Girls und Panzer  Re.大洗の奇跡   作:ROGOSS

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西隊長のお考えです!

「ご馳走様でした!」

「ご馳走でした!!」

「よし、全員片付けが終了次第会議室に集合! 飲み物は各自で持ってくるように!」

「西隊長は何をお飲みになりますか!」

「お、気が利くじゃないか福田! 私は緑茶だな。先輩方はお先に行っていてください! 我々が後片付けをいたします」

「じゃあ、よろしくねー」

 

 3年生が去っていくのを確認すると西は誰にも見えないようにため息をついた。前任の「辻つつじ」から隊長職を引き受けて、すでに2か月が経っていた。最初こそ、辻の隊長引退の裏では何かしらの陰謀があるのではないかと疑っていた3年生たちであったが、西の献身的な態度により今では疑っている者は一人もいない。

 辻は今の知波単を自分では変えることができない、と悟り西に隊長を譲ったらしい。辻本人が一切話さないため、真意は不明だが西が隊長になったことにより、無意味な吶喊は大幅に減っていた。

 だが、3年生が在籍する状態で、しかも前任の隊長がいるというのに隊員を引っ張らなくてはいけないという状況は、思いのほか西に重くのしかかっていた。

 常に緊張感をもって行動をする。それでいて、隊員とは良好な関係を保ち続ける。

 思わずため息が出てしまうのも仕方あるまい、と自分に言い聞かせて西は日々を過ごしていた。

 片付けが終わり、会議室に入る。西の姿を見ると、全員が口を閉じた。教室の前にある巨大な黒板には明日の試合会場の地図が貼ってあった。

 誰かがやってくれたのだろう。西は、心の中でありがとうと呟いた。

 

「では、これより明日の試合の作戦会議を始める! まず、何か意見のあるものはいないか!」

「やはり、吶喊がすべて! 我々の魂は突貫のみ!」

「三島先輩。それだけは勘弁してください」

「なんだと! 貴様は伝統を(ないがし)ろにすると言うのか!」

「そういうわけではありませんが……」

「まずは西。お前の作戦を聞かせてくれ」

 

 辻の綺麗な声が会議室に響く。

 ヒートアップしかけていた熱気が瞬く間に冷めていく。

 さすがは辻隊長だ。

 

「僭越ながら、私から今回の作戦の概要を説明させていただきます。まず、今回は森と起伏の多い会場となっています。このことから、主力であるチハ車の機動力を活かすのは少々難しいと考えます」

「ならば、どうする?」

「対戦校である大洗女子学園はかつて全国大会上位に入ったこともある強豪校です。なれど、今現在は素人の集団と化しており、所持戦車も残念ながら我々の戦車の足元にも及びません。今回は、そこを突きたいと考えます」

「具体的には?」

 

 会議というよりは、辻と西の話し合いとなっていた。

 しかし、その状況に異議を唱えるものは誰もいない。西の言っていることは至極正しく、辻の問いかけもまた当然のものだったからだ。

 緊張で汗ばむ手を隠れて拭きながら、西は話を続けた。

 

「第一試合の最大車両数は10両。今回は、九五式軽戦車3両・九七式中戦車旧砲塔3両、新砲塔3両。そして……あの戦車を使います」

「あれは機動力はないぞ?」

「わかっております。そこで、九五式でまずは敵隊列を分断。その後、あらかじめ高所を確保していた九五式新砲塔で砲撃を開始。応戦している敵戦車の背後を旧砲塔が突き、大混乱を起こしているところを例の戦車で殲滅します」

「……面白い。単純だが、単純だからこそ敵は裏を読もうとしてまともに身動きが取れなくなっているだろう。ならば、今回は時間とも勝負というわけか」

「はい。なので、戦車のスペシャリストであります先輩方に例の戦車の運用をお任せしたいのですが」

「任せておけ」

 

 辻の言葉に続くように、3年生が思い思いに返事をする。

 相手が聖グロリアーナ女学院や黒森峰ならば、このような作戦では一蹴されてしまうだろう。だが、まだ連携や練度の低い相手校だからこそ、こちらが選択できる戦術は幅広くある。それでいてこれほどシンプルな作戦にしたのは、複雑な作戦のあまり、思わず吶喊しようとする隊員を少なくするためだった。

 辻も西のそこを読み賛同したのだろう。つくづく、完璧すぎて自分では追いつけないと若干ながら負い目を感じてしまいたくなる存在だ。

 ゆえに、この先輩達とまだまだ戦いたい。この夏の一戦で終わりになどしたくない。どうせならば、優勝を目指したい。

 

「明日の朝は早い。各自、分担と仕事をしっかりと確認した後就寝せよ。明日は必ず……勝つぞ!」

「おおっ!」


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