Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
第63回全国戦車道大会は、大きな問題もなく開催された。
大洗女子学園隊長のみほと知波単学園の西は挨拶を終えると、それぞれの陣営へと帰って行った。
中央の観客席には、巨大なモニターが設置されており、各校がどのような動きをしているかを観客達は逐一確認することができるようになっている。
午前9時。試合開始の合図である空砲が打ちあがり、両校の戦車隊が一斉に行動を開始した。
「西隊長っ!」
「どうした細見」
「計画通りハ号二両は敵陣営への進軍を開始したであります! 計算によると、10分後には会敵する予定です」
「よし、わかった。戦闘は避け、あくまでも大洗女子学園戦車隊の分断に努めるように連絡しろ。なお、追撃するようであるならばポイントDへ急行するように。そろそろ例の戦車の準備ができるはずだ」
「かしこまりましたっ!」
西は後ろからついてくる車輌へと視線を向けた。
特徴的なのは前面の傾斜装甲。そして主砲の105mm砲はシャーマンはもちろんのこと、M26重戦車すら貫通する力を持っている。
見た目はヤークトティーガーに近いだろうか。
「まさか、敵もホリを持ってくるとは思っていないでしょうね」
「知波単学園の悲願である優勝のため……そして、先輩殿と一秒でも長く戦うためには全力をもって当たらなくてはいけない」
「それにしても、今年久しぶりに全国大会に出るような学校に対して警戒しすぎじゃないですか?」
砲手の発言に西は顔をしかめる。
それに気が付いたのか、砲手は気まずそうに俯くとそれ以上何も言わなかった。
どんな相手だろうとも全力でぶつかる。それが礼儀である。礼を重んじる戦車道ならば、なおさらのことだ。
西は特にその手のことに関しては厳格だった。
ゆえに、弱小だと誰もが評価する相手であろうと出し惜しみができない。
「大洗女子学園がどんな学校なのかなんて、正直わからない。だけど備えに越したことはないし、絶対に勝つためにはこれが一番だと思わないか?」
「……そうですね。すみません」
「良いんだ。さあ、そろそろ決戦の丘だ。チハ旧砲塔は下の茂みにて待機。新砲塔は、まだホリの護衛を続けるぞ」
「了解っ!」
○●○●○
『西住、まずはどうする』
『まずは全車で固まって行動してください。想定以上に高低差のある土地です。どこから敵の偵察が来るかわかりません』
『了解っ!』
「はぁ……」
「どうした? 闇の瘴気にでも当たったか」
「そういうことにしておいてください」
絵音は由多への対応もそこそこに大きなため息をついた。
敵がどこから現れるかわからない? 何を馬鹿なことを言っている。現れるとしたら、数百メートル先の盆地に決まっているし、西住はそれをよく理解しているはずだ。
さらに言うならば、試合前に見た知波単の中に軽戦車がいた。装甲が薄く、火力も大してない日本軽戦車の行動など、陽動しかない。
「いや……もしかして……」
もしや、西住は既にすべてを承知のうえで茶番を演じようというのか? わざわざ丘の上に展開するはずだった高火力戦車を別動隊として行動させず、共に行動させることで初めての実戦で昂っているチームメイトを混乱させないように、という配慮でもしているのではないか?
だとしても、それは愚かな行為だ。
真の敵は眼前に迫る日本戦車であり、仲間の援護をしているだけでは勝つことはできない。
「やはり甘い。甘すぎる」
その時だった。前方の茂みから二台のハ号が飛び出してきたのは。
『全車、発砲しないで下さい! 大丈夫、向こうも攻撃は仕掛けてきません』
「そこまでわかっているならば何故……!」
みほの言葉通り、ハ号はそのまま踵を返すと丘へと続く道を爆走し始めた。
「……三上さん。追いますよ」
「いいのかよ! 命令は出てないでぃ!」
「この車両の車長はっ! 私です……!」
「……どうなっても知らねぇでぃ!」
「由多さんも、いつでも撃てる用意を」
『あ、ちょっと、服部さん?!』
無線から聞こえてくるみほの声を絵音は黙殺する。
全体的に防御力に不安がある日本車両ならば、立ち回り次第ではテトラークの砲塔で十分抜くことができる。
仲良しこよしで戦うなどまっぴらごめんだ。
「一回戦は私一人の力で勝つ。照準合わせ、確実に仕留めてください」
「誰に言っている! 私は
その言葉通り、由多は一撃でハ号を撃破する。
もう一台のハ号は慌てたように、蛇行運転をするも由多の腕ならば十分撃破できる。
「まずは二両……!」
「……! やめろっ! 避けるぞ!」
三上の言葉の直後。
轟音が響き渡り、テトラークのすぐそばで巨大な爆発が起きた。
チハからの砲撃ではない。
もっと強力な、それも重戦車級の攻撃だ。
「いったいどこからっ!」
絵音はキューポラから顔を出し、あたりを索敵する。
やがて、その正体を見つけると驚愕した。
テトラークだけでは決して倒すことはできない。こんな場所に一台で来ては、良い的になるだけだ。
私の判断が敗北を生んだ……?
「ホリか……! そんな秘密兵器をっ!」
「私の判断で……また負ける……?」
「何を言ってるんでぃ! 早く伝えるんでぃ!」
「へ……?」
「これはチーム戦だ! 私たち一人で戦っているわけじゃない! 脅威がわかったのならば、すぐに伝えろ!」
「は……はいっ!」
絵音は慌てて無線機を手に取る。
頭は真っ白だった。
普段は頼りないはずの三上と由多が、頼りがいのある尊敬すべき先輩に思える。
『服部さん! 今の音は……! ケガはありませんか!?』
「は……はい……敵の戦車は……」
絵音が言い終わる前に、テトラークはホリの砲撃を受けひっくり返ると白旗を上げた。
アナウンスが服部たちが撃破されたことを放送する。
「そ、そんな……私一人じゃ……何もできなかった……?」