Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
別に、こっちの更新を忘れていたわけではないですよ…おすし…
「では、第一回戦の相手を発表する。と、言っても服部以外は知っていると思うが」
やけに河島がためる。
どうしてそんなにも渋る必要があるというんだ。負ける可能性のほうが高いのだから、どこが相手だろうと関係ないだろう。
絵音は戦車道大会に出るであろう学校の姿を思い浮かべる。
そもそも、全国戦車道大会などと謳ってはいるが、実際のところ満足に練習ができ試合に参加できる学校は数えるほどしかない。
おまけに、いつからついた風習なのか全国大会に出ることの出来る学校と出来ない学校などという、くだらない格差まである。
かつては強豪校の一角として名前を連ねていたとはいえ、数十年前の話。しかも、戦車道が復活して数か月しか経っていない大洗女子に参加の資格などないと断言してもかまわないはずだ。
抽選会の時もさぞ、冷たい視線を向けられたのだろう。
「どうせ、何をしても変わらないのだから。勝てる未来なんてない」
「……それはわからないさ」
カエサルと名乗ったコスプレ少女が絵音に真剣な眼差しを向ける。
ここにいる誰よりも、戦車道の技術と知恵をもっているはずだ。臆することなどない。私はどうどうと、この場で胸を張りながら発言ができるはず……そう考えていた。
だが、カエサルの視線が痛い。胸に突き刺さるこの痛みはいったいなんだ?
何も言い返すことが出来ないまま、絵音は視線から逃れるようにそっぽを向く。
逃げてしまった。
「相手は知波単学園だ」
「知波単学園……」
千葉にあり、旧帝国陸軍の風潮を受け継いでいる学校だということで有名だ。もちろん、全国大会戦車道大会の常連校でもある。
同時に万年、一・二回戦で敗退していく学校でもあった。
試合の中盤までは、主力戦車であるチハの機動力と隠蔽を活かした戦術をとりゲームを有利に進めているのだが……。
「この学校の最大の弱点は、
「吶喊魂? 根性のようなものですか!?」
「いまいち噛み合ってはいないが、要するにだ。この学校はいい意味でも悪い意味でも旧帝国陸軍の精神を受け継ぎすぎているがゆえに、無謀な突撃作戦を繰り出し毎回敗退している! 私たちでも、その突撃作戦の隙をつけば勝てるかもしれない! そうですよね、会長!」
「まあ、でも。今年隊長になった西っていう人は、その思想を変えるために四苦八苦しているらしいけどねー」
角谷がお茶をすすりながら答える。
むしろ、今までどうしてその精神を改革しようと思うものが出なかったのだろうか。
伝統などというくだらないしがらみに憑りつかれていたのか?
「しがらみに憑りつかれているのは私も……」
「それで、西住隊長! どのような作戦をとりますか?」
「えぇと……チハの機動力は私たちの持っているほとんどの戦車よりも高いです。なので、試合の序盤はⅣ号と八九式、そしてテトラークと38tによる陽動作戦をします。目的は、足回りの弱いチハに少しでも負担をかけるためです」
「なるほど……まずは、足を潰すというのか」
「はい。ゲーム中盤以降は、あらかじめ丘の上に展開している、M3とⅢ号突撃戦車と合流して一斉砲撃で倒します」
「わかりました」
絵音は何も言わない。
別にこの作戦に不満があるわけではない。
むしろ、素人でも「ただ逃げる」ならばできるはずだし、高所からの射撃を行うのは常とう手段だ。
最悪の場合、フラッグ車を潰せば勝てるフラッグ戦であるのだから、自由に動くことができるⅣ号とテトラークで相手のフラッグ車を襲う、などという作戦に変更することもできるはずだ。
ゆえに、この作戦に不満はない。
それでも、勝つ未来は一向に見えてこない。
「だからこそ……」
作戦を詰めている車達をよそに絵音は静かに、生徒会室を後にする。
角谷がこちらに気が付いたようだが、何も言いはしなかった。
「私は私のやりかたでやる。服部流に恥じない試合をしたいだけだ」