Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
「まだ、敵の姿は見えませんね…」
「どこかに隠れてしまったのでしょうか?」
「でもでも、私達だってうまく隠れることができてるはずだよ! 絵音ちゃんのおかげで、どこからかサンダースが攻めてくることはわかってるんだから!」
「それもそうですね…生徒会のみなさんも偵察に出ていますし、もしかして、目の前にサンダースの隊列が通るなんてこともありえるかもしれないですね」
3人の会話を聞きながら、みほはキューポラを開き外へ顔を出す。
小さいシャーマンことローカストは絵音がどうにかいなしてくれただろう。だが、小型戦車はおそらく威力偵察部隊に間違いが無い。鬱蒼と生い茂る木々の中を高速で移動できることができる小型戦車をサンダースは、今回の試合だけに投入したのだろう。
しかし、フラッグ戦である以上狙うはサンダース大学付属のフラッグ車であるシャーマンだ。第二次世界大戦では、アメリカの主力であり大戦終了後も多くの国で改良が加えられ愛され続けてきた猛者を相手取るには、練度も装備もあまりにも劣りすぎている。
Ⅲ号突撃戦車、もしくはⅣ号戦車でウィークポイントを撃ちぬくしかフラッグを行動不能にすることは不可能だろう。
加えて、練度の条件から考えると奇襲作戦などの現場での柔軟な対応が求められる作戦を行うにはリスクが高すぎる。
練習試合しかしていない各車の車長に完璧な行動を求めるのは酷な話だ。
「やっぱり、私達が捉えるしかない……」
まだまだ荒削りな部分は多いが、最も練度が高いのは私達だ。ライオンさんチームには、そのために露払いを頼むしかない。
熱帯地方特有のネットリとした暑さに、みほは思わず小さく唸った。
試合時間が長引くのは良くない。だけど、今、目の前にいるシャーマン部隊以外のサンダースがどこにいるのかわからない。丘をすぐに取りに行くことは出来るが、おそらくお互いにやろうとしていることは同じだ。万が一、鉢合わせなどしたら数十秒と持たずに全滅するのは必須だろう。
「沙織さん、みんなに連絡を取ってください。このままここにいても仕方ありません。一度、ライオンさんチームと合流します」
「わかった!」
「華さん。いつでも撃てるよう準備してください。優花里さんはこのあたりで、一番安全そうなルートを冷泉さんと一緒に探してください」
「わかりました」
「了解であります!」
「わかった」
とにかく、まずは戦力を整えないと……みほがそう考えた瞬間だった。遙か先から轟音が耳に届く。危ないと声を出そうとした瞬間には、爆発音と爆炎が上がり、M3リーが勢いよく白旗を挙げていた。
『大洗女子学園、M3リー中戦車撃破!』
一瞬の静寂が走る。冷や汗にも似たものがゆっくりと額が流れ出した。
『敵か?!』
『攻撃を受けたぞ!』
『ふぇぇぇん……ごめんなさいー』
次の瞬間、通信機から各車からの阿鼻叫喚が聞こえてきた。
「全車前進! この場にいたら危険です!」
みほの対応は早かった。仲間を冷静にさせることも大切だが、狙撃されているのならば、まずは逃げなくてはいけない。どこか遠くへ。誰にも見られない場所へ。
砲撃音は続き、段々と大洗チームへと着弾点が近づいてきていた。
「この先にある大きな岩へ向かってください! 岩を背にすれば、狙撃されることはないはずです!」
試合会場には似使わない大きな岩があった。あまりにも目立ちすぎているので、利用することはないと思っていたが、まさか盾にする時がくるとは思わなかった。
マズルラッシュから予測するに、撃ってきているのはM4シャーマンのはずだ。ファイアフライの姿を未だに確認できないのは不安要素だが、贅沢は言ってられない。
麻子の操作技術を真似するように大洗チームが続いていく。
数分後には、なんとか目標地点へと到着することが出来ていた。
被害は初撃で撃ちぬかれたM3リーのみだった。戦力の低下は痛手だが、あれ以上の被害が出なかったことに、今は素直に喜ぶことにしよう。
「ここまで来ればなんとか……」
『西住隊長! アヒルチーム、戻りました』
「よかった…陽動を頼んだ瞬間の出来事だったので……無茶に無茶を重ねてすみません……」
『大丈夫ですよ! 根性で乗り切ってみせますからね!』
「ははは……」
相変わらずだな…と思いながらも、アヒルチーム隊長の典子の言葉に、みほはホッとした。どんな窮地でも、常に変わらない心を持つ仲間がいることは心強い限りだ。
そう安堵した。
再びの砲撃音が響く。岩に着弾するとパラパラと細かい破片が頭上から降り注いだ。
「もう、攻撃を?!」
みほが目を剥く。大洗の窮地は始まったばかりだ。