Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

28 / 30
お久しぶりです。
ローカストについて調べる過程で、なぜかⅣ号のプラモデルを購入して組み立てていました。
楽しいものですね。


一騎当千です!

「なんだこれは……」

 

 ローカスト部隊の小隊長を務めている彼女は驚きの声を上げた。

 通常はシャーマンに乗っているためか、多少は運用に覚束なさがあることを否定はできない。それでも勝手知ったるアメリカ製の戦車に変わりはなく、まったく初めて乗った戦車の操縦にしてはかなり上手くいっている方だと、つい先程までは自負していた。

 しかし、今はどうだ。三両対一両という圧倒的有利な立場でいながらも、大洗のナウエルに翻弄されてばかりだ。

 一回戦では見かけなかった戦車であったことから、急造チームかと高を括っていたことに彼女は大きく後悔していた。

 間違いない。ナウエルに乗っている生徒は戦車道に精通している人物達である。それも、相当高い技術を有している。

 急停車や急旋回を容易にこなしてしまう操縦手。明らかに早い装填速度。正確に転輪や砲塔を撃ち抜く砲手。そして西住みほと同じく、常人には思いつかないような動きを指示し続ける車長。

 

「このままだと負ける……!」

 

 絶望の一言を彼女は口にする。

 

「急停車!」

 

 一瞬目を離した隙に姿をくらましたナウエルが突然現れ、砲撃をする。彼女の指示を聞き、間一髪のところでナウエルの砲撃を躱す。しかし……

 

「そんな!」

 

 砲弾は後続のローカストに命中すると白旗を上げていた。鬱蒼(うっそう)と生い茂る密林の影響で、逆にローカストの連携が取れなくなっていた。

 隊長のケイから指示された内容は、何としても大洗本隊の場所を見つけ出すか大洗の斥候を引き付け、撃破する。

 撃破することはかなわなかったが、引き付ける役目は十分果たしたはずだ。今頃、別動隊が大洗本隊を強襲し、その間にサンダースの本隊が丘陵地帯を確保する算段なのだから。

 ならばここでむざむざ撃破されることはない。一度退き、別動隊と合流することさえできれば、まだこの戦場に残ることはできる。

 

「煙幕を焚いて! 戦線離脱!」

 

 車体後部から勢いよく白煙が噴き出す。こちらの視界も悪くなるが、追手の視界を防ぐ方が最優先事項だ。

 ローカストは小柄な車体を活かし、木々の間を縫うように走り抜けていく。

 まだ先は長いが、ここまで来れば安心だろう。

 

「車長!!」

 

 操縦手が悲鳴を上げる。

 その声で彼女は前方を見る。そこにはありえないはずのシルエットが木々の間から、わずかに見えていた。

 

「どうして!」

「あれです! 車長!」

 

 装填手が指差した先にあるのは、木々の間が5mも無い、戦車が通ることはほぼ不可能と思われたポイントだった。確かに、先回りするにはそこを通るしかない。

 だがしかし、あんな場所を抜けることは可能なのか? そんな技術を持った者が大洗にいたというのか?

 

「化け物がいる……」

 

〇 〇 〇

 

「絵音は予測してたの?」

「何をですか?」

「ほら、この道を通る事」

「あぁ……」

 

 絵音は白旗を上げるローカストを一瞥(いちべつ)すると、一つ深く呼吸をする。

 絵音から奇妙な指示を受けたのは、試合の前日だった。

 戦車が明らかに通ることができないような場所を知りたい。そして、そこにあるであろう木々の位置を知りたい。

 熊野はその指示に僅かながら疑問を持ちながらも、正確に調べ上げ絵音に伝えていた。

 

「そういうこともあるかもしれないと思いまして」

「まったく……すごいねえ……」

 

 だとすると、絵音は熊野からもらった地図を見ただけで一寸の狂いもなく生えている木の場所はおろか、幹の太さまで暗記し、不可能と思われている地点の抜け道を見つけ出したというのか? 

 これだからこの戦車バカは。ありえないことを可能にしてしまう。相手の意表をつくためなら、どんな手間も惜しまない。これほど敵に回すと厄介な存在がいるだろうか。

 

「それよりも、西住隊長達は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫に決まってるでぃ! こんなところで負けてるようじゃ、優勝なんて夢のまた夢になってしまうからな」

「あぁ……私達ですら、この状況を抜け出せたのだ。彼女なら、もっと堅実な方法で打開策を講じているだろう」

「なんだか、由多さんの言い方には棘がありますね。まるで、私が無鉄砲というか無茶というか、ともかくそんないいかたじゃないですか?」

「そう思ってないのかな?」

「どんな指示でもそれを成功させてくれる仲間がいると信じているから、私も色々な提案ができるんですよ」

 

 突然飛び出した殺し文句に、絵音以外の全員が顔を真っ赤にする。

 それぞれ抱える過去は違えど似たような事情で集まった彼女達にとって、そのような言葉は聞き慣れないあまり、どう対応していいかわからなかった。

 無意識の人たらし。歴史上の偉人にもそういう種類の人が大勢いるようだが、普段はぶっきらぼうでいて本人はまったく意識しないで殺し文句を言うなど、これほどまでに有罪(ギルティ)なことがあるだろうか?

 絵音は不思議に首を傾げたまま、まだ何か言葉にしている。

 

「なんだか皆さん、顔が赤いですが……では、大洗本隊に向かいましょうか」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。