Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
「なーるほどね。それで私に声をかけたと」
大柄な少女……熊野は試合記録が書かれているであろう、スコアシートを閉じると改めてみほ達へ目を向けた。
身長は170近くあるのだろうか? 名前の通り大柄な彼女が、同じ3年生である角谷と並んでいるととても同い年とは思えなかった。
「確かに私に真っ先に声を掛けるっていうのはいい選択だとは思うよ。だけど」
「決定権は無いって言いたいんでしょう? 私さ、そういう回りくどい言い方嫌いなんだよねー」
「またまた。杏が言えるような立場じゃないでしょおー? 3年間同じクラスなんだし、そろそろ慣れてくれても良くない?」
「それはそうだけどさ……」
まだ何か言いたそうな表情を浮かべたまま、角谷は押し黙った。このまま続けても、結局はああ言えばこう言うの不毛な言い合いになることを察したのだろう。
なるほど、苦手って言った意味がわかったかもしれない。根本的に熊野さんと会長は、同じタイプの人間だからなのだろう。
「わかった、わかったから。その話はおしまいにしよ。で、話を戻すけどさ、マーさん。それなら誰に聞けば言いわけ?」
熊野だからマーさん、なのだろう。
熊野は、んー? などととぼけるような返事をすると知らなーいと言葉を続けた。
「マーさん。私がお願いしてるんだよ? 真面目に答えてくれても良くない?」
「答えるつもりはあるよ? 本当本当、だけどさ私達はチームだけど明確なリーダーとかはいないんだよね」
「……けど」
突破口を見つけたのだろうか。角谷はニヤリと笑うと熊野へ詰め寄った。眉間に皺を寄せながらも、熊野は角谷の次の言葉を待った。
「マーさんが試合の日程しかり戦車の修理しかり、チームのスケジュールを調整してるんだよね。まさにマネージャー。それなら、マネージャーの言うことを皆は聞くんじゃない?」
「……そう来たか」
3年生の同士の無言の睨み合いが数十秒続いた。みほはアワアワと口を動かしながらも、どうすることもできないでいた。やがて、熊野は降参と嘆く。
「話はしておくよ。だけど、決める権限は私にはない。そこのところはハッキリしておいてよ?」
「りょうかーい」
ブイサインなんかをしながら角谷がニヤニヤと答えた。
「で、最近話題の人物となりつつ……」
熊野はそう言いながらみほのほうへ視線を移した。
突然話題に上がったことに驚きつつも、みほは熊野の吸い寄せられるような視線から逃れることができなかった。
たった2歳しか年齢は変わらないはずだが、それでも十分すぎるほど貫録を秘めている視線に射抜かれたかのようであった。
「あなたが噂の西住ちゃん?」
「え、えぇ……初めまして、熊野さん……?」
「良いって良いって、マーさんで呼んでよ。ね?」
「あ、あははは」
誤魔化し笑いを浮かべるみほに熊野はさらに噛みつく。
人付き合いの苦手なみほにとってその姿は、憧れでもありながらも僅かながら鬱陶しく感じるものだった。
角谷が止めようとするも、熊野のマシンガントークは終わる気配を見せなかった。
「いつ来たの?」
「西住流ってどんな感じなの?」
「戦車は楽しい?」
「この前の大会見てたよー、惜しかったね」
「今年は勝てそうなの?」
答える間も与えぬ質問攻めに、みほは角谷に救いの目を向ける。
ようやく角谷が間に入り、熊野も渋々ながらも口をつぐんだ。
「あー、そろそろ時間だわ」
「時間?」
「そうそう、反省会の時間。良かったら来る?」
「遠慮しておくよ。さしがに悪いしね。西住ちゃん?」
「そうですね……私も……」
「あれれ? 何か疲れてるの? 大丈夫?」
いったい誰のせいだと思っているんですか……。
心の中でそっと呟き、みほはため息をついた。角谷もみほの心境を察したのか、仕方ないよと小さく囁く。
ただ一人熊野だけは、キョトンとしたまま眺めているだけだった。