Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

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お断り、です!

「いやぁ、やっぱり試合後の一杯は最高だね」

 

「オレンジジュースですけどね」

 

「神は言った! 私にコーヒーを飲めと!」

 

「砂糖を何杯入れるのですか? それはもはや砂糖水ですよ」

 

「も、もうやめて! これ以上注文しないで!!」

 

 熊野と由多に突っ込みを入れながらも、ひたすらメニュー片手に注文をし続ける絵音に三上は悲痛の叫びをあげた。

 彼女達4人は、試合のあと反省会と称した食事会を毎回するようにしている。そして、その食事会の代金は試合で下手をこいた人が全額負担というルールを設けているのだが……。

 スピード狂の血が騒いだ、などと言い絵音の指示を聞かなかった三上が今回の戦犯となっていた。

 熊野と由多はまだ良い。歳にしては発育の良い体つきだが、一方はあくまでもおしゃべりをするため、もう一方は苦手なブラックコーヒーを克服するために集まっている。問題は、車長の絵音だ。身長も体格も小柄な割に、ブラックホールの如き胃袋を持つ彼女は、いつまでも食べ続けるという特性を持っていた。おまけに、自分が戦犯になどなったことが無い物だから、理不尽と言えるほど財布からお金が消えていく経験が無い。

 涙目になっている三上に、どうして泣いているの? などと聞きたげな顔で絵音は運ばれてきた料理を食べ始めた。

 

「お客様はご注文どうなさいますか?」

 

「水でいいです……」

 

「かしこまりました」

 

「三上さんは食べないんですか?」

 

「食べると思うのか! この悪魔め! 成敗でぃ!」

 

「悪魔! 貴様! 私が見えるのか!」

 

「あーあ、スイッチ入れちゃった。三上、どうにかしてよ?」

 

「勘弁してくれぃ……」

 

「……おいしいのに」

 

 厨二病スイッチの入った由多を必死に宥めている姿を見ながら、絵音はなおも箸を進めた。熊野は、絵音がある程度食べ進め、デザートをメニューを注文しようとし始めたとき話を持ち掛けた。

 

「そういえばさ、皆に話があるんだ」

 

「マーさんが込み入った話なんて珍しいですね」

 

「そうだな……大体良くない話でぃ!」

 

「この前のシベリア遠征の様な話はさすがに断るぞ……」

 

「あんたら、私を何だと思ってるの?」

 

 そう言いながらも熊野は笑顔のままだ。実際熊野は、こうして4人で集まりワイワイと楽しむひと時を大切にしていた。

 ゆえに、この話題を持ち出すべきではないことはわかっていた。それでもあえて話すのは、それが私達4人にとっての戦車道を変える劇的な何かかもしれないと信じているからに他ならない。

 

「私達の学校が戦車道を復活させたのは知ってるよね?」

 

「もちろんでぃ!」

 

「当たり前だ」

 

「はい、知ってます」

 

「実は生徒会長から打診が来たんだけど、ぜひ戦車道を受講してくれないかって」

 

「……」

 

 沈黙が流れる。三上と由多は口をポカンと開けたまま固まり、絵音もフォークに肉を刺したまま動きを止めていた。

 この発言が地雷だということは、熊野が一番理解していた。

 

「マーさん。私達は除け者、余り者。それを今さらどうこうって……」

 

「そうでぃ! 私達がやりたいのは強襲戦車(タンカスロン)だでぃ!」

 

「わかってる、わかってるよ。絵音はどう思う?」

 

 呼びかけられ絵音はよくやく我を取り戻したかのように、瞬きをすると考え始める。この4人の中で、唯一戦車道の経験があり……そして誰より戦車道を嫌っているのが彼女だった。

 

「生徒会長ってあのちんちくりんな人ですか?」

 

「多分、絵音には言われたくないと思うぞ」

 

「絵音のほうが低いんだし。まぁ、そう思われても仕方ないでぃ!」

 

「……どうせ私の事も調べてるんですよね?」

 

「おそらくは。それもあってスカウトしに来たのだろうし。今の戦車道を引っ張ているのは西住流だしね」

 

「……嫌ですよ。もっと嫌になりました。戦車道なんかクソくらえですよ。おまえけに他の流派もいる? 冗談じゃないです! 我ら服部流を侮辱しているの等しい!」

 

 興奮のあまり大きくなっていく声に、熊野は冷静にと声をかけ何とか抑えようと努めた。既に、ほかの客から好機の目線で見られていることに恥ずかしさを覚えていた。もっとも、由多は注目されている、などと興奮しているが……。

 

「わかったから、わかったからさ。落ち着こう? お客さん見てるしね」

 

「……すいません。少し声が大きくなりました」

 

 どこが少しなの、随分大きかったよ。

 そう愚痴りたいの我慢しながら、熊野は話を進める。

 絵音が自分の家に伝わる、服部流と戦車道という武道に対して異常なまでのコンプレックスを抱いていたことは知っていたが、まさか普段声の小さい彼女がヒステリックに叫ぶまでとは想像できていなかった。

 

「絵音の気持ちは理解してるよ。だけどさ、これはある意味チャンスなんじゃないかな?」

 

「チャンス?」

 

「そうそう。服部流再興のためのチャンスだよ。あの西住流よりも強い! みたいなやつ」

 

「……必要ありませんよ。服部流に私はいません。私はいないことになっているんですから。どれだけ努力しても、無駄なんですよ」

 

「絵音……」

 

 どこか寂し気に言う絵音に熊野はそれ以上声をかけることはためらわれた。三上や由多もさすがに空気を読んだのか、黙って首を振った。

 

「わかったよ。とりあえず、会長にだけは一度会って欲しい。断るならそれからでも遅くないでしょ?」

 

「……マーさんがそういうのでしたら」

 

 声に抑揚なく言うと、絵音は残っていた肉を口に放り込んだ。

 なんだが、いつもよりしょっぱい気がした。




キャラ紹介です。
まずは我らが車長からです。

服部 絵音(はっとり えね)

趣味 読書、TV鑑賞
好きな物 可愛い熊のぬいぐるみ
嫌いな物 両親、酸っぱいもの

チームの中の唯一の一年生。そのために、常にチームメイトには敬語で話す。しかし、どこか毒のある言葉をサラリと吐き、しかも本人には自覚がない。
戦車道流派の一つ、服部流の3女であり今は一人暮らしをしている。

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