キャベツの報酬を貰って買い物をします。
休息です。
目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
何度か瞬きをして、息を吐く。
カエルの時とは違って、今度は覚えている。
燃え盛る巨大キャベツを見た瞬間に、目の前が真っ暗になったことを覚えている。
そして気が付いたら寝かされている。つまり、そういうことか。
「またやっちゃった……」
また気絶してしまった。おそらくここは何処かの宿だろう。誰かが運んでくれたに違いない。そう、誰かが……。
「……って皆は!?」
急いで跳ね起きると、周りを見回―――……ん?
私が寝ていたベッドの周りには、散乱した酒樽と酒瓶とキャベツと、そして
「ぐぅ……」
「うーん……キャベツ……むにゃむにゃ」
「重いよー……重いよー……すやぁ……」
「大きなキャベツが私を……ふひひ……」
眠りこけている仲間たちがいた。
「いや……これは本当に、なんていうかな……」
目の前には気まずそうな表情で床に座るカズマさん。
私が訳も分からずに呆然としていると、カズマさんが起きたので、この状況の理由を尋ねてみたのだが……。
カズマさん曰く、私が気絶した後にダクネスさんがギルドの近くの宿まで私を運び、その後、ギルドと街中で収穫されたキャベツを使った料理が振る舞われ、それがいつしか飲んで歌えの宴会に変わり、テンションが上がっためぐみんの『フーコの所で騒ぎましょう!目が覚めた時に一人だと泣くかもしれません!』という提案によりパーティーの皆が宿に集まり、キャベツの踊り食いやキャベツの蒸留酒の一気飲みが行われ……気が付いたらこうなっていたらしい。
「俺も最初は止めようとしたんだぞ? だけど酔っ払ったアクアに酒樽を口にねじ込まれてな……」
カズマさんが床に大の字で寝ているアクア様を指差して溜め息を漏らす。
流石のカズマさんも酒樽とステータスの差には勝てなかったようだ。
「それは……大変でしたね」
でも私が眠っている間にそんな事があったなんて……。
参加したかったという思いと、眠っていてよかったという思いが入り乱れて複雑な気持ちだ。
「ところで、気分はどうだ? ぐっすり寝てたみたいだが」
「もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました」
「いや、流石に無理させすぎたなーとは思ってたし手段が無かったとはいえ、でかいキャベツの相手もさせたしな。まぁ、その」
「カズマッ!!! ……飲みなさいよー……すやぁ」
「………チッ」
アクア様の寝言でビクッとなったカズマさんは、小さく舌打ちすると、アクア様の顔にキャベツの葉を被せた。少し息苦しそう。
「……とりあえず、皆を起こして部屋を片づけて風呂に入ってギルドに集合だ」
そう言って立ち上がるカズマさんは部屋の隅で眠るダクネスさんを起こしにかかる。私はめぐみんを起こす事にした。めぐみんは私の膝を枕にして、セーバーを握りしめて眠っている。
………セーバーが起動しないで本当に良かった。
◇
「本当にすいませんでした」
「え?」
私が大衆浴場で身体を洗っていると、隣に座っためぐみんが唐突に謝ってきた。
はて?身に覚えがない私は、首を傾げる。あ、でも強いて言えば……あれかな?
「私の膝を枕にした事は別に気にしてないよ。むしろ、私の膝じゃ寝心地悪かったんじゃないかと思うけど……。それとも、セーバーの事?」
「いえ、そっちでもセーバーでもなく。寝心地も良かったですが、その……爆裂魔法に巻き込んでしまったので、だからフーコは気を失って……」
どうやら、めぐみんは私を爆裂に巻き込んで、気絶させたと勘違いしているようだ。でも、あれは私がフォースを使い過ぎたせいだし、カズマさんが言うには気絶した私をダクネスさんが守ってくれたらしい。
「ああ、気にしないで。私が気を失ったのはフォースの使い過ぎで疲れたせいだから」
「そうなのですか?」
「そうだぞ。フーコは私がきちんと盾になったからな。カズマから聞いてないのか?」
遅れて入ってきたダクネスさんがそう言って、めぐみんの隣に座った。
「いえ、聞いてませんが」
「そうか?だがそういう事なのだ」
「そういう事なのですか」
頷き合う二人。何やら行き違いがあったようだけど、解決したみたいだ。
そうだ、私も言っておかなければならない事があったんだ。
「ダクネスさん、本当にありがとうございました」
改めてダクネスさんに頭を下げると、ダクネスさんはふっと笑って胸を張る。
「気にするな。盾になれて本望……むしろ爆裂魔法をこの身に受けられて貴重な体験が出来たぞ!」
謙虚過ぎて泣けてきた。ダクネスさんならジェダイにでもなれるんじゃなかろうか。うん、ところで、その強調された……いつ見てもその……。
「大きい……」
「……ふっ我はまだ成長期」
私とめぐみんが自分とダクネスさんを見比べて乾いた笑みを浮かべると、ダクネスさんはきょとんとした顔をした。
天は二物を与えずと言うが、それは嘘だと思う。異世界に来てからは特にそう思うようになった。めぐみんは黒髪が綺麗だし、肌艶も良いし、素直な性格だ。ダクネスさんは金髪碧眼で、スタイル抜群で格好良いし頼もしい。アクア様は女神なのに、親しみ易くてお茶目だ。おまけに全員美人なのが前提というのがずるい……あ、女神と言えば。
「……大丈夫ですか?アクア様」
「うぅん……頭痛い……気持ち悪い……」
ザバーッと冷水を被っているアクア様を振り返ると、とても顔色が悪い。
二日酔いは私には未知の苦しみだけど、こんなに辛そうなアクア様を見ていると、私にお酒は無理そうだと思う。でもいつか飲む日が来るのだろうか。
「フーコ、髪を洗ってもらってもいいですか?」
「ついでに私もお願いできないだろうか。できれば爪を立ててもらえると嬉しい」
「いいですよ。でも綺麗な髪と頭皮が傷付いちゃうので、優しくしますね」
「う、うむ。では頼む。ふあっ……これは心地好いな……」
「気持ちいいのです……」
私はめぐみんとダクネスさんの髪を洗いながら、異世界にイソフラボンはあるんだろうかと真剣に考えていた。
◇
「お前らキャベツの報酬は受け取ったか? 買い物に行くぞ」
私達がギルドに到着するなり、先にギルドで待っていたカズマさんが言い放った。
「買い物ですか?」
「おう。キャベツの臨時収入も入ったし、そろそろ装備を充実させておきたいと思ってな」
キャベツの報酬……すっかり忘れてた。
そういえば受付のお姉さんの所に冒険者がずらりと並んでいるのはその受け取りだろうか。
「報酬を確認して来ます」
私は受付のお姉さんの元へ向かい、しばらく並ぶと私の番が来た。
「こんにちは! フーコさんもキャベツの報酬ですか?」
「こんにちは。そうです、受け取りに来ました」
冒険者カードと財布代わりの大きめの袋を差し出すと、受付のお姉さんは、期待しててくださいねと微笑んだ。確か私個人は10玉くらいしか捕まえていなかったので、良くて10万エリスだろうと踏んだ。
しかし大金に変わりないので、とてもドキドキする。
「お待たせしました」
袋とカードと明細書を受け取る。やけに袋が重い上に、はち切れんばかりに膨らんでいた。
10万エリスは私の予想以上に大きい数字らしい。とりあえず明細書を確認して……。
えっと……いち、じゅう…………ん!?
「どうでしたかフーコ……、フーコ?」
ふらふらと皆の所に戻ると、めぐみんが訊いてきたので黙って明細書を見せる。
「ふむ……………100万エリス!?」
「「ひゃ!?」」
アクア様とダクネスさんが明細書を勢い良く覗きこむと、めぐみんと同じように絶句した。
「へぇフーコも結構儲かったんだな」
椅子に座っているカズマさんが頬杖を突いてそう言うと、めぐみんが振り返った。
「……そう言うカズマはいくらだったのですか?」
「180万」
「「「ひゃくはち……!?」」」
予想外の応えに一斉にカズマさんを見るが、大金を手にした筈のカズマさんの表情は何故か浮かない。私の気のせいだろうか。
「わわわ、私行ってくる!!」
「では私も……」
「いってきます!」
アクア様とダクネスさんとめぐみんが受付に駆けていったのを見送ると、私はフラフラとカズマさんの隣に座った。すると、カズマさんが私の明細書を見ながら説明してくれた。
「……受付のお姉さんの話によると、俺達が捕まえたキャベツは特に質が良くて、中身と経験値が詰まった物が多かったそうだ。だから通常よりも更に高値で取引されるんだと」
そ、そうなんだ。異世界の相場って……。あれ?でも私の場合は10玉なのに、なんでだろう?私が疑問を言う前に、カズマさんが言葉を続ける。
「これも聞いた話だが、フーコの場合、あの巨大キャベツの報酬が相当でかい。切り取られた外側の葉は耐熱素材だから装備やら何やらと使い道が多いらしい。所謂レアドロップってやつだ」
巨大キャベツのレアドロップ……。私ってそんなに運良かったっけ?
「良かったな大金だぞー経験値もがっぽりだぞー」
うん、やっぱり気のせいなんかじゃない。さっきからカズマさんが浮かない表情をしている。
「あの、カズマさん」
「はあ!? あんたそれどういう事よ!!」
私が表情の理由をカズマさんに尋ねようとした時、ギルド中にアクア様の叫び声が響き渡った。
「やっぱりか……あの駄女神」
カズマさんの呟きと共に振り向くと、アクア様が受付のお姉さんの胸ぐらを掴んで何やら揉めていた。
「なんであれだけ捕まえて五万ぽっちなのよ!!おかしいでしょ!?」
「ひ、非常に申し上げ難いのですが……」
「何よ!!」
「……アクアさんが捕まえてきたのは、殆どがレタスでして……」
「……何で、何でレタスが混ざってるのよー!」
「わ、私に言われましてもー!」
アクア様は涙声でお姉さんの胸ぐらを掴み、ぐわんぐわん揺らしている。
お姉さんも半泣きになっていた。
「アクアの網に入ってたやつは何か違うと思ってたんだよな……。嫌な予感がしてたんだけどな……あー次の展開が読める自分が嫌だ……」
カズマさんがぶつぶつと呟いている。
アクア様はやがてお姉さんを揺らすのを止めると、くるりと振り返って、ゆっくりとこちらに近付いてきた。ものすごく良い笑顔を浮かべている。
「カズマ様ー。前から思ってたんだけど、あなたってその、そこはかとなくいい感じよね?」
「特に褒める所がないなら無理すんな。言っとくが、絶対に金は貸さんからな」
「カズマさぁぁぁん!! 私、クエスト報酬が相当な額になるって踏んで、昨日の宴会で有り金全部使っちゃったんですけど! っていうか大金入ってくるって見込んで、ここの酒場に10万近いツケまで作っちゃったんですけどー!」
アクア様はカズマさんの足に縋り付いて、わあわあ泣いている。
カズマさんの浮かない表情の理由はこれだったんだ……。
「いや知るか! そもそも今回の報酬はそれぞれの網に入ってる分って言い出したのはお前だろ」
「だって! 三人で捕った中で私が一番大きな網だったから私だけ大儲け出来ると思ったのよ!」
「最低だな! ていうかいい加減この金で馬小屋生活から脱出しなきゃいけないんだよ!」
「お願いよぉぉ! ほんの少しでいいから! 10万でいいから!」
「ツケ全部じゃねえか!」
カズマさん馬小屋暮らしだったんだ……。
私は最近の寝泊まりの殆どを、壁に穴が空いているような格安の宿屋を利用しているので、馬小屋にはあまり行かない。ちなみにその宿屋に行くと、いつも一部屋を除いて満室になっている。
そして、その翌日の朝の宿屋で親方の所のお兄さん達をよく見かけるのだが、声を掛けてもすぐに居なくなってしまう。
仕事場からかなり遠いしお得意先でもないはずなので不思議だ。いや、でも格安だし、そう不思議な事でもないのかな?
「フーコ! ねぇフーコってば! 無視しないでよぉぉぉ!!」
はっと気が付くとアクア様が私の膝に頭を乗せて泣きじゃくっていた。しまった。色々考えていて話を聞いてなかった。
「あ、えっと、どうしたんですか?」
「お願いします!お金貸してください!」
顔を上げたアクア様の水色の瞳が潤んでいた。
見つめていると凄く心苦しい気分になる。
「おいアクア」
「……わかりました」
「いいの!?」
「ちょっおいフーコ!」
私が頷くと、アクア様がパッと笑顔になり、カズマさんが咎めるような視線を向ける。私でもカズマさんが言いたい事は分かる。だが、私はアクア様にお世話になっている身だ。キャベツの時だって一人じゃ無理だった。
「いくら必要なんですか?」
「15万エリス!」
「増えてんじゃねえか! おいフーコ、こんな奴に金なんて」
「カズマさん」
カズマさんの言葉を遮ると、私はお兄ちゃんから教えて貰った大切な事を思い出しながら口を開く。確か大金を貸し借りする時は……。
「いいんです。でも、人はお金の魔力で本性が現れたり頭がおかしくなる生き物だから、貸す時は誰であれ、たとえ身内でもトラブルを避ける為に最低限の事はするべきです。例えば借用書とか。なのでアクア様、ここで今すぐ借用書を書いてください」
「カズマさぁぁぁん!! 今あの子の口からなアレな言葉が飛び出したんですけど! こんなリアルな事とか聞きたくなかったんですけど!」
「お、おい、アクア。フーコの言ってる事は至極全うな事だぞ?……お前の気持ちは分からんでもないが」
あれ?反応がおかしいな。お兄ちゃんの受け売りだったんだけど……使い所を間違ったかな。
「本人きょとんとしてるから他意はないんだろうし、アクアもそろそろ泣き止めって」
カズマさんが縋り付くアクア様にそう言うと、アクア様はおずおずと私を見つめて頷いた。
「う、うん……えっと……ふ、フーコ。私達って、仲間よね……?」
「え? ええ、そうですよ? ………当たり前じゃないですか」
「……その意味深な間と笑顔は何なのよー! わあぁぁんっ!」
「ええっ!?」
唐突な言葉に慌て、詰まりながらも笑顔を浮かべて見せると、何故だか泣き出してしまったアクア様。
結局、私とカズマさんが宥めた後、アクア様はカズマさんにお金を借りた。
……解せない。
◇
あの後めぐみんとダクネスさんが戻ってくると、私達はギルドを出て、街の通りを歩いていた。その途中、ダクネスさんはキャベツと爆風で傷付いた鎧を直す為に鍛冶屋へ行き、めぐみんも新しい杖を買う為に武器屋へ向かったので、私はカズマさんとアクア様と一緒に服を新調しに衣装屋に向かった。
私が店に入って商品を物色していると、後ろで物色しているカズマさんとアクア様の話し声が聞こえてきた。
「珍しいな、お前が文句の一つも言わずについてくるなんて」
「まぁ女神としては下々の暮らしを把握するのも仕事のうちなのよ」
「もう色々と今更過ぎて嘘だって丸わかりなんだが。……で、本当のところは何なんだよ」
「……フーコってどういう服を選ぶのか気にならない?」
「いやお前何言って………ちょっと気になるな」
「でしょ? ちょっと心配になるくらい無欲で無頓着な子じゃない。年頃の娘にしては装飾の一つも身に付けてないし、酒場で飲むこともしないで帰ったりしてるし」
「いや、それは人それぞれじゃないのか? そもそも稼ぎが安定しない冒険者じゃそんな余裕もないだろ。アクアみたいな浪費もしないだろうし」
「んなっ! ま、まぁ……それはそうかもしれないけど?でもでも」
「……なんかお前アレだな、お母さんみたいだな」
「はぁ!?? 誰が年増ですって!?」
「そこまで言ってねえよ! てか声落とせ、フーコに聞かれるだろうが」
バッチリ聞こえてます。
うーん……そんな風に思われてたんだ。節約も大事だけど、これからは身なりに気を遣おうかな。でも、とりあえず服を選んでから考えよう。
元の町娘風の服装も悪くはなかったけど、戦いには不向きだし、もう少し丈夫な素材が良い。それに、ここは異世界だ。元の世界だと中々出来なかった服装だって出来る。
「……お待たせしました」
悩みに悩んで新しい服を購入した私は、試着室で着替えてカズマさんとアクア様の前に出る。
「おー」
「へぇ」
私は傍の姿見を通して改めて自分の格好を確認する。
髪は後ろでまとめ、上半身は白を基調とした道着のような服と帯、下半身は革のベルトにセーバーをぶら下げ、薄い素材の黒色のズボンと茶色のブーツ。
そして上から茶色のローブを羽織った。流石に本物が置いてある訳がないので、数種類の服を組み合わせて再現してみたのだが。
「どうですか?」
「……
「侍と魔法使いを合わせたみたいな格好ね。まぁいいんじゃない?」
カズマさんの感想が今の私にはピッタリかもしれない。アクア様も褒めてくれたので私的には満足だ。替えも何着か買ってある。
「カズマさんも服を変えたんですね」
そのカズマさんの格好もジャージから随分と様変わりしていた。
街の人達と同じような服の上から革のベルトと革の鞘を付け、上からは金のラインが入った緑色の短いマントを羽織っている。
「これで少しは異世界らしくなっただろ?」
「はい!」
嬉しそうにサムズアップするカズマさんに私もサムズアップして返した。
そして隣のアクア様を見ると、元の服装のままだった。
「アクア様は服を買わなかったんですか?」
「私は服を変える必要がないの。眠る時以外はこの服の方が女神の力を充分に発揮出来るのよ」
アクア様はいつも通りの青色の服のスカートの端を摘まんでみせる。それを見ながらカズマさんがアクア様に尋ねた。
「もしかしてアクアの杖や羽衣も同じ様な物なのか?」
「そう! あれも神器よ。神々のアイテムね」
「へえ、そうなんですね」
「神器……え、あれが神器なのか」
アクア様がたまに出す白い杖と紫の羽衣を思い浮かべる。
杖は花の装飾が綺麗な杖で、羽衣は薄くてふわふわと風に靡いていた。
綺麗な装備だとは思ったけど、そんなに凄い物だったなんて……。
「その神器が何で軒先の物干し竿になってんだよ……」
え、あの杖が物干し竿……?神のアイテムが?
カズマさんの言葉にアクア様を見つめると、アクア様はそっと目を逸らした。
「あ、あれはちょうど良い長さの棒がなかっただけで……」
「棒なんてその辺に転がってるだろうが。いいのか?あんな扱いで」
「……あれも私の一部みたいなものだから」
「よし謝れ、杖に謝れ。じゃないと売っ払うぞ」
「なんでよ!! え、売らないわよね? 冗談よね?」
「あっ私、替えの服を包んできますね」
私は何かの算段を始めたカズマさんと涙目になったアクア様に小さく頭を下げると、レジに向かった。
◇
お店を出た私達は、この後どうするか話していると、通りの向こうからめぐみんとダクネスさんが走ってきた。
「ちょうど皆が揃いましたね。おお服が変わっていますね」
めぐみんが早速気付いたようで、私とカズマさんをしげしげと眺める。
「なんだかカズマがまともな冒険者らしく見えるのです」
「まあ、やっと装備を揃えたしな」
「いつまでもジャージなカズマだとファンタジー感台無しだものね」
「ふぁんたじー?はよく分かりませんが、フーコも様変わりして良い感じですね。特にそのローブがなかなか……」
「うむ。遠目からだと二人とも誰だか分からなかったぞ。しかもフーコの髪型は私と一緒だな」
ダクネスさんが私の髪を見ながらそんな事を言った。
意図せず髪型が被った私は何だか照れくさくなり、髪を手で撫でながら呟く。
「ダクネスさんみたいに長くも艶やかでもないので綺麗にまとまりませんけどね……」
「ならば私が結おうか? それとも、私で結う練習をしてみるか? その時はできれば千切れるくらい強めに頼む」
「優しくしますね。あ、ダクネスさんも鎧が元通りになってますね」
「うむ。鎧は修理したのだ。しかし、罵倒されるのもいいが流されるのもなかなか……」
何故か頬を染めながらもじもじするダクネスさん。
それをカズマさんが凄く残念なものを見るような目で見ているのはどうしてだろう。
「……こほんっ」
そして、咳払いしためぐみんを見ると何やら杖が新しくなっている。
全体的な形は前と同じようだが、先端に付いている石の色が青から赤に変わっていた。
「めぐみん、杖を変えたんだね」
「ふっ……! ようやく気が付きましたか! そう、これは何を隠そう、魔力を向上させるマナタイト製の杖なのです! 巨大キャベツの報酬が思いの外良かったので思い切って新調したのですよ! はぁぁこの色艶、この太さと重さ……あああ早く爆裂魔法を撃ちたいです……!」
「ただでさえ強力なものをまだ強化するのかよ」
「当然です! 爆裂道は果てしないのですよカズマ!」
杖にしがみついて頬ずりしているめぐみんを微笑ましく見ている時だった。
――――。
突然のフォースの感覚。感知した方を見ると、街の外壁が目に留まる。
私がじっとその方向を見つめていると、何故か胸がざわついてきた。
「よし、そろそろギルドに戻って飯でも食うか」
「じゃあ今日はカズマの奢りね」
「は? ふざけんなよ駄女神」
「何よ! 一番儲かってるんだからいいじゃない!」
「それ金を借りてる奴の言う台詞じゃないからな?」
「私もカズマから金を借りたらあんな風に睨んで貰えるのだろうか……」
カズマさんがギルドに向かって歩き出したので、皆も後に続いていく。
私が立ち止まっていると、それに気付いためぐみんが声をかけた。
「フーコ? どうかしたのですか?」
「……ううん、なんでもない」
後ろ髪を引かれる思いでめぐみんに追いつくと、新しい杖の事を語るめぐみんを他所に、私はざわつく胸を抑えて歩いた。この胸のざわつきは、あの感覚のせいか。
それとも、外壁の向こうの空に見えた物のせいか。
私はもう一度だけ振り返る。
壁の向こうの空には、暗雲が立ち込めていた。
・百万エリスを入手しました。
・買い物をしました。
・ジェダイのような衣装を装備しました。
・フォースで何かの気配を察知しました。
次回はアンデッドとリッチーです。