Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

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チョロチョロ作戦です!

『やったぞ西! 不確定要素を撃破した』

「さすがです、先輩殿っ! 残りの大洗学園の戦力はすでに分析済みです。全車全周警戒厳に、Ⅳ号の奇襲に備え。力を合わせれば必ず勝てるぞっ!」

「おぉっ!」

 

 決して慢心しているわけではない。

 大洗女子学園対サンダース大付属の練習試合の記録は何度も見た。どの車両がどのような働きをしているのか? 走行技術は? 砲撃精度は? チームの連携は? 

 どこぞのデータ主義者並みに分析をした結果を西は隊員達にあますことなく伝えていた。

 しかし、一回戦のほんの数日前に大洗女子学園に合流したテトラークだけは、不確定要素として西の悩みの種となっていた。

 その要素を序盤で撃破できたことは、最高の戦果と言えるだろう。

 

『西隊長、ホリの配置完了の報告を受けましたっ! 旧式砲塔チハも位置につきました』

「作戦通りいくぞっ! あとは待つだけだ」

『くぅ……待つだけというのは何とも辛いでありますな』

「そう言うな。これも作戦だ。一致団結してこの戦いを乗り越える」

 

○●○●○

 

「服部さんは最後何を言い残したかったのでしょうか……?」

「そんなのわからないよ。もう、みぽりんの言うことをしっかりと聞いていればこんなことにはならなかったのに」

 

 原則として撃破された味方からの通信は強制遮断され、聞くことができないようになっていた。

 今回のような敵の秘密兵器の情報を、撃破され戦線を離脱したというのに共有する場合があるからだ。ただ、安全確認においては本部を介した通信を使うことで取ることが許されていた。もっとも、その時関係のないことを話したりすれば、一発で反則負けになるわけなのだが……。

 無線機はひっきりなしに鳴っており、愚痴を言いながらも沙織が対応を続けていた。

 隊列は保っているものの、試合慣れしていない大洗女子学園のメンバーに再び不測の事態が起きたとしたら、散り散りになり各個撃破されてしまうだろう。

 なんとしても、この間に打開策を見出さなくてはいけない。

 そもそも、あの砲撃音から察するに知波単学園は重戦車級の車両をこの試合に投入したのだろう。ただ大きいだけではない。破壊力もかなりあるはずだ。

 日本戦車を運用する知波単学園が他国の戦車を使う可能性は限りなく低い。

 提携している学校もいくつかあるらしいが、お堅い校風が取り柄でもあるのだから、そんなことはしないだろう。

 では、第二次世界大戦終戦までの間に帝国軍が作り上げた戦車にはどのようなものがあっただろうか?

 

「……試作兵器? アヒルさんチーム、お願いできますか?」

『なんでもおっしゃってください!』

「右に見える森の中を通って、正面の丘の様子を見てきてください。おそらく、作戦会議では見なかった戦車がいるはずです」

『偵察ですねっ! わかりました!』

 

 アヒルさんチームを偵察に出したのには、もちろん理由がある。全体を通して被弾率が低いからだけではなく、日本戦車独特のシルエットであるならば、敵による発見がコンマ一秒でも遅れるのではないかと期待したのだ。

 

「西住殿」

「何かわかりましたか、優花里さん」

「チハの火力では軽戦車と言えども一撃で撃破できません。ましてや、乗っている人達は強襲戦車競技(タンカスロン)で経験豊富な方々です。それでいて撃破されたとなると……考えられる戦車はおそらく二台だと思うんです」

「私もちょうど考えていました」

「一回戦は参加できる人数にも制限がありますし、これだけ高低差のあるフィールドとなるとそれなりに足回りもしっかりしている戦車じゃなくてはいけません。無駄な人員を省く……たとえば装填手の仕事を減らし、なおかつ完成度が高い試作兵器となると」

「そうでしょうね。おそらくは……」

 

 その時、ちょうど通信が入った。

 素人にとって森の中を進軍するというのは極めて難しいものであろう。しかし、アヒルさんチームは高い個々の能力を生かしあっというまに偵察をこなしていた。

 

『見たことがない戦車がいました!』

「特徴を教えて下さい!」

『えーと……前のほうが丸くて……砲塔がないように見えますっ!』

「十分です。ありがとうございます。気を付けて戻ってきてくださいね」

『了解ですっ!』

 

 みほは優花里と顔を見合わせる。

 二人の予想は正しかった。最新鋭となる自動装填装置を唯一装備した純国産戦車。

 

「敵の秘密兵器がわかりました。これより作戦を変えます」

『どういう作戦になるんだっ!』

 

 河島が絶叫する。

 今ごろ、カメさんチームの車内では角谷と小山が困り顔で河島を宥めているのだろう。

 そう考えると、クスッと笑えてきた。

 

「これから始めるのは、チョロチョロ作戦です!」


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