 咬むなら私にしろ!」

 

 いつも冷静なめぐみんとダクネスさんが街なかの依頼をこなす時、突拍子もない事を考えて失敗していた。

 そして、さっきもめぐみんが爆裂魔法をこんな場所で撃っては倒れ、今はダクネスさんとアクア様がいつも以上に張り切った様子で初心者殺しに突っ込んでいる。

 

 一見すると、いつもと変わらないように見える私達だが……いつもと同じように見えて、決定的に違うものが一つだけある。

 そのせいで、皆の調子が何処か空回りしているように思えてならない。

 

「アクア様! 今引っ張り出しますから! ……ダクネスさん、お願いします!」

 

「待って! またフォースなの? またアレをするの!?」

 

「私ならいつでもいいぞ! アクアを受け止める準備はできてる!」

 

「いきます!」

 

「ちょっ待っわあああああっ!! わぷっ!?」

 

「よし、いいぞ! 行けフーコ!!」

 

 飛んできたアクア様をダクネスさんが受け止めたのを見届けると、私は足を止め、セーバーを構える。

 

『グルルルルルッ……!』

 

 目の前に対峙した初心者殺しの巨体を見つめる。

 初心者殺しはしきりに鼻を鳴らし、唸りながら私の周りをゆっくりと歩き、私の匂いを嗅いでいる。

 私は慎重に片手を突き出すと、全神経を目の前の初心者殺しに集中させた。

 

「ん……?」

 

 その時、ふと見つけてしまった。

 その鋭い牙と牙の間に挟まっている、小さな丸い石を。

 その石からは微かだが、フォースが……?

 

 いや、気のせいか。今はそんな事よりも目の前の相手に集中だ。

 

『グルルルル……グギッ!?』

 

 私は集中を高め、頭から下らない考えを追い払うと、フォースで初心者殺しの動きを封じ込め、セーバーを上段に構える。

 

「ごめんね。でも、もう帰らないといけないから」

 

 そして、その巨体にセーバーを振り下ろした。

 

 

 

 

 初心者殺しを討伐した後、日が沈みかけた街の大通りを、私達は歩いていた。

 

「いたいよぉ……ベトベトするよぉ……ぐすっ……」

 

「アクア、あともう少しだ。ギルドで報酬を貰って風呂にでも行こう」

 

 頭を齧られて啜り泣くアクア様の背中を、ダクネスさんが優しくさすりながら歩く。私はそんな二人の後ろ姿を眺めながら、隣を歩くダストさんを見上げた。

 ダストさんはさっきから黙ったまま一言も喋らず、誰とも目を合わせようとしない。

 めぐみんを背負って歩くその横顔は青白く、どこか諦めきったような虚ろな表情だ。

 

 ……無理もない。慣れないパーティーのリーダーになり、初心者殺しに遭遇したのだから。そう考えると、私はなんて非道い提案をしてしまったのだろうか。

 

「ダストさん」

 

「……ん? ああ、何だ? どうした?」

 

「今日はありがとうございました。そしてごめんなさい。危険な目に遭わせてしまって……」

 

「いや、いい。いいんだ……。俺も分かった、よく分かったよ。自分のパーティーが一番だって事が。隣の芝生は、ただ青く見えるだけだってな………」

 

「はい……」

 

 ダストさんには悪いけど、私もそう思う。今日一日で改めてそう思った。

 私が引っ掛かっていた違和感の原因と、皆の空回りの原因もはっきりと分かった。

 

 それは、カズマさんの不在だ。

 

 このパーティーは、私が思う以上の大きな柱で支えられていた。

 皆は気付いていないのかもしれないけど、私達が全力でクエストに臨めるのは後ろにカズマさんが居て、的確な判断をしてくれるからだ。

 そんなカズマさんの代わりなんて、誰もいない。

 

「うぅ……これ、歯型付いてるわよね?」

 

「ああ、結構くっきりと残っているようだ」

 

「こんなんじゃカズマに笑われるわ……。ぐすっ……カズマ……カズマぁ……」

 

 アクア様の堰を切ったような泣き声を聞いていると、目頭が熱くなってくる。

 それを何とか我慢しながら歩いていると、やがてギルドに到着した。

 

「やっと着いたぜ……」

 

 ダストさんがもう何度目になるか分からない溜め息を漏らした後、ギルドの扉をゆっくりと開いた。……すると、そこには。

 

「やっと戻って来たか。ってうわぁ……これは……」

 

「カズマぁあああ!!!」

 

