Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

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新戦力です!

「会長ー、どうしてこんな山奥に行くんですかー」

「河島ー、そう弱音を吐くな。この先には、なんでも、彼女たちのラボがあるらしいぞ」

「ちゃんと学校の許可を取っているんですかね?」

「ないっ!」

「ええ!? そんなの認められないっ! 今すぐ取り壊しましょう」

「そう怒るな。彼女たちの機嫌を損ねてもいいのか?」

「それもそうですが……」

「ともかく、一度行ってみるしかないようですね。桃ちゃんも、いいよね」

「桃ちゃんと言うなっ!」

 

 いつの日か、あんこうチームがⅣ号戦車を見つけた山を生徒会の面々は登っていた。早朝に叩き起こされ、目的も告げられずに山登りをしても文句を言わないあたり、良い意味で角谷に調教されている河島と小山が疲労の色を見せ始めた時、ラボが段々と見えてきた。

 ラボと言っても、非公認のものであるため、洞窟を利用した非常にひっそりとした物だ。

 

「熊野ー、来たぞー!」

 

 角谷が入り口で叫ぶ。

 ややあって、大柄の熊野が姿を現した。ニコニコと笑みを浮かべ、生徒会を招き入れる。

 洞窟の中は意外にも、それほど冷え込んではいなかった。ところどころにある空調設備を見ると、それなりの大金をはたいて大改造をしたのだろう。

 しばらく進むと、開けた場所へと一行は出た。そこには、見覚えのあるテトラークと初めて見る戦車が静かに動く時を待っていた。

 

「おはようございます、生徒会の皆さん」

「お! おはよう、服部ちゃん。それで呼び出した件だけども……」

「はい、これがそうなります」

「ほほー」

 

 テトラークの1.5倍ほどの大きさの戦車を絵音は指差す。

 見た目はどこか、あの強豪校の一つであるサンダース学園の主力洗車M4シャーマンに似てはいるが、まったくの別物なのだろう。

 カラーリングも今はなぜか、モスグリーンであるため、余計にそう見えるだけかもしれない。いわゆる、認識の錯覚だ。

 

「なるほど……お前たちの新しい車両か」

「そういうことだ。ふっ……私の狙撃能力を遺憾なく発揮できる代物……」

「まだ、練習していないし、そもそも、こいつが走るかはわからない。だが、きっと力になるでぃ!」

「おい三上! 私の口上を邪魔するなと何度言ったら……」

「兎にも角にも、まずは、角谷。あんたの力で、この子を整備してほしいんだ」

「マーさんまで……」

 

 角谷はニヤリと笑うと、謎の車両に近づき再びゆっくりと眺めた。短い砲塔だが、今の大洗では大きな力となるだろう。資金が集まれば、そのうち長身砲へ変えたいものだ。

 

「大丈夫だ。自動車部にも事情を伝えてある。30分もすれば、取りに来るだろうよ」

「さすがだ、助かる」

「西住にはもう言ってあるのか?」

「まだです。しっかりと整備が終わってから言おうかと。なんとか、二回戦のサンダース学園戦に間に合えばいいのですけど……」

「お? 服部ちゃん。随分とやる気が出てきたね」

 

 角谷がからかうように言うと、絵音は自分の言った内容に気が付いたらしく、サッと熊野の後ろへと隠れた。熊野も、隠れなくてもいいのに、などと言いながら苦笑いをしている。

 

「どうせやるなら……勝ちたいですから……私も……力になります……」

 

 絵音は小声でそう呟いた。

 ここが洞窟の広間などという、音が反響しない場所であったら、誰も聞こえないような声だった。


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