Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
「はぁ……」
「みぽりん、大丈夫?」
「沙織さん……ありがとう。大丈夫だから……」
「会長も相変わらず強引ですね。何も相談せずに決めてしまうなんて」
放課後、生徒会室に呼び出されたあんこうチームの面々は、初めて絵音と試合をするということを聞いた。さすがに今回は、角谷も謝罪をしていたがみほは茫然とするしかなかった。
そして今、帰りに立ち寄ったカフェでみほの愚痴を聞こうという会は開かれていた。
「西住さん、そんなに落ち込むことはないんじゃないか? その服部って人は即戦力になるんだろ? むしろ良いチャンスじゃないか」
「そういえばそうかもね? 私達にもいい試合になるんじゃない!?」
「違いますよ。西住殿が気にしているのは、試合をやることではありません。その相手が服部流というところですよ」
「戦車道の流派の一つなのですね。いったい、どのような戦法をとるのでしょうか」
「そうだよね。私がしっかり話さなくちゃ」
みほはようやく顔を上げると笑顔を浮かべた。
決して無理をしているようではない。むしろ、信頼する仲間にようやく打ち明けられるという安堵の表情が見られる。
「服部流はね、他の流派と同じように戦時中に生まれた流派の一つなの」
「なるほど。色々な流派がありますが、生まれたタイミングは同じなのですね」
「そうだなんだ。だけどね……服部流は少し特殊なの」
みほは服部流の原点と言える、満州国での戦いの様をなるべく詳細に話した。話を進めていくにつれ、その流派がいかに実戦にのみ特化したものなのかをあんこうチームの面々は理解していったようだ。
「なんか、物凄いね。ちょっと想像できないよ」
「うん。服部流は、最初こそ冷遇されていたんだけど、大会で結果を残すようになってからは注目されていったの。だけど……」
不自然に言葉を切ったみほに華が大丈夫ですか? と声をかける。みほは再び笑顔を浮かべると大丈夫だよ、と短く答えた。
「事件が起きたの。優花理さんは知っているかもしれないけど……」
「第35回大会の事件ですね」
「何があったの?」
今から30年以上前の話だ。
ある学校が服部流の学校と試合をしていた。今よりも戦車道は盛んであり、その試合が決勝でもあることから人々の注目度は高かった。新参者の学校と初優勝を狙う流派。これほど理想的な試合はそうそうない。
しかし、試合は人々の思うような流れになることは無かった。一方的な蹂躙。まだ戦車を十分にそろえられていないながらも、戦略で勝ち進んでいった新参者の学校に対して服部流は重戦車の集中運用による大火力で押し切る戦法をとった。
それは服部流の、一撃離脱戦法の鉄の掟とは正反対な戦いとなった。
やがて、最後の一輌となった新参者の学校は決勝戦では異例の降伏をすることを決め、服部流の隊長へと会いに行った。しかし……
「服部流はそのまま、敵の隊長を拘束。建物の中に立て籠もった敵戦車に対して、機関銃で挑発しながらジワジワと苦しめ、最後は建物ごと破壊する、ってことをしたの」
「ひどいですね……」
「うん、それは……」
「なにそれ! 戦車道の試合でそんなの良いの!?」
「そこです。もちろん、その試合は問題になりました。しかし、服部流の優勝が揺らぐことはありませんでした。噂では、裏で多額の献金をして口を封じたと言われていますが……」
「それから服部流と試合をする学校はなくなったの。一歩間違えば怪我人が出るかもしれない戦い方をする学校と試合をしたいと思う人はいないしね……」
孤立した流派の暴走を止める者も止められる者も誰一人としていなくなった。やがて服部流の学校は衰退していき、最後は廃校という運命を歩んでいかざるを得なくなった。門下生達は散り散りとなり、今でもそこそこの人気がある流派として存続はしているが後継者不足に悩むこととなっていた。
「今度やるのは戦車道の試合じゃない。もし、誰かが怪我をしたらって思うと……私……」
「大丈夫でありますよ」
「大丈夫だ」
「えぇ、問題ありません」
「そうだよ! みぽりんがいるんだもん! 私達はみぽりんを信用しているよ! 絶対大丈夫だよ! だから、私達を信用して!」
「沙織さん、麻子さん、華さん、優花理さん……そうだよね。私が信用しなきゃダメだよね! 皆、怪我をしないで必ず勝とう!」
「はい!」
全員がほぼ同じタイミングで返事をする。
友達になってからの日は浅いのかもしれない。だが一緒に戦車に乗り、一緒に訓練をして、一緒に試合をした彼女達は、固い絆で結ばれていた。
戦車に乗るたびにその結束を固めていく。それが戦車道で学べることの一つであり、最も大切なことである。
勝つためには狡猾になる必要もあるかもしれない。それでも、心に反する行為をしてはいけない。ゆえに、みほは自分の信じている戦車道を突き進むために、何としても絵音を倒さなくてはいけないと心に誓った。
「まずは作戦会議ですね」
「うんうん! いっぱい練習もしなくちゃいけないね!」
「朝早いのはやめてくれ……」
「冷泉殿はいつでも変わりませんな」
「皆! 頑張ろうね! それがほかのチームメイトの……皆のためになるはずだから!」
和気あいあいと作戦会議を進める彼女達を横目で見る少女がいた。少女は自分の流派を悪く言われたことをどうとは思っていない。それは事実であるし、むしろあの時の行為を彼女は誇りに思っていた。許せないことはただ一つ。彼女達が戦車道を仲良くなる遊びと考えていることだった。
キャラ紹介
三上
趣味 ラジコン・早いに乗ること
好きな物 愛犬のペロ。リンゴ飴
嫌いな物 遅いもの。特に英国面の……
高校二年生。
幼いころ、自身も戦車道を志していたが挫折したため引退していた。
しかし、絵音と出会い再び戦車に乗ることを決意する。
北海道出身であるのに、なぜか語尾の「でぃ」をつけたがる。周りからは、正直面倒くさい癖だと思われている。
極度のスピード狂で、あの原作のスピード狂とも仲良くなれる……?