Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
絵音は送られてきた文面を眺め、思わずため息をついた。
送り主には「西住みほ」と書かれている。内容は、明日の大会では勝てないかもしれないが全力を尽くして、最後まで楽しもう、といった内容だ。
正直へどが出る。勝てない戦いに臨む者たちに価値はない。最初から負けを予測しているようでは、勝利の女神を捕まえることなど絶対にできない。
「だから、私はあの人たちとは合わない。最初からわかっていたさ。私の戦車道に対する気持ちは、憎しみしかない。認められない、望まれない憎しみ。名家の三女として生まれ、だが才能を持ってしまったが故に疎まれるこの思いをわかるはずがない」
「そうやって、ズッと勝手に引きずって思い込んで。いい加減やめようとは思わないの?」
「そちらこそ、勝手に部屋には入らないでくださいとお願いしているはずですよ、マーさん」
「鍵が閉まってないから教えてあげようかと思ってね」
「……訳のわからないことを」
熊野は数少ない、絵音に起きた悲劇を知っている人物だ。
もともと、戦車道を離れ荒れていた絵音や社会に馴染めず浮いた存在となっていた三上や人を信用することを恐れていた由多を巻き込んで
彼女には敵わない。自分のことは何一つ口にしないくせに、自然と話したくなるような不思議な雰囲気をまとっている。
熊野の過去を知る者はいない。おかしな話だが、同じ学校に通っていながらも、はたして彼女の名前が本当に「熊野」なのか疑問を持ちたくなるほど、何も知らなかった。
「明日はしっかりと協力するんだよ?」
「……わかってますよ」
「嘘。絵音、あなたに起きたことと戦車道への思いに彼女たちを巻き込まないであげて」
「わかってますってば!」
怒声にも似た大声に熊野は口を閉じる。
関係ないことはわかっている。わかっていても、ふざけた態度で戦車道に挑む彼女たちにイライラするなというのも、また無理な話だ。だったら、使えない隊長に頼るよりかは、自分の力だけを信じて試合を終わらせるほうがよっぽどいいのではないか?
大洗女子学園は試合に勝て、私はイライラする試合時間を短くできるのだから。
「やりますよ。しっかりやりますから、お願いします。一人にしてください。今は、私を放っておいてください!」
○●○●○
ウッドデッキには白い机と椅子が並べられ、数人の生徒が机の上にあるお茶菓子をつまみながら紅茶を楽しんでいた。
そばに立っている赤毛の女子生徒には、やや気品と言われるものを感じることができないが、彼女たちの紅茶を飲んでいる姿だけで一枚の絵となるほど優雅たるものだ。
「アッサム、明日は確か大洗女子学園の試合でしたわね」
「ええ。相手は知波単学園。もっとも、一回戦から面白い試合になりそうですわね」
「ダージリン様とアッサム様はどちらを応援しているのですか?」
「さて……それは自分で考えなさい、オレンジペコ」
答えをはぐらかすダージリンにオレンジペコは冷たい視線を向ける。
一年生にして、紅茶の名を受け継ぐことのできる精神と技術を持つ彼女であるが、時には我慢できないようなこともある。
「そういえば……確か、新しい生徒が大洗女子学園の戦車道に入ったようよ」
「へぇ……名前とかはわかるのかしら?」
「当たり前よ。私はこれでも……」
「で、名前は?」
「ダージリン様。せっかくなのでアッサム様のお話も最後まで聞くべきでは……」
「アッサムがどこで何を学んでいるかなんて、いつも聞いているわ」
ダージリンの言葉に落ち込むかと思いきや、アッサムはそう言われることなど知っていたとでもいうかのように平然と資料をパソコンに呼び出していた。
つくづく、どういう関係なのか把握するのに苦労する先輩たちである。
オレンジペコの気苦労は絶えなかった。
「服部絵音、だそうよ」
「服部……まさか、服部流の?」
「そうね、三女よ。今は家を出ているらしいわ」
「そういうことね。ヘーヴィーズ学園の隊長さんが、妙にそわそわとしていたのは」
「今大会には出ないというのに……」
「あの……その服部流がどうかしたのですか?」
「あら、知らなかったのかしら? ヘーヴィーズとグロリアーナは一種の同盟のようなものを結んでいて、そしてヘーヴィーズの隊長さんは服部流なのよ」
「はぁ……それにどういう意味が?」
「気にすることはないわ。大洗女子学園がこの大会で勝ち進めば……という仮定の話をしただけだから」
絵音は服部流宗家三女にして、もっとも服部流の教えと才能を受け継ぎし者。
ヘーヴィーズ学園はハンガリーの文化を強く受けたオリジナル学校です。