Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
どうも作者です。
サークルのほうもボチボチ落ち着いてきていますので、頑張ります…。
もしご興味がありましたら、声劇団体「音雫」でYoutubeで検索していただけると幸いです。
「これが……西住みほの戦い」
回収車に牽引されている車内で、絵音はラジオ放送を聞きながら小さく呟いた。
みほがどのような作戦を実行しているのかは、今の段階では断定できない。それでも、4両に群がり攻撃を続ける知波単学園の様子を見れば、薄々ながら何をしようとしているのかをわかる気がしていた。
正確な観察眼と完璧なリサーチ能力。そして、適材適所を考える素早い判断能力。
なるほど。さすがは西住流。個々が一騎当千の武者となり戦う服部流とはそもそもが違う。
全員で掴む勝利か個人の活躍によってもぎ取る勝利か。みほはそれに柔軟性を取り入れることで、よりトリッキーでいて新しい戦術を生み出しているのだろう。
やろうとしていることは至極簡単だ。
しかし、今の知波単学園でそれに気が付くものはおそらくいない。
「珍しく驚いた顔をしてるな。何かあったんでぃ?」
「いや……何もありませんよ」
「隠し事はよくないな。私の第三の眼が絵音の言わんとしていることをハッキリと見せている」
先輩二人の顔を絵音は見る。
今までの人生に、見えない流派のしがらみに縛られてそれでも流派に見限られた自分に、誰とも関わりを持とうとせず自分だけの世界に閉じこもり外敵を避け続ける愚かさに、受け入れることを拒み続ける自分の忌み嫌っているはずなのに、居心地の良さのあまり気が付くとそこに浸りすぎていたのかもしれない。
まだ何もわからない。ただ、一個上の先輩で同じこれから戦車道仲間になっていくだけの存在にすぎない。
でも、だからこそ。まだわかっていないからこそ、これから心を通わせることができるのではないか? 西住みほとその仲間たちと経験したことのない何かを得られるのではないだろうか? 楽しむことのできる戦車道を作り上げられるのではないか? 体験したことの無い未知を受け入れよう。
「私、決めました。大洗女子学園の戦車道に本気で打ち込みます」
〇 〇 〇
『ええい! 何時になったら煙が晴れるんだ!』
「むぅ……大洗女子学園はどれだけの煙幕を持ってきているんだ……」
西は唸る。
かれこれ5分以上、目の前に煙幕が広がったままだ。
丘の下に待機していたチハ旧砲塔が討ち取られてからもそれなりの時間が経っている。あの煙の中へ偵察を出すわけにもいかず、どういう状況なのかが一切わからないままでいた。
丘の高所を取り、下には大洗女子の4両が必ずいる。おまけに、後ろには森が広がっているため大洗女子は退却するにしてもそれなりの犠牲を覚悟しなくてはいけないはずだ。
地の利は確実に知波単学園が握っている。だが、最後の一手を攻めきれない。
西は両の拳を握りしめ歯ぎしりをする。さすがは西住流。そう簡単に決着は付かせてもらえないようだ。
『ええい、めんどうくさい!』
「落ち着け玉田! 焦ってもいい結果は生まれないぞ」
『しかし隊長! こちらはひたすら撃ち続けているんです。このままでは弾薬が切れてしまいます!』
「それもそうだが……」
『隊長、ここはフラッグ車であるホリを残し我々で吶喊を仕掛けましょう』
「ダメだ、そう早まるな!」
『いいな、そうだ。そうしよう!』
『さすがは3年生がたの先輩である! 根性が違う!』
『よし、吶喊!』
「待てっ!」
誰が下したのかもわからない命令によって、残りのチハ新砲塔が一斉に煙の中へと吶喊を始める。
西は少し考えるも、仕方なく仲間に続き吶喊を敢行した。
ホリの装甲は正面だけでも200mm近くあるのである。たとえチハ隊の吶喊をすり抜けようとも、丘を上がっている間にホリの砲撃の餌食になるのは必死だろうし、何よりも生半可な攻撃ではホリを撃破するなどまず不可能なはずだ。
丘を下りながら西は深呼吸をする。
覗き窓からは、先ほどよりも激しい砲撃合戦が繰り広げられているのがわかる。
「待てよ……」
下りきったあとに西は息をのむ。
大洗女子学園の中で唯一、ホリの装甲を抜ける戦車があったことに気が付いたのだ。むろん、それをもってしても正面からやりあうことは不可能なはずだ。しかしながら、側面や背後から攻撃を仕掛けたのなら……。
「Ⅳ号、M3リー、38t、八九式……Ⅲ突はどこへ行った……?」
騙された! 私としたことが何たる不覚。目の前にフラッグ車がのこのこと現れ、予想外の煙幕攻撃を受けたことですっかり冷静に考えることを忘れてしまっていた。
「全車戻れ! フラッグ車が……」
西が言い終える前に、無慈悲な放送が試合会場に流れ始めていた。
〇 〇 〇
「行くぜよ!」
「トロイの木馬だ!」
「それは違うだろ……」
なんやかんや言いながらⅢ号突撃砲が急発進を始める。
絵音が撃破され、急な作戦変更を言い渡されてから、ズッと身を潜め続けていた。丘であるならば、何も斜面は片側にしかないわけではない。
みほたちが煙幕を張り、片側に引き付けている間にⅢ突が反対側から頂上へ向かい、林の中で偽装し待機していた。
あとは知波単学園名物吶喊魂が出るのを待つだけである。完全に護衛がいなくなったホリならば、容易に背後に付くことができるであろう。
ホリに砲塔が無いことも、この作戦の重要なポイントだ。
「背中が見えたぞ!」
「よし、ゼロ距離まで近付いて攻撃する!」
ホリが慌てたように方向を変えようと動き始める。
しかし、もう遅い。
今更気が付いたところで、撃破されるという結果を変えられるわけがないのだから。
「撃てっ!」
Ⅲ突の75mm砲がゼロ距離で炸裂する。
背面を撃たれたホリは煙を上げると、勢いよく白旗をあげたのだった。