 カズマさんがダストさんのパーティーの人達とテーブルを囲み、ジョッキを片手にこちらを見ていた。そして、私達の様子を見て瞬時に状況を察したのか立ち上がると、縋り付くアクア様を引き摺りながら歩き。

 

「何があったのかは嫌でも察するし、聞きたくもないんだが、あえて聞くぞ?」

 

 ダストさんの肩に手を乗せ、優しく微笑んで。

 

「……どうだった?」

 

「俺が悪かった! 悪かったよ! 俺じゃ無理だ!! だから早く元のパーティーに戻してくれ!!」

 

「えー。どうすっかなー」

 

「この通りだあああああ!!」

 

 ダストさんが綺麗な土下座を決めていた。

 

 

 

 

「ゴブリン退治の時に初心者殺しに遭遇して隠れたんだが、もう少しでヤツに見つかるって時に何処からか小石が飛んできて、初心者殺しの口に入ってな。その後、初心者殺しが物凄い勢いで街の方に走って行ったんだが、今思うとあれは誰かが助けてくれたのかもしれん」

 

「なによそれ? じゃあ、アイツが怒ってたのってその誰かのせいじゃないのよ!」

 

「その誰かを探していたら、ちょうど私達が居たから襲って来たのだろうか」

 

「そうだとしたら、私達はとばっちりじゃないですか。まったく迷惑な話なのですよ。あと、私の爆裂魔法は悪くないです」

 

「誰も何も言ってないだろ」

 

 私達はギルドで同じテーブルを囲みながら、今日一日を振り返っていた。

 特に、初心者殺しの話題になってからの私は冷や汗が止まらなくなっていた。

 

「……っ」

 

 カズマさんの話から推測するに、あの初心者殺しの歯に挟まっていた石は、ダストさんにスキルを見せた時に飛ばした石だ。

 あの石が初心者殺しに当たり、石に付いた私の匂いを辿って来たのかもしれない。

 石を飛ばした直後の感覚は初心者殺しが怒りを覚えたからだ。

 そして、初心者殺しの歯に挟まっていた石から感じたフォースは、今思えば私自身のフォースだったように思える。

 

 というかこれ、なんという偶然……。

 

「ところでフーコ」

 

「はひっ!」

 

「おい、どうした……?」

 

「なな何でもありません」

 

 突然カズマさんに呼ばれ、変な声が出てしまった私は慌てて口を抑える。

 カズマさんが怪しむような表情で見てくるが、私はそっぽを向く。

 

「……いや、いいか。それより、その格好は何なんだ?」

 

「はい?」

 

 本日二度目の服装への突っ込み。

 やっぱりおかしいのかな?でも、めぐみんのお墨付きだし……。

 

「カズマ、フーコの格好の何がおかしいのですか。とても似合っているではないですか」

 

「いや、似合ってはいるが、そうじゃなくてな……」

 

 似合ってる?

 ローブを変えただけとはいえ、カズマさんに褒められてしまった。

 

「……えへへ。ありがとうございます」

 

「別に褒めてないんだが。うーん……」

 

 すると、カズマさんは腕を組んで考え始めた。

 私達がその様子を眺めていると、カズマさんが顔を上げた。

 

「まぁ、服ぐらいならそこまで気にしなくても大丈夫か……。という訳で、この話は忘れろ」

 

「えっと……?わかりました」

 

 よく分からないけど、珍しくカズマさんに褒められたので満足だ。

 私が静かにほっこりしていると、アクア様がすっと手を挙げた。

 

「ねぇ、カズマカズマ! 私お腹空いてきたんですけど。という訳ですいませーん!カエル肉十個ください!」

 

「私も魔力を使い果たしたのでお腹が減っていたのです。こっちにカエル定食三つください!」

 

「うむ。そういえば、そろそろ夕食の時間帯だな。こっちにも頼む!」

 

「ちょっと待て、初心者殺しの金が入ったからって、ここぞとばかりに頼むんじゃねーよ。おい聞け! ちょっとは遠慮しろ!」

 

 皆が手を挙げて一斉に夕食を注文し始めると、カズマさんが大声を出して止めようとする……いつも通りの光景が戻ってきた事に、私は胸を撫で下ろす。

 ああ、ほっとした途端にお腹が空いてきた。

 

「すいません! 野菜スープを四皿ください!」

 

 とりあえず、ご飯を食べて明日に備える事にしよう。

 




・カズマさんが一時的にパーティーから離脱しました。
・ダストが一時的にパーティーに参加しました。
・初心者殺しを討伐しました。
・ダストがパーティーから離脱しました。
・カズマさんがパーティーに参加しました。

次はダンジョンです。

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