Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
『どうする! こちらの決戦兵器を見られたぞ!』
『もし報告が上がっているとしたら、大洗の奴らはホリの背後から来るかもしれないぞ!』
『ならば至急、茂みに隠れている旧砲塔も守備隊に加えたほうがいいんじゃないか!』
『それはだめだ! 旧砲塔の攻撃でホリの射程内に敵フラッグ車を誘導する手筈だったじゃないか』
『ならばいったいどうするというのだ!』
「皆のもの、一度冷静になって欲しい。これは決してピンチではない。むしろ、我々は敵の貴重な戦力を削ぐことに成功しているのだからな」
西の一声で歓声が上がる。
知波単学園の誰しもがホリを見られたということだけに意識が向かってしまい、一両撃破という結果を見逃していたのだった。
しかしながら、早々に秘密兵器を見られたことに何のダメージもないかといえばそういうわけでもない。出来ることならば、なんの情報も無い状態で大洗女子を誘い出したかった。
だが、逆に言えばバレてしまった分、こちらはホリを隠すことなく使えるのだ。その強力な防御力をむざむざ無駄にすることなく、正面に立てて戦わせられる。大洗女子学園がどこまでの情報を掴んでいるかは未知数だが、吹っ切れてしまえばこれもまた一つの戦術となる。
「全車、作戦に変更なし。ただし、ホリは前進。旧砲塔との連携を密にせよ」
『了解……隊長! 大洗女子です! 大洗女子の車列が現れました!』
「なんだと……? 数は!」
『Ⅳ号にM3リー、38tと八九式……え? 全車います!』
「なんだとっ!」
『こちらチハ新砲塔攻撃を開始します』
「あぁ、ちょっと……!」
西の静止をよそに新砲塔は発砲を開始。
素人ながら、一糸乱れぬ隊列を組んでいた大洗女子学園もこれにたまらず散開すると応戦を始めた。
最初に西が描いていた接敵とは大きくかけ離れた状態へとなっていた。余計な活を入れたせいで、舞い上がってしまったのだろうか?
西は大きく深呼吸をすると諦めと決意を新たにする。
ここまで来てしまっては、ここで仕留めるしか方法はない。
「ホリも攻撃を開始! 全車目標、敵フラッグ車Ⅳ号!」
『了解っ!』
後にインタビューで西は語った。
あの時は聞く間もなく、そして伝令の言い忘れだろうと思ってしまった自分の判断が全ての敗因だと。
この時、静かに接近する脅威に知波単学園は気づいていなかった。
〇 〇
「ウサギさん、大丈夫?」
『大丈夫です! もう……逃げませんから!』
「無理はしないでください。まずは時間稼ぎです」
『了解!』
突然の発砲に僅かにパニック状態に陥ったものの、今は冷静に岩陰に隠れ各車が応戦していた。
予想通り知波単学園の秘密兵器はホリだったわけだが、その防御力ゆえの慢心なのか、身を隠さずこちらに砲撃を続けていた。
しかし、それでよかった。むしろ、そうしてもらわなくてはみほの描いたプランにはなり得ないのだから。
「全車、チョロチョロ作戦開始してください!」
みほの言葉で全車一斉に岩陰から飛び出すと煙幕を吐き出しながら右へ左へと動き始める。
高所から狙っているとはいえ、煙の隙間が一切ない視界ゼロの状態ではどんなに砲撃しようともチョロチョロと動き回る大洗女子の車両を捉えることはできない。
「みぽりん! これでいいんだよね?」
「はい。茂みにおそらく増援部隊がいると思います。会長さん、お付き合い頂けますか?」
『了解、西住ちゃん。河島ー、交代して』
『ええっ!? 会長が砲手ですか!?』
こんな時だというのに、角谷の落ち着いた声を聞きみほは思わず笑みをこぼした。
それに釣られ、無線からも車内からも笑い声が漏れる。
そうだ。これは試合だとしても、一番大切なのは笑顔で勝つことなんだ。泣いて勝っても、そんなものは勝利じゃない。
Ⅳ号と38tは茂みへ強襲をかけた。
煙幕に巻き込まれながらも、指示を待つためジッとしていた旧砲塔を見つけると発砲を始める。
それほどまで予想外だったことなのか。
旧砲塔は一切の抵抗を示せないまま、撃破されていった。
たまたま放った一発が38tをかすめたが、どうにか大破判定は出ていない。
ここまで5分とかかっていない。この短時間で、数で有利にはなれていないが、大洗女子は3両の戦車を撃破していた。
「あとは……このまま時間を……」
みほは時計を見ると、仲間の奮闘を静かに祈った。