初投稿です。
アクア様が好きです。
プロローグ
『
目の前にとても綺麗な女の子がいた。
真っ白な空間の中に浮かぶ、水色の髪と水色の瞳。
抜群のプロポーションが映える青い衣装。
心地良い澄んだ声。
女神や天使のような……といった表現がピッタリの女の子。
「……どちら様でしょうか?」
『私は女神アクア。若くして死んだ魂に、死後の案内をしています』
自らを女神アクアと名乗った女の子は、椅子に座ってこちらを見つめている。
「えっと……本物の女神様ですか?」
『はい』
本物……。確かに納得してしまうくらい綺麗だけど……。
周囲を見渡すと、女神様が座っている椅子の他には何もない。
壁がないのか、白い空間がどこまでも続いている。
下を見ると自分の身体が目に入る。ラフな部屋着。家でのいつもの格好。
「あー……」
真っ白な空間に女神様と私。
この状況……。
これは夢だ。私は自分の部屋でお兄ちゃんから借りた映画のDVDを観ていたはずだ。
いつもの癖で寝転がりながら観ていたから、その途中で寝てしまったのだろう。
でもいつもは寝落ちなんてしない筈なんだけど、連続で観ていたから疲れたのかな。
だから目の前に女神を名乗る綺麗な女の子が現れて、私が死んだとかって……。
ちょっと待って欲しい……死んだ?私が?
「すみません、私が死んだっていうのはどういう事ですか?」
『あなたは映画鑑賞の最中に死んでしまったのです。部屋に隕石が落ちて』
「はい?」
え?聴き間違いだろうか。今とんでもない言葉が聴こえたような……。
『偶然にもあなたの部屋に隕石が落ちて、あなたは死にました』
隕石が部屋に落ちた……?私の部屋に?
「隕石って、あの隕石ですか?」
『はい』
「ミーティアとかメテオとかの?」
『はい』
えぇ……我ながらなんてひどい夢を見てるんだろう。
まさか私が観ていた映画が宇宙モノのSF映画だったから、隕石が落ちたなんて事になったのだろうか。自分の発想力のなさに泣けてくる。
「いやいや隕石って。夢にしても、もうちょっとマシな……」
『残念ですが、これは夢ではありません。紛れもない現実です。いくら頬を引っ張っても二度と目が覚めることはないのですよ』
女神様がそう言いながら微笑みを浮かべる。
その綺麗な笑みに思わず見惚れてしまった。テレビでも映画でもこんな美人は見たことない。
夢で現実離れした美人さんが現れるのは憧れや願望があるから、という話を聞いたことがあるけど、私ってこんな願望があったのかな。
よく家族に『ちんちくりん』って馬鹿にされてるから、そのせいかもしれない。
……って大切な事を忘れてた。これだけは訊いておかなければ。
「あの、私の家族は無事ですか?」
家族の安否。
外出してるから無事のはずだけど、この女神様は何と答えるんだろう。
『家族の方々は外出していたので全員無事です。あなたの家とお向かいの空き家と空き地に被害が出ましたが……田舎に住んでいたのが幸いでしたね』
よかった、夢でも家族が無事なのは安心だ。
近所の空き家が壊れたのは気の毒だけど、現実じゃないから大丈夫だよね?
「家族が無事で良かったです。ところで、これから私はどうなるんですか?」
私は少しだけ期待を込めながら女神様に尋ねた。
映画の続きも見たいけど、このまま夢の世界を楽しむのも良いかもしれない。
こんな変な夢、またいつ見れるか分からない。ある意味貴重な体験だ。
『あなたには三つの選択肢があります。三つの中からどれか一つを選んでもらいます』
三つの選択肢。
何だろう。少しドキドキする。
『ひとつは天国へ行き、永遠の日向ぼっこをして過ごす道』
永遠の日向ぼっこ……。
日向ぼっこは好きだけど、永遠には無理かな。
『ひとつは元の世界で赤子として生まれ変わり、人生をやり直す道』
人生やり直し……。
こんな言葉が出るってことは、私は無意識にやり直したいなんて思ってたのかな?でも今の生活に不満はないし、家族のことも好きなんだけどなあ。
『そして最後は、異世界へ転生し勇者となって魔王を討伐する道です』
異世界へ転生。
確かお兄ちゃんの部屋にそんなジャンルの小説や漫画があったような……。
私はそこまで興味がなかったからスルーしてたけど、今度借りてみようかな。
「……ちょっとだけ考える時間をください」
『いいですよ。ちなみに私は異世界への転生をお薦めします』
女神様は転生推しなんだ……。
『異世界では魔王軍の脅威に人々の数が減り、このままではいずれ、滅んでしまうかもしれません。出来れば異世界へ転生して欲しいのですが、あくまで選ぶのはあなたです。強制はしません』
なるほど、何だか最もな理由だけど……我ながら凝った夢を見るものだ。女神様を通して私の願望が漏れてるのかも。
異世界のファンタジーものは触ったこともないんだけど、少し前にお兄ちゃんが薦めてきたからその影響が出たのかな。
でもまぁ、せっかくだから……。
「じゃあ、異世界行きでお願いします」
『承りました。では、異世界に持っていくものを選んでください』
女神様は何処からかカタログのような物を取り出して、私に差し出した。
「これは?」
『異世界へは前世の肉体と記憶を引き継ぐと同時に、好きなものをどれか一つだけ持っていける権利が与えられます。たとえば強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり、神話の武器や防具等々です。これはそのカタログのような物です』
えーと中身は……グラムにデュランダル、どこかで聞いたことがある武器や防具の名前がチラホラ。
説明欄には由来や使用方法が細かく載っているけど……。
「うーん……」
悩む。これが夢だと解ってはいるけど悩んでしまう。
うんうん唸りながらカタログも後半に差し掛かった時、ひとつの項目に目が吸い寄せられる。
「これ!」
これだ!私が欲しいもの!これにしよう!
観ていた映画に出てくる能力とそっくりな……いや、説明を読む限り本物かな?
なんて都合良くタイムリーな……って夢だからか。
「これ! これをお願いします!」
ビシッと項目を指差すと、女神様が覗き込んでくる。近くで見ると睫毛が長い。
『承りました。では、これからあなたを異世界へ送ります』
優雅に両手を広げた女神様が告げると、私の足元に魔法陣が浮かび上がった。
どうやら女神様とはここでお別れのようだ。
少しだけ名残惜しい。
『いってらっしゃい、星野風子さん。あなたに神々の…………あれ?』
何やら女神様が開いたままのカタログのページを凝視している。
そして私とページを交互に見ると、バタバタと手を振る。
え、何だろう……様子がおかしい。
『待って待ってタイムよタイム! なしなし! これ無し! 中止よ中止!!』
さっきまでの口調と表情は何処へ行ったのか、とても慌てた様子の女神様。
でもそうこうしているうちに、ふわりと私の身体が宙に浮く。
『ちょっと! 何で止まらないのよ! 流石にヤバイでしょ!?』
尋常ではない様子に私も不安になってくる。
いや、でも大丈夫。これは夢だから。
私は温かい光に包まれながら、女神様に手を振った。
◇
女神アクアは呆然としながら、薄れゆく魔法陣を見つめていた。
手を振りながら消えた少女、星野風子。14歳の日本人少女。
彼女が異世界に持っていったもの――
「マズイんですけど! これ私のカタログじゃないんですけど! 別の神様のなんですけど! なんか了承しちゃったんですけどー!?」
『フォース』
銀河の万物を包み、流れる力。
数多の星と世界を管理する神々の中にも、危険視する者が多い力。
転生者に与えることは制限されている力。
制限されているはず……なのだが。
「ま、まぁ……ある意味? 魔王討伐にはもってこいの能力と言えなくもないし? 何とかなるわよね?」
この後、女神アクアがひとりの少年と共に異世界へ転生することになるのだが、当のアクアには知る由もなかった。
・フォースを授けられました。
・アクア様がやらかしました